異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
45 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

45 王なき世界

しおりを挟む
 うねる波間を縫って矢が飛び交う。
 矢の応酬がしばらく続き、そのあとは敵船が勢いよく突っ込んできた。
 揺れる甲板。敵兵が白刃を閃かせてぞろぞろ乗り込んでくる。 
 
 志求磨とともに応戦。襲いかかる敵兵を次々と海へ叩き込んだ。
 雑兵はいくらいても相手にならない。問題は敵の願望者デザイア
 
 わっはっは、と船に飛び移って来たのは──おお、あの帽子、眼帯、髭、服装。左手のフック状の義手。本や映画で見るそのまんまの海賊のおっさんだ。それならオウムも……オウムは……いないか。わたしは少しがっかりしながら居合いの構えを取る。
 
 頭の中にダダダタ、と文字が打ち込まれた。
《隻眼の大海賊》マウリシオ・ノゲイラ。
 あまりひねりのない二つ名に、またもがっかりする。

「ぅおうっ! てめえらっ! この辺りの、この辺りの海域は……うおぅっ、俺らのシマだって知って、うおぅっ」

 なんだコイツ、酔っ払ってんのか? それともこれが素の喋り方なのだろうか。
 面倒なのでそのまま一気に距離を詰め──抜刀。
 ガキッ、と曲刀で止められる。さすがに初撃で願望者デザイアを倒せるとは思っていないが、意外に素早い。

「てめぇっ、いぎなり、ぅおうっ!」

 怒りに髭をビーンと逆立てたマウリシオが曲刀を振り回す。
 ばっ、と飛びずさりながら納刀──そして。

「シッ!」

 抜刀。飛ぶ斬撃、太刀風を至近距離から喰らい、マウリシオは身体をくの字に曲げながら船縁に激突。
 顔面からビタン、と甲板に倒れ込んだ。
 
 お、もう終わりか。
 納刀し、様子をうかがう。……ぴくりとも動かない。どうやら気を失ったようだ。
 わたしは志求磨のほうを向き──。

「由佳っ!」

 志求磨の声。
 バンっ、と何かが破裂したような音。
 マウリシオの義手が外れ、腕の中からのぞいているのは──銃口だ。
   
 あれ、わたし、撃たれた? 

 ぐらりと倒れそうになり、ダン、と踏みとどまる。

「シッ!」

 その低い態勢から再び太刀風。
 マウリシオはまた船縁にぶつかり、勢いあまって何か叫びながら海へ転落していった。

「危ないよ、由佳。油断しすぎ」

 志求磨が指さす。わたしの上着の袖に風穴が空いていた。
 銃器を使いこなせる願望者デザイアは滅多にいない。たしかに油断していた。
 しかし、これで敵の襲撃を全て撃退したことになる。商船は無事だ。



 このシエラ=イデアルに戻ってきたとき、ここではすでに一年の月日が流れていた。
 元の世界では、ほとんど時間が経過していなかったことから考えると、二つの世界で時間の流れ方が違うのだろうか。

 とある港町に飛ばされたわたしと志求磨はちょっとした浦島太郎状態だったのだが、偶然にも五禍将のひとり《魔箭鬼手》レオニードに再会し、今はその商売の手助けをしている。

《覇王》黄武迅の死により、統一国家制は崩壊。各地域の領主たちは次々と独立。自領地で新たな税や法を決めるなど好き勝手し始めた。
 それに伴い、まだ大きな戦争は起きていないが、領主同士の小競り合いは頻繁に起きている。
 嫌われていた願望者デザイアたちも、その争いに利用されるようになった。

 治安は悪化。魔物もさらに増えた。
 覇王大戦より以前の、混沌とした群雄割拠時代の再来というわけだ。

 レオニードはそこに目を付け、商人や領主相手に輸送護衛の仕事を始めたのだ。
 元五禍将ということもあり、信頼は抜群。順調に業績を伸ばし、今では護衛以外の魔物討伐や領主同士の争いの助っ人などにも手を広げ、多くの願望者デザイアを抱えるギルドを形成している。

 わたしと志求磨はひとまずここに身を寄せることにしたのだ。
 他の領主の傘下に入ることも考えたが、あの葉桜溢忌に対抗できるほどの力はないように思える。

 あの時、この世界では一年前。《覇王》黄武迅が最後の力を振り絞って王城を消滅させるほどの願望の力を爆発させた。
 シエラ=イデアルのどこからでも見える光の柱が天と地を繋いだらしい。
 だが──巻き込まれたはずの《餓狼系主人公》葉桜溢忌はやはり生きていた。

 あれほどの力を持ちながら、いまだに旧王都から動かない。その気になれば《覇王》のようにシエラ=イデアル統一など容易だろうに。
 噂では、各領主を脅して美女や物資を献上させているらしい。 
 それで旧王都に巨大なハーレム宮殿を建造中。今はそのこと以外に興味は無さそうだ。

 ギルドの拠点は、黒由佳や藤田と戦ったあの砦だ。
 砦に戻ると、事務の者に一通り報告。そこでギルド長から呼ばれているというので、執務室へ向かった。

 レオニードの執務室は豪勢な絨毯やら絵画やら調度品で飾り付けられている。
 見た目はロックな感じだが、意外と成金ぽい一面もあるのか。
 服装も以前より派手だ。毛皮のジャケットやら金のアクセサリーを身につけている。

「ご苦労だったな。まあ、座れよ。話がある」

 ねぎらいの言葉をかけられ、うながされるまま、これまた高そうなソファーに腰かける。
 改めて話とはなんだろうか。レオニードは葉巻に火を着けながら話しだした。

「以前からお前らが探していたヤツが見つかった。《覇王》の後継者……《召喚者》の二つ名を持つ男だ」



 

 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

処理中です...