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第2章 壊れていく世界
1 残酷な事実
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体育館で倒れていたのは30名ほど。ほとんどが気を失っていたようだ。
打撲や捻挫などのケガは負っていたが、命に関わるような負傷者はいなかった。
他の大勢の生徒は別の出口から逃げられたらしい。
バケモノの犠牲になったのは十数名で、ほとんどが教員だったとのこと。瑞希がその一部始終を見ていた。
「大人はもう残ってないわね。わたしたちで警察に連絡しなきゃ」
瑞希は冷静だった。スマホで警察に連絡している間、葵はシノ、そして雛形結とともに負傷者の様子を見て回る。
「あっ、立山先輩」
うずくまっている生徒たちの中に見慣れた天パ頭を見つけた。
文芸部部長の立山はぶるぶる震えながら顔をあげた。
「あ、あ、あれはなんだったんだ……。それにキミたち。シノさんは手から炎を出したし、巫女のコスプレをしたその子は本から出てきたような……」
シノ……たしかにバケモノに向けて火球を飛ばした。
異世界から来たというのは本当らしい。それにこの本、【アンカルネ・イストワール】から小説の登場人物が飛び出してきたのを見れば信じざるを得ない。
「立山先輩、詳しい事情は後まわしです。とりあえずあとのことは警察に任せましょう」
葵が落ち着かせるように言うと、立山はうんうんと何度もうなずいた。
「つながんない。どうなってるの……救急も消防もダメだなんて」
スマホの画面を見つめながら瑞希が言い、他の軽傷者も自分のスマホで連絡を試しているが……結果は同じだった。
「親にも連絡取れない。絶対おかしいよ、外はどうなってるの」
瑞希が体育館から外に出ようとしたとき、雛形結がそれを止めた。
「外は危険です。禍々しい魂の気配で溢れかえっております。一体やられたことで敷地内までは踏み込んでこぬようですが、それも時間の問題。いまのうちにわたくしが結界を張ります」
「えっ、あんなのがまだたくさんいるっていうの?」
「間違いありません。この建物の中でお待ちください。葵様も」
入口で見守っている中、結はひとりで体育館の外へ。運動場を突っ切り、学校の塀に沿って刀の鞘尻でザアーッ、と線を引いていく。
その線が半透明の壁のように光を放つ。
結が線を引き終えると、その光は学校の敷地全体を覆った。
戻ってきた結が葵の前でひざまずく。
「戦姫の中にはわたくしよりも結界術に優れた者がおりますが、ひとまずはこれで安心です。今日のところはごゆるりとお休みください、葵様」
結の身体がパアッと光りだした。そして葵の持っている本の中に吸い込まれていった。
「うおっ、戻った。ずっとは出てられないのか──って、なんだこの疲労感……」
「【アンカルネ・イストワール】を使った反動デス。魔導書は普通の人間が使うのにはかなりの精神力を使いマス。いまの葵サンだとひとりの戦姫を短時間召喚するのでやっとみたいでスネ」
シノの解説になるほど、と納得しながら這うように中へ戻る。
学校の敷地からは出ないように、と瑞希が他の生徒たちに説明してくれた。
「瑞希はスゴいな、こんな状況で。怖くないのか?」
「怖いわよ。それにいまだに信じられないわ。あのバケモノのことやシノのこと。だけど警察もアテにならないなら、自分たちがしっかりしないと。ケガしている人もいるんだし。あんたも疲れてるんでしょ。あとのことはわたしとシノにまかせて」
瑞希はシノとともに保健室から包帯や消毒薬を持ってきて負傷者の治療をはじめた。
それを見て安心した葵は体育館の隅で横になり、いつの間にか眠ってしまった。
📖 📖 📖
目が覚めたとき、すでに夕方になっていた。
負傷者も普通に動けるほどには回復。教室から自分の荷物を持ってきており、弁当を食べだした。
それを見ていた葵の腹が鳴る。
「葵サン、どうぞ」
シノが葵のぶんまで荷物を持ってきてくれていた。
礼を言い、あっという間に弁当を平らげる葵。
「外は危険だって言ってるじゃない! 助けが来るのを待ってたほうがいいわ!」
瑞希の声だ。動けるようになった複数の生徒となにかモメている。
「このまま夜をこんなところで過ごすってのか? 冗談じゃない、俺たちは家に帰るぜ」
「だから、外にはまだあのバケモノがいるって──」
「見たわけじゃないだろ? それに最初に逃げたヤツらもとっくに帰ってるんだろーよ。連絡は取れてねーけど。暗くなる前に帰ったほうが安全だ。どけよ」
外にゾロゾロ出ていくのはほとんどの生徒だ。
瑞希がさらに止めようと立ちふさがるが、生徒のひとりに突き飛ばされた。
「瑞希! 大丈夫か?」
よろめく瑞希を受け止めるが、葵もまだ力が入らない。ふらふらとふたり一緒に倒れてしまった。
生徒たちは運動場を横切り、校門前まで。葵たちから見える学校の外の景色はいつもどうりに見える。
「ほら、なんも変わってねーじゃん。静かなもんだぜ。あんなバケモノがたくさんウロウロしてるって? どこがだよ」
生徒たちは念のため校門からは外に出ないで様子を見ていたが、いまにも敷地内から出ていきそうだ。
「いけまセン。外には高位の魔族が幻術を施して普通の風景に見せていマス。罠なのデス。彼らを行かせてはいけまセン」
シノがそう言い、葵と瑞希が生徒たちに呼びかけようとしたが、彼らはとうとう校門の外へと出てしまった。
「静かすぎるな……車も走ってねーし。あ、自宅待機だからか? ったく、大げさな──」
先頭の生徒の上半身が消えた。
数秒の間を置いて下半身がドシャッと崩れ落ち、周りの生徒がなにが起きたか認識する間もなく──。
「っひぎいっ」
「ぎゃあっ」
「うげあっ」
短い悲鳴の連続。生徒たちの身体は一瞬にして切り裂かれ、肉片と血飛沫をまき散らす。
だがその惨状も幻のようにすぐに消えた。
校門前は何事もなかったように静寂に包まれる。
「いまのって……!」
「……全員死にまシタ。魔族の仕業デス。だからここから出てはいけないとあれホド……」
シノが目をつむりながら言い、瑞希がその襟首をつかむ。
「じゃあ、最初に逃げた人たちも……それどころかわたしたちの家族もっ!」
「……無事ではないでショウ。もしかしたらこの街……いえ、この国で生き残っているのはもうわたしたちだけかもしれまセン」
「ウソだろ……何時間か前までは普通に生活してたんだぞ。それがいきなりこんな……」
葵はその場にヒザをつく。
シノが瑞希のつかんだ手を払い、葵に近づく。そしてうしろからふわりと抱きしめた。
「わたしのいた世界もあっという間に滅ぼされまシタ。でもあなたが最後の希望。あなただけが魔族に対抗できる力を持っているのデス」
打撲や捻挫などのケガは負っていたが、命に関わるような負傷者はいなかった。
他の大勢の生徒は別の出口から逃げられたらしい。
バケモノの犠牲になったのは十数名で、ほとんどが教員だったとのこと。瑞希がその一部始終を見ていた。
「大人はもう残ってないわね。わたしたちで警察に連絡しなきゃ」
瑞希は冷静だった。スマホで警察に連絡している間、葵はシノ、そして雛形結とともに負傷者の様子を見て回る。
「あっ、立山先輩」
うずくまっている生徒たちの中に見慣れた天パ頭を見つけた。
文芸部部長の立山はぶるぶる震えながら顔をあげた。
「あ、あ、あれはなんだったんだ……。それにキミたち。シノさんは手から炎を出したし、巫女のコスプレをしたその子は本から出てきたような……」
シノ……たしかにバケモノに向けて火球を飛ばした。
異世界から来たというのは本当らしい。それにこの本、【アンカルネ・イストワール】から小説の登場人物が飛び出してきたのを見れば信じざるを得ない。
「立山先輩、詳しい事情は後まわしです。とりあえずあとのことは警察に任せましょう」
葵が落ち着かせるように言うと、立山はうんうんと何度もうなずいた。
「つながんない。どうなってるの……救急も消防もダメだなんて」
スマホの画面を見つめながら瑞希が言い、他の軽傷者も自分のスマホで連絡を試しているが……結果は同じだった。
「親にも連絡取れない。絶対おかしいよ、外はどうなってるの」
瑞希が体育館から外に出ようとしたとき、雛形結がそれを止めた。
「外は危険です。禍々しい魂の気配で溢れかえっております。一体やられたことで敷地内までは踏み込んでこぬようですが、それも時間の問題。いまのうちにわたくしが結界を張ります」
「えっ、あんなのがまだたくさんいるっていうの?」
「間違いありません。この建物の中でお待ちください。葵様も」
入口で見守っている中、結はひとりで体育館の外へ。運動場を突っ切り、学校の塀に沿って刀の鞘尻でザアーッ、と線を引いていく。
その線が半透明の壁のように光を放つ。
結が線を引き終えると、その光は学校の敷地全体を覆った。
戻ってきた結が葵の前でひざまずく。
「戦姫の中にはわたくしよりも結界術に優れた者がおりますが、ひとまずはこれで安心です。今日のところはごゆるりとお休みください、葵様」
結の身体がパアッと光りだした。そして葵の持っている本の中に吸い込まれていった。
「うおっ、戻った。ずっとは出てられないのか──って、なんだこの疲労感……」
「【アンカルネ・イストワール】を使った反動デス。魔導書は普通の人間が使うのにはかなりの精神力を使いマス。いまの葵サンだとひとりの戦姫を短時間召喚するのでやっとみたいでスネ」
シノの解説になるほど、と納得しながら這うように中へ戻る。
学校の敷地からは出ないように、と瑞希が他の生徒たちに説明してくれた。
「瑞希はスゴいな、こんな状況で。怖くないのか?」
「怖いわよ。それにいまだに信じられないわ。あのバケモノのことやシノのこと。だけど警察もアテにならないなら、自分たちがしっかりしないと。ケガしている人もいるんだし。あんたも疲れてるんでしょ。あとのことはわたしとシノにまかせて」
瑞希はシノとともに保健室から包帯や消毒薬を持ってきて負傷者の治療をはじめた。
それを見て安心した葵は体育館の隅で横になり、いつの間にか眠ってしまった。
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目が覚めたとき、すでに夕方になっていた。
負傷者も普通に動けるほどには回復。教室から自分の荷物を持ってきており、弁当を食べだした。
それを見ていた葵の腹が鳴る。
「葵サン、どうぞ」
シノが葵のぶんまで荷物を持ってきてくれていた。
礼を言い、あっという間に弁当を平らげる葵。
「外は危険だって言ってるじゃない! 助けが来るのを待ってたほうがいいわ!」
瑞希の声だ。動けるようになった複数の生徒となにかモメている。
「このまま夜をこんなところで過ごすってのか? 冗談じゃない、俺たちは家に帰るぜ」
「だから、外にはまだあのバケモノがいるって──」
「見たわけじゃないだろ? それに最初に逃げたヤツらもとっくに帰ってるんだろーよ。連絡は取れてねーけど。暗くなる前に帰ったほうが安全だ。どけよ」
外にゾロゾロ出ていくのはほとんどの生徒だ。
瑞希がさらに止めようと立ちふさがるが、生徒のひとりに突き飛ばされた。
「瑞希! 大丈夫か?」
よろめく瑞希を受け止めるが、葵もまだ力が入らない。ふらふらとふたり一緒に倒れてしまった。
生徒たちは運動場を横切り、校門前まで。葵たちから見える学校の外の景色はいつもどうりに見える。
「ほら、なんも変わってねーじゃん。静かなもんだぜ。あんなバケモノがたくさんウロウロしてるって? どこがだよ」
生徒たちは念のため校門からは外に出ないで様子を見ていたが、いまにも敷地内から出ていきそうだ。
「いけまセン。外には高位の魔族が幻術を施して普通の風景に見せていマス。罠なのデス。彼らを行かせてはいけまセン」
シノがそう言い、葵と瑞希が生徒たちに呼びかけようとしたが、彼らはとうとう校門の外へと出てしまった。
「静かすぎるな……車も走ってねーし。あ、自宅待機だからか? ったく、大げさな──」
先頭の生徒の上半身が消えた。
数秒の間を置いて下半身がドシャッと崩れ落ち、周りの生徒がなにが起きたか認識する間もなく──。
「っひぎいっ」
「ぎゃあっ」
「うげあっ」
短い悲鳴の連続。生徒たちの身体は一瞬にして切り裂かれ、肉片と血飛沫をまき散らす。
だがその惨状も幻のようにすぐに消えた。
校門前は何事もなかったように静寂に包まれる。
「いまのって……!」
「……全員死にまシタ。魔族の仕業デス。だからここから出てはいけないとあれホド……」
シノが目をつむりながら言い、瑞希がその襟首をつかむ。
「じゃあ、最初に逃げた人たちも……それどころかわたしたちの家族もっ!」
「……無事ではないでショウ。もしかしたらこの街……いえ、この国で生き残っているのはもうわたしたちだけかもしれまセン」
「ウソだろ……何時間か前までは普通に生活してたんだぞ。それがいきなりこんな……」
葵はその場にヒザをつく。
シノが瑞希のつかんだ手を払い、葵に近づく。そしてうしろからふわりと抱きしめた。
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