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10 衝撃の発表
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マルティナのほうから話しかけてくるなんて。一体何が目的?
小説ではイルゼのほうが目の敵にしていたから、わたしは接触しないようにしていた。
マルティナのほうだって、わたしには良い印象持ってるはずがない。
父親同士は政敵だし、エアハルト様の恋敵だし。
「先程の方はイルゼ嬢のお知り合いですか? 見ない顔でしたので」
フリッツの事を聞かれた。ほら、変装なんかして潜り込むからややこしい事に。
「あ、いえ。わたしも今日会うのが初めてでした。急に声をかけられて。どこか地方の伯爵家の方としか聞いてません」
とっさにそうごまかす。
マルティナはそうでしたの、とそれ以上は突っ込んでこない。
「素敵な方でしたから。イルゼ嬢もあんな事があった後でしたから、良い方が見つかったのではないかと早とちりしてしまいましたわ」
誰もが婚約破棄の事は触れないようにしてるのに、このマルティナはずけずけと話題にしてくる。
可愛らしい風貌からは想像できない大胆さ。
たいていの令嬢なんて、わたしがひと睨みしただけで過呼吸になってぶっ倒れてもおかしくないのに。
ていうか、この子がいるならヴォルフスブルク公もここに来ているはず。
こんなところでおしゃべりしてる暇あるなら、そっちを探したほうが。いや、この子に直接聞いたほうが早いか。でもいきなり父親の居場所なんて聞いたら不審がられるかも。
あれこれ考え込んでいるのを、マルティナは不思議そうに見つめている。同性のわたしだってドキッとする可愛さだね、こりゃ。
「今まではあまりお話する機会がありませんでしたけど、ずっと気にかかっていたのです」
そう言っていきなり手を握ってくるマルティナ。
えっ、どういう事? わたしが婚約破棄されてショック受けてたのを心配してたって事? まさか、マルティナが?
「そ、そうなのですか」
たじろぎながら聞く。するとマルティナの目には涙が浮かんでいた。
「当然です。あなたの気持ちはよく分かりますから。きっとお辛かったでしょう。もしわたくしが同じような目に遭ってたら、絶対に耐えられません」
そうか、マルティナもエアハルト様の事が好きだから、わたしの気持ちが理解できるんだ。
わたしが婚約した時はマルティナだって傷ついたんだろう。
わたしは自分の事ばっかり考えてたのに。
やっぱり主人公だから優しいんだね。
もしかしたら父親が国に対して裏切り行為を行なっているなんて知らないのかもしれない。
「あの、失礼かもしれませんが……。わたくし達、気が合うとは思いませんか?」
「え? まあ……そうかもしれませんね」
「イルゼ嬢。良かったらで構わないのですが。わたくしとお友達になってもらえませんか?」
「は、はい。それはもちろん。わたしなんかで良ければ」
ついそう言ってしまったけど、こっちはマルティナの父親の悪事を暴こうとしている立場なのに。
もし父親が糾弾されるような事になったら、この子はどうなってしまうんだろう。
それからマルティナとしばらく会話。
以前からの友人みたいに楽しく話すことができた。
やっぱりマルティナは政争や裏切りについては何も知らないんじゃないのか。
この無邪気な笑顔を見ていたら、やはりそう思えてきた。
「あ、わたくし飲み物を取ってきますね」
マルティナがそう言って離れた隙に、わたしも移動。
マルティナには悪いけど、やっぱり国に対する裏切りは見逃すわけにはいかない。
もしそれがロストックの大がかりな侵攻に繋がったりしたら、大勢の命が失われてしまうことになる。
舞踏会場で唯一見てなかった場所がある。
二階左手通路の奥だ。
そこには主催者専用の部屋がある。つまり王家の人間の控室。
ヴォルフスブルク公はなんらかの用があってそこへ行っているのではないか。
幸い、みんなダンスに注目している。
わたしは素早く二階に上がり、左手の通路へ。
見張りもいないので簡単に奥へ進むことができた。
ドアの前で聞き耳を立てる。
複数の人間の話し声。まずい、誰かひとりが部屋を出ようとしている。
このままじゃ見つかってしまう。でも身を隠すところなんてない。
おろおろしたまま、ドアを開けた人物と目が合ってしまった。
「あなたは……!」
「で、殿下」
出てきたのはエアハルト様だった。
あちらも驚いている。
「なぜここに? あなたにはもう話すことはないと言ったはずだ」
エアハルト様はそのまま通り過ぎていく。
なぜって、招待状が届いたから。エアハルト様が呼んだんじゃないの?
いろいろ言いたいことはあるけど、今はヴォルフスブルク公の事だ。
部屋から続いて出てきたのはそのヴォルフスブルク公だった。
やはりここにいた。でも王家の控室になんでコイツが?
またよからぬ事をエアハルト様に吹き込んでいたんじゃないのか。
睨みつけるわたしに、ヴォルフスブルク公はお辞儀をしてくる。
「これはアンスバッハ侯爵令嬢。これより大事な発表が殿下よりあるので、あなたも聞いていかれるがいい」
ヴォルフスブルク公はそれだけ言ってエアハルト様のあとに続く。
くそ、今すぐにでもふん縛ってやりたいけど、まだ悪事の証拠はなにもつかんでない。
傷の男との繋がりでも証明できれば。フリッツは何してるんだ。
「待って!」
ヴォルフスブルク公を呼び止めたつもりだが、この声に反応したのはエアハルト様だ。
振り返って、蔑んだような目でこう言った。
「なぜ来た。信じられないな。ここまで厚かましいとは」
わたしはショックで固まる。
どうしてそんなひどいこと……。
それはヴォルフスブルク公を探るためだったというのもあるけど、誘ってくれたからにはエアハルト様もわたしの事を気にかけていると思ったから。
でも婚約破棄がまたひっくり返るなんて思っていない。そこまでバカじゃない。でも、このまま誤解されたままじゃ嫌だから。
「わたしは忙しいんだ。あなたに構っている暇などない」
エアハルト様は何か言おうとしてるわたしを無視して二階の中央へ。
わたしは何も言えなかった。
ヨロヨロと壁を伝いながら歩くのがやっと。
ヴォルフスブルク公が鼻で笑いながら来客たちのほうへ向かった。
音楽が止み、一階を見下ろせる場所でエアハルト様が挨拶をし、それから発表があると宣言した。
舞踏会場は水を打ったように静かになる。
「ザールラント国と王家。それを支える諸侯の繁栄をわたしは心から願っている。ロストックの侵攻はあったが、一時は頓挫した和平交渉も再開できた。その主だった功績を挙げたのはここにいるヴォルフスブルク公である」
会場に拍手が巻き起こる。
ヴォルフスブルク公がエアハルト様の横で手を振っている。
たしかに最近はロストックの侵攻はない。
でもそれはそいつがそう指示しているからだ。
裏切り者のクセに功績を認められるだなんて。
そのヴォルフスブルク公と入れ替わるように前に出てきたのはピンクゴールドの髪の少女。
マルティナだ。今度はなに? どうして親しげにエアハルト様と腕を組んでいるの?
「そしてそのヴォルフスブルク公の娘マルティナ嬢を王太子妃として迎えることをここに宣言する!」
会場に割れんばかりの拍手。
マルティナが恥ずかしそうに手を振る。そしてわたしのほうを見た。
扇で口元を隠しているけど、笑っている。見下したように。それだけははっきり分かった。
わたしは会場を飛び出していた。
わけが分からない。あんな場所で。わたしの目の前で婚約発表だなんて。
エアハルト様はどういうつもりで招待したのだろう。
そしてマルティナ。親切に声をかけてきたのに。あれは演技だった? 心の中ではわたしを嘲笑っていた?
ヴォルフスブルク公のこともどうでもよくなっていた。
とにかく今はあそこから離れたい。誰もいない場所に行きたかった。
小説ではイルゼのほうが目の敵にしていたから、わたしは接触しないようにしていた。
マルティナのほうだって、わたしには良い印象持ってるはずがない。
父親同士は政敵だし、エアハルト様の恋敵だし。
「先程の方はイルゼ嬢のお知り合いですか? 見ない顔でしたので」
フリッツの事を聞かれた。ほら、変装なんかして潜り込むからややこしい事に。
「あ、いえ。わたしも今日会うのが初めてでした。急に声をかけられて。どこか地方の伯爵家の方としか聞いてません」
とっさにそうごまかす。
マルティナはそうでしたの、とそれ以上は突っ込んでこない。
「素敵な方でしたから。イルゼ嬢もあんな事があった後でしたから、良い方が見つかったのではないかと早とちりしてしまいましたわ」
誰もが婚約破棄の事は触れないようにしてるのに、このマルティナはずけずけと話題にしてくる。
可愛らしい風貌からは想像できない大胆さ。
たいていの令嬢なんて、わたしがひと睨みしただけで過呼吸になってぶっ倒れてもおかしくないのに。
ていうか、この子がいるならヴォルフスブルク公もここに来ているはず。
こんなところでおしゃべりしてる暇あるなら、そっちを探したほうが。いや、この子に直接聞いたほうが早いか。でもいきなり父親の居場所なんて聞いたら不審がられるかも。
あれこれ考え込んでいるのを、マルティナは不思議そうに見つめている。同性のわたしだってドキッとする可愛さだね、こりゃ。
「今まではあまりお話する機会がありませんでしたけど、ずっと気にかかっていたのです」
そう言っていきなり手を握ってくるマルティナ。
えっ、どういう事? わたしが婚約破棄されてショック受けてたのを心配してたって事? まさか、マルティナが?
「そ、そうなのですか」
たじろぎながら聞く。するとマルティナの目には涙が浮かんでいた。
「当然です。あなたの気持ちはよく分かりますから。きっとお辛かったでしょう。もしわたくしが同じような目に遭ってたら、絶対に耐えられません」
そうか、マルティナもエアハルト様の事が好きだから、わたしの気持ちが理解できるんだ。
わたしが婚約した時はマルティナだって傷ついたんだろう。
わたしは自分の事ばっかり考えてたのに。
やっぱり主人公だから優しいんだね。
もしかしたら父親が国に対して裏切り行為を行なっているなんて知らないのかもしれない。
「あの、失礼かもしれませんが……。わたくし達、気が合うとは思いませんか?」
「え? まあ……そうかもしれませんね」
「イルゼ嬢。良かったらで構わないのですが。わたくしとお友達になってもらえませんか?」
「は、はい。それはもちろん。わたしなんかで良ければ」
ついそう言ってしまったけど、こっちはマルティナの父親の悪事を暴こうとしている立場なのに。
もし父親が糾弾されるような事になったら、この子はどうなってしまうんだろう。
それからマルティナとしばらく会話。
以前からの友人みたいに楽しく話すことができた。
やっぱりマルティナは政争や裏切りについては何も知らないんじゃないのか。
この無邪気な笑顔を見ていたら、やはりそう思えてきた。
「あ、わたくし飲み物を取ってきますね」
マルティナがそう言って離れた隙に、わたしも移動。
マルティナには悪いけど、やっぱり国に対する裏切りは見逃すわけにはいかない。
もしそれがロストックの大がかりな侵攻に繋がったりしたら、大勢の命が失われてしまうことになる。
舞踏会場で唯一見てなかった場所がある。
二階左手通路の奥だ。
そこには主催者専用の部屋がある。つまり王家の人間の控室。
ヴォルフスブルク公はなんらかの用があってそこへ行っているのではないか。
幸い、みんなダンスに注目している。
わたしは素早く二階に上がり、左手の通路へ。
見張りもいないので簡単に奥へ進むことができた。
ドアの前で聞き耳を立てる。
複数の人間の話し声。まずい、誰かひとりが部屋を出ようとしている。
このままじゃ見つかってしまう。でも身を隠すところなんてない。
おろおろしたまま、ドアを開けた人物と目が合ってしまった。
「あなたは……!」
「で、殿下」
出てきたのはエアハルト様だった。
あちらも驚いている。
「なぜここに? あなたにはもう話すことはないと言ったはずだ」
エアハルト様はそのまま通り過ぎていく。
なぜって、招待状が届いたから。エアハルト様が呼んだんじゃないの?
いろいろ言いたいことはあるけど、今はヴォルフスブルク公の事だ。
部屋から続いて出てきたのはそのヴォルフスブルク公だった。
やはりここにいた。でも王家の控室になんでコイツが?
またよからぬ事をエアハルト様に吹き込んでいたんじゃないのか。
睨みつけるわたしに、ヴォルフスブルク公はお辞儀をしてくる。
「これはアンスバッハ侯爵令嬢。これより大事な発表が殿下よりあるので、あなたも聞いていかれるがいい」
ヴォルフスブルク公はそれだけ言ってエアハルト様のあとに続く。
くそ、今すぐにでもふん縛ってやりたいけど、まだ悪事の証拠はなにもつかんでない。
傷の男との繋がりでも証明できれば。フリッツは何してるんだ。
「待って!」
ヴォルフスブルク公を呼び止めたつもりだが、この声に反応したのはエアハルト様だ。
振り返って、蔑んだような目でこう言った。
「なぜ来た。信じられないな。ここまで厚かましいとは」
わたしはショックで固まる。
どうしてそんなひどいこと……。
それはヴォルフスブルク公を探るためだったというのもあるけど、誘ってくれたからにはエアハルト様もわたしの事を気にかけていると思ったから。
でも婚約破棄がまたひっくり返るなんて思っていない。そこまでバカじゃない。でも、このまま誤解されたままじゃ嫌だから。
「わたしは忙しいんだ。あなたに構っている暇などない」
エアハルト様は何か言おうとしてるわたしを無視して二階の中央へ。
わたしは何も言えなかった。
ヨロヨロと壁を伝いながら歩くのがやっと。
ヴォルフスブルク公が鼻で笑いながら来客たちのほうへ向かった。
音楽が止み、一階を見下ろせる場所でエアハルト様が挨拶をし、それから発表があると宣言した。
舞踏会場は水を打ったように静かになる。
「ザールラント国と王家。それを支える諸侯の繁栄をわたしは心から願っている。ロストックの侵攻はあったが、一時は頓挫した和平交渉も再開できた。その主だった功績を挙げたのはここにいるヴォルフスブルク公である」
会場に拍手が巻き起こる。
ヴォルフスブルク公がエアハルト様の横で手を振っている。
たしかに最近はロストックの侵攻はない。
でもそれはそいつがそう指示しているからだ。
裏切り者のクセに功績を認められるだなんて。
そのヴォルフスブルク公と入れ替わるように前に出てきたのはピンクゴールドの髪の少女。
マルティナだ。今度はなに? どうして親しげにエアハルト様と腕を組んでいるの?
「そしてそのヴォルフスブルク公の娘マルティナ嬢を王太子妃として迎えることをここに宣言する!」
会場に割れんばかりの拍手。
マルティナが恥ずかしそうに手を振る。そしてわたしのほうを見た。
扇で口元を隠しているけど、笑っている。見下したように。それだけははっきり分かった。
わたしは会場を飛び出していた。
わけが分からない。あんな場所で。わたしの目の前で婚約発表だなんて。
エアハルト様はどういうつもりで招待したのだろう。
そしてマルティナ。親切に声をかけてきたのに。あれは演技だった? 心の中ではわたしを嘲笑っていた?
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