異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

50 武道大会開始

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 会場内では、選手の控え室は前回の反省を活かしてチームごとに分けられていた。
 試合中も他チーム同士の戦いは見られない。実際に舞台の上に立つまでは、どんな相手か分からないというわけだ。

 係員が呼びに来る。移動中もフード付きのローブを身にまとい、舞台下で仲間を応援する時もこれを被ったままだ。
 暑苦しいが、こうなった原因はわたしにあるので何も言えない。

 舞台上で審判が名前を呼ぶ。そうしてはじめてローブを脱ぎ捨てて戦いに臨むわけだ。

 ルールは前回と同じ。出場者は願望者デザイアのみ。武器は使用可能だが、相手を殺したらその場で失格。後の試合にも出られなくなる。
 相手の戦闘不能、ギブアップ、場外で勝敗が決まる。時間制限なし。
 そして五人チーム戦独特のルール。一度の戦いで、一人一回しか戦えない。つまり一人が次々と勝ち抜いていくことは出来ないようだ。
 先に三勝したチームの勝ちとなる。

 わたし達は危なげなく一回戦、二回戦を勝ち進んだ。もちろん誰も一度も負けることなく、三連勝している。
 三回戦では黒由佳のアホが相手を殺しかけたのだが、なんとか相手が場外へと逃げたので助かった。
 
 こうして、次はもう準決勝。
 今日の試合はここまでで、準決勝、決勝は明日行われる。
 今日は会場近くの宿舎で泊まることになった。
 会場から宿舎まで移動。大会規定により、この間に街へ繰り出すことは出来ないようだ。
 夜間も同じ。もし外をうろついているのがバレたらすぐに失格処分となる。

 宿舎内で簡単な食事を取り、各自部屋で休む時間となった。

 部屋割りは二名づつで、まず志求磨とナギサが同室。見た目は男と女だが、願望者デザイアとしての性別は二人とも男なのでヨシとしよう。

 レオニードは無理やり一人だけ部屋に押し込んだ。問題はコイツ。黒由佳だ。
 
 夜に絶対、抜け出して外を出歩くに決まっている。
 それで盗みとか放火とか辻斬りとかするに違いない。
 わたしが同室となり、一晩中見張らねば。
 
 わたしの見通しは甘かった。
 黒由佳はわたしより先におとなしく寝たまでは良かった。しかし──そのイビキ。
 二段ベッドの下から魔物の咆哮かと思わせるような凄まじい騒音。
 とても寝られたものではない。
 のんきにイビキをかいている黒由佳を尻目に、仕方なく部屋の外へ。ロビーで何か飲み物でも飲むか。

 ロビーのソファーにはすでに先客が。
 志求磨だ。コーヒーカップ片手に何やら考え事をしている。

「志求磨……眠れないのか?」

「ん……由佳。ちょっとね」

 志求磨は立ち上がって給湯室へ向かうと、わたしの分のコーヒーを持ってきてくれた。

 わたしはそれを受け取り、向かい側に座る。
 志求磨は相変わらず世界名作劇場に出てきそうな男の子みたいな顔だが、最近はなんだか少し大人びた感じがする。
 
《解放の騎士》天塚志求磨。その正体はわたしの親友の比嘉綾ひがあやだった。
 わたしはあえて綾ではなく、志求磨として以前のように接するようにしている。
 綾もそれをそれを望んでいるようだ。
  
 綾はわたしを追ってこの異世界へ。そこで《覇王》黄武迅に会い、この世界の事や願望の力の使い方を教わり、その理想に共鳴して力を貸していた。
 
 黄武迅の死後、その意志は強くなったと思う。あの男が命を懸けて守ろうとした、この世界。
 そしてわたし達がここにこうしていられるのは、黄武迅と岩秀のおかげなのだから。

「《覇王》のこと、考えていたのか?」

「うん。結局、あの人に何もしてやれなかったって」

 時折、志求磨は一人で考え込んでいるような時がある。もしかしたら、あの時助けてやれなかった自責の念があるのかもしれない。

「でも、息子がいるって分かって少し安心したよ。変わってるけど、悪いヤツじゃなさそうだ。彼女……じゃなかった。彼なら、《覇王》の意志を継ぐのにふさわしい」

 笑っているが、どこか寂しげだ。どう言っていいか分からず、コーヒーをズズズ、とすする。
 
「あ、由佳。さっき部屋でナギサと話したんだけどさ、正式なチーム名決めたんだって。今まではチームナギサだったけど、微乳特戦隊にしようって」

 わたしはコーヒーを吹き出した。
 なんて自虐的な。たしかにこのメンバーにアルマがいれば完璧だが……ミジメすぎる。
 わたしは断固、それには反対した。



 朝になり、会場へ。
 黒由佳はおとなしく? 寝ていてくれたが、おかげでわたしは眠れなかった。
 わたしの殺人的イビキを律儀にコピーしやがって。もっとつつましさとか、はかなげな所とか、おしとやかで可愛らしい所をコピーしてもらいたいものだ。

 控え室からでも、もう観客の歓声が聞こえる。
 たいへんな賑わいのようだ。
 わたし達はローブに身を包み、呼び出されるのを待つ。

「チームナギサの皆さん、時間がきました。試合場へお願いします」

 係員が呼びに来た。良かった。チーム名が微乳特戦隊だったら、恥ずかしくて出られなかった。

 通路を通り、試合場へ向かう。その途中でお尻をペロンと撫でられた。

「ひあっ!……だ、誰だ? レオニードか、殺すぞ」

「お、俺じゃねえよ……」

 一斉にフードを外す。犯人が分かった。
 ナギサだ。鼻血を出しながらフフフ、と笑っている。なんなんだ、コイツは。

「あ、なんか緊張してるかなと思って。ほぐしてあげたのさ」

「ふざけるな、警察呼ぶぞ、セクハラだっ!」

 ぎゃあぎゃあ言い合いになったが、係員に注意され、フードを被って試合場へ。
 歓声を一気に全身に浴びた。相手チームはすでに到着している。
 わたし達と同じく頭からすっぽりとローブをまとっているので、どんなヤツらかは分からない。

「それでは準決勝、チームナギサ対、フジターズ・ファイブの試合を開始する!」

 審判の声。相手チームの名前を聞いて、もうイヤな予感しかしなかった。

 
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