葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~

みくもっち

文字の大きさ
44 / 66
第4章 創作の力

6 不安

しおりを挟む
 助け出したふたりの生存者は幼い姉妹だった。
 カエデが真言を唱えながら包帯をひき剥がすと、泣きじゃくりながら抱きついてきた。

 他の7人は魔族グリデモウスの犠牲になってしまったが、このふたりの命が救えたことはせめてもの慰めだとあおいは自分に言い聞かせた。


 📖 📖 📖


 幸いビジネスホテルに着くまでは戦姫せんきの召喚時間は切れなかった。
 ホテルのロビーで待っていたのはシノと瑞希みずき

 姉妹の無事な姿を見て瑞希は泣き出し、ふたりを強く抱きしめた。
 一方、シノのほうはそれをぼうっとした表情で見つめている。
 いつもなら魔族を撃退したあとは葵と戦姫のことをベタ褒めするのだが、それもない。
 どこかやつれているというか、ひどく疲れている様子だ。

「シノ、大丈夫か? 疲れているんじゃないのか」

「え、エエ。……大丈夫デス。少し休めば問題はありまセン」

 シノはそう言ってフラついた様子でエレベーターへ向かっていった。
 
「夜中に寝ないで俺たちのことを待ってたからだな。連戦が続いたし。瑞希もその子たちと一緒に休んだらいい」

 葵がそう勧めると、瑞希は泣きながらうなずく。
 シノのあとを追うように幼い姉妹とともにエレベーターへ向かった。

「って、俺も相当疲れてるんだけどな。安心したら腹が減ってきた」

 葵は部屋へ戻らず、そのままホールのほうへ。さらに奥へ進み、厨房へ入る。
 
 大型の冷蔵庫から適当に卵やハム、ウインナーを取り出し、フライパンの上で焼く。
 葵はホールでそれをパンとともに食べ、コーヒーで流し込んだ。

 生存者たちがまだ生き残っていたときは、このホールも食事どきになるとそれなりに賑わっていた。
 それが今はがらんとして静寂に包まれている。
 食事を終えた葵はしばらく席で呆けたように座っていたが──突然頭を抱え、テーブルに突っ伏した。

「くそっ、なんでだよっ! ここいれば安全だったのに、大勢死んだ! 必死に街中まわって助け出したのに!」

 どうして──。魔族に寄生されていた立山のせいか。外へ出ようとしていた生存者たちをきちんと説得できなかった自分のせいか。

 これからどうするべきか葵は分からなかった。
 街の探索を再開して生存者をまた探すか。
 いや、もう街に魔族が出現してから結構な日にちが過ぎた。生き残っている人間がいる可能性はかなり低い。
 街の外を目指したところでここと同じ状況なのは変わらないだろう。

 シノが以前言っていたようにやはり魔族のマスターという存在を倒さなければどうにもならない。

 だが、この世界のどこにいるかもわからないそいつを倒す方法などあるのだろうか。
 戦い続けていればそのマスターを誘き出すことができるとシノは言っていたが、なんら確証はない。それ以前にこちらが疲弊しきってしまうのは目に見えていた。
 
「いったい、これからどうすりゃいいんだよ……」

 テーブルに突っ伏したまま、いろいろと思案するが、悲観的な考えしか浮かんでこなかった。


 📖 📖 📖


 それから数日が経ったが葵はホテルから出ることもなく、瑞希や幼い姉妹と会話する日常を過ごしていた。

 姉妹の名は姉が菜穂なほ。妹が美穂みほというのがいまさらだが知ることができた。
 シノは部屋にこもっていることが多い。たまに通路やホールで会うが、軽く挨拶する程度で話し込むことはない。
 まだ疲れが取れてないのだろうと葵もそっとしておいた。

 魔族の襲来もあったが、いずれも小規模なものだ。
 B級魔族が数十体のC級魔族をホテルに向けてけしかけてきたが、ホテルに張られた結界は学校のときとは比べ物にならないほど強固なものでビクともしない。
 低級の魔族のほうが触れただけで蒸発するほどだった。

 食料は4人で生活するには十分すぎるほどある。だが発電機の燃料はそろそろ補充しておかねばならない。

 近くのガソリンスタンドに行くのはもちろん葵。戦姫を3人召喚し、護衛と搬送をしてもらう。
 比較的おとなしい(?) 3人を選んだ。
 鬼斬りの巫女、雛形結ひながたゆい
 伝説の傭兵、グォ・ツァイシー。
 聖王女、マルグリット・ベルリオーズ。

「待ってくだサイ。わたしも同行させてくだサイ」

 出発前、ロビーで意外な申し出をしてきたのはシノだ。体調はもういいのか、と葵が聞くと何度もうなずく。

「部屋にこもってばかりだったので、たまには外に出てみたいデス。戦姫が守ってくれるので安心でショウ」

 近くなので危険は少ない。結も周辺に魔族の気配は無いと言っている。
 葵はわかったと了承してともに外へ。決して離れるなよ、と呼びかける。

 ガソリンスタンドまでは問題なく到着。
 複数のポリタンクに燃料を入れ、あとは台車に積んで戻るだけだった。

「葵様、警戒を! 魔族の気配が急に現れました」

 緊張した声を出したのは雛形結。ツァイシーがすぐに矢をつがえ、マルグリットが葵の横にピタリとつく。

 十数メートル先の道路。なにもない空間が縦に裂けた。
 その空間から姿を現したのは──羽根付き帽子に学者ふうのローブを着たネコヒゲの少年。生存者をホテルに移送するときに遭遇した、S級魔族のテネスリードだ。

 さらにそのうしろからは貴族のような服装にヤギ角の美青年、フォゼラム。こちらもS級魔族。

 S級が2体──。葵はさらに戦姫を喚ぼうと魔導書を取り出すが、召喚より早く魔族の攻撃が始まっていた。

 テネスリードとフォゼラムが無数の火球を飛ばしてくる。
 ツァイシーが矢で相殺。結とマルグリットも武器で叩き落とすが、その数に対応しきれない。
 火球のひとつがついにガソリンスタンドの計量機にぶつかる。
 葵があっと叫んだときには──爆発。
 急激な熱さを感じたが一瞬だった。葵の身体はマルグリットに抱えられ、宙を舞っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...