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最終章 魔族の主
1 進撃
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葵は一度ビジネスホテルへ戻る。
そのまま市庁舎のほうへ突っ走って行きたかったが、それは雛形結が止めた。
「敵の狙いはその場所に葵様を誘い出すことです。それまではあの方は無事でしょう。ここは一度本拠地に戻って態勢を立て直すべきです」
結は冷静だ。たしかにその通りだった。
明日の朝8時。時間も指定していた。それ以外の日や時間で行けば、かえってシノの身が危険かもしれない。
ホテルに着いてすぐに瑞希と幼い姉妹が出迎える。
すぐに事情を話し、葵と瑞希はロビーの席に向かい合って座った。
「葵、それであんたは明日ひとりで市庁舎に乗り込むってわけ? あからさまに罠が待ち受けてるって状況で」
「……シノを救い出すにはそれしかない。それにひとりじゃないよ。俺には戦姫たちがついている」
ここで瑞希の顔がくしゃっと泣きそうな顔になった。だが涙は流さない。震えながらまっすぐに葵を見つめる。
「わたしも行く」
「ダメだ。瑞希はここに残っててくれ。菜穂と美穂についてやれるのはお前しかいなんだぞ」
「………………」
幼い姉妹の名を出すと瑞希は押し黙った。そのまま沈黙が続く。
「……大丈夫。絶対にシノを連れて戻る。俺を、俺の創造の力を信じてくれ」
無言の瑞希にそう言うと、彼女はいきなりガタッ、と席を立って葵の胸ぐらを掴む。
「言われなくても信じてるわよ……。でも、もし戻ってこなかったら許さないから。絶対に、絶対に許さないんだから」
強引に引き起こされ、葵は痛いほどに抱き締められる。
瑞希はこらえきれずに泣き出した。
葵は何も言わず、その背を優しく触れることしかできなかった。
📖 📖 📖
翌朝。準備を整えた葵をロビーで瑞希と菜穂、美穂が見送る。
幼い姉妹が無邪気な表情でタタタ、と駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、がんばって。悪いヤツらをやっつけてくれるんでしょ。そうしたらパパとママにも会えるようになるんだよね」
「うん……。会えるよ、きっと。このお姉ちゃんの側から離れないで待っててくれ」
ふたりの姉妹の頭を撫で、葵は勢いよく立ち上がる。
瑞希と目が合った。もう涙は見せていない。強く、何かを決意した顔。
同時に頷いた。さよならは言わない。葵は背を向けてからまた後で、とだけ言い残した。
ビジネスホテルの外──。
今まで見たことのないほどの数の魔族が待ち構えていた。
地を埋めつくす程の真っ黒な異形の大軍勢。空にも無数の飛行型の魔族。
予想はしていた。市庁舎までたどり着かせないつもりだ。
「アンカルネ・イストワール、発動」
地を揺るがす大軍の足音。空からけたたましい鳴き声と羽音。
それを目の当たりにして葵は冷静に魔導書を発動。この数千、いや数万もの魔族を突破するには全ての戦姫を喚び出すしかない。
「今の俺ならやれる。全員喚び出す!」
光を放つ魔導書から次々と飛び出してくる戦姫たち。
真っ先に前方へ突っ込んでいったのは鉄拳豪腕娘、リッカ・ステアボルトと不死人、鴫野みさき。
リッカが脚部装甲の足裏から車輪を出し、ローラーダッシュ。
ただのダッシュではない。幻鋼強化駆動装甲《エクリプス・ギア》高出力ダッシュ。そして渾身の拳打。
「おらあああぁっっ!」
爆走破壊弾丸拳。
進行上にいる魔族がドパパパパッ、と連鎖破裂。さらにみさきの左腕の魔狼マーナガルムが衝撃波を放つ。
一気に100以上もの魔族を消し飛ばした。
空からの襲撃を防いだのは伝説の傭兵、グォ・ツァイシーと聖王女、マルグリット・ベルリオーズ。
ツァイシーの神仙気を込めた矢が飛行型の魔族を的確に射落としていく。
マルグリットは槍をガンランスへと変化させ、上空へ砲撃。豪快な爆音が響くたびに魔族の焦げた残骸が降ってきた。
左右から押し寄せる魔族は鬼斬りの巫女、雛形結と妖狐、玉響が迎撃。
左へ斬り込んだ雛形結。神刀、鬼屠破斬魔ノ華叉丸を縦横無尽に振るい、魔族たちを両断していく。
玉響は宙に浮きながら優雅に扇子をあおぎ、鬼兵召喚。
出現した数々の妖が右手の魔族たちに襲いかかり、蹂躙していく。
戦姫の活躍によって前進していく葵。
後方へ回り込んだ敵は竜討伐者《ドラゴンスレイヤー》フレイア・グラムロックが気だるそうに素手で殴り飛ばしている。
葵の側では退魔師、桐生カエデが真言を唱えながら印を結んだ。
「ギャテイ ギャテイ ハラギャテイ ハラソウギャテイ ボヂ ソワカ」
葵、そして戦姫たちはボワッ、と白い半透明の防御壁に包まれる。
「こりゃあいいね。ちょっと強くヤッてもイケるね、これ」
フレイアが嬉しそうに手をかざす。
ゴッ、と隕石のように飛来した竜殺剣バルムンク。
それを掴み、回転しながら跳躍。そして剣先を下に向けて落下──。
「ほら、いくよ。竜墜──」
落下地点から爆発。凄まじい威力で葵も戦姫も宙に巻き上げられる。無論魔族たちも。
防御壁に守られている葵たちは無傷。だが魔族たちは爆発の衝撃と飛んでくる大小の岩石によって粉々になった。
まるで爆撃。あたりの建造物も紙切れのように吹き飛んだ。いまの一撃──フレイアのいる場所を中心に1000以上の魔族が消滅していた。
そのまま市庁舎のほうへ突っ走って行きたかったが、それは雛形結が止めた。
「敵の狙いはその場所に葵様を誘い出すことです。それまではあの方は無事でしょう。ここは一度本拠地に戻って態勢を立て直すべきです」
結は冷静だ。たしかにその通りだった。
明日の朝8時。時間も指定していた。それ以外の日や時間で行けば、かえってシノの身が危険かもしれない。
ホテルに着いてすぐに瑞希と幼い姉妹が出迎える。
すぐに事情を話し、葵と瑞希はロビーの席に向かい合って座った。
「葵、それであんたは明日ひとりで市庁舎に乗り込むってわけ? あからさまに罠が待ち受けてるって状況で」
「……シノを救い出すにはそれしかない。それにひとりじゃないよ。俺には戦姫たちがついている」
ここで瑞希の顔がくしゃっと泣きそうな顔になった。だが涙は流さない。震えながらまっすぐに葵を見つめる。
「わたしも行く」
「ダメだ。瑞希はここに残っててくれ。菜穂と美穂についてやれるのはお前しかいなんだぞ」
「………………」
幼い姉妹の名を出すと瑞希は押し黙った。そのまま沈黙が続く。
「……大丈夫。絶対にシノを連れて戻る。俺を、俺の創造の力を信じてくれ」
無言の瑞希にそう言うと、彼女はいきなりガタッ、と席を立って葵の胸ぐらを掴む。
「言われなくても信じてるわよ……。でも、もし戻ってこなかったら許さないから。絶対に、絶対に許さないんだから」
強引に引き起こされ、葵は痛いほどに抱き締められる。
瑞希はこらえきれずに泣き出した。
葵は何も言わず、その背を優しく触れることしかできなかった。
📖 📖 📖
翌朝。準備を整えた葵をロビーで瑞希と菜穂、美穂が見送る。
幼い姉妹が無邪気な表情でタタタ、と駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、がんばって。悪いヤツらをやっつけてくれるんでしょ。そうしたらパパとママにも会えるようになるんだよね」
「うん……。会えるよ、きっと。このお姉ちゃんの側から離れないで待っててくれ」
ふたりの姉妹の頭を撫で、葵は勢いよく立ち上がる。
瑞希と目が合った。もう涙は見せていない。強く、何かを決意した顔。
同時に頷いた。さよならは言わない。葵は背を向けてからまた後で、とだけ言い残した。
ビジネスホテルの外──。
今まで見たことのないほどの数の魔族が待ち構えていた。
地を埋めつくす程の真っ黒な異形の大軍勢。空にも無数の飛行型の魔族。
予想はしていた。市庁舎までたどり着かせないつもりだ。
「アンカルネ・イストワール、発動」
地を揺るがす大軍の足音。空からけたたましい鳴き声と羽音。
それを目の当たりにして葵は冷静に魔導書を発動。この数千、いや数万もの魔族を突破するには全ての戦姫を喚び出すしかない。
「今の俺ならやれる。全員喚び出す!」
光を放つ魔導書から次々と飛び出してくる戦姫たち。
真っ先に前方へ突っ込んでいったのは鉄拳豪腕娘、リッカ・ステアボルトと不死人、鴫野みさき。
リッカが脚部装甲の足裏から車輪を出し、ローラーダッシュ。
ただのダッシュではない。幻鋼強化駆動装甲《エクリプス・ギア》高出力ダッシュ。そして渾身の拳打。
「おらあああぁっっ!」
爆走破壊弾丸拳。
進行上にいる魔族がドパパパパッ、と連鎖破裂。さらにみさきの左腕の魔狼マーナガルムが衝撃波を放つ。
一気に100以上もの魔族を消し飛ばした。
空からの襲撃を防いだのは伝説の傭兵、グォ・ツァイシーと聖王女、マルグリット・ベルリオーズ。
ツァイシーの神仙気を込めた矢が飛行型の魔族を的確に射落としていく。
マルグリットは槍をガンランスへと変化させ、上空へ砲撃。豪快な爆音が響くたびに魔族の焦げた残骸が降ってきた。
左右から押し寄せる魔族は鬼斬りの巫女、雛形結と妖狐、玉響が迎撃。
左へ斬り込んだ雛形結。神刀、鬼屠破斬魔ノ華叉丸を縦横無尽に振るい、魔族たちを両断していく。
玉響は宙に浮きながら優雅に扇子をあおぎ、鬼兵召喚。
出現した数々の妖が右手の魔族たちに襲いかかり、蹂躙していく。
戦姫の活躍によって前進していく葵。
後方へ回り込んだ敵は竜討伐者《ドラゴンスレイヤー》フレイア・グラムロックが気だるそうに素手で殴り飛ばしている。
葵の側では退魔師、桐生カエデが真言を唱えながら印を結んだ。
「ギャテイ ギャテイ ハラギャテイ ハラソウギャテイ ボヂ ソワカ」
葵、そして戦姫たちはボワッ、と白い半透明の防御壁に包まれる。
「こりゃあいいね。ちょっと強くヤッてもイケるね、これ」
フレイアが嬉しそうに手をかざす。
ゴッ、と隕石のように飛来した竜殺剣バルムンク。
それを掴み、回転しながら跳躍。そして剣先を下に向けて落下──。
「ほら、いくよ。竜墜──」
落下地点から爆発。凄まじい威力で葵も戦姫も宙に巻き上げられる。無論魔族たちも。
防御壁に守られている葵たちは無傷。だが魔族たちは爆発の衝撃と飛んでくる大小の岩石によって粉々になった。
まるで爆撃。あたりの建造物も紙切れのように吹き飛んだ。いまの一撃──フレイアのいる場所を中心に1000以上の魔族が消滅していた。
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