人質王女が王妃に昇格⁉ レイラのすれ違い王妃生活

みくもっち

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 王都を出発して一週間が過ぎた。
 補給や寝泊まりは行く先々の都市で行えるので特に不自由は無かった。

 宿泊先での部屋はジェシカと一緒でアレックス王とは別。
 気を利かせてそうしているらしいが、わたしは城の時と同じで時折様子を見に行っていた。

「どうだった? アレックス王の具合」

 部屋に戻ってきたわたしにジェシカがそう聞いてくる。
 まだ早い時間だったけれど、アレックス王は就寝していた。
 熱も発作も無く、体調自体は良好に見える。でも慣れない外出に疲れが出ているのかもしれない。

「今のところは問題無いようです。ですが油断はできませんね。後でまた様子を見に行きます」
「レイラも無理しないでね。多分長い旅になるんでしょ? こうして街に泊まれる分にはいいけど」
「ええ、せめて行き先でも教えてもらえればいいのですが……アレックス王に聞いてもはぐらかされるばかりで」
「にしても、巡幸だなんてちょっとお気楽な考えじゃない? この前あんな事件があったのにさー。ハノーヴァーの密偵もいるかもしれないのに」
「ええ、それについては随分と協議していたようですが……結局はアレックス王が強引に決めてしまったようです」

 誰かの入れ知恵かとも推測したけれど、発案者はアレックス王自身だった。
 
 ダラムの隆盛や強勢を見せつけるための演技かとも思ったが、それならもっと大勢の兵を引き連れ、衣装や馬具も華美にするはず。
 確認したけれど別働隊もいなかった。

 今回の巡幸の一団は小規模で、装備も質素なもの。

「彼の考えはよく分かりません。わたしにも何も相談が無かったし」
「んー、それでずっと浮かない顔してたわけか。でも規模が小さいってことはそんなに遠くまで行かないってことでしょ。アレックス王自身の体調もあるしさ」
「そうですね。日程に関しては何も知らされていません。ウィリアムやフロストに聞いてもダメでした」

 あの二人は何か知っているようだったが、日程や目的地については何も話してくれなかった。
 強引に聞き出す気にもなれず、わたしは不安な気持ちのままここまで来た。

 行く先々の人々には歓迎されるがどうにも本心から笑顔になれない。
 
 こうしてジェシカと同じ部屋に泊まれ、話相手になってくれるのが唯一の救いだった。

「予想ですが、ダラムの東側では一番大きな街がここなのでこれから北方か南方に向かうでしょう。その途中でも大小の街があるので行程に支障が出ることは無いと思います」



 * * *



 翌日。わたしの予想は外れ、巡幸の一団はそのまま東へ進んでいく。
 ここから先は街や村の無い荒野が続いている。さらにその先は国境だ。

「陛下、進路が間違っていませんか? この先には何もありませんよ」

 馬車の窓から乗り出すように前方を見てから、わたしはアレックス王に質問する。

「いや、間違ってなどおらん。このまま進んでいく」
「しかし、補給をしたり寝泊まりする場所が」
「さっきの街で物資は十分に積んだ。日が暮れれば野営をする。何も問題は無い」
「野営……それでは陛下のお身体に負担が」
「いらん気を遣うな。野営など出征中に何度も経験しておるわ。余計な事は考えずにただ座っていろ」
 
 まるで以前のような冷たい言い方。
 わたしは仕方なく言われたまま席に戻る。
 
 気まずい雰囲気のまま馬車は東へと進む。
 音で風が強くなってきたのが分かる。

 時折休憩を挟んで停車。馬車を降りて周りを見渡すが、荒れた大地に岩石と枯れ木ばかり。
 なぜこんな所を進むのか。わたしの不安は募るばかりだった。



 日が暮れる前に野営の準備がはじまる。
 さすがに精鋭というだけあって幕舎の設営や食事の用意など手際が良かった。風よけの陣幕まで用意してある。

 寝泊りする幕舎はジェシカと二人きり。
 そこは宿屋で泊まる時と変わらなかった。

 そんな野営を繰り返しながらさらに五日が過ぎた頃。

 馬車の中でアレックス王が激しく咳き込みだした。
 久しぶりの発作。こんな荒野の真ん中では医師はいないし、巡幸にも同行していない。

 わたしはアレックス王の背中をさすりながら御者に馬車を停めるように指示を出そうとする。
 だけどそれはアレックス王に遮られた。

「ぐ、やめ……ろ。停めるな。余の病が、他の者に気付かれる」
「そんな事を言っている場合ですか! 命に関わることなのですよ! ここからでも引き返すべきです」
「バカを言うな、ここまで……来て。そんなことが出来るか」

 ゴホゴホと咳き込み、血の混じった唾液を飛ばしている。
 わたしは急いで馬車の扉を開けようとする。

「あっ」

 後ろから服を掴まれた。
 バランスを崩して転倒し、アレックス王に覆いかぶさる形に。

「どこ……へも行くな。ここにいろ。余は……大丈夫だ」
「でも、血が。離してください。みんなに知らせないと」

 アレックス王に強く抱きしめられ、わたしは身動きが取れない。
 
「……大したことはない。余には分かる。しばらくこうしていれば落ち着く」
「しかし」

 ここで馬車の外からウィリアムが話しかけてきた。窓も閉まっているので外からは中の様子が分からない。

「陛下、大きな物音がしましたが大丈夫でしょうか? 何か問題が?」

 わたしが助けを呼ぼうとすると、アレックス王に手で口を塞がれた。

「問題、ない。少しつまづいた……だけだ。引き続き周りの警戒にあたれ」
「……御意」

 ウィリアムは馬車から離れていったようだ。
 わたしはどうして、とアレックス王を睨む。

「大したことは無いと言っただろう。咳はもう止まった。お前もいつまで転がっている」

 青ざめた顔で席に戻り、血のついた口を拭うアレックス王。
 わたしはその横について彼の額に手を当てる。
 幸い、熱までは出ていないようだった。

「心配させないでください。やはり今回の巡幸は無理があったのでは。今からでも中止できませんか」

 わたしがそう言うと、アレックス王は不快な表情で怒りだした。

「おい、余は問題ないと言っただろう。これ以上文句を言うならお前だけここに置き去りにするぞ」

 怒らせるとまた発作が起きるかもしれない。
 わたしは何も言わず、対面の席に座り直した。

 わたしが心配した通りになってしまった。
 万が一のことがあったらどうするつもりなのだろう。

 なぜここまで巡幸を強行するのか。なぜ行き先を教えないのか。
 馬車の中は最悪な雰囲気だ。

 その日はそれからお互いに一言も喋らず、ガタゴトと馬車に揺られるだけの一日だった。
 
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