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第4章 創作の力
6 不安
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助け出したふたりの生存者は幼い姉妹だった。
カエデが真言を唱えながら包帯をひき剥がすと、泣きじゃくりながら抱きついてきた。
他の7人は魔族の犠牲になってしまったが、このふたりの命が救えたことはせめてもの慰めだと葵は自分に言い聞かせた。
📖 📖 📖
幸いビジネスホテルに着くまでは戦姫の召喚時間は切れなかった。
ホテルのロビーで待っていたのはシノと瑞希。
姉妹の無事な姿を見て瑞希は泣き出し、ふたりを強く抱きしめた。
一方、シノのほうはそれをぼうっとした表情で見つめている。
いつもなら魔族を撃退したあとは葵と戦姫のことをベタ褒めするのだが、それもない。
どこかやつれているというか、ひどく疲れている様子だ。
「シノ、大丈夫か? 疲れているんじゃないのか」
「え、エエ。……大丈夫デス。少し休めば問題はありまセン」
シノはそう言ってフラついた様子でエレベーターへ向かっていった。
「夜中に寝ないで俺たちのことを待ってたからだな。連戦が続いたし。瑞希もその子たちと一緒に休んだらいい」
葵がそう勧めると、瑞希は泣きながらうなずく。
シノのあとを追うように幼い姉妹とともにエレベーターへ向かった。
「って、俺も相当疲れてるんだけどな。安心したら腹が減ってきた」
葵は部屋へ戻らず、そのままホールのほうへ。さらに奥へ進み、厨房へ入る。
大型の冷蔵庫から適当に卵やハム、ウインナーを取り出し、フライパンの上で焼く。
葵はホールでそれをパンとともに食べ、コーヒーで流し込んだ。
生存者たちがまだ生き残っていたときは、このホールも食事どきになるとそれなりに賑わっていた。
それが今はがらんとして静寂に包まれている。
食事を終えた葵はしばらく席で呆けたように座っていたが──突然頭を抱え、テーブルに突っ伏した。
「くそっ、なんでだよっ! ここいれば安全だったのに、大勢死んだ! 必死に街中まわって助け出したのに!」
どうして──。魔族に寄生されていた立山のせいか。外へ出ようとしていた生存者たちをきちんと説得できなかった自分のせいか。
これからどうするべきか葵は分からなかった。
街の探索を再開して生存者をまた探すか。
いや、もう街に魔族が出現してから結構な日にちが過ぎた。生き残っている人間がいる可能性はかなり低い。
街の外を目指したところでここと同じ状況なのは変わらないだろう。
シノが以前言っていたようにやはり魔族の主という存在を倒さなければどうにもならない。
だが、この世界のどこにいるかもわからないそいつを倒す方法などあるのだろうか。
戦い続けていればその主を誘き出すことができるとシノは言っていたが、なんら確証はない。それ以前にこちらが疲弊しきってしまうのは目に見えていた。
「いったい、これからどうすりゃいいんだよ……」
テーブルに突っ伏したまま、いろいろと思案するが、悲観的な考えしか浮かんでこなかった。
📖 📖 📖
それから数日が経ったが葵はホテルから出ることもなく、瑞希や幼い姉妹と会話する日常を過ごしていた。
姉妹の名は姉が菜穂。妹が美穂というのがいまさらだが知ることができた。
シノは部屋にこもっていることが多い。たまに通路やホールで会うが、軽く挨拶する程度で話し込むことはない。
まだ疲れが取れてないのだろうと葵もそっとしておいた。
魔族の襲来もあったが、いずれも小規模なものだ。
B級魔族が数十体のC級魔族をホテルに向けてけしかけてきたが、ホテルに張られた結界は学校のときとは比べ物にならないほど強固なものでビクともしない。
低級の魔族のほうが触れただけで蒸発するほどだった。
食料は4人で生活するには十分すぎるほどある。だが発電機の燃料はそろそろ補充しておかねばならない。
近くのガソリンスタンドに行くのはもちろん葵。戦姫を3人召喚し、護衛と搬送をしてもらう。
比較的おとなしい(?) 3人を選んだ。
鬼斬りの巫女、雛形結。
伝説の傭兵、グォ・ツァイシー。
聖王女、マルグリット・ベルリオーズ。
「待ってくだサイ。わたしも同行させてくだサイ」
出発前、ロビーで意外な申し出をしてきたのはシノだ。体調はもういいのか、と葵が聞くと何度もうなずく。
「部屋にこもってばかりだったので、たまには外に出てみたいデス。戦姫が守ってくれるので安心でショウ」
近くなので危険は少ない。結も周辺に魔族の気配は無いと言っている。
葵はわかったと了承してともに外へ。決して離れるなよ、と呼びかける。
ガソリンスタンドまでは問題なく到着。
複数のポリタンクに燃料を入れ、あとは台車に積んで戻るだけだった。
「葵様、警戒を! 魔族の気配が急に現れました」
緊張した声を出したのは雛形結。ツァイシーがすぐに矢をつがえ、マルグリットが葵の横にピタリとつく。
十数メートル先の道路。なにもない空間が縦に裂けた。
その空間から姿を現したのは──羽根付き帽子に学者ふうのローブを着たネコヒゲの少年。生存者をホテルに移送するときに遭遇した、S級魔族のテネスリードだ。
さらにそのうしろからは貴族のような服装にヤギ角の美青年、フォゼラム。こちらもS級魔族。
S級が2体──。葵はさらに戦姫を喚ぼうと魔導書を取り出すが、召喚より早く魔族の攻撃が始まっていた。
テネスリードとフォゼラムが無数の火球を飛ばしてくる。
ツァイシーが矢で相殺。結とマルグリットも武器で叩き落とすが、その数に対応しきれない。
火球のひとつがついにガソリンスタンドの計量機にぶつかる。
葵があっと叫んだときには──爆発。
急激な熱さを感じたが一瞬だった。葵の身体はマルグリットに抱えられ、宙を舞っていた。
カエデが真言を唱えながら包帯をひき剥がすと、泣きじゃくりながら抱きついてきた。
他の7人は魔族の犠牲になってしまったが、このふたりの命が救えたことはせめてもの慰めだと葵は自分に言い聞かせた。
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幸いビジネスホテルに着くまでは戦姫の召喚時間は切れなかった。
ホテルのロビーで待っていたのはシノと瑞希。
姉妹の無事な姿を見て瑞希は泣き出し、ふたりを強く抱きしめた。
一方、シノのほうはそれをぼうっとした表情で見つめている。
いつもなら魔族を撃退したあとは葵と戦姫のことをベタ褒めするのだが、それもない。
どこかやつれているというか、ひどく疲れている様子だ。
「シノ、大丈夫か? 疲れているんじゃないのか」
「え、エエ。……大丈夫デス。少し休めば問題はありまセン」
シノはそう言ってフラついた様子でエレベーターへ向かっていった。
「夜中に寝ないで俺たちのことを待ってたからだな。連戦が続いたし。瑞希もその子たちと一緒に休んだらいい」
葵がそう勧めると、瑞希は泣きながらうなずく。
シノのあとを追うように幼い姉妹とともにエレベーターへ向かった。
「って、俺も相当疲れてるんだけどな。安心したら腹が減ってきた」
葵は部屋へ戻らず、そのままホールのほうへ。さらに奥へ進み、厨房へ入る。
大型の冷蔵庫から適当に卵やハム、ウインナーを取り出し、フライパンの上で焼く。
葵はホールでそれをパンとともに食べ、コーヒーで流し込んだ。
生存者たちがまだ生き残っていたときは、このホールも食事どきになるとそれなりに賑わっていた。
それが今はがらんとして静寂に包まれている。
食事を終えた葵はしばらく席で呆けたように座っていたが──突然頭を抱え、テーブルに突っ伏した。
「くそっ、なんでだよっ! ここいれば安全だったのに、大勢死んだ! 必死に街中まわって助け出したのに!」
どうして──。魔族に寄生されていた立山のせいか。外へ出ようとしていた生存者たちをきちんと説得できなかった自分のせいか。
これからどうするべきか葵は分からなかった。
街の探索を再開して生存者をまた探すか。
いや、もう街に魔族が出現してから結構な日にちが過ぎた。生き残っている人間がいる可能性はかなり低い。
街の外を目指したところでここと同じ状況なのは変わらないだろう。
シノが以前言っていたようにやはり魔族の主という存在を倒さなければどうにもならない。
だが、この世界のどこにいるかもわからないそいつを倒す方法などあるのだろうか。
戦い続けていればその主を誘き出すことができるとシノは言っていたが、なんら確証はない。それ以前にこちらが疲弊しきってしまうのは目に見えていた。
「いったい、これからどうすりゃいいんだよ……」
テーブルに突っ伏したまま、いろいろと思案するが、悲観的な考えしか浮かんでこなかった。
📖 📖 📖
それから数日が経ったが葵はホテルから出ることもなく、瑞希や幼い姉妹と会話する日常を過ごしていた。
姉妹の名は姉が菜穂。妹が美穂というのがいまさらだが知ることができた。
シノは部屋にこもっていることが多い。たまに通路やホールで会うが、軽く挨拶する程度で話し込むことはない。
まだ疲れが取れてないのだろうと葵もそっとしておいた。
魔族の襲来もあったが、いずれも小規模なものだ。
B級魔族が数十体のC級魔族をホテルに向けてけしかけてきたが、ホテルに張られた結界は学校のときとは比べ物にならないほど強固なものでビクともしない。
低級の魔族のほうが触れただけで蒸発するほどだった。
食料は4人で生活するには十分すぎるほどある。だが発電機の燃料はそろそろ補充しておかねばならない。
近くのガソリンスタンドに行くのはもちろん葵。戦姫を3人召喚し、護衛と搬送をしてもらう。
比較的おとなしい(?) 3人を選んだ。
鬼斬りの巫女、雛形結。
伝説の傭兵、グォ・ツァイシー。
聖王女、マルグリット・ベルリオーズ。
「待ってくだサイ。わたしも同行させてくだサイ」
出発前、ロビーで意外な申し出をしてきたのはシノだ。体調はもういいのか、と葵が聞くと何度もうなずく。
「部屋にこもってばかりだったので、たまには外に出てみたいデス。戦姫が守ってくれるので安心でショウ」
近くなので危険は少ない。結も周辺に魔族の気配は無いと言っている。
葵はわかったと了承してともに外へ。決して離れるなよ、と呼びかける。
ガソリンスタンドまでは問題なく到着。
複数のポリタンクに燃料を入れ、あとは台車に積んで戻るだけだった。
「葵様、警戒を! 魔族の気配が急に現れました」
緊張した声を出したのは雛形結。ツァイシーがすぐに矢をつがえ、マルグリットが葵の横にピタリとつく。
十数メートル先の道路。なにもない空間が縦に裂けた。
その空間から姿を現したのは──羽根付き帽子に学者ふうのローブを着たネコヒゲの少年。生存者をホテルに移送するときに遭遇した、S級魔族のテネスリードだ。
さらにそのうしろからは貴族のような服装にヤギ角の美青年、フォゼラム。こちらもS級魔族。
S級が2体──。葵はさらに戦姫を喚ぼうと魔導書を取り出すが、召喚より早く魔族の攻撃が始まっていた。
テネスリードとフォゼラムが無数の火球を飛ばしてくる。
ツァイシーが矢で相殺。結とマルグリットも武器で叩き落とすが、その数に対応しきれない。
火球のひとつがついにガソリンスタンドの計量機にぶつかる。
葵があっと叫んだときには──爆発。
急激な熱さを感じたが一瞬だった。葵の身体はマルグリットに抱えられ、宙を舞っていた。
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