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3 山賊
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救出されたわたしことアネリーゼ姫は敵の追っ手から逃げながら祖国ロスキレへと向かう。
帝国に占領されたとはいえ、ロスキレには騎士団の生き残りが各地でレジスタンス運動を行っている。
彼らに合流し、仲間を増やしながらいずれは王都を奪還。そこから帝国への反撃の狼煙をあげるというのがゲームのシナリオだけど。
わたしって一度死んじゃったんだろうか。これって俗に言う異世界転生っぽい。
となれば元の世界に戻るのは絶望的だ。仏壇と墓石が特産品の地元にはなんの未練もないが、家族や学校の友達に会えなくなるのはなんともさみしい。
大好きなゲームで憧れの美少女になれたのはいいけど、インターネットもコンビニもない剣と魔法のファンタジー世界……。わたし、うまくやっていけるんだろうか。
ガタゴト馬車に揺られながらため息をつく。
今、ゲームの序盤ってことは帝国領の国境に向かってるってことだよね。アネリーゼ姫を同盟国の王子セヴェリンが助け出して……。
あ、このあとヤバいかも。
急に馬車が止まる。
「姫、敵が現れました。そこから動かないでください」
騎士ウルリクの緊張した声。いやいや、言われなくても動かないよ。ゲームではアネリーゼ姫も戦闘に参加してたけども。わたし、剣も魔法も使えないからね。
外ではすでに武器同士がぶつかり合う音。うえ、こっち戦える人が3人しいないけど大丈夫なのかな。
ビリイッ、と幌の一部が裂けて斧が飛び込んできた。
ふぎゃあ、とわたしは姫にあらざる悲鳴をあげてその場に伏せる。
「ヴィリ! 大丈夫かっ!」
「これぐらい平気! それより姫様の馬車を!」
セヴェリン王子の仲間を案じる声と少年ヴィリの健気な返事。どうやら負傷したようだ。
ヴィリの兵種は盗賊。扉や宝箱の鍵を開けるのは得意だが、あまり戦闘向きではない。上位種にクラスチェンジすれば十分に戦えるんだけど、それはもっとあとの話。
って、こんなこと言ってる場合じゃない。
初期メンバーの中では回復魔法が使えるのはわたししかいない。
たしか敵の数は7人。帝国の正規兵じゃなくてただの山賊だけど……やっぱりわたしが出ないとダメだ。イケメンたちの顔に傷でもついたらわたし、一生後悔する。
「南無三! 強制出撃ってやつよね!」
わたしは意を決し、馬車の幌から飛び出す。
「姫!」
「姫、危険です! お下がりください!」
セヴェリンたちが驚いて声をかけてくる。んなこと言われなくてもわかってる。生まれたてのバンビのように足は震えてるし。
敵の山賊……いかにも悪役って感じで怖え。みんな同じ顔だし。あれって気にならないのかな。すでに3人の仲間がやられてるのに全然退く気がないのも怖い。
とにかく回復回復……できるかな。わたしは手にした杖をゲームで見た通りのポーズでヴィリに向ける。
ヴィリの全身が淡い光に包まれ、左肩に負った傷が消えていく。
「すごい! ありがとう、姫様!」
ヴィリの感謝の声。
で、できた。アネリーゼの兵種は王女。神聖魔法と剣が扱える固有兵種でバランスが良い。
ウオオ、とわたしを見た山賊どもが一斉に向かってくる。
山賊どもの兵種は戦士。斧を得意とする力自慢の連中だが、命中率と防御力にやや難がある。
「させるかっ」
すかさずセヴェリンが剣を手に立ちはだかり、ヴィリも短剣を身構える。ふたりで3人の山賊に応戦。
はあ、ええわ。イケメンたちがわたしを守るために戦っている。不謹慎だけど、うっとりとしてしまう。特にあのセヴェリン王子。
華麗な剣さばき、額から飛び散る汗。ああ、眩しい。キラキラしてる。金髪金眼ええわ~、最高。
この隣国イェリングの王子はロスキレの古くからの同盟国だから協力してくれてるんだけど、イェリング自体は形式上、帝国に従属してるからおおっぴらに助けられないらしい。
こんな派手な王子様が暴れまわったらすぐにバレそうなもんだけど。まあそこはゲームのご都合主義ってとこか。
わたしがそんなこと考えてる間に、残るひとりの山賊が近づいてきていた。
まってまって、これってターン制のシュミレーションゲームだよね。もろリアルタイムで襲ってくるじゃん。
わたしは杖から剣に持ち替えたけど……。
アネリーゼって初期HP低かったよな。防御力も。でも回避率高いし森の地形効果もある。多分かわせるはず。かわせないと死ぬ。
転生したばかりで死んじゃうなんてイヤだ。まだ序盤の第1章マップ2で死ぬなんてイヤだ。わたしには待ってるんだ、これから仲間になる数々のイケメンたちが。
山賊が斧を振り下ろし、わたしが剣でそれを受け止める──前に、ガキッと斧が弾かれる。
おお、槍でガードしてくれたのは騎士ウルリク。さすがは騎兵。騎馬による機動力は伊達じゃない。
「姫はわたしが守るっ!」
凄まじい槍さばきでたちまち山賊を追い詰める。
敵わぬと見て逃げ出した山賊に追いつき、その背を槍で貫いた。
うわ、エグ……。
でもこのマップのクリア条件て敵ユニットの全滅だから仕方がないか。
この堅物な騎士ウルリクもいいんだよねー。わたしにかしづく忠実な騎士。身分違いとわかっていても止められぬ内に秘めた気持ち。
うーん、苦しゅうない。もっと近うよれ。
さっきわたしが回復してあげたヴィリもかわいいんだよね。年下のいたずらっ子みたいな感じで。
盗賊ってのがちょっと気になるけど、この少年も攻略上、結婚可能だ。
なんかイケナイ恋をしてるみたいでこれはこれで興奮……いけない、ヨダレが出てきた。
っと、山賊は全滅したみたい。さすがにこんなところでやられたりしないか。
「姫、お怪我はありませんか」
セヴェリンとウルリク、ヴィリが駆け寄ってくる。
うーん、ここは権現崎かなめとしての人格は封印しておくか。ゲームでのアネリーゼ姫は清楚でおしとやかで聖母のように慈愛に満ち溢れた人物。わたしとは似ても似つかないんだけど。
「皆さん、ご苦労様でした。わたくしは大丈夫です。もう怪我をしているところはありませんか」
3人のイケメンは同時にうなずく。
わたしは山賊たちの死体を指差して言った。
「山賊といえども死者に罪はありません。このまま野晒しにするのはあまりに憐れ。この場に埋葬してあげましょう」
帝国に占領されたとはいえ、ロスキレには騎士団の生き残りが各地でレジスタンス運動を行っている。
彼らに合流し、仲間を増やしながらいずれは王都を奪還。そこから帝国への反撃の狼煙をあげるというのがゲームのシナリオだけど。
わたしって一度死んじゃったんだろうか。これって俗に言う異世界転生っぽい。
となれば元の世界に戻るのは絶望的だ。仏壇と墓石が特産品の地元にはなんの未練もないが、家族や学校の友達に会えなくなるのはなんともさみしい。
大好きなゲームで憧れの美少女になれたのはいいけど、インターネットもコンビニもない剣と魔法のファンタジー世界……。わたし、うまくやっていけるんだろうか。
ガタゴト馬車に揺られながらため息をつく。
今、ゲームの序盤ってことは帝国領の国境に向かってるってことだよね。アネリーゼ姫を同盟国の王子セヴェリンが助け出して……。
あ、このあとヤバいかも。
急に馬車が止まる。
「姫、敵が現れました。そこから動かないでください」
騎士ウルリクの緊張した声。いやいや、言われなくても動かないよ。ゲームではアネリーゼ姫も戦闘に参加してたけども。わたし、剣も魔法も使えないからね。
外ではすでに武器同士がぶつかり合う音。うえ、こっち戦える人が3人しいないけど大丈夫なのかな。
ビリイッ、と幌の一部が裂けて斧が飛び込んできた。
ふぎゃあ、とわたしは姫にあらざる悲鳴をあげてその場に伏せる。
「ヴィリ! 大丈夫かっ!」
「これぐらい平気! それより姫様の馬車を!」
セヴェリン王子の仲間を案じる声と少年ヴィリの健気な返事。どうやら負傷したようだ。
ヴィリの兵種は盗賊。扉や宝箱の鍵を開けるのは得意だが、あまり戦闘向きではない。上位種にクラスチェンジすれば十分に戦えるんだけど、それはもっとあとの話。
って、こんなこと言ってる場合じゃない。
初期メンバーの中では回復魔法が使えるのはわたししかいない。
たしか敵の数は7人。帝国の正規兵じゃなくてただの山賊だけど……やっぱりわたしが出ないとダメだ。イケメンたちの顔に傷でもついたらわたし、一生後悔する。
「南無三! 強制出撃ってやつよね!」
わたしは意を決し、馬車の幌から飛び出す。
「姫!」
「姫、危険です! お下がりください!」
セヴェリンたちが驚いて声をかけてくる。んなこと言われなくてもわかってる。生まれたてのバンビのように足は震えてるし。
敵の山賊……いかにも悪役って感じで怖え。みんな同じ顔だし。あれって気にならないのかな。すでに3人の仲間がやられてるのに全然退く気がないのも怖い。
とにかく回復回復……できるかな。わたしは手にした杖をゲームで見た通りのポーズでヴィリに向ける。
ヴィリの全身が淡い光に包まれ、左肩に負った傷が消えていく。
「すごい! ありがとう、姫様!」
ヴィリの感謝の声。
で、できた。アネリーゼの兵種は王女。神聖魔法と剣が扱える固有兵種でバランスが良い。
ウオオ、とわたしを見た山賊どもが一斉に向かってくる。
山賊どもの兵種は戦士。斧を得意とする力自慢の連中だが、命中率と防御力にやや難がある。
「させるかっ」
すかさずセヴェリンが剣を手に立ちはだかり、ヴィリも短剣を身構える。ふたりで3人の山賊に応戦。
はあ、ええわ。イケメンたちがわたしを守るために戦っている。不謹慎だけど、うっとりとしてしまう。特にあのセヴェリン王子。
華麗な剣さばき、額から飛び散る汗。ああ、眩しい。キラキラしてる。金髪金眼ええわ~、最高。
この隣国イェリングの王子はロスキレの古くからの同盟国だから協力してくれてるんだけど、イェリング自体は形式上、帝国に従属してるからおおっぴらに助けられないらしい。
こんな派手な王子様が暴れまわったらすぐにバレそうなもんだけど。まあそこはゲームのご都合主義ってとこか。
わたしがそんなこと考えてる間に、残るひとりの山賊が近づいてきていた。
まってまって、これってターン制のシュミレーションゲームだよね。もろリアルタイムで襲ってくるじゃん。
わたしは杖から剣に持ち替えたけど……。
アネリーゼって初期HP低かったよな。防御力も。でも回避率高いし森の地形効果もある。多分かわせるはず。かわせないと死ぬ。
転生したばかりで死んじゃうなんてイヤだ。まだ序盤の第1章マップ2で死ぬなんてイヤだ。わたしには待ってるんだ、これから仲間になる数々のイケメンたちが。
山賊が斧を振り下ろし、わたしが剣でそれを受け止める──前に、ガキッと斧が弾かれる。
おお、槍でガードしてくれたのは騎士ウルリク。さすがは騎兵。騎馬による機動力は伊達じゃない。
「姫はわたしが守るっ!」
凄まじい槍さばきでたちまち山賊を追い詰める。
敵わぬと見て逃げ出した山賊に追いつき、その背を槍で貫いた。
うわ、エグ……。
でもこのマップのクリア条件て敵ユニットの全滅だから仕方がないか。
この堅物な騎士ウルリクもいいんだよねー。わたしにかしづく忠実な騎士。身分違いとわかっていても止められぬ内に秘めた気持ち。
うーん、苦しゅうない。もっと近うよれ。
さっきわたしが回復してあげたヴィリもかわいいんだよね。年下のいたずらっ子みたいな感じで。
盗賊ってのがちょっと気になるけど、この少年も攻略上、結婚可能だ。
なんかイケナイ恋をしてるみたいでこれはこれで興奮……いけない、ヨダレが出てきた。
っと、山賊は全滅したみたい。さすがにこんなところでやられたりしないか。
「姫、お怪我はありませんか」
セヴェリンとウルリク、ヴィリが駆け寄ってくる。
うーん、ここは権現崎かなめとしての人格は封印しておくか。ゲームでのアネリーゼ姫は清楚でおしとやかで聖母のように慈愛に満ち溢れた人物。わたしとは似ても似つかないんだけど。
「皆さん、ご苦労様でした。わたくしは大丈夫です。もう怪我をしているところはありませんか」
3人のイケメンは同時にうなずく。
わたしは山賊たちの死体を指差して言った。
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