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第1部 剣聖 羽鳴由佳
49 五人目のメンバー
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セペノイアの街は武道大会の影響で、どこも人でごった返していた。
わたし達はまず、カーラに会うために青い屋敷へと向かった。
しかし……留守なようだ。仕方なく会場へ。
会場の周辺には出店がひしめき合い、空腹を刺激する匂いを漂わせている。
前回よりも盛況なようだ。予選でヒドイ事をした思い出が甦る……。
会場で受付。係員にメンバーを伝えると、怪訝な顔をした。
「おや、この最後のショウという方はすでに別チームで登録されていますよ。《拳聖》ショウ。うん、間違いない」
なんということだ。アテにしていたアイツはすでに別チームに組み込まれていた。
考えてみれば前回優勝者だし、他のチームに誘われるのは当然のことだろう。
しかし、しまった。このままでは出場どころか、この街を追い出されてしまう。
「あ~、そうだった。たしかにそいつは他チームに決まったって言ってた。忘れてて名前そのままにしてた。あ、ちゃんと別のメンバーは他にいるから」
ナギサが必死になって取り繕う。係員は疑うような眼差しを向ける。
「本当ですか? あと二時間で受付終了なので、それまでに連れてきてください。そうじゃないと、参加できない願望者は強制退去ですよ」
さて困った。さっさと受付終わらせてカーラを探すつもりだったが、もうそんなヒマはない。早くメンバーを見つけなければ。
「どうすんの? レオニードのギルドに使えそうなヤツいたっけ」
「いや、今は仕事で皆出払っている。呼び戻すには時間がねえ」
志求磨が聞き、レオニードが首を振る。
「しまったな、マウリシオでも連れてくれば良かった。数合わせ程度にはなったのに」
ナギサがわたしを見ながら同意を求める。
いや、あんなゴリゴリの海賊おっさんと同じチームはゴメンだ。
カーラさんは留守だったし。いや、たとえいたとしても、武道大会なんかに参加しないだろう。
わたし達四人がああだ、こうだと悩んでいる時だった。
屋台が並ぶ通路の一角で、大きな声が響く。
「おい、食い逃げだ! あんたら捕まえてくれっ!」
店主の声。人混みの中から飛び出してくる影を、わたし達四人は反射的に囲んだ。
「あっ、お姉さま!」
両手に唐揚げ棒を握りしめた、黒髪のポニーテール。わたしと同じ顔。こいつは──。
「おい、あんたら。この嬢ちゃんの身内か。だったら代金払ってくれよ。もう十本以上は食われてるんだ」
店主が詰め寄る。わたしはいやいや、と首を振ったが、同じ顔なのでまったく説得力がない。
これ以上モメるのは面倒なので、しぶしぶ代金を払った。
「へへ、ありがと、お姉さま。助かった」
コイツ……わたしと同じ顔で食い逃げなんて……何してくれてんだ。
《魔剣士》羽鳴由佳。通称、黒由佳。
そもそもなんでここにいるのか。
「この一年間、すごく退屈だった~。お姉さまいないし、魔物や他の願望者も大したヤツいないしさぁ~、会えてすごく嬉しい」
無邪気な顔で抱きつく。やめろ、唐揚げの油でベタベタになる。
まったく、なんなんだ。一年前は壮絶な斬り合いをしたというのに、このなれなれしさは。
キョトンとしている志求磨とナギサに紹介する。
岩秀の能力で、わたしの願望から作り出された人造の願望者。
剣の腕と足クセの悪さは一級品だが、性格はわたしと似ても似つかない、がさつで野蛮でイカれたヤツだと説明した。
「ひど、お姉さま。紹介の仕方、ひど」
ケタケタ笑いながら唐揚げを頬張っている。
食べ終えたあとで、自分がここにいる理由を話し出した。
「ウチさあ、とあるチームにメンバーとして入ってたんだけど、なんかリーダーがうるさいヤツでさ。食わせてくれるから我慢してたんだけど、とうとうキレちゃって。他のメンバーもまとめてボコッたんだよね。そんでみんな出場出来なくなったってわけ」
なるほど。こんなヤツ、メンバーに入れるからだ。自業自得としか言いようがない。
わたし達もこれ以上関わり合わないほうがいい。そう言おうとしたが、ナギサが黒由佳の手をがしっと握る。
「それじゃ、僕達のチームに入ってくれよ。由佳並みの強さなら大歓迎だ」
冗談じゃないぞ。こんな歩く核弾頭みたいなヤツ、なにしでかすか分からない。
わたしとレオニードは必死に反対したが……ああ、もう受付のほうに走っていってしまった。
「やた。お姉さまと同じチームなんて嬉し。これからは仲間だよねえ。ほら、強い敵キャラが仲間になる少年マンガのパターンだよ、これ」
「お前な……仕方なく一時的に仲間にしただけだ。一緒にいるのは大会が終わるまで。それまでは厄介事を起こすなよ」
黒由佳はもう聞いてない。志求磨の顔をじっ、と見てニヤニヤしはじめた。
「なるほどね~、これがお姉さまの彼氏か。年下好きだったっけ?」
「なっ、なにを。志求磨は、綾は親友で……」
「そう。俺達、付き合ってるんだ。ね、由佳」
志求磨がウインクしながら肩を抱き寄せる。おいおい、誤解されるじゃないか。
「そいつぁ、初耳だ。俺の女になるはずだったよな、由佳」
レオニードが茶化すように言う。
「あ、ずるい、お姉さまはウチと仲良くすんの」
黒由佳が腕を引っ張る。受付から帰ってきたナギサが声を上げた。
「おい、僕の嫁にちょっかい出すな!」
もう好きにしろ……これもハーレム展開というのだろうか。
わたし達はまず、カーラに会うために青い屋敷へと向かった。
しかし……留守なようだ。仕方なく会場へ。
会場の周辺には出店がひしめき合い、空腹を刺激する匂いを漂わせている。
前回よりも盛況なようだ。予選でヒドイ事をした思い出が甦る……。
会場で受付。係員にメンバーを伝えると、怪訝な顔をした。
「おや、この最後のショウという方はすでに別チームで登録されていますよ。《拳聖》ショウ。うん、間違いない」
なんということだ。アテにしていたアイツはすでに別チームに組み込まれていた。
考えてみれば前回優勝者だし、他のチームに誘われるのは当然のことだろう。
しかし、しまった。このままでは出場どころか、この街を追い出されてしまう。
「あ~、そうだった。たしかにそいつは他チームに決まったって言ってた。忘れてて名前そのままにしてた。あ、ちゃんと別のメンバーは他にいるから」
ナギサが必死になって取り繕う。係員は疑うような眼差しを向ける。
「本当ですか? あと二時間で受付終了なので、それまでに連れてきてください。そうじゃないと、参加できない願望者は強制退去ですよ」
さて困った。さっさと受付終わらせてカーラを探すつもりだったが、もうそんなヒマはない。早くメンバーを見つけなければ。
「どうすんの? レオニードのギルドに使えそうなヤツいたっけ」
「いや、今は仕事で皆出払っている。呼び戻すには時間がねえ」
志求磨が聞き、レオニードが首を振る。
「しまったな、マウリシオでも連れてくれば良かった。数合わせ程度にはなったのに」
ナギサがわたしを見ながら同意を求める。
いや、あんなゴリゴリの海賊おっさんと同じチームはゴメンだ。
カーラさんは留守だったし。いや、たとえいたとしても、武道大会なんかに参加しないだろう。
わたし達四人がああだ、こうだと悩んでいる時だった。
屋台が並ぶ通路の一角で、大きな声が響く。
「おい、食い逃げだ! あんたら捕まえてくれっ!」
店主の声。人混みの中から飛び出してくる影を、わたし達四人は反射的に囲んだ。
「あっ、お姉さま!」
両手に唐揚げ棒を握りしめた、黒髪のポニーテール。わたしと同じ顔。こいつは──。
「おい、あんたら。この嬢ちゃんの身内か。だったら代金払ってくれよ。もう十本以上は食われてるんだ」
店主が詰め寄る。わたしはいやいや、と首を振ったが、同じ顔なのでまったく説得力がない。
これ以上モメるのは面倒なので、しぶしぶ代金を払った。
「へへ、ありがと、お姉さま。助かった」
コイツ……わたしと同じ顔で食い逃げなんて……何してくれてんだ。
《魔剣士》羽鳴由佳。通称、黒由佳。
そもそもなんでここにいるのか。
「この一年間、すごく退屈だった~。お姉さまいないし、魔物や他の願望者も大したヤツいないしさぁ~、会えてすごく嬉しい」
無邪気な顔で抱きつく。やめろ、唐揚げの油でベタベタになる。
まったく、なんなんだ。一年前は壮絶な斬り合いをしたというのに、このなれなれしさは。
キョトンとしている志求磨とナギサに紹介する。
岩秀の能力で、わたしの願望から作り出された人造の願望者。
剣の腕と足クセの悪さは一級品だが、性格はわたしと似ても似つかない、がさつで野蛮でイカれたヤツだと説明した。
「ひど、お姉さま。紹介の仕方、ひど」
ケタケタ笑いながら唐揚げを頬張っている。
食べ終えたあとで、自分がここにいる理由を話し出した。
「ウチさあ、とあるチームにメンバーとして入ってたんだけど、なんかリーダーがうるさいヤツでさ。食わせてくれるから我慢してたんだけど、とうとうキレちゃって。他のメンバーもまとめてボコッたんだよね。そんでみんな出場出来なくなったってわけ」
なるほど。こんなヤツ、メンバーに入れるからだ。自業自得としか言いようがない。
わたし達もこれ以上関わり合わないほうがいい。そう言おうとしたが、ナギサが黒由佳の手をがしっと握る。
「それじゃ、僕達のチームに入ってくれよ。由佳並みの強さなら大歓迎だ」
冗談じゃないぞ。こんな歩く核弾頭みたいなヤツ、なにしでかすか分からない。
わたしとレオニードは必死に反対したが……ああ、もう受付のほうに走っていってしまった。
「やた。お姉さまと同じチームなんて嬉し。これからは仲間だよねえ。ほら、強い敵キャラが仲間になる少年マンガのパターンだよ、これ」
「お前な……仕方なく一時的に仲間にしただけだ。一緒にいるのは大会が終わるまで。それまでは厄介事を起こすなよ」
黒由佳はもう聞いてない。志求磨の顔をじっ、と見てニヤニヤしはじめた。
「なるほどね~、これがお姉さまの彼氏か。年下好きだったっけ?」
「なっ、なにを。志求磨は、綾は親友で……」
「そう。俺達、付き合ってるんだ。ね、由佳」
志求磨がウインクしながら肩を抱き寄せる。おいおい、誤解されるじゃないか。
「そいつぁ、初耳だ。俺の女になるはずだったよな、由佳」
レオニードが茶化すように言う。
「あ、ずるい、お姉さまはウチと仲良くすんの」
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