人質王女が王妃に昇格⁉ レイラのすれ違い王妃生活

みくもっち

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19 犯人

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 3日はあっという間に過ぎた。
 犯人探しという名目の期間だったので、それなりに城の中をウロウロしたり召使いたちに話を聞いたりしていた。

 ジェシカは侍女から召使いとなり、城外の仕事を命じられているので日中は会える時間がほとんど無くなってしまった。

 それでも仕事が終わったあとのわずかな時間には会いに来てくれる。
 監視の目はあるが、特に咎められたりはしなかった。

 3日目の夜。自室で本を読みながら静かに過ごしていた。

 そこへ近づいてくる足音。この時間は外から鍵をかけられているはずだが、ガチャガチャと解錠の音とともにひとりの人物が中に入ってくる。

「やはり来ると思っていました」

 本を閉じ、ランプに照らされた人物に話しかける。
 そこに立っていたのは緑髪にそばかすの少女。召使いのハリエットだった。

「いつから気づいていたの?」

 ハリエットが少し苛立った様子で聞いてくる。
 表の監視の兵も仲間だったようだ。

「はじめて会ったときから少しおかしいと思っていました。必死に隠してはいましたが、さりげない動きに育ちの良さが出ていました」
「…………」
「確信したのはわたしが医術書を読んでいたときです。あれが計画書と違うと判断できたのは文字がしっかり読めないと無理でしょう」
「……なるほど。あなたはやっぱり油断ならない人ですね」
「計画書を盗み出したのはあなたですね」
「そう。使節団のスケジュールを知るためにね。襲撃したのもわたしの仲間」
「目的はアレックス王への復讐ですね。でもなぜ城の中に潜入できているのに、彼を直接狙わないのですか」
「ヤツは恐ろしく用心深く、誰ひとり側に近づけない。身の回りのことも自分でやる徹底ぶり。何度も接近しようとしたけど全部失敗している」
「そこでアレックス王不在のときに使節団を狙ったというわけですか。間接的にダラムを弱体化させようと」
「それも失敗し、多くの仲間を失ったわ。誰かさんが邪魔をしたから」
 
 スッ、とハリエットは短剣を取り出した。

「わたしを殺すつもりですか」
「どうでしょうね。あなたの返答次第かしら」
「なにが聞きたいのです」
「どうしてわたしの正体を誰にも話さないの」
「…………」
「同情でもしているつもりかしら」
「同情というより、あなた方の気持ちはわかります。わたしとて同じ境遇なら復讐を考えたでしょう」
「ふざけないで」

 ハリエットはまなじりを吊り上げ、わたしの首元に短剣を突きつける。

「シェトランドは国も王家も形としては残されてるでしょう。丸ごと滅ぼされたロージアンとはわけが違う。あなたはアレックス王のご機嫌を取って国の存続を許されている立場」
「国策の違いもあるでしょう。ロージアンはダラムと明らかに敵対していましたから。シェトランドはあくまで中立の立場を取っていました」
「……あなたは恨みはないわけ? 王妃という立場だけど待遇は人質と変わらない。無理難題を押しつけられてこき使われている現状に」
「不満がないと言えば嘘になります。でも、祖国のためと思えば。それにここにも良くしてくれる人たちがいます」

 そう言うとハリエットは向けていた短剣をダラリと下げ、嘆息する。

「今までは順調だったかもしれないけど、それも今日で終わり。わたしが手を下さずともあなたは明日死刑宣告を受けるかもしれない。怖くはないの? ここに犯人がいますって大声で叫べば? 最後のチャンスかもよ」
「いえ、あなたのことは話すつもりはありません。でも死ぬつもりもありません。他の方法を考えます」
「ふん、あなたがその気なら仲間にしてあげようと思ったのに。そんな調子じゃ、それも無理ね」
「あなたはこれからどうするのですか」
「正体がバレた以上、仲間と一緒にここを去るわ。でも復讐を諦めたわけじゃないから。力を蓄えて必ず戻ってくる」
「ハリエット……いえ、あなたはロージアンの王女の……」
「次に会うことがあれば完全に敵同士ね。わたしはあなたをダラムの王妃として倒すわ」
「あっ、待って」

 去ろうとするハリエットの腕をつかみ、その手の中にロージアンの指輪を押し込む。

「あなたの仲間の遺品です。位の高い騎士だったのでしょう。これを持っていってください」
「…………」

 指輪を見つめ、しばらく立ち尽くすハリエット。
 やがて決意したような表情になり背を向ける。
 そしてそのまま振り返らずに部屋を出ていった。
 



 翌日。早朝からわたしは兵に連れられて謁見の間へ。
 多くの廷臣や兵が見守る中、3日前と同じように玉座前の階下にひざまずく。

「さて、3日経ったが。薬剤に毒物を混ぜた犯人は見つかったのか」

 アレックス王が急かすように聞いてくる。
 わたしは顔を伏せたまま、いいえと答えた。

「……では貴様自身が犯人だと認めるのか」
「いえ、そうではありません。しかし、預かっていた薬剤の管理を怠ったのはわたしの責任。その罪はわたしにあります」
「毒物を入れたことには関与していないが、管理についての責任は負うと。そういうことか」
「はい」
「貴様……まさか犯人がわかっていて、そいつをかばっているのか」

 このアレックス王の発言には少し驚いた。
 ハリエットの存在や城にロージアンの残党が潜入していたことは知らないはず。

 わたしが犯人ではないとアレックス王自身も確信していたということか。そしてわたしひとりの力で犯人を探し出せるとも。

 かばっている、というのは半分は事実だ。
 ロージアンの王族が生きており、残党を率いて暗殺や謀略を企んでいるとなれば今度こそ看過できないだろう。

 ロージアンの旧領地にて徹底的な弾圧が加えられ、多くの人間が犠牲になる。
 ハリエットも捕らえられてしまうだろう。最後の王族が処刑されればさらにダラムへの反感が強まる。
 
 そうなれば旧領地の各地で反乱が起こる。
 また戦だ。それだけは避けなければ。

「かばう者などいません。陛下にお時間を頂いたのに探し出せなかったのも、またわたしの罪」
「それだ。王妃といえど容赦はせんぞ。ここにきてまだ恐れぬか。余に心底ひれ伏して命乞いしようとは思わんのか」

 これは逆だ。
 もしわたしが媚びへつらい、命乞いするような態度を取ったらアレックス王は途端にわたしへの興味を失うだろう。

 アレックス王の願いはわたしが心から屈服すること。
 それが実現できないうちは本気で殺そうとはしないはずだ。

「命は惜しいですが、賢明な陛下ならば見事な英断を下されるはず。それに期待するのみです」
「貴様っ……! 余を試しているつもりか!」

 アレックス王はワナワナと震え、玉座から立ち上がる。
 周囲の廷臣や兵たちは恐れおののき、声も出せない。
 
「そこまで言うのなら貴様、この場で言い渡してやる。最後の機会として貴様には咎人の儀に挑戦してもらう」
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