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第1部 剣聖 羽鳴由佳
70 執念の神託者
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「ミリアムッ、おまえっ!」
激昂するナギサ。巨大斧は外に置いてきているので、手甲でぶん殴るつもりだ。
だがその左腕にビシィッ、とヨハンの守護天使クシエルの鞭が巻き付く。
ギリギリと引っ張られ、踏ん張るナギサ。洞窟内にナギサの怒号が響く。
「なんでお前らがここにいるんだ! 僕の部下たちをどこにやった!」
ヨハンがククク、と笑う。
「《青の魔女》カーラに協力を仰ぐのは失敗したようですね。ならば我々は、キミの《召喚者》の能力を遠慮なく頂くのみ。それと裏切り者のアルマ。キミを連れ戻しにきた」
アルマはさっ、とわたしの背後に隠れる。
「質問に……答えろっ」
ナギサの怒りの問いには、ミリアムが答える。
「始末したに決まっているでしょう。今頃は全員、海の底……まったく、あなたが《覇王》の息子で継承者だったなんて」
ナギサの仲間たち──全員、殺されてしまったのか。さも当然とばかりに言い放つミリアムに、わたしも怒りを覚えた。
「アルマ……あなたがわたくしを裏切るとはね。あなたの意思でそこにいるのね」
「ミリアム……ごめんなさい。あたしはもう、戻らない」
背中からアルマの覚悟したような声。それを聞いてミリアムは軽く首を振る。
「……由佳さん。アルマはあなたに亡き母親の面影を重ねているようですね。無理もない。リアルな中身はまだまだ子供ですもの……ですが」
ミリアムの願望の力が高まる。本格的な戦闘モードに入ったようだ。
「溢忌さまの敵となるなら容赦はしない。連れ戻す、などと生温いことは言わない。ここで始末する」
「おや、それは困りますね。わたしは彼から──葉桜溢忌から頼まれているのですよ。アルマを連れ戻せ、と。彼女の事をたいへん気に入っているようだ。夜の相手の順番に早く加えろと」
ヨハンがミリアムに意見する。ミリアムはやや怒気を含んだように返した。
「それは溢忌さまにも説明済みです。アルマの中身はまだ年端もいかぬ子供……溢忌さまに失礼があるといけない。ましてや今は裏切り者。そんな者を寝所へ送り込むわけにはいかないでしょう」
「お前ら……いい加減にしろよ」
ナギサ。いかん、完全にブチキレている。願望の力がはね上がった。
巻き付いている鞭を両手でグアッ、と引っぱる。あの重いクシエルを一気に引き寄せた。
「おらぁっ!」
手甲での一撃。クシエルは木人形が壊れるようにバラバラに粉砕された。
巻き付いていた鞭を地面へ叩きつけ、ナギサは跳躍。ヨハンに殴りかかった。
「ふ、本来の武器も無しに愚かな」
バックステップでかわしたヨハンに、バラバラになったクシエルのパーツが吸い寄せられガシガシ、ガシーン、と装着。洞窟内で黄金色に輝きだした。
「クソがぁっ!」
ダメだ、ナギサは怒りに我を忘れている。無防備に突っ込んでいった。
ドガガガガガッ。
ナギサの身体が何発も銃弾を浴びたように震え、宙を舞った。
「いかんっ」
神速で接近。ゴツゴツした洞窟の地面に叩きつけられる前に、ナギサの身体を受け止める。
ヨハンの超高速拳打を何発も喰らったナギサ。全身アザだらけで、わたしの腕の中でぐったりしている。
「うあっ」
両手のふさがったわたしにも、超高速の拳。どしゃあっ、と二人とも地面に転がった。
「由佳っ!」
叫んだ志求磨とアルマ。わたしを助けようと近づいたが、地面からぐおっ、と複数の黒い手が伸び、掴まれて身動きが取れなくなった。
「こ……のおっ!」
志求磨の身体が白銀色の光に包まれる。消失の力を使うつもりか。
いや、ミリアムが接近。ショウばりのボディーブローを志求磨に叩き込んだ。
「ぐ、うぅっ」
消失の力が発揮される前に、白銀色の光は消えてしまった。黒い手は二人を地面へ乱暴に押さえつける。
「もう一人の由佳さん……あの黒いほうがいないのが残念ですが……同じ顔のキミを痛めつけたので、いくらか溜飲が下がりましたよ。大衆の面前で受けた屈辱への報いは、こんなもので済みませんが」
わたしの頭を踏みつけながらヨハンが笑い声をあげる。くそ、コイツ……やはり強い。数発被弾しただけなのに、全身がバラバラになりそうだ。
常識はずれの攻撃をする黒由佳だからこそ、油断したコイツに運よく勝てたのだ。その黒由佳も今はいない。
もしかしたら、これがウメコの言っていたとんでもない危機というヤツなのか。だが、頭の簪はなんの反応も変化も見せていない。
「ミリアムさん。あとはわたしに任せてもらえませんか。この者たちの件は……わたしが片付けないと気が済まない。アルマの処遇もすでに我が友人によって決定しています。あなたがどう言おうと、変更はありません」
「…………好きになさい。わたくしは先に戻ります」
ミリアムは願望者全書を開くと、あるページを引き破った。
手に長剣が現れ、それで地面に円を描く。
円は黒い空間になり、ミリアムは吸い込まれるようにその中へ消えていった。
「ふふ、キミも可哀想に。いっそ死んだほうが楽かもしれないな。彼女──ミリアムはキミをまだ子供だ、と葉桜溢忌に差し出すのを引き延ばしていたのだが……バカだなあ。だからいいんじゃないか。何も分かっていない」
地べたに押さえつけられたアルマに、下卑た笑いをこぼしながらヨハンが話しかける。
……コイツも葉桜溢忌もサイテーなヤローだ。身体さえ動けば──くそ、こんなヤツに……。
ヨハンが両拳に願望の力を込めている。トドメを刺すつもりだ。そしてアルマは連れ去られてしまう。そんなこと、絶対許さない──。
「まあぁぁてえぇいぃっっ!」
突然の声。天井に空いている大きな穴。そこから覗き込むひとつの影。
あれはまさか。そう、呼んでもないのに現れるあの中年だ。
激昂するナギサ。巨大斧は外に置いてきているので、手甲でぶん殴るつもりだ。
だがその左腕にビシィッ、とヨハンの守護天使クシエルの鞭が巻き付く。
ギリギリと引っ張られ、踏ん張るナギサ。洞窟内にナギサの怒号が響く。
「なんでお前らがここにいるんだ! 僕の部下たちをどこにやった!」
ヨハンがククク、と笑う。
「《青の魔女》カーラに協力を仰ぐのは失敗したようですね。ならば我々は、キミの《召喚者》の能力を遠慮なく頂くのみ。それと裏切り者のアルマ。キミを連れ戻しにきた」
アルマはさっ、とわたしの背後に隠れる。
「質問に……答えろっ」
ナギサの怒りの問いには、ミリアムが答える。
「始末したに決まっているでしょう。今頃は全員、海の底……まったく、あなたが《覇王》の息子で継承者だったなんて」
ナギサの仲間たち──全員、殺されてしまったのか。さも当然とばかりに言い放つミリアムに、わたしも怒りを覚えた。
「アルマ……あなたがわたくしを裏切るとはね。あなたの意思でそこにいるのね」
「ミリアム……ごめんなさい。あたしはもう、戻らない」
背中からアルマの覚悟したような声。それを聞いてミリアムは軽く首を振る。
「……由佳さん。アルマはあなたに亡き母親の面影を重ねているようですね。無理もない。リアルな中身はまだまだ子供ですもの……ですが」
ミリアムの願望の力が高まる。本格的な戦闘モードに入ったようだ。
「溢忌さまの敵となるなら容赦はしない。連れ戻す、などと生温いことは言わない。ここで始末する」
「おや、それは困りますね。わたしは彼から──葉桜溢忌から頼まれているのですよ。アルマを連れ戻せ、と。彼女の事をたいへん気に入っているようだ。夜の相手の順番に早く加えろと」
ヨハンがミリアムに意見する。ミリアムはやや怒気を含んだように返した。
「それは溢忌さまにも説明済みです。アルマの中身はまだ年端もいかぬ子供……溢忌さまに失礼があるといけない。ましてや今は裏切り者。そんな者を寝所へ送り込むわけにはいかないでしょう」
「お前ら……いい加減にしろよ」
ナギサ。いかん、完全にブチキレている。願望の力がはね上がった。
巻き付いている鞭を両手でグアッ、と引っぱる。あの重いクシエルを一気に引き寄せた。
「おらぁっ!」
手甲での一撃。クシエルは木人形が壊れるようにバラバラに粉砕された。
巻き付いていた鞭を地面へ叩きつけ、ナギサは跳躍。ヨハンに殴りかかった。
「ふ、本来の武器も無しに愚かな」
バックステップでかわしたヨハンに、バラバラになったクシエルのパーツが吸い寄せられガシガシ、ガシーン、と装着。洞窟内で黄金色に輝きだした。
「クソがぁっ!」
ダメだ、ナギサは怒りに我を忘れている。無防備に突っ込んでいった。
ドガガガガガッ。
ナギサの身体が何発も銃弾を浴びたように震え、宙を舞った。
「いかんっ」
神速で接近。ゴツゴツした洞窟の地面に叩きつけられる前に、ナギサの身体を受け止める。
ヨハンの超高速拳打を何発も喰らったナギサ。全身アザだらけで、わたしの腕の中でぐったりしている。
「うあっ」
両手のふさがったわたしにも、超高速の拳。どしゃあっ、と二人とも地面に転がった。
「由佳っ!」
叫んだ志求磨とアルマ。わたしを助けようと近づいたが、地面からぐおっ、と複数の黒い手が伸び、掴まれて身動きが取れなくなった。
「こ……のおっ!」
志求磨の身体が白銀色の光に包まれる。消失の力を使うつもりか。
いや、ミリアムが接近。ショウばりのボディーブローを志求磨に叩き込んだ。
「ぐ、うぅっ」
消失の力が発揮される前に、白銀色の光は消えてしまった。黒い手は二人を地面へ乱暴に押さえつける。
「もう一人の由佳さん……あの黒いほうがいないのが残念ですが……同じ顔のキミを痛めつけたので、いくらか溜飲が下がりましたよ。大衆の面前で受けた屈辱への報いは、こんなもので済みませんが」
わたしの頭を踏みつけながらヨハンが笑い声をあげる。くそ、コイツ……やはり強い。数発被弾しただけなのに、全身がバラバラになりそうだ。
常識はずれの攻撃をする黒由佳だからこそ、油断したコイツに運よく勝てたのだ。その黒由佳も今はいない。
もしかしたら、これがウメコの言っていたとんでもない危機というヤツなのか。だが、頭の簪はなんの反応も変化も見せていない。
「ミリアムさん。あとはわたしに任せてもらえませんか。この者たちの件は……わたしが片付けないと気が済まない。アルマの処遇もすでに我が友人によって決定しています。あなたがどう言おうと、変更はありません」
「…………好きになさい。わたくしは先に戻ります」
ミリアムは願望者全書を開くと、あるページを引き破った。
手に長剣が現れ、それで地面に円を描く。
円は黒い空間になり、ミリアムは吸い込まれるようにその中へ消えていった。
「ふふ、キミも可哀想に。いっそ死んだほうが楽かもしれないな。彼女──ミリアムはキミをまだ子供だ、と葉桜溢忌に差し出すのを引き延ばしていたのだが……バカだなあ。だからいいんじゃないか。何も分かっていない」
地べたに押さえつけられたアルマに、下卑た笑いをこぼしながらヨハンが話しかける。
……コイツも葉桜溢忌もサイテーなヤローだ。身体さえ動けば──くそ、こんなヤツに……。
ヨハンが両拳に願望の力を込めている。トドメを刺すつもりだ。そしてアルマは連れ去られてしまう。そんなこと、絶対許さない──。
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