異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
5 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

5 サディスティックディーヴァ

しおりを挟む
「それで、どういうつもりなんだ。捕まえたり飯を食わせたり。なにか企んでいるのか」

 食べるだけ食べてわたしはセプティミアに聞いた。 
 人形のような愛らしい、だが少し不気味な笑顔で少女はワイングラスをかたむけている。

「あいかわらずせっかちね。最初に会ったときからそう……まぁいいわ。アンタたちを捕まえていたのは、どうするかまだ迷っていたから」

「迷うって、何を」
 
「わたしはね……味方が欲しいの。あの《覇王》に対抗できるくらいの。アンタたちを倒してレベルアップってのもいいけど、こっちに引き込んだほうがいいかなって思ったわけ」

 ? 意味が分からない。セプティミアは幻魔の森を中心とするベルフォレ地方の領主だ。そして《覇王》はこのシエラ=イデアルの王。つまり全世界の王なのだ。その王に対抗するとは?
 
「わけが分からないって顔してるわね。アンタも噂ぐらい聞いてるでしょう。願望者デザイアがこの半年間に次々と消失ロストしているってこと」

 セプティミアの視線が志求磨へと向けられた。志求磨は素知らぬ顔で視線を外し、口笛を吹く。

──消失ロスト。《青の魔女》カーラから聞いた言葉だ。わたしはその意味自体がわからなかったが、志求磨のこの態度は何か知っていそうだ。

「その消失ロストに《覇王》が関わっているっていえば話が分かるかしら? ようするに、やられる前にやれってことよ。ねぇ、サイラス」
 
「はい、セプティミアさま。彼ら庶民の粗末な脳でも理解できるかと」

 いちいちムカつく男だ。このサイラスという執事、謎が多い。初めて出会ったとき、頭の中ダダダダ、が無かった。かといってその戦闘能力はとても普通の人間とは思えない。

「わたしたちと《剣聖》、そしてその男の力があればあの《覇王》にも勝てる。うまくいけばこの世界の支配者よ。もとより……アンタたちに選択権はない。二人とも、以前わたしたちに負けてるんだから」

 得意げに言い放つセプティミア。やはり志求磨はこの二人に会い、戦っていた。しかもわたしと同じく負けていたとは。

「あんときはまだ力を使いこなせてなかったからさ。それに今度は二対二だから結果は分からないよ」

 おい待て志求磨。
 いつの間にかタッグを組まされている。この挑発的な態度に、あの《サディスティックディーヴァ》が乗らないはずはない。

「ふぅん。もう少し賢いと思ってたけど──見た目どうりのガキね。《解放の騎士》天塚志求磨。いいわ、交渉決裂。今度こそ死なない程度に痛めつけるだけ痛めつけて、一生わたしに逆らえないような下僕にしてあげる」

 舌なめずりをしながらセプティミアがワイングラスをバキバキと砕く。
 メイドたちが悲鳴をあげ、一斉に逃げ出した。彼女らは知っているのだ。自分たちの主の残虐な嗜好を。

「結局戦うはめになるのか。おい、わたし素手なんですけど」
 
  責めるように志求磨を睨む。名刀飛蝶は志求磨との戦いで折れた。
 これにはかなり驚いた。願望と認識の力を込めた武器が物理的な作用で破壊されるとは考えにくい。志求磨の能力は願望者デザイアの根本的な力を弱めるものかもしれない。

「ははっ、ごめんね由佳。でもあれ見てよ」

 志求磨が指差す先──セプティミアの頭上、壁に二振りの剣が交差して飾られている。

「あれか……十分だ。おい、援護しろよ」 

 わたしはテーブルの上からセプティミアに向かって突進。すかさずサイラスがかばうように立ちはだかる。得物はハルバート。槍の先に斧がくっついたような武器だ。あの長身からあのリーチは相当に厄介なのだが。

──ドンッ。
 長いテーブルの半分が砕け散った。ハルバートの穂先は石床にめり込んでいる。凄まじい威力だが──その懐には志求磨がもぐり込み、軌道を逸らしていた。
 わたしはすでにサイラスの肩を踏み台にして跳躍、壁の剣を取るのに成功。間合いを取って着地した。

 幅広の半月刀。しかも装飾用なのでナマクラもいいとこなのだが……わたしが意識を集中させると、その形状が変化──美しい刃紋を持つ日本刀へ。その周りを黒塗りに螺鈿模様らでんもようの施された鞘が覆っていく。

 これが《剣聖》であるわたしの能力のひとつ。剣、もしくは剣らしきものを願望の力で刀へ変化。《剣聖》のわたしが持つことで、周りの人々はそれがする。

「さすがだね、由佳。願望で強化、認識で固定。願望者デザイアの基本はバッチリだ」

 こっちを見て褒めてる場合か。背後ではサイラスがハルバートを振りかぶっている。
──バ、ババババッ。 
 白銀の閃光。志求磨の連続拳打がヒットしたのだ。サイラスの長身がぐらりと揺れたが、ハルバートはそのまま振り落とされ、またしても石床にめり込んだ。

「ひえーっ、タフだなぁ。危ない危ない」

 軽口を叩きながらわたしの隣に移動している。こいつ、もしかしたらわたしの神速以上に速く動けるのかも。

「なによ、そのコンビネーション。はじめて一緒に戦うふうには見えないわ。なんっかムカつく」

 ツインテールの巻き髪をわなわな震わせながら、セプティミアがマイクスタンドを取り出した。
 そう、《サディスティックディーヴァ》の攻撃が開始されるのだ。

 

 







しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...