葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~

みくもっち

文字の大きさ
46 / 66
最終章 魔族の主

1 進撃

しおりを挟む
 あおいは一度ビジネスホテルへ戻る。
 そのまま市庁舎のほうへ突っ走って行きたかったが、それは雛形結ひながたゆいが止めた。

「敵の狙いはその場所に葵様を誘い出すことです。それまではあの方は無事でしょう。ここは一度本拠地に戻って態勢を立て直すべきです」

 結は冷静だ。たしかにその通りだった。
 明日の朝8時。時間も指定していた。それ以外の日や時間で行けば、かえってシノの身が危険かもしれない。

 ホテルに着いてすぐに瑞希みずきと幼い姉妹が出迎える。
 すぐに事情を話し、葵と瑞希はロビーの席に向かい合って座った。

「葵、それであんたは明日ひとりで市庁舎に乗り込むってわけ? あからさまに罠が待ち受けてるって状況で」

「……シノを救い出すにはそれしかない。それにひとりじゃないよ。俺には戦姫せんきたちがついている」

 ここで瑞希の顔がくしゃっと泣きそうな顔になった。だが涙は流さない。震えながらまっすぐに葵を見つめる。

「わたしも行く」

「ダメだ。瑞希はここに残っててくれ。菜穂と美穂についてやれるのはお前しかいなんだぞ」

「………………」

 幼い姉妹の名を出すと瑞希は押し黙った。そのまま沈黙が続く。

「……大丈夫。絶対にシノを連れて戻る。俺を、俺の創造の力を信じてくれ」

 無言の瑞希にそう言うと、彼女はいきなりガタッ、と席を立って葵の胸ぐらを掴む。

「言われなくても信じてるわよ……。でも、もし戻ってこなかったら許さないから。絶対に、絶対に許さないんだから」

 強引に引き起こされ、葵は痛いほどに抱き締められる。
 瑞希はこらえきれずに泣き出した。
 葵は何も言わず、その背を優しく触れることしかできなかった。


 📖 📖 📖


 翌朝。準備を整えた葵をロビーで瑞希と菜穂、美穂が見送る。
 幼い姉妹が無邪気な表情でタタタ、と駆け寄ってくる。

「お兄ちゃん、がんばって。悪いヤツらをやっつけてくれるんでしょ。そうしたらパパとママにも会えるようになるんだよね」

「うん……。会えるよ、きっと。このお姉ちゃんの側から離れないで待っててくれ」

 ふたりの姉妹の頭を撫で、葵は勢いよく立ち上がる。
 瑞希と目が合った。もう涙は見せていない。強く、何かを決意した顔。

 同時に頷いた。さよならは言わない。葵は背を向けてからまた後で、とだけ言い残した。

 ビジネスホテルの外──。
 今まで見たことのないほどの数の魔族グリデモウスが待ち構えていた。

 地を埋めつくす程の真っ黒な異形の大軍勢。空にも無数の飛行型の魔族。
 予想はしていた。市庁舎までたどり着かせないつもりだ。

「アンカルネ・イストワール、発動」

 地を揺るがす大軍の足音。空からけたたましい鳴き声と羽音。
 それを目の当たりにして葵は冷静に魔導書を発動。この数千、いや数万もの魔族を突破するには全ての戦姫を喚び出すしかない。

「今の俺ならやれる。全員喚び出す!」

 光を放つ魔導書から次々と飛び出してくる戦姫たち。

 真っ先に前方へ突っ込んでいったのは鉄拳豪腕娘、リッカ・ステアボルトと不死人、鴫野しぎのみさき。
 リッカが脚部装甲の足裏から車輪を出し、ローラーダッシュ。
 ただのダッシュではない。幻鋼強化駆動装甲《エクリプス・ギア》高出力ダッシュ。そして渾身の拳打。

「おらあああぁっっ!」

 爆走破壊弾丸拳デッドリードライブ・インパクト
 進行上にいる魔族がドパパパパッ、と連鎖破裂。さらにみさきの左腕の魔狼マーナガルムが衝撃波を放つ。
 一気に100以上もの魔族を消し飛ばした。

 空からの襲撃を防いだのは伝説の傭兵、グォ・ツァイシーと聖王女、マルグリット・ベルリオーズ。
 ツァイシーの神仙気を込めた矢が飛行型の魔族を的確に射落としていく。
 マルグリットは槍をガンランスへと変化させ、上空へ砲撃。豪快な爆音が響くたびに魔族の焦げた残骸が降ってきた。

 左右から押し寄せる魔族は鬼斬りの巫女、雛形結と妖狐、玉響たまゆらが迎撃。

 左へ斬り込んだ雛形結。神刀、鬼屠破斬魔ノ華叉丸おにほふりはざまのかしゃまるを縦横無尽に振るい、魔族たちを両断していく。
 玉響は宙に浮きながら優雅に扇子をあおぎ、鬼兵召喚。
 出現した数々の妖が右手の魔族たちに襲いかかり、蹂躙していく。
 
 戦姫の活躍によって前進していく葵。
 後方へ回り込んだ敵は竜討伐者《ドラゴンスレイヤー》フレイア・グラムロックが気だるそうに素手で殴り飛ばしている。
 葵の側では退魔師、桐生きりゅうカエデが真言を唱えながら印を結んだ。

「ギャテイ ギャテイ ハラギャテイ ハラソウギャテイ ボヂ ソワカ」

 葵、そして戦姫たちはボワッ、と白い半透明の防御壁に包まれる。

「こりゃあいいね。ちょっと強くヤッてもイケるね、これ」

 フレイアが嬉しそうに手をかざす。
 ゴッ、と隕石のように飛来した竜殺剣バルムンク。
 それを掴み、回転しながら跳躍。そして剣先を下に向けて落下──。

「ほら、いくよ。竜墜──」

 落下地点から爆発。凄まじい威力で葵も戦姫も宙に巻き上げられる。無論魔族たちも。
 防御壁に守られている葵たちは無傷。だが魔族たちは爆発の衝撃と飛んでくる大小の岩石によって粉々になった。

 まるで爆撃。あたりの建造物も紙切れのように吹き飛んだ。いまの一撃──フレイアのいる場所を中心に1000以上の魔族が消滅していた。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...