強すぎる悪役令嬢イルゼ〜処刑ルートは絶対回避する!〜

みくもっち

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 エアハルト様の私邸前。
 長い塀の中央には植物の絡みついた門。

 門の両側に控えていた兵士ふたり。
 わたしを見ると、剣を顔の前に立てて礼の形を取る。

 わたしは軽くお辞儀をして門をくぐった。
 フリッツや護衛の兵はもちろん外で待機。

 赤いブーゲンビリアの垂れている壁沿いに庭の中を歩く。

 中央には噴水があった。さらにそこから水路を横切り、屋敷前へ。
 そこかしこに色とりどりの花が植えられている。

 噂に聞いていたことだが、これらの花々や庭の手入れはエアハルト様御自身がおこなっているとのことだ。

 屋敷内の通路。廊下の壁には高価そうな油絵がいくつも飾られていた。

 エアハルト様はあらゆる学問に通じ、優れた詩作をし、楽器や絵画にも精通。
 国の政策でも芸術や文化の向上を推進されている。
 
 わたしにはあまり理解できないが、こういうものを得意とする人に憧れるし、争いを好まない優しい性格も素敵だと思う。

 でも民衆を敵から守るためには誰かが戦わないといけない。
 ここ最近の戦いで、はっきりとそう思った。

 たとえ、わたしが悪人だと思われてもだ。
 場合によっては敵地に乗り込んで拠点を叩くぐらいの事は必要だと思う。

 そんなことも今日話せるかな、と奥の部屋の前まで到着。

 高鳴る胸を押さえながら、わたしはドアをノック。すぐに返事があり、わたしはゆっくりとドアを開ける。

 部屋の中。四方は本棚で囲まれている。
 窓際の席でエアハルト様は本を読まれていた。

「よく来てくれた、イルゼ嬢。まずは座って」

 うながされ、わたしは向かいの席に座る。

 ああ、まともに顔が見られない。舞踏会の時より緊張する。もう婚約者だっていうのになんでこんなに固くなっちゃうんだろう。

 席に座ったままモジモジ。なにか言ってくれるかなと待っているけど、エアハルト様もなぜか気まずそうな表情だ。

 数分ほど沈黙が続き、ようやくエアハルト様のほうから口を開いた。

「最近はよく国境のほうに出向いていたそうだね」

 戦の話だ。えー、その話題から? わたしを婚約者に選んだ理由とか聞かせてもらえると思ったのに。まあいいけど。

「は、はい。ロストック軍が度々国境を越えてきましたので」
「……ふむ。わたしが和平について交渉を進めていると、前に話したのは覚えているね?」
「はい。もちろん覚えています」
「ならば、なぜそれを邪魔するような真似を?」
「えっ、邪魔とは?」
「ロストック側と何度かの交渉を行い、悪くない手応えだった。略奪などせずとも、交易で互いに利があると説得できそうだったのだ」

 エアハルト様の口調がちょっとずつ強くなってる。え、これ、わたし怒られてる?

「それをあなたが、あなたの軍が台無しにした。無用な戦でロストック側を怒らせてしまった」

 ええっ、国境を越えてきたのはあっちからだ。
 侵攻されたからには放っとくわけにもいかないし。
 これにはさすがに反論する。

「そ、それは北賊が攻めてきたからです。放っておけば、民衆が被害にあってしまいます」
「差別的な呼び方はやめたまえ。彼らはたしかに野蛮な部分があるが、それに対抗して武力に訴えればこちらとて野蛮だ」
「それはそうですが……」
「それにだ。報告によれば、国境付近で挑発行動を取っていたのはアンスバッハ軍だと聞いている。好戦的なあなたが戦を誘発したと」

 これには驚きだ。誰がそんな根の葉もない嘘を。
 違います、誤解です、と否定したけど、エアハルト様は信じてくれない。

「たしかにアンスバッハの武力は我が国の強みであり、交渉の鍵ともなる存在だった。だが、必要以上の強さはいらない。両国の平和を脅かすだけだ」

 そんな。そんな言い方って……。
 わたしだって好きで戦ってるわけじゃない。

 大事なものを守るために戦ってるんだ。 
 相手はお父様より前の世代から戦ってきた仇敵。
 和平ももちろん大切だけど、そんな簡単にわかり合えるとも思えない。

「お、お言葉ですが。わたしが挑発したり、国境を越えて戦を仕掛ける事など一切ありません。事実無根のデタラメです。そして戦わねば守れぬものもあります。本国の平和を保つためにもせめて前線には練度の高い兵や多くの武器を揃え、砦、防壁を築くなどの工夫が必要です。兵の調練にはわたしも協力しますし、砦を造るための費用の一部はアンスバッハが負担してもよろしいのです」

 ああああ、つい言いたいことをベラベラと。
 こんな事言ったら嫌われちゃうかもしれないのに。
 ほら、ちょっと機嫌を損ねたような顔してる。あ、でもその表情も素敵。

「あなたは一国の王太子の婚約者という立場なのに。そんなあなたが槍を持って戦場を駆け回り、その手を血に染めるなどと」
「真の平和とは綺麗事だけでは得られないものかと。わたしは後世に悪名を残そうとも戦って大事なものを守りたい。わたしにはそれしか出来ないのですから」

 格好つけてこんな事言ってるけど、汗ダラダラだからね。手も震えてるし。
 
 でもこっちが戦いを仕掛けたってのは嘘だし、自衛のための戦いまで否定されるのは我慢できない。
 
 少し驚いたような顔をするエアハルト様。反論されるとは思っていなかったのだろう。
 伏し目がちになり、場には再び沈黙が訪れる。

 しばらく経ったあと、再び話しだしたのはやはりエアハルト様。

「いや、そんな議論をするために呼んだのではない。イルゼ嬢、あなたに大事な事を伝えなければならない」

 まっすぐに見つめられ、わたしははいっ、と背筋を伸ばす。

「アンスバッハ侯爵令嬢。あなたとの婚約を破棄する。理由はさっき話した通りだ。いたずらに武力を行使し、平和を乱そうとする者は王太子妃としてふさわしくない。以上だ」
「…………」

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。
 婚約破棄? 婚約の破棄って、婚約がナシになっちゃったってこと?

「…………」

 なんとか頭の中では理解したけど、言葉が出てこない。
 ショックすぎて。こんな、一方的に。誤解だってあるのに。 
 やっとのことで喉の奥から声を絞り出す。

「殿下、それはっ」
「話は以上だと言っただろう。あなたが出ていかないなら、わたしが出ていく」

 エアハルト様は立ち上がり、振り返ることなく部屋を出て行ってしまった。

 わたしは呼び止めることも追いかけることもできなかった。
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