葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~

みくもっち

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第4章 創作の力

7 決意

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 あおいの眼下にはもうもうと立ち込める黒煙とその隙間から見える炎。
  
 葵の周辺も昇ってくる煙に囲まれつつある。
 その黒煙の中からボッ、とネコヒゲの少年が突っ込んできた。

 S級魔族グリデモウスのテネスリード。
 葵を抱えているマルグリットは両手はふさがり、槍は背にくくりつけてある。

 応戦できないと思われたが、マルグリットは躊躇せずに葵を下へ放り投げる。
 魔法で作り出した鉤爪かぎつめで斬りつけるテネスリード。両手が自由になったマルグリットが槍で応戦──。

 一方、葵は絶叫しながら落下。このままでは地面に叩きつけられる。
 が、ボンッ、と青いオーラが立ち昇り、落下地点あたりの黒煙を吹き飛ばす。

 神仙気を放ったツァイシーだ。
 落ちてきた葵をガシィ、と両手で受け止める。
 相当な衝撃だったはずだが葵自身に負担はなく、ツァイシーも平然としたまま横へ優しく降ろす。
 マルグリットが葵を下へ投げたのはツァイシーが受け止めると分かっていたからか。

「葵ちゃん、気を付けて。わたしの側から離れないで」

 すぐにツァイシーは3本の矢をつがえる。
 前方からC級魔族の群れ。S級魔族が召喚したものか。

 ツァイシーの立て続けの弓射で問題なく殲滅。
 だがまだ黒煙の晴れていないところから剣戟の音が聞こえてくる。おそらく雛形結ひながたゆいとS級魔族フォゼラムが交戦している。

 少し離れたところからズゥンッ、と何かが落ちた音。
 マルグリットの着地した音か。そこからも金属の激しい衝突音が続く。

「シノはどうなったんだ。無事なのかっ?」

 視界が限られている中、葵は辺りに呼びかける。
 だが葵の声は剣戟の音にかき消されてしまう。
 
「ツァイシー! 頼む!」

 まずはこの黒煙を晴らさないとうかつに動けない。葵の呼びかけにツァイシーは無言で矢をつがえ、上へ放った。

 青い神仙気をまとった一矢。上空でパアッと分裂して落ちると、そこから黒煙が巻き上げられる。

 周りの様子が見えるようになった。
 葵のいる地点はガソリンスタンドからやや離れた道路。
  
 そこから20メートルほど先ではマルグリットとテネスリードが戦っている。

 ガソリンスタンドは炎に包まれている。
 その近くにシノは──いた。S級魔族フォゼラムに腕を掴まれている。

 フォゼラムの前には雛形結。捕らえられたシノをどうにか助けようとしているが、なかなか手が出せないでいる。

 フォゼラムはシノの手を強引に引きながらカッツバルケルの刺突。
 太刀で受け止めた結は大きく後退。そのスキにフォゼラムが剣先で魔法陣を展開。

 ゾワゾワと召喚されたC級魔族に囲まれる結。
 フォゼラムが魔法の力で飛翔。C級魔族をまとめて斬り払った結が追いすがるが、間に合わない。

 ツァイシーが矢を放とうと構える──が、シノが盾代わりにされている。これでは射てない。

 マルグリットと交戦しているテネスリードも跳んだ。
 2体のS級魔族は空中で静止。空中に縦の亀裂が入る。

「創作者よ、この女は我らが預かる。助けたくば明日の朝8時に市庁舎まで来い。そこで貴様との雌雄を決しようではないか」

 フォゼラムが裂けた空間を広げながら葵に話しかける。葵はふざけるな、と怒りを露にした。

「お前らの狙いは俺だろう! 人質なんか取らなくてもいつでも──今すぐにでも決着をつけてやるっ! シノを解放しろっ」

 葵の怒りをあざ笑うかのようにテネスリードは頭のうしろに手を組みながら言った。

「あのホテルに立て籠られるのも厄介なんだけどさー、それ以上につまんないってさ、うちのマスターが。最終決戦にふさわしい舞台用意するってんだから感謝しなよー」

 テネスリードはそのまま先に裂けた空間に飛び込み、姿を消した。
 そしてフォゼラムも。最後にシノが引きずられるように空間の中へ。

「葵サンッ、わたしの事は気にしないでくだサイ! ただ魔族を倒すことだけに集中してくだサイ!」

 悲痛なシノの声に、葵はただその名を繰り返し呼ぶことしかできなかった。
 
「シノッ……シノ! 待っててくれ、必ず助けに行くから──シノッ!」

「葵サン! あなたなら魔族に打ち勝てることができマス! 人間の創作はすべての、みんなの希望にナル。あなたの想像の──創造の力を見セテ」

 裂けた空間に完全に飲み込まれ、シノは姿を消した。
 
 
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