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第1部 剣聖 羽鳴由佳
48 また武道大会
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「僕は中身は男だよ。願望者としての身体も男」
むむ? リアルでは男だと分かった。しかし、今の姿も男とな?
たしかに胸は……《アライグマッスル》がいうところの、わたしが怪人ツルペッターなら、この娘はゼッペキーノだが……こんな可憐な女の子が。まさか……これが男の娘というヤツなのか。
「え~、それでは恋愛対象はどちらになるのでしょうか?」
念のため聞いてみる。ナギサは胸を張って答える。
「女の子が好きに決まってるじゃないか。そして、お前みたいな強い子が好みだ」
……聞かなければ良かった。なんかややこしい事になりそうだ。
「俺もナギサという五禍将の名は知ってたけど……あのミリアムでさえ、《覇王》の息子だと知らなかったなんて。どうしてそこまでして隠す必要が?」
聞いたのは志求磨だ。少し不機嫌な顔をしている。信頼している自分にまで黄武迅は息子の存在を隠していた。その事が不満なようだ。
ナギサは溜め息をついて、天井を見上げた。
「オヤジは……くさるほど恨みを買っていたからな。統一国家を成立させてから、貴族制、奴隷制の廃止。商人連合の市場独占禁止。利権に関わるヤツらはほとんどだ。それに旧国の遺臣からも」
旧国の遺臣……ミリアムの事を言っているのだろう。その優れた政治手腕を見込んで取り立てたのだろうが、寝首をかかれる結果になってしまった。
「だから僕まで狙われないように。そして自分に何かあった時は、王都から離れて行動しているほうが有利だって、私掠船の団長を任されてたんだ」
ナギサの説明は続く。それによると、《覇王》黄武迅は超級魔物の復活や岩秀の反乱などの不穏な動き、自らの負傷の事もあり、《召喚者》の継承を決意した。
もし何かあった後では継承出来ない。しかもこの二つ名と能力は持ち主から強奪出来るらしい。やり方は単純明快、相手を倒すこと。
黄武迅はそうやって、葉桜溢忌から二つ名を奪ったらしい。もっとも、《青の魔女》カーラの手助けがあったからこそ可能だったようだ。
わたし達も再びこの世界に来たとき、まずカーラを頼ろうとした。
彼女なら葉桜溢忌に十分対抗できるし、混乱したシエラ=イデアルをうまく治めてくれそうな気もする。
しかし、現在彼女のいるセペノイアの街は、どこの領主にも属していない。完全な自治都市として中立を保っている。
人の出入りにかなり厳しくなっており、特に願望者は知り合いのわたし達でも申請が通らなかった。
この物量豊富な大都市は他領主から見れば喉から手が出るほどに欲しいものだが、《青の魔女》を恐れて手が出せないようだ。
「あ、ちょっと質問。あの葉桜溢忌って、《召喚者》の二つ名を取り返そうとしてたよね。で、ミリアムは願望者全書を持っている。ナギサが継承した時点でバレてるはずだよね。だけど、向こうからなにか仕掛けてくる様子はないんでしょ?」
志求磨の問いに、ナギサは頷く。
「そう。だからそれはオヤジが魔女に頼んだんじゃないかって、にらんでる。ミリアムの事を全面的には信用していなかったんじゃないか」
たしかに……ミリアムは言っていた。あのカーラだけが本で見ることが出来ないと。《召喚者》の二つ名を隠すなど、造作もないだろう。
「やっぱり魔女に会う必要があるな。色々聞きたいこともあるし。お前も頼れそうなヤツで安心した。いつか僕の嫁にしてやる」
はいはい、それは光栄なことです。
こういった冗談の飛ばし方は父親にそっくりだ。
「しかし、セペノイアに入るのは難しいぜ。願望者は葉桜溢忌の仲間だと疑われるからな」
レオニードの的確な指摘に、一同はシーンと黙り込む。
沈黙を破ったのはナギサだ。
「そういえば、ここに来る途中でこんなものを拾ったぞ」
む、なんか既視感が……。
手には一枚のチラシ。ま、まさかそれは。
内容を見てみる。
シエラ=イデアル武道大会。この大会の開催期間中、選手であればセペノイア市内に滞在可能。
なんという偶然。この大会に参加すればカーラに会えるかもしれない。
参加できる条件は前回と同じか……いや、ひとつ異なる点がある。
今度はなんと、団体戦。五人一組のチームが出場条件となる。
「団体戦か、よし。ここにいるメンバーで、もう四人いるじゃないか」
「げ、俺もかよ……」
ナギサの張り切った声に、レオニードがげんなりした顔で頭をかく。
「あと一人も決まっているようなもんだ。武道大会と聞いてヤツが来ないはずはない。あの、ロクに仕事もしない放浪格闘バカが」
ナギサが誰の事を言っているのか、すぐに分かった。一年前の王都の危機にも姿が見えなかった。よく今まで幹部でいられたな。
「アイツは現地でとっ捕まえればいい。よし、この五人で登録して出場だ」
ナギサが勢いよく、おー、と拳を突き上げた。ナギサがにらみつける。
わたし達三人もおお、とゆるゆる拳を上げた。
むむ? リアルでは男だと分かった。しかし、今の姿も男とな?
たしかに胸は……《アライグマッスル》がいうところの、わたしが怪人ツルペッターなら、この娘はゼッペキーノだが……こんな可憐な女の子が。まさか……これが男の娘というヤツなのか。
「え~、それでは恋愛対象はどちらになるのでしょうか?」
念のため聞いてみる。ナギサは胸を張って答える。
「女の子が好きに決まってるじゃないか。そして、お前みたいな強い子が好みだ」
……聞かなければ良かった。なんかややこしい事になりそうだ。
「俺もナギサという五禍将の名は知ってたけど……あのミリアムでさえ、《覇王》の息子だと知らなかったなんて。どうしてそこまでして隠す必要が?」
聞いたのは志求磨だ。少し不機嫌な顔をしている。信頼している自分にまで黄武迅は息子の存在を隠していた。その事が不満なようだ。
ナギサは溜め息をついて、天井を見上げた。
「オヤジは……くさるほど恨みを買っていたからな。統一国家を成立させてから、貴族制、奴隷制の廃止。商人連合の市場独占禁止。利権に関わるヤツらはほとんどだ。それに旧国の遺臣からも」
旧国の遺臣……ミリアムの事を言っているのだろう。その優れた政治手腕を見込んで取り立てたのだろうが、寝首をかかれる結果になってしまった。
「だから僕まで狙われないように。そして自分に何かあった時は、王都から離れて行動しているほうが有利だって、私掠船の団長を任されてたんだ」
ナギサの説明は続く。それによると、《覇王》黄武迅は超級魔物の復活や岩秀の反乱などの不穏な動き、自らの負傷の事もあり、《召喚者》の継承を決意した。
もし何かあった後では継承出来ない。しかもこの二つ名と能力は持ち主から強奪出来るらしい。やり方は単純明快、相手を倒すこと。
黄武迅はそうやって、葉桜溢忌から二つ名を奪ったらしい。もっとも、《青の魔女》カーラの手助けがあったからこそ可能だったようだ。
わたし達も再びこの世界に来たとき、まずカーラを頼ろうとした。
彼女なら葉桜溢忌に十分対抗できるし、混乱したシエラ=イデアルをうまく治めてくれそうな気もする。
しかし、現在彼女のいるセペノイアの街は、どこの領主にも属していない。完全な自治都市として中立を保っている。
人の出入りにかなり厳しくなっており、特に願望者は知り合いのわたし達でも申請が通らなかった。
この物量豊富な大都市は他領主から見れば喉から手が出るほどに欲しいものだが、《青の魔女》を恐れて手が出せないようだ。
「あ、ちょっと質問。あの葉桜溢忌って、《召喚者》の二つ名を取り返そうとしてたよね。で、ミリアムは願望者全書を持っている。ナギサが継承した時点でバレてるはずだよね。だけど、向こうからなにか仕掛けてくる様子はないんでしょ?」
志求磨の問いに、ナギサは頷く。
「そう。だからそれはオヤジが魔女に頼んだんじゃないかって、にらんでる。ミリアムの事を全面的には信用していなかったんじゃないか」
たしかに……ミリアムは言っていた。あのカーラだけが本で見ることが出来ないと。《召喚者》の二つ名を隠すなど、造作もないだろう。
「やっぱり魔女に会う必要があるな。色々聞きたいこともあるし。お前も頼れそうなヤツで安心した。いつか僕の嫁にしてやる」
はいはい、それは光栄なことです。
こういった冗談の飛ばし方は父親にそっくりだ。
「しかし、セペノイアに入るのは難しいぜ。願望者は葉桜溢忌の仲間だと疑われるからな」
レオニードの的確な指摘に、一同はシーンと黙り込む。
沈黙を破ったのはナギサだ。
「そういえば、ここに来る途中でこんなものを拾ったぞ」
む、なんか既視感が……。
手には一枚のチラシ。ま、まさかそれは。
内容を見てみる。
シエラ=イデアル武道大会。この大会の開催期間中、選手であればセペノイア市内に滞在可能。
なんという偶然。この大会に参加すればカーラに会えるかもしれない。
参加できる条件は前回と同じか……いや、ひとつ異なる点がある。
今度はなんと、団体戦。五人一組のチームが出場条件となる。
「団体戦か、よし。ここにいるメンバーで、もう四人いるじゃないか」
「げ、俺もかよ……」
ナギサの張り切った声に、レオニードがげんなりした顔で頭をかく。
「あと一人も決まっているようなもんだ。武道大会と聞いてヤツが来ないはずはない。あの、ロクに仕事もしない放浪格闘バカが」
ナギサが誰の事を言っているのか、すぐに分かった。一年前の王都の危機にも姿が見えなかった。よく今まで幹部でいられたな。
「アイツは現地でとっ捕まえればいい。よし、この五人で登録して出場だ」
ナギサが勢いよく、おー、と拳を突き上げた。ナギサがにらみつける。
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