異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

52 真打ち登場?

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 先鋒、次鋒戦ともにグダグダになってしまった。
 ここらでまともに戦わないと、マジで観客達はブチキレるだろう。

「中堅、チームナギサ、《解放の騎士》天塚志求磨!」

 志求磨がローブを脱ぎ、舞台上へ。
 相手は呼ばれる前からすでに待っていた。ローブを脱がずとも藤田と分かっているが、やたらデカイな……。

「フジターズ・ファイブ、《世紀末大王》フジオウ!」

 バサアッ、とローブが脱ぎ捨てられた。
 筋骨隆々の偉丈夫。ゴツい角付きの兜。大仰な肩当て。ひるがえるマント。
 
 おお、あれは……一子相伝の暗殺拳を使う三兄弟の長兄ではないか。
 大丈夫だろうか、志求磨のヤツ。藤田といえど、えらく強そうだ。

「うぬか、俺の相手は……まだ子供ではないか。だが、俺は子供相手でも容赦せんぞ」

 兜とマントを外しながら藤田は凄みを利かせる。
 他人のことをうぬと呼ぶヤツ、はじめて見た。

 試合開始の太鼓がドンッ、と鳴らされた。
 
「うぬは朴斗七星の横に輝く星を見たことがあるか」

「え? あるかなあ。うん、あるかも」

 藤田の質問に適当に答える志求磨。そもそも朴斗七星ってなんだ。

「……うぬは俺と戦う運命にあるようだ」

 藤田の身体から願望の力が闘気と化して溢れ出る。この藤田はやはり今までのヤツらとは違う。
 
 藤田が仕掛ける。その剛腕から繰り出される拳打。風圧がここまで届きそうだ。
 志求磨は持ち前の身軽さと反射神経の良さで鮮やかにかわす。
 
 距離が空いたところで藤田が右の掌打。ボッ、と気の塊が発射された。
 ふいをつかれた志求磨。かわすことができず、腕でガード。
 よろめいたところを藤田が追撃。距離を詰め、拳打が志求磨の顔面を捉えた──かに見えたが、志求磨は白銀の光を発しながら紙一重で避けていた。

「ぬうっ、いまのは……!」
 
 藤田が驚愕する。が、なおも剛拳を繰り出す。
 それらをくぐり抜けるようにかわし、志求磨は連続で藤田の胸板に拳を叩き込んだ

「ぐっ、ぬう……! やはり! うぬが使う技はまさしく朴斗神拳究極奥義、無情転生……!」

 藤田が膝をつきながら何やらほざいている。いやいや、高速で光りながら動いてるからそれらしく見えるだけだって。

「深い哀しみを背負った者しか会得出来ぬ、その技……なるほど、ならば全身全霊を込めた次の一撃で勝負をつけねばなるまい」

 あれ、もうクライマックスなのか……? 
 立ち上がった藤田が右拳に闘気を集中させる。

 志求磨も同じく右拳に白銀の光を集中させた。
 二人同時に動く──舞台中央でガカッ、と光と音が炸裂した。

 藤田の拳をかいくぐり、志求磨の拳がみぞおちにめり込んでいた。
 
「ふ……見事だ……強くなったな」

 藤田が満足したように笑う。強くなったなって、今日はじめて戦ったクセに何言ってるんだ。

「このフジオウ、天に帰るに人の手は借りぬ! 我が生涯に一片の悔いなし!」

 右拳を突き上げ、ドーン、と効果音が鳴り響いた。
 コイツ、絶対これをやりたかっただけだろ。
 立ったまま気を失っている。

 わけが分からないうちに勝負がついたが……まあ、それなりにバトルしてたので、観客のブーイングはない。
 次はわたしの出番だ。ここで一気に勝負をつけてやる。
 
「副将、チームナギサ、《剣聖》羽鳴由佳!」

 ローブを脱いで舞台上へ。そこから敵チームを見ると、おや? 残り二人はローブを着たヤツがいるはずだが……一人しかいない。

 審判が説明する。
 
「あ、すいません。なにやら次の方は登場の仕方にこだわりがあるとかで……準備に遅れているようです」

 まだここに来てないのか。登場の仕方にこだわるなんて、どうせたいしたヤツじゃない。
 
 わたしがやれやれと余裕の表情で待っていると、ローブに身を包んだ一人が舞台下から話しかけてきた。
 
「クックックッ……イイ気になるなよ、《剣聖》。我々藤田は不完全な人造の願望者デザイア。だがな、中には完全体も存在する。そう、お前のチームにいる黒由佳のような者も」

 どういう意味だ? 次出てくるヤツのことを言っているのだろうか。完全体とは……いかにも少年マンガに出てきそうな設定ではないか。

「あ、出てきたようです」

 審判が入場口を指さす。なんだ、何か音が聞こえる……。
 パカラッ、パカラッ、と軽快な音。これは……馬か。そして聞き覚えのあるテーマソング。ま、まさか。

「フジターズ・ファイブ、《かぶれん坊将軍》花岡賢!」
 
 白馬にまたがった羽織袴姿の男。あれは──わたしが夢にまで見た大ファンの花岡賢だ。
 しかもその代表作、かぶれん坊将軍の格好とは。
 普段は貧乏旗本のフリをしているが、いざ悪人と対峙するときはその正義の剣を振るう。
 デリケートな肌をしているのでよくかぶれてしまい、かゆがってピンチをむかえる時もあるが、うまくそれを切り抜ける場面が人気なのだ。
 
 花岡賢は華麗に下馬し、舞台上へ悠然と歩く。
 わたしはそれを見ただけで心臓バクバクだ。間違いなく、頭の中ダダダダも花岡賢と文字を打ち込んでいる。

 花岡賢がこちらを向いてニカッ、と白い歯を見せて笑った。
 もうダメ……わたしは足の力がへなへなと抜けて座り込んでしまった。

 
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