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17 ロストック軍集結
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フリッツの提案通りに砦で二日の休息。
動けない負傷者と少数の兵を残し、わたし達は出発した。
途中の街や村では抵抗を受けたが、いずれも小規模の戦闘しか起きなかった。
一週間の行軍。特に問題はなく、敵軍の奇襲にも遭わない。
最終目標は敵の王都ダンツィヒ。
ここを陥としてこそ北征の完全成功となる。
王都ダンツィヒの前には広大な平野が広がっている。
フリッツの得た情報によると、ロストック軍はそこに集結しているという。
下手に分散させず、戦力を一か所に集めて総力戦というわけだ。
それはこっちとしても好都合。
いくつかの戦を小刻みに行うほうが兵達の負担が大きい。
その一戦に勝てさえすれば、王都は陥ちたも同然だ。
わたし達は平野前の丘陵地帯に到達しつつあった。
斥候から矢継ぎ早に報告が入ってくる。
やはりロストック中の軍が集まっている。
それを率いるのは名将と名高いバルトルト。
ロストック王の実弟で、周辺の異民族鎮圧に多大な功績を残したという。
小説では異民族の反乱を完全に平定したロストックが南方に戦力を集中できるようになったので戦争が激化したんだった。
現在のロストックも国の内外にそういう不安要素は無い。
総力をもって待ち構えている状況だ。
「デッサウ砦で戦ったジギスムントもいるでしょう。十分に注意してください」
横で馬を進めるフリッツの顔もめずらしく緊張している。
この戦いで命を落とすかもしれない。
口には出さないが、そんな事を考えているのかも。
そこへ斥候の新たな一報。
敵の前衛が動き出したようだ。
「丘陵地帯に出る前に叩くつもりでしょうか。ここでは陣形もうまく機能しません」
進軍途中。右手には森林。左手には岩山。
出口をふさがれてこの地形に閉じ込められてはたしかにまずい。
「アンスバッハの騎馬隊を先行させて敵の目をそちらに向けさせる。可能であれば一撃を加える」
わたしの提案に、フリッツは露骨に眉をひそめる。
「まさかそれをあなたがやるつもりですか? 囮のような真似を」
「そうだ。そのほうが目立つ。わたしがやったほうがいい」
「ダメです。それは僕の役目です。今度ばかりは」
フリッツは頑として譲らなかった。
こうしてる間にも敵の前衛は近づいてきている。
わたしは渋々、その役目をフリッツに譲ることにした。
アンスバッハ騎兵一千を率い、フリッツは先行していった。
後方からルイス卿が不安げに話しかけてくる。
「あれだけで敵前衛を打ち破るつもりかね。いくらなんでも無理があるだろう」
「打ち破る必要はありません。敵の注意をそらし、本隊との接触を遅らせる事が狙いです」
「本隊と別れて行動するほうが不利になるのでは?」
「騎兵は広い場所で縦横に動く事で真価を発揮します。この場所に閉じ込められるよりはずっといいのです」
「な、なるほど。あの者はうまくやれるのだろうか」
「信頼できる部下です。安心して任せられます。我々も急ぎましょう」
フリッツの指揮は問題ないし、アンスバッハの騎馬隊も精鋭揃い。
だが敵の指揮官はバルトルト。この本隊をむざむざ平原まで無事にたどり着かせようとはしないだろう。
フリッツの行動を無駄にしないためにも早くこの地形から開けた場所に出る必要がある。
斥候から報告。
フリッツの騎馬隊が敵前衛に接触。
だがまともなぶつかり合いは避け、うまいこと付いたり離れたりを繰り返しているようだ。
「それでいい。うまく足止めしてくれれば」
本隊が丘陵地帯にさえ出られれば、敵前衛より数は多い。騎馬隊と連携して撃破も可能となる。
だが本隊は歩兵中心。しかもザールラント正規兵は練度が低い。正規兵に合わせて進んでいては間に合わない。
「ルイス卿、アンスバッハ軍だけ先に行きます。正規兵も急がせてください」
わたしがアンスバッハ兵に命じて先に行こうとすると、ルイス卿は不安そうにブンブンと顔を横に振る。
「ま、待ってくれ。我輩だけでこの本隊を? それは」
「わたし達の後を追えばいいだけの事です。敵との戦闘になれば主に支援を」
ルイス卿は頼りにならないし、正規兵は弱い。
だが数の多さでは敵にプレッシャーを与えられる。補助的な役目でもやってもらわないと困る。
兵をまとめてある程度進んだ時だった。
後方で悲鳴。正規兵達のものだ。
振り向くと、森林のほうから煙。火の手も見える。
伏兵? いや、進軍前に調べていた。いるならごく少数の工作兵が潜んでいたのだろう。
「火だっ! 奇襲だ! 焼け死ぬ! イルゼ嬢、戻ってきてくれ!」
ルイス卿の素っ頓狂な声。
指揮官があれでは恐怖や動揺が兵たちに伝播する。
「火の手はこちらまで来ません! あれは我が軍を動揺させるための罠です! 落ち着いて!」
火の規模も風向きもまったく問題ない。それすら分からないのか。
見え見えの策だが正規兵の動きに混乱。
もう置いていくしかない。
ルイス卿らを置いて、丘陵地帯の方向へ駆ける。
兵たちも走った。
目の前の視界が開けてきた。もうすぐこの地形から抜け出せる。
そこへ、敵前衛の一部が押し寄せてきた。
アンスバッハ軍と衝突。歩兵同士の白兵戦が展開された。
勢いは強いが数は多くない。
前衛の大部分はフリッツが足止めしている効果だ。
「押し切る! ここを抜けるぞっ!」
兵たちを叱咤し、わたしも馬上から槍を振る。
わたしを先頭にして押し戻していく。
敵は徐々に崩れ、さらに押すと完全にバラけていく。
「よし、今だ」
狭い地形から抜け出し、丘陵地帯へ。
だがこのまま前進というわけにはいかない。出口を完全に確保するべく防御態勢。
ルイス卿が率いる正規軍はまだもたついている。
あれがここまで到着するまでは死守しないといけない。
一度は退いた敵前衛の一部。また集結し、守りを固めたわたし達に襲いかかってくる。
「守れっ、正規軍が来るまでに」
再度の衝突。波状攻撃のように入れ替わりで敵兵が攻めてくる。
敵の主力の前衛だけあってさすがに強い。
しかも少しづつ数を増やしつつある。
フリッツの引き付けていた敵軍がこちらに合流をはじめている。
敵としてもザールラント正規軍をこちらに出すわけにはいかない。
フリッツの姿が見えた。
倍はいる敵の騎馬隊と互角以上に戦っている。
それにかかりきりで連携するどころではない。
よそ見してる間に敵の強い衝突。
押し込まれて後退。今までにない圧力。
さらに押してくる。敵の後方には見覚えのある男。あの髭面は。
「赤豹。また会ったな。ここで仕留めてやる」
デッサウ砦で戦ったジギスムント。
馬に乗り、手には棍棒ではなく長柄の戦槌。
飛び出してくるジギスムント。
味方の三騎が行く手を阻むが、ヤツの戦槌によってまとめて吹っ飛ばされた。
「貴様っ」
わたしも馬腹を蹴って前へ。騎上でヤツと相対。
「ぬうんっ」
上段から戦槌の攻撃。槍で受け止めるが、一発で手が痺れるほどの威力。
「ほう、この一撃を受け止められたのは初めてだ。大抵の者は受け切れずに頭を砕かれて死ぬ」
「ほざけっ」
槍をしごいての連続突き。
砦ではお互い徒歩での戦いだったが、この騎上ではどうか。
ガガガッ、と重い得物を軽々と操り、わたしの攻撃を防いだ。
「そんなものか、赤豹」
「なめるな!」
激しい音を立てて打ち合い。
五合、十合と渡り合うが決着はつかない。
「驚いたな、ここまでやるとは」
「こっちこそ驚きだ。このむさ苦しい髭面め」
さらに三十合打ち合い、汗だくになるがまだ互角。
ここでワアアア、と喚声。
ルイス卿の正規軍がようやく追いついたようだ。
「ちっ、うまいこと時間を稼がれたわけか。この勝負、預けるぞ」
ジギスムントは背を向けて逃げ出した。
待て、と追ったが敵兵の群れに邪魔をされる。
切り崩しながら追おうとしたが、ジギスムントはすでに丘陵を越えて姿を消した。
わたしもそこまでは追う気になれない。
兵をまとめ、正規軍と合流して態勢を立て直すのが先だ。
フリッツの相手をしていた騎馬隊もすでに退いている。
一応は目的地に着いて敵も退けたが、一定数の被害が出た。それだけ手強かった。
「戦略的にはこちらの目的を果たせましたが、戦闘そのものは勝ったとは言い難いですね。退かせるだけでやっとでした」
汗を拭いながらフリッツが近寄って言った。
わたしもうなずく。戦闘もそうだが、得意の一騎打ちでまた勝負がつかなかった。
この丘陵を越えた先には敵の大軍が待ち構えている。
前衛だけであの強さ。わたし達は本当に勝つことが出来るのだろうか。
動けない負傷者と少数の兵を残し、わたし達は出発した。
途中の街や村では抵抗を受けたが、いずれも小規模の戦闘しか起きなかった。
一週間の行軍。特に問題はなく、敵軍の奇襲にも遭わない。
最終目標は敵の王都ダンツィヒ。
ここを陥としてこそ北征の完全成功となる。
王都ダンツィヒの前には広大な平野が広がっている。
フリッツの得た情報によると、ロストック軍はそこに集結しているという。
下手に分散させず、戦力を一か所に集めて総力戦というわけだ。
それはこっちとしても好都合。
いくつかの戦を小刻みに行うほうが兵達の負担が大きい。
その一戦に勝てさえすれば、王都は陥ちたも同然だ。
わたし達は平野前の丘陵地帯に到達しつつあった。
斥候から矢継ぎ早に報告が入ってくる。
やはりロストック中の軍が集まっている。
それを率いるのは名将と名高いバルトルト。
ロストック王の実弟で、周辺の異民族鎮圧に多大な功績を残したという。
小説では異民族の反乱を完全に平定したロストックが南方に戦力を集中できるようになったので戦争が激化したんだった。
現在のロストックも国の内外にそういう不安要素は無い。
総力をもって待ち構えている状況だ。
「デッサウ砦で戦ったジギスムントもいるでしょう。十分に注意してください」
横で馬を進めるフリッツの顔もめずらしく緊張している。
この戦いで命を落とすかもしれない。
口には出さないが、そんな事を考えているのかも。
そこへ斥候の新たな一報。
敵の前衛が動き出したようだ。
「丘陵地帯に出る前に叩くつもりでしょうか。ここでは陣形もうまく機能しません」
進軍途中。右手には森林。左手には岩山。
出口をふさがれてこの地形に閉じ込められてはたしかにまずい。
「アンスバッハの騎馬隊を先行させて敵の目をそちらに向けさせる。可能であれば一撃を加える」
わたしの提案に、フリッツは露骨に眉をひそめる。
「まさかそれをあなたがやるつもりですか? 囮のような真似を」
「そうだ。そのほうが目立つ。わたしがやったほうがいい」
「ダメです。それは僕の役目です。今度ばかりは」
フリッツは頑として譲らなかった。
こうしてる間にも敵の前衛は近づいてきている。
わたしは渋々、その役目をフリッツに譲ることにした。
アンスバッハ騎兵一千を率い、フリッツは先行していった。
後方からルイス卿が不安げに話しかけてくる。
「あれだけで敵前衛を打ち破るつもりかね。いくらなんでも無理があるだろう」
「打ち破る必要はありません。敵の注意をそらし、本隊との接触を遅らせる事が狙いです」
「本隊と別れて行動するほうが不利になるのでは?」
「騎兵は広い場所で縦横に動く事で真価を発揮します。この場所に閉じ込められるよりはずっといいのです」
「な、なるほど。あの者はうまくやれるのだろうか」
「信頼できる部下です。安心して任せられます。我々も急ぎましょう」
フリッツの指揮は問題ないし、アンスバッハの騎馬隊も精鋭揃い。
だが敵の指揮官はバルトルト。この本隊をむざむざ平原まで無事にたどり着かせようとはしないだろう。
フリッツの行動を無駄にしないためにも早くこの地形から開けた場所に出る必要がある。
斥候から報告。
フリッツの騎馬隊が敵前衛に接触。
だがまともなぶつかり合いは避け、うまいこと付いたり離れたりを繰り返しているようだ。
「それでいい。うまく足止めしてくれれば」
本隊が丘陵地帯にさえ出られれば、敵前衛より数は多い。騎馬隊と連携して撃破も可能となる。
だが本隊は歩兵中心。しかもザールラント正規兵は練度が低い。正規兵に合わせて進んでいては間に合わない。
「ルイス卿、アンスバッハ軍だけ先に行きます。正規兵も急がせてください」
わたしがアンスバッハ兵に命じて先に行こうとすると、ルイス卿は不安そうにブンブンと顔を横に振る。
「ま、待ってくれ。我輩だけでこの本隊を? それは」
「わたし達の後を追えばいいだけの事です。敵との戦闘になれば主に支援を」
ルイス卿は頼りにならないし、正規兵は弱い。
だが数の多さでは敵にプレッシャーを与えられる。補助的な役目でもやってもらわないと困る。
兵をまとめてある程度進んだ時だった。
後方で悲鳴。正規兵達のものだ。
振り向くと、森林のほうから煙。火の手も見える。
伏兵? いや、進軍前に調べていた。いるならごく少数の工作兵が潜んでいたのだろう。
「火だっ! 奇襲だ! 焼け死ぬ! イルゼ嬢、戻ってきてくれ!」
ルイス卿の素っ頓狂な声。
指揮官があれでは恐怖や動揺が兵たちに伝播する。
「火の手はこちらまで来ません! あれは我が軍を動揺させるための罠です! 落ち着いて!」
火の規模も風向きもまったく問題ない。それすら分からないのか。
見え見えの策だが正規兵の動きに混乱。
もう置いていくしかない。
ルイス卿らを置いて、丘陵地帯の方向へ駆ける。
兵たちも走った。
目の前の視界が開けてきた。もうすぐこの地形から抜け出せる。
そこへ、敵前衛の一部が押し寄せてきた。
アンスバッハ軍と衝突。歩兵同士の白兵戦が展開された。
勢いは強いが数は多くない。
前衛の大部分はフリッツが足止めしている効果だ。
「押し切る! ここを抜けるぞっ!」
兵たちを叱咤し、わたしも馬上から槍を振る。
わたしを先頭にして押し戻していく。
敵は徐々に崩れ、さらに押すと完全にバラけていく。
「よし、今だ」
狭い地形から抜け出し、丘陵地帯へ。
だがこのまま前進というわけにはいかない。出口を完全に確保するべく防御態勢。
ルイス卿が率いる正規軍はまだもたついている。
あれがここまで到着するまでは死守しないといけない。
一度は退いた敵前衛の一部。また集結し、守りを固めたわたし達に襲いかかってくる。
「守れっ、正規軍が来るまでに」
再度の衝突。波状攻撃のように入れ替わりで敵兵が攻めてくる。
敵の主力の前衛だけあってさすがに強い。
しかも少しづつ数を増やしつつある。
フリッツの引き付けていた敵軍がこちらに合流をはじめている。
敵としてもザールラント正規軍をこちらに出すわけにはいかない。
フリッツの姿が見えた。
倍はいる敵の騎馬隊と互角以上に戦っている。
それにかかりきりで連携するどころではない。
よそ見してる間に敵の強い衝突。
押し込まれて後退。今までにない圧力。
さらに押してくる。敵の後方には見覚えのある男。あの髭面は。
「赤豹。また会ったな。ここで仕留めてやる」
デッサウ砦で戦ったジギスムント。
馬に乗り、手には棍棒ではなく長柄の戦槌。
飛び出してくるジギスムント。
味方の三騎が行く手を阻むが、ヤツの戦槌によってまとめて吹っ飛ばされた。
「貴様っ」
わたしも馬腹を蹴って前へ。騎上でヤツと相対。
「ぬうんっ」
上段から戦槌の攻撃。槍で受け止めるが、一発で手が痺れるほどの威力。
「ほう、この一撃を受け止められたのは初めてだ。大抵の者は受け切れずに頭を砕かれて死ぬ」
「ほざけっ」
槍をしごいての連続突き。
砦ではお互い徒歩での戦いだったが、この騎上ではどうか。
ガガガッ、と重い得物を軽々と操り、わたしの攻撃を防いだ。
「そんなものか、赤豹」
「なめるな!」
激しい音を立てて打ち合い。
五合、十合と渡り合うが決着はつかない。
「驚いたな、ここまでやるとは」
「こっちこそ驚きだ。このむさ苦しい髭面め」
さらに三十合打ち合い、汗だくになるがまだ互角。
ここでワアアア、と喚声。
ルイス卿の正規軍がようやく追いついたようだ。
「ちっ、うまいこと時間を稼がれたわけか。この勝負、預けるぞ」
ジギスムントは背を向けて逃げ出した。
待て、と追ったが敵兵の群れに邪魔をされる。
切り崩しながら追おうとしたが、ジギスムントはすでに丘陵を越えて姿を消した。
わたしもそこまでは追う気になれない。
兵をまとめ、正規軍と合流して態勢を立て直すのが先だ。
フリッツの相手をしていた騎馬隊もすでに退いている。
一応は目的地に着いて敵も退けたが、一定数の被害が出た。それだけ手強かった。
「戦略的にはこちらの目的を果たせましたが、戦闘そのものは勝ったとは言い難いですね。退かせるだけでやっとでした」
汗を拭いながらフリッツが近寄って言った。
わたしもうなずく。戦闘もそうだが、得意の一騎打ちでまた勝負がつかなかった。
この丘陵を越えた先には敵の大軍が待ち構えている。
前衛だけであの強さ。わたし達は本当に勝つことが出来るのだろうか。
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