44 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳
44 日常
しおりを挟む
高2の春、いつもの通学途中。
バス停のベンチに並んで座り、雑談に花を咲かせる。
雑談といっても、一方的に喋っているのはショートカットの似合う、親友の綾。わたしはうん、とかそう、とか素っ気ない返事をするのがほとんどなのだが。
今朝の綾は鼻息荒く、昨日見たドラマの話をしている。
「ちょっと、由佳。聞いてる?」
綾がむくれた顔で肩をゆする。わたしは視点が定まらないまま答えた。
「ん? 聞いてるよ。あれだよね、家政婦はバタコってドラマだよね。パン屋の娘が経営難で、やむなく家政婦のバイトをはじめたとかどうとか……」
「ぜんっぜん違う。どうしたの、ボーッとして。昨日、ちゃんと寝た? また遅くまで時代劇見てたんでしょ」
そうだったかな? よく覚えていない。なんだかモヤモヤするが……あれ、綾にわたしが時代劇好きなこと、まだ打ち明けてないはずなのに……。
まあ、いいか、と自己完結した。
さすがわたしの親友。そんなことでは引いたりする子ではなかった。今までとは違う。
もっと早く伝えておけば良かった。
「しっかりしてよ~。ほら、バス来たよ」
バス……。なんだか引っかかる。
いつものバス。プシュー、と音を立てて乗降口の扉が開いた。
急かされるように立ち、何気なくサイドミラーに映った自分の姿を見た。
ボサボサ髪の目つきの悪い、猫背の陰気な女。
あれ、わたしってこんな姿だったっけ。もっとこう、ストレートの長い髪で、切れ長の碧眼で、整った鼻筋に妖艶な唇をしていた気がする。
そんなバカな、と首を振った。そんなのは夢に過ぎない。そんなのは幻想、理想。わたしの願望……。
ハッ、と気づく。
願望──そう、願望どおりの姿だった。あの異世界、シエラ=イデアルで。
「やっと気づいた? 由佳。戻って来たんだよ。元の世界に」
綾が優しく笑う。いや、どこか寂しげだ。
「気づかないほうが良かったのかな……わたしにもわかんないよ。でもね、気づいたってことは、望んでいるんだよ。あの世界にまた行きたい、やり残したことがあるって」
「綾、もしかしたら綾は……」
あの世界で、わたしのことをすでに知っていた。
幾度となく、手助けをしてくれた。
元の世界から消えた少女を守ると言っていた。それが願望だと。
「そう、わたしが天塚志求磨。わたしが書いている小説の主人公」
綾はそう言ってわたしを抱きしめた。
願望だから、性別も自由に変えられる。ただ、ほぼ99%の確率で見破ることが出来る。
何気ない話し方や所作で分かるものだが……志求磨の場合はまったく分からなかった。
「わたし、こっちで疲れてたんだ。周りの期待とか、それこそ願望とかに……。本当のわたしは小説が書きたい。学校の人気者でも、バスケ部のエースでもない。そんなの、望んでない」
「綾……」
こちらも背に手を回してぎゅっ、と抱きしめた。この親友は苦しんでいたんだ。それに気づいてやれなくてゴメン。
「由佳が目の前で消えたとき、どうしようかって思った。それで助けなきゃって、強く願ったんだ。そうしたらわたしもあの世界に行くことができた」
「ありがとう、綾。ずっとわたしのこと心配してくれてたんだ」
「当たり前だよ。わたし、ずっと由佳のこと好きだったんだから」
「うん、わたしも」
「本当? 由佳、わたし嬉しい……」
綾が潤んだ瞳で顔を近づけてくる。あれ、好きって友達としてってことだよね。これは……ガチなヤツか?
「あ、早く乗らなきゃ」
わたしはごまかすように慌てて綾の手を引いてバスに乗り込む。
ふいにガクン、と階段を踏み外したような感覚。
「由佳、新しい《召喚者》が喚んでる。行こう、また一緒に」
──綾と手を繋いだまま、また暗闇の中に落ちていった。
バス停のベンチに並んで座り、雑談に花を咲かせる。
雑談といっても、一方的に喋っているのはショートカットの似合う、親友の綾。わたしはうん、とかそう、とか素っ気ない返事をするのがほとんどなのだが。
今朝の綾は鼻息荒く、昨日見たドラマの話をしている。
「ちょっと、由佳。聞いてる?」
綾がむくれた顔で肩をゆする。わたしは視点が定まらないまま答えた。
「ん? 聞いてるよ。あれだよね、家政婦はバタコってドラマだよね。パン屋の娘が経営難で、やむなく家政婦のバイトをはじめたとかどうとか……」
「ぜんっぜん違う。どうしたの、ボーッとして。昨日、ちゃんと寝た? また遅くまで時代劇見てたんでしょ」
そうだったかな? よく覚えていない。なんだかモヤモヤするが……あれ、綾にわたしが時代劇好きなこと、まだ打ち明けてないはずなのに……。
まあ、いいか、と自己完結した。
さすがわたしの親友。そんなことでは引いたりする子ではなかった。今までとは違う。
もっと早く伝えておけば良かった。
「しっかりしてよ~。ほら、バス来たよ」
バス……。なんだか引っかかる。
いつものバス。プシュー、と音を立てて乗降口の扉が開いた。
急かされるように立ち、何気なくサイドミラーに映った自分の姿を見た。
ボサボサ髪の目つきの悪い、猫背の陰気な女。
あれ、わたしってこんな姿だったっけ。もっとこう、ストレートの長い髪で、切れ長の碧眼で、整った鼻筋に妖艶な唇をしていた気がする。
そんなバカな、と首を振った。そんなのは夢に過ぎない。そんなのは幻想、理想。わたしの願望……。
ハッ、と気づく。
願望──そう、願望どおりの姿だった。あの異世界、シエラ=イデアルで。
「やっと気づいた? 由佳。戻って来たんだよ。元の世界に」
綾が優しく笑う。いや、どこか寂しげだ。
「気づかないほうが良かったのかな……わたしにもわかんないよ。でもね、気づいたってことは、望んでいるんだよ。あの世界にまた行きたい、やり残したことがあるって」
「綾、もしかしたら綾は……」
あの世界で、わたしのことをすでに知っていた。
幾度となく、手助けをしてくれた。
元の世界から消えた少女を守ると言っていた。それが願望だと。
「そう、わたしが天塚志求磨。わたしが書いている小説の主人公」
綾はそう言ってわたしを抱きしめた。
願望だから、性別も自由に変えられる。ただ、ほぼ99%の確率で見破ることが出来る。
何気ない話し方や所作で分かるものだが……志求磨の場合はまったく分からなかった。
「わたし、こっちで疲れてたんだ。周りの期待とか、それこそ願望とかに……。本当のわたしは小説が書きたい。学校の人気者でも、バスケ部のエースでもない。そんなの、望んでない」
「綾……」
こちらも背に手を回してぎゅっ、と抱きしめた。この親友は苦しんでいたんだ。それに気づいてやれなくてゴメン。
「由佳が目の前で消えたとき、どうしようかって思った。それで助けなきゃって、強く願ったんだ。そうしたらわたしもあの世界に行くことができた」
「ありがとう、綾。ずっとわたしのこと心配してくれてたんだ」
「当たり前だよ。わたし、ずっと由佳のこと好きだったんだから」
「うん、わたしも」
「本当? 由佳、わたし嬉しい……」
綾が潤んだ瞳で顔を近づけてくる。あれ、好きって友達としてってことだよね。これは……ガチなヤツか?
「あ、早く乗らなきゃ」
わたしはごまかすように慌てて綾の手を引いてバスに乗り込む。
ふいにガクン、と階段を踏み外したような感覚。
「由佳、新しい《召喚者》が喚んでる。行こう、また一緒に」
──綾と手を繋いだまま、また暗闇の中に落ちていった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる