異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
53 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

53 かぶれん坊将軍

しおりを挟む
「由佳、しっかりして! 本人じゃないよ、藤田だよ!」

 志求磨が叫ぶ。
 わかってる。わかってはいるが……あの顔、どうみてもあのブサイクな藤田には見えないし、妙なコスプレ感もない。まさしくTVで見たまんまの、花岡賢なのだ。
 ナギサやレオニードの声も聞こえる。そうだ、わたしがこんなところで負けるわけにはいかない。

 わたしはなんとか立ち上がり、直視しないように足だけを見るようにした。
 あ、いかん。それでも顔がにやけてくる。
 
 試合開始の太鼓の音。
 柄に手をかけ、腰を浅く落とす。近づかずに太刀風でケリをつけるしかないか?

「余の顔を見忘れたか」

 花岡賢の声。惑わされるな。首をブンブンと横に振る。
──知っている。この異世界に来てからも忘れたことなんてない。
 憧れの人。わたしの目標。わたしが時代劇好きになったきっかけだから。

「上様がこのような所にいるはずがない。上様の名を騙る不届き者……覚悟!」

 悪役が居直るときのセリフ。自分に言い聞かせるように放ち、わたしは刀を抜いた。
 太刀風も、神速も練気も使わない。この人は──正々堂々、剣だけで勝負する。

 チャキッ、と花岡賢が刀を持ち直し、峰をこちらに向けた。
 そう、《かぶれん坊将軍》はたとえ悪人でも自分で斬ることはないのだ。いや、わたしは悪人ではないが。

 チャ~チャ~チャ~、チャララ、チャララとテンポの早いバトルシーンのBGMが流れはじめた。
 
 柄を顔の横の高さで構えている。わたしが間合いを詰め、上段から斬りつけた。
 難なく弾かれた。ビリビリと衝撃が腕に伝わる。
 いかん、ここから袈裟懸けの一撃──。
 かろうじてかわす。TVで穴が空くほど見ていなかったら、やられていた。
 
 つ、つ、と静かに距離を詰める花岡賢。
 こういった凛々しくて優雅な動きにも惚れ惚れする。
 と、そんな場合ではない。上段からの一撃。受け止めたがグリッ、と力を込められ、体勢を崩される。
 狙いは──胴。刃を寝かせるように構え、なんとかそれも防いだ。

 一撃一撃が重い。受けるたびに体勢が崩される。中途半端な打ち込みには即カウンター。まさしく《かぶれん坊将軍》花岡賢の剣だ。

 花岡賢の猛攻は続く。
 上段からの振り下ろし、横薙ぎの一閃。受けずに後退してかわす。
 いつの間にか後ろは場外。舌打ちし、覚悟を決めて打ちかかる。
 鍔ぜり合い──ギギッ、ガリッ、と刃をこすらせ、身体を入れ替えようと力を入れる。
 
 フッ、と手応えが消えた。
 思惑通りに回り込めた、いや、誘いだ。身体が前のめりになったところを、背に一撃。わたしは膝をつく。

 やはり剣だけの戦いでは不利だったか……。
 花岡賢を見上げる。わたしの憧れの人は、願望の力を高めて二つの幻影を作り出した。

 あれは──御庭番の二人だ。まずいぞ、このあとの展開は。

「貴様の悪行もこれまで。覚悟せよ、成敗!」

 交差するように男女の御庭番が迫る。もうダメだ──わたしは目を閉じた。

……あれ? 斬られない。一体どうなった……。
 目を開けると、二人の御庭番は消えていた。これは一体……。

 花岡賢。首の辺りをかきむしっている。汗でかぶれたのか。
 
「く、こんな時に……! じいがくれた南蛮渡来の塗り薬を使わねば……」

 いまだ──わたしは起き上がりざまに、斬りつけた。花岡賢も慌てて構える。

 ギンッ、と金属音が響き、場外へ刀が落ちた。
 わたしの刀だ。わたしの動きのほうが一瞬、遅かった。花岡賢の刀の峰はわたしの首すじにピタリと当てられている。

 わたしはギブアップを宣言。勝敗は決した。
 深く一礼して舞台を下りるわたしに、花岡賢は声をかけてきた。

「最後の一撃……そなたのほうが速かったはずだ。何故、ためらったのだ。余が勝ちを譲られて喜ぶとでも思ったか」

「いえ……本当にわたしのほうが速かったとしても、斬れなかったのなら、それはわたしの弱さ。わたしの負けです。今日はいい経験になりました。ありがとうございます」
 
 再び頭を下げて、わたしは背を向ける。
 本気でそう思った言葉だ。わたしがファンとか関係なしに。
 藤田が進化した願望者デザイアらしいが、その剣の冴えや身のこなしはまさしく花岡賢そのものだった。
 わたしがベースとしている時代劇の殺陣。その剣技を直に受けることが出来たのだから、得るものは多かった。
 あ、あとで握手してもらって、サインもらおう。

 仲間たちの元へと戻ると、皆拍手で迎えてくれた。
 剣以外の技を使わなくて負けたから、怒られると思ったのに。

「いい勝負だったよ、由佳。惜しかったね」

 志求磨の言葉に照れ笑いで返す。 
 さて、とうとう大将戦までもつれこんでしまったが、こっちから出るヤツが問題だ。

 黒由佳。おとなしくローブを被ってじっとしていただけでも称賛に値するが……順番を最後にもってきたのは、もちろんトラブルを避けるためだ。
 しかし、今となってはコイツがこの準決勝の勝敗を左右する。
 
「大将、チームナギサ、《魔剣士》羽鳴由佳!」

 名を呼ばれたが、ベンチに座った黒由佳は微動だにしない。
 もう一度呼ばれる……反応なし。
 揺さぶってみるが……同じだ。コイツ、寝てやがる。

 わたしがローブを強引にひっぺがすと、黒由佳は前方にべしゃっ、と倒れた。

「いった~、なあに? 試合、終わったの? もう帰んの?」

 目をこすりながら聞く黒由佳。
 わたしは他のメンバーと顔を見合せ、早くもダメかもしれないと思った。
 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

処理中です...