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第1部 剣聖 羽鳴由佳
4 解放の騎士
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──まったく情けない。
油断していたわけではない。このわたし《剣聖》羽鳴由佳はいま、クソ重い手枷をはめられ城の地下牢に閉じ込められている。
なお腹立たしいのはもう一人、向かい合ってあぐらをかいている男がニヤニヤしていることだ。
「なにがそんなに可笑しい」
きつい口調で問うと、その男──いや、少年はぶはっ、と吹き出した。
「あっはは、ごめん、由佳。まさかさぁ、願望者がこんな簡単に捕まっちゃうなんて思わなかったからさぁ。しかも二人も」
足をバッタバタさせながらケラケラ笑う。年上を呼び捨てにしやがって。願望者の見た目の年齢なんかに意味は無いのだが。
この十五歳ぐらいの少年が、わたしが探していた《解放の騎士》天塚志求磨なのだ。名前も変だが、格好もおかしい。この転生世界にパ―カ―に七分丈パンツ、スニーカーと現代人丸出し。完全に浮いている。
こんな姿で特殊な能力など発揮できるのかと疑問だったが、それは先程の戦いで証明済みだ。
幻魔の森に《解放の騎士》がいると情報を得たわたしは、群がる魔物を倒しつつ、森の奥へ奥へと突き進み志求磨に出会った。
例の頭の中ダダダダ、そのあとに沸き上がる闘争心。ここまではいつもと一緒だったが、この志求磨の表情。ここにわたしが来るのが分かっていたような、なんだか人を小馬鹿にしたような、にやけ顔。
わたしは問答無用で斬りかかったのだ。いつもはもう少し自制心があるのだが……とにかく、《剣聖》と《解放の騎士》は森の木を三分の一ほどなぎ倒す戦いを繰り広げ、互いに体力を使い果たしてしまったのだ。
そして幻魔の森は悪名高い領主《サディスティックディーヴァ》セプティミア・ヨ―クのテリトリー。へたばっているところにやつの兵士がわらわらと集まって、あれよあれよという間に捕縛され投獄されてしまった。
「大体、おまえのどこが騎士なんだ。騎士ってのはな、こう重そうな鎧を身に付けてだな、自分の背丈ほどの剣を振り回して、筋骨隆々で……」
「由佳のアニメかゲームでのイメージでしょ、それ。別にいいじゃん、これで。自分だって着物の中、ふつーの制服じゃんか。サムライを意識してるんならもっとちゃんとしなよ。あと、刀から衝撃波飛ばしたり5メートルぐらいジャンプするのはどうかと思うなぁ」
世界名作劇場に出てくる男の子みたいな顔して、気にしてることをずけずけと。
たしかにわたしの能力は好きな時代劇の立ち回りがベースになっている。野盗やちょっとした魔物ならそれで十分だが、大型トラック並みの魔物やわけの分からん能力を使う願望者相手にはかなりキツイ。
そこで、わたしとしては邪道だがファンタジー時代劇や格ゲーの要素を取り入れなければならなかったのだ。そこまでに至る願望の力の鍛練、多くの人々の認識を得る努力。こいつに分かるはずがない。
わたしはむくれて志求磨に背を向けた。わたしも相当口が悪いほうだが、ちょっとこいつにはかないそうにない。いや、わたしが大人なのだ。大人のイイ女はガキなど相手にしない。
わたしが言い返さず黙り込んだので、志求磨は調子っぱずれな鼻唄を交えながら足の裏でリズムを取りだした。
あっちの世界で流行っていた曲だ。そういえば志求磨はいつ頃シエラ=イデアルに来たのだろうか。《青の魔女》カーラはどうしてこいつに会えと言ったのだろうか。
ちょっだけ話を聞いてみようかと少し振り向いたところで、地下の階段から足音が聞こえてきた。この城の兵士だ。
兵士は領主のセプティミアからの伝言を伝えに来たのだが、その内容は意外なものだった。
わたしと志求磨は手枷を外され、城の中を案内された。ホラー映画に出てきそうな中世の古めかしい城。夜ということもあって雰囲気も一段と出ている。
体育館ほどもあるホールに着くと、中にはばか長いテーブル。たくさんの料理が並べられ、壁ぎわには大勢のメイドが直立していた。
テーブルの奥にはこの城の主、《サディスティックディーヴァ》セプティミア・ヨーク。見た目はゴスロリ衣装を着た十二才ぐらいの少女。片ヒジついて生気の乏しい目でこちらを見ている。
かたわらには執事のサイラス。長身でかなりのイケメン。親友の綾が見たらキャーキャー言うに違いない。
「久しぶりね、《剣聖》。あんたの活躍はよく耳にするわ。そして隣の《解放の騎士》。あんたも早いうちに会おうと思ってたところ。ホントちょうどいいわ」
? なんのことだろうか。志求磨を見るが、特に変化が見られない。わたしと同じく初見ではないのか。
「突っ立ってないで座んなさいよ。せっかくの晩餐会なんだから。ほら、毒なんか入ってないから」
セプティミアにうながされるまま席に座り、わたしは遠慮なく料理を頂くことにした。しかし、どういうつもりだろうか。
わたしがセプティミアと執事のサイラスに出会ったのはシエラ=イデアルに来てから三ヶ月目ぐらいのことだ。
願望の力を使いこなすため、幻魔の森で武者修行をしているときに鉢合わせた。いや、むこうから見れば不法侵入者を追い出しただけかもしれない。結果的に見れば、わたしはあの二人組に負けたのだ。
「あらあら、まるで餓えた魔物ね。普段何食べているのかしら。ねぇ、サイラス」
「はい、セプティミアさま。庶民とは粗末な野菜クズスープや粗末な雑穀の混じったパンを食し、粗末な造りのエールを飲んでいるようです」
「ふぁはにふんがっ!(馬鹿にすんな)」
「由佳ぁ、口にモノ入れたまま叫ばないでよ。こっちまで何か飛んできたよ」
なんにせよ、こんなご馳走や賑やかな食卓は久しぶりだ。
敵地というのが気がかりだし、志求磨もまだ信用できないが。
戦いばかりの日常に一息つける間があるのはありがたい。いまは余計なことは考えずに目の前の食事に集中することに決めた。
油断していたわけではない。このわたし《剣聖》羽鳴由佳はいま、クソ重い手枷をはめられ城の地下牢に閉じ込められている。
なお腹立たしいのはもう一人、向かい合ってあぐらをかいている男がニヤニヤしていることだ。
「なにがそんなに可笑しい」
きつい口調で問うと、その男──いや、少年はぶはっ、と吹き出した。
「あっはは、ごめん、由佳。まさかさぁ、願望者がこんな簡単に捕まっちゃうなんて思わなかったからさぁ。しかも二人も」
足をバッタバタさせながらケラケラ笑う。年上を呼び捨てにしやがって。願望者の見た目の年齢なんかに意味は無いのだが。
この十五歳ぐらいの少年が、わたしが探していた《解放の騎士》天塚志求磨なのだ。名前も変だが、格好もおかしい。この転生世界にパ―カ―に七分丈パンツ、スニーカーと現代人丸出し。完全に浮いている。
こんな姿で特殊な能力など発揮できるのかと疑問だったが、それは先程の戦いで証明済みだ。
幻魔の森に《解放の騎士》がいると情報を得たわたしは、群がる魔物を倒しつつ、森の奥へ奥へと突き進み志求磨に出会った。
例の頭の中ダダダダ、そのあとに沸き上がる闘争心。ここまではいつもと一緒だったが、この志求磨の表情。ここにわたしが来るのが分かっていたような、なんだか人を小馬鹿にしたような、にやけ顔。
わたしは問答無用で斬りかかったのだ。いつもはもう少し自制心があるのだが……とにかく、《剣聖》と《解放の騎士》は森の木を三分の一ほどなぎ倒す戦いを繰り広げ、互いに体力を使い果たしてしまったのだ。
そして幻魔の森は悪名高い領主《サディスティックディーヴァ》セプティミア・ヨ―クのテリトリー。へたばっているところにやつの兵士がわらわらと集まって、あれよあれよという間に捕縛され投獄されてしまった。
「大体、おまえのどこが騎士なんだ。騎士ってのはな、こう重そうな鎧を身に付けてだな、自分の背丈ほどの剣を振り回して、筋骨隆々で……」
「由佳のアニメかゲームでのイメージでしょ、それ。別にいいじゃん、これで。自分だって着物の中、ふつーの制服じゃんか。サムライを意識してるんならもっとちゃんとしなよ。あと、刀から衝撃波飛ばしたり5メートルぐらいジャンプするのはどうかと思うなぁ」
世界名作劇場に出てくる男の子みたいな顔して、気にしてることをずけずけと。
たしかにわたしの能力は好きな時代劇の立ち回りがベースになっている。野盗やちょっとした魔物ならそれで十分だが、大型トラック並みの魔物やわけの分からん能力を使う願望者相手にはかなりキツイ。
そこで、わたしとしては邪道だがファンタジー時代劇や格ゲーの要素を取り入れなければならなかったのだ。そこまでに至る願望の力の鍛練、多くの人々の認識を得る努力。こいつに分かるはずがない。
わたしはむくれて志求磨に背を向けた。わたしも相当口が悪いほうだが、ちょっとこいつにはかないそうにない。いや、わたしが大人なのだ。大人のイイ女はガキなど相手にしない。
わたしが言い返さず黙り込んだので、志求磨は調子っぱずれな鼻唄を交えながら足の裏でリズムを取りだした。
あっちの世界で流行っていた曲だ。そういえば志求磨はいつ頃シエラ=イデアルに来たのだろうか。《青の魔女》カーラはどうしてこいつに会えと言ったのだろうか。
ちょっだけ話を聞いてみようかと少し振り向いたところで、地下の階段から足音が聞こえてきた。この城の兵士だ。
兵士は領主のセプティミアからの伝言を伝えに来たのだが、その内容は意外なものだった。
わたしと志求磨は手枷を外され、城の中を案内された。ホラー映画に出てきそうな中世の古めかしい城。夜ということもあって雰囲気も一段と出ている。
体育館ほどもあるホールに着くと、中にはばか長いテーブル。たくさんの料理が並べられ、壁ぎわには大勢のメイドが直立していた。
テーブルの奥にはこの城の主、《サディスティックディーヴァ》セプティミア・ヨーク。見た目はゴスロリ衣装を着た十二才ぐらいの少女。片ヒジついて生気の乏しい目でこちらを見ている。
かたわらには執事のサイラス。長身でかなりのイケメン。親友の綾が見たらキャーキャー言うに違いない。
「久しぶりね、《剣聖》。あんたの活躍はよく耳にするわ。そして隣の《解放の騎士》。あんたも早いうちに会おうと思ってたところ。ホントちょうどいいわ」
? なんのことだろうか。志求磨を見るが、特に変化が見られない。わたしと同じく初見ではないのか。
「突っ立ってないで座んなさいよ。せっかくの晩餐会なんだから。ほら、毒なんか入ってないから」
セプティミアにうながされるまま席に座り、わたしは遠慮なく料理を頂くことにした。しかし、どういうつもりだろうか。
わたしがセプティミアと執事のサイラスに出会ったのはシエラ=イデアルに来てから三ヶ月目ぐらいのことだ。
願望の力を使いこなすため、幻魔の森で武者修行をしているときに鉢合わせた。いや、むこうから見れば不法侵入者を追い出しただけかもしれない。結果的に見れば、わたしはあの二人組に負けたのだ。
「あらあら、まるで餓えた魔物ね。普段何食べているのかしら。ねぇ、サイラス」
「はい、セプティミアさま。庶民とは粗末な野菜クズスープや粗末な雑穀の混じったパンを食し、粗末な造りのエールを飲んでいるようです」
「ふぁはにふんがっ!(馬鹿にすんな)」
「由佳ぁ、口にモノ入れたまま叫ばないでよ。こっちまで何か飛んできたよ」
なんにせよ、こんなご馳走や賑やかな食卓は久しぶりだ。
敵地というのが気がかりだし、志求磨もまだ信用できないが。
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