異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
48 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

48 また武道大会

しおりを挟む
「僕は中身は男だよ。願望者デザイアとしての身体も男」

 むむ? リアルでは男だと分かった。しかし、今の姿も男とな?
 たしかに胸は……《アライグマッスル》がいうところの、わたしが怪人ツルペッターなら、この娘はゼッペキーノだが……こんな可憐な女の子が。まさか……これが男の娘というヤツなのか。

「え~、それでは恋愛対象はどちらになるのでしょうか?」

 念のため聞いてみる。ナギサは胸を張って答える。

「女の子が好きに決まってるじゃないか。そして、お前みたいな強い子が好みだ」

……聞かなければ良かった。なんかややこしい事になりそうだ。

「俺もナギサという五禍将の名は知ってたけど……あのミリアムでさえ、《覇王》の息子だと知らなかったなんて。どうしてそこまでして隠す必要が?」

 聞いたのは志求磨だ。少し不機嫌な顔をしている。信頼している自分にまで黄武迅は息子の存在を隠していた。その事が不満なようだ。

 ナギサは溜め息をついて、天井を見上げた。

「オヤジは……くさるほど恨みを買っていたからな。統一国家を成立させてから、貴族制、奴隷制の廃止。商人連合の市場独占禁止。利権に関わるヤツらはほとんどだ。それに旧国の遺臣からも」

 旧国の遺臣……ミリアムの事を言っているのだろう。その優れた政治手腕を見込んで取り立てたのだろうが、寝首をかかれる結果になってしまった。

「だから僕まで狙われないように。そして自分に何かあった時は、王都から離れて行動しているほうが有利だって、私掠船の団長を任されてたんだ」 

 ナギサの説明は続く。それによると、《覇王》黄武迅は超級魔物の復活や岩秀の反乱などの不穏な動き、自らの負傷の事もあり、《召喚者》の継承を決意した。
 もし何かあった後では継承出来ない。しかもこの二つ名と能力は持ち主から強奪出来るらしい。やり方は単純明快、相手を倒すこと。 
 黄武迅はそうやって、葉桜溢忌から二つ名を奪ったらしい。もっとも、《青の魔女》カーラの手助けがあったからこそ可能だったようだ。

 わたし達も再びこの世界に来たとき、まずカーラを頼ろうとした。
 彼女なら葉桜溢忌に十分対抗できるし、混乱したシエラ=イデアルをうまく治めてくれそうな気もする。

 しかし、現在彼女のいるセペノイアの街は、どこの領主にも属していない。完全な自治都市として中立を保っている。
 人の出入りにかなり厳しくなっており、特に願望者デザイアは知り合いのわたし達でも申請が通らなかった。

 この物量豊富な大都市は他領主から見れば喉から手が出るほどに欲しいものだが、《青の魔女》を恐れて手が出せないようだ。

「あ、ちょっと質問。あの葉桜溢忌って、《召喚者》の二つ名を取り返そうとしてたよね。で、ミリアムは願望者デザイア全書を持っている。ナギサが継承した時点でバレてるはずだよね。だけど、向こうからなにか仕掛けてくる様子はないんでしょ?」

 志求磨の問いに、ナギサは頷く。

「そう。だからそれはオヤジが魔女に頼んだんじゃないかって、にらんでる。ミリアムの事を全面的には信用していなかったんじゃないか」

 たしかに……ミリアムは言っていた。あのカーラだけが本で見ることが出来ないと。《召喚者》の二つ名を隠すなど、造作もないだろう。

「やっぱり魔女に会う必要があるな。色々聞きたいこともあるし。お前も頼れそうなヤツで安心した。いつか僕の嫁にしてやる」

 はいはい、それは光栄なことです。
 こういった冗談の飛ばし方は父親にそっくりだ。
 
「しかし、セペノイアに入るのは難しいぜ。願望者デザイアは葉桜溢忌の仲間だと疑われるからな」

 レオニードの的確な指摘に、一同はシーンと黙り込む。
 沈黙を破ったのはナギサだ。

「そういえば、ここに来る途中でこんなものを拾ったぞ」

 む、なんか既視感が……。
 手には一枚のチラシ。ま、まさかそれは。
 内容を見てみる。
 シエラ=イデアル武道大会。この大会の開催期間中、選手であればセペノイア市内に滞在可能。
 なんという偶然。この大会に参加すればカーラに会えるかもしれない。

 参加できる条件は前回と同じか……いや、ひとつ異なる点がある。
 今度はなんと、団体戦。五人一組のチームが出場条件となる。

「団体戦か、よし。ここにいるメンバーで、もう四人いるじゃないか」

「げ、俺もかよ……」

 ナギサの張り切った声に、レオニードがげんなりした顔で頭をかく。

「あと一人も決まっているようなもんだ。武道大会と聞いてヤツが来ないはずはない。あの、ロクに仕事もしない放浪格闘バカが」

 ナギサが誰の事を言っているのか、すぐに分かった。一年前の王都の危機にも姿が見えなかった。よく今まで幹部でいられたな。

「アイツは現地でとっ捕まえればいい。よし、この五人で登録して出場だ」

 ナギサが勢いよく、おー、と拳を突き上げた。ナギサがにらみつける。
 わたし達三人もおお、とゆるゆる拳を上げた。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...