異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

51 フジターズ・ファイブ

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「それでは先鋒戦、チームナギサから。《爆撃突貫娘》ナギサ・ライト!」

 事前に申請した順で名が呼ばれる。
 ナギサがローブを脱ぎ捨てて舞台へと上がった。歓声がまた一段と大きくなる──が、すぐにどよめきへと変わった。
 赤リボンの小柄な娘が、あの巨大斧を軽々と担いでいるのだから無理もない。

「フジターズ・ファイブ、《カイカンマン》フジー・タスク!」

 敵チームの先鋒がローブを脱ぎ捨てながら舞台へと飛び上がる。
 やはり。姿を見てもダダダダがない。あれは──藤田だ。

 メタリックなパワードスーツに身を包んだ男。頭部だけは素顔が見えている。
 あれは……有名なアメコミのヒーローではないか。日本でも実写映画がヒットした作品。ああ……ナイスミドルな俳優の顔が藤田のコスプレ感で台無しだ。

「我々は覚えているぞ、《剣聖》。我々は意識と記憶を共有しているのだ。今までにやられた数々の藤田の恨み、ここで晴らしてくれる」

 藤田がこちらをにらみつけながら言い放つ。逆恨みもいいとこだ。ほとんどそちらから仕掛けてきたくせに。

「おい、お前の相手はこの僕だ。啖呵を切る相手を間違えてるぞ」

 ナギサが苛立った声で呼びかける。
 藤田はニヤリと笑うと、顔の部分がシパシパと金属で覆われてマスクになった。おお、カッコいい。

 試合開始の太鼓がドドン、と打ち鳴らされた。
 藤田の足底の噴出口からボボボ、と青白いガスバーナーみたいな炎が出てきて身体が浮いた。

 おお、スゲエ。並みの願望の力だけでは出来ない芸当。よほどの思い込みか、周りにコイツは飛べる、と思わせる認識が強いのか。
 
 藤田はさらに上空へ飛び上が──いや、ナギサの巨大斧。刃ではない部分でハエタタキのように藤田を打ち落とした。

「ぐべっ」

 巨大斧の下敷きになり、舞台上にめり込む藤田。
 なんだ、もう勝負がついたのか──と思ったが、藤田はヨロヨロと起き上がった。
 ナギサは少し驚いたようだ。

「お、あれを喰らって立つなんて。さすがは準決勝まで勝ち進んだだけのことはあるな」

 立ち上がったものの、ふらふらだし、せっかくのパワードスーツもボロボロだ。ところどころ剥げ落ちて地肌が見えている。もう勝負はついたも同然だ。
 しかし、藤田の目は死んでいない。むしろランランと燃え盛っているようだ。

「バカめ……わたしの強さはこのスーツにあらず。《カイカンマン》とは打たれれば打たれるほど快感を覚え、強くなるヒーローなのだ」

 なるほど。しかし世間ではそれをヒーローではなく変態と呼ぶ。
 藤田は両手を交差させながら上げ、身体をくねらせて叫ぶ。

「むうん、キャストオフ!」

 パワードスーツがバラバラに飛び散った。あとに残されたのは純白のブリーフ一枚を身に付けただけの藤田だ。

「な、なんだ、服を着ろ、バカ、ヘンタイッ!」

 ナギサが顔を赤らめてそっぽを向く。
 ダメだ。その程度の罵倒はヤツにとってご褒美にすぎない。

 恍惚の表情で歩み寄る藤田。

「さあ、このむき出しの肉体に打ち込むがよい。さあ、さあさあさあ!」

「や、やめろ。近づくなーっ」

 ナギサは巨大斧を放り捨てて逃げ出す。藤田が待って、とそれを追う。

 パンイチのオッサンが男の娘を追い回すという地獄絵図が展開。案の定、観客からはすごいブーイングが巻きおこった。
 結局、舞台際まで追い詰められたナギサが足を滑らせて転落。場外負けになった。
 観客はさらにブーイングを飛ばし、舞台にはいろんなゴミが投げ込まれた。

 ナギサが半べそかいて戻ってくる。
 わたしのお尻を触ったクセに、ヘンなところでウブな面を見せるんだな。

 まさかの一敗だが……気を取り直して次鋒戦。
 
「チームナギサ、《魔擶鬼手》レオニード・ザハロフ!」

「ああ、俺かい」
  
 レオニードが気だるそうにローブを脱ぎ捨てて舞台上へ。手には身長より大きな弓。
 
「フジターズ・ファイブ、《オセロ13サーティーン》チョーク藤郷!」

 ん、ローブを脱いだ男……只者ではない、あの眼光。隙のない動き。肩には細長いケースリュックを担いでいる。中身はおそらく銃。

「用件を聞こうか……」

 眉間にシワを寄せて、藤田がわたしに聞いてくる。
 いや、わたしは別に用はないんだけど。

 舞台上へと上がり、藤田は静かにレオニードに話しかける。

「ふ、貴様も狙撃を得意としているようだな。楽しみだ。どちらがスナイパーとして優れているか……」

 藤田はケースリュックをおろすと、カチャカチャと何か準備をはじめた。
 中に入っていたのはやはりライフル。それにスコープや固定用のサドルを取り付け、舞台上で腹這いになる。
 これはさすがに審判から注意される。

「チョーク藤郷さん、それはちょっと……試合開始前から色々と用意されるのはどうかと」

「貴様……俺の名を気安く呼ぶな。そしてプロはな、つまらんおしゃべりをしている間に引き金を引くものだ」

 ズギュウンッ、とレオニードの足元で銃弾が跳ねる。

「うお、あぶねえっ! いきなりかよ!」

 レオニードが驚いて非難の声を上げる。まあ当然だ。

「貴様が集中を乱したせいで外した……。依頼成功率100%の俺の仕事を邪魔するとは、覚悟はできているんだろうな」

 藤田は審判に文句を言っているが……あ、やっぱり。開始前に攻撃したので、反則負けになった。

 会場はブーイングの嵐。ゴミが次々と投げ込まれる。
 この調子であと最低二試合……暴動が起きるんじゃないのか。
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