70 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳
70 執念の神託者
しおりを挟む
「ミリアムッ、おまえっ!」
激昂するナギサ。巨大斧は外に置いてきているので、手甲でぶん殴るつもりだ。
だがその左腕にビシィッ、とヨハンの守護天使クシエルの鞭が巻き付く。
ギリギリと引っ張られ、踏ん張るナギサ。洞窟内にナギサの怒号が響く。
「なんでお前らがここにいるんだ! 僕の部下たちをどこにやった!」
ヨハンがククク、と笑う。
「《青の魔女》カーラに協力を仰ぐのは失敗したようですね。ならば我々は、キミの《召喚者》の能力を遠慮なく頂くのみ。それと裏切り者のアルマ。キミを連れ戻しにきた」
アルマはさっ、とわたしの背後に隠れる。
「質問に……答えろっ」
ナギサの怒りの問いには、ミリアムが答える。
「始末したに決まっているでしょう。今頃は全員、海の底……まったく、あなたが《覇王》の息子で継承者だったなんて」
ナギサの仲間たち──全員、殺されてしまったのか。さも当然とばかりに言い放つミリアムに、わたしも怒りを覚えた。
「アルマ……あなたがわたくしを裏切るとはね。あなたの意思でそこにいるのね」
「ミリアム……ごめんなさい。あたしはもう、戻らない」
背中からアルマの覚悟したような声。それを聞いてミリアムは軽く首を振る。
「……由佳さん。アルマはあなたに亡き母親の面影を重ねているようですね。無理もない。リアルな中身はまだまだ子供ですもの……ですが」
ミリアムの願望の力が高まる。本格的な戦闘モードに入ったようだ。
「溢忌さまの敵となるなら容赦はしない。連れ戻す、などと生温いことは言わない。ここで始末する」
「おや、それは困りますね。わたしは彼から──葉桜溢忌から頼まれているのですよ。アルマを連れ戻せ、と。彼女の事をたいへん気に入っているようだ。夜の相手の順番に早く加えろと」
ヨハンがミリアムに意見する。ミリアムはやや怒気を含んだように返した。
「それは溢忌さまにも説明済みです。アルマの中身はまだ年端もいかぬ子供……溢忌さまに失礼があるといけない。ましてや今は裏切り者。そんな者を寝所へ送り込むわけにはいかないでしょう」
「お前ら……いい加減にしろよ」
ナギサ。いかん、完全にブチキレている。願望の力がはね上がった。
巻き付いている鞭を両手でグアッ、と引っぱる。あの重いクシエルを一気に引き寄せた。
「おらぁっ!」
手甲での一撃。クシエルは木人形が壊れるようにバラバラに粉砕された。
巻き付いていた鞭を地面へ叩きつけ、ナギサは跳躍。ヨハンに殴りかかった。
「ふ、本来の武器も無しに愚かな」
バックステップでかわしたヨハンに、バラバラになったクシエルのパーツが吸い寄せられガシガシ、ガシーン、と装着。洞窟内で黄金色に輝きだした。
「クソがぁっ!」
ダメだ、ナギサは怒りに我を忘れている。無防備に突っ込んでいった。
ドガガガガガッ。
ナギサの身体が何発も銃弾を浴びたように震え、宙を舞った。
「いかんっ」
神速で接近。ゴツゴツした洞窟の地面に叩きつけられる前に、ナギサの身体を受け止める。
ヨハンの超高速拳打を何発も喰らったナギサ。全身アザだらけで、わたしの腕の中でぐったりしている。
「うあっ」
両手のふさがったわたしにも、超高速の拳。どしゃあっ、と二人とも地面に転がった。
「由佳っ!」
叫んだ志求磨とアルマ。わたしを助けようと近づいたが、地面からぐおっ、と複数の黒い手が伸び、掴まれて身動きが取れなくなった。
「こ……のおっ!」
志求磨の身体が白銀色の光に包まれる。消失の力を使うつもりか。
いや、ミリアムが接近。ショウばりのボディーブローを志求磨に叩き込んだ。
「ぐ、うぅっ」
消失の力が発揮される前に、白銀色の光は消えてしまった。黒い手は二人を地面へ乱暴に押さえつける。
「もう一人の由佳さん……あの黒いほうがいないのが残念ですが……同じ顔のキミを痛めつけたので、いくらか溜飲が下がりましたよ。大衆の面前で受けた屈辱への報いは、こんなもので済みませんが」
わたしの頭を踏みつけながらヨハンが笑い声をあげる。くそ、コイツ……やはり強い。数発被弾しただけなのに、全身がバラバラになりそうだ。
常識はずれの攻撃をする黒由佳だからこそ、油断したコイツに運よく勝てたのだ。その黒由佳も今はいない。
もしかしたら、これがウメコの言っていたとんでもない危機というヤツなのか。だが、頭の簪はなんの反応も変化も見せていない。
「ミリアムさん。あとはわたしに任せてもらえませんか。この者たちの件は……わたしが片付けないと気が済まない。アルマの処遇もすでに我が友人によって決定しています。あなたがどう言おうと、変更はありません」
「…………好きになさい。わたくしは先に戻ります」
ミリアムは願望者全書を開くと、あるページを引き破った。
手に長剣が現れ、それで地面に円を描く。
円は黒い空間になり、ミリアムは吸い込まれるようにその中へ消えていった。
「ふふ、キミも可哀想に。いっそ死んだほうが楽かもしれないな。彼女──ミリアムはキミをまだ子供だ、と葉桜溢忌に差し出すのを引き延ばしていたのだが……バカだなあ。だからいいんじゃないか。何も分かっていない」
地べたに押さえつけられたアルマに、下卑た笑いをこぼしながらヨハンが話しかける。
……コイツも葉桜溢忌もサイテーなヤローだ。身体さえ動けば──くそ、こんなヤツに……。
ヨハンが両拳に願望の力を込めている。トドメを刺すつもりだ。そしてアルマは連れ去られてしまう。そんなこと、絶対許さない──。
「まあぁぁてえぇいぃっっ!」
突然の声。天井に空いている大きな穴。そこから覗き込むひとつの影。
あれはまさか。そう、呼んでもないのに現れるあの中年だ。
激昂するナギサ。巨大斧は外に置いてきているので、手甲でぶん殴るつもりだ。
だがその左腕にビシィッ、とヨハンの守護天使クシエルの鞭が巻き付く。
ギリギリと引っ張られ、踏ん張るナギサ。洞窟内にナギサの怒号が響く。
「なんでお前らがここにいるんだ! 僕の部下たちをどこにやった!」
ヨハンがククク、と笑う。
「《青の魔女》カーラに協力を仰ぐのは失敗したようですね。ならば我々は、キミの《召喚者》の能力を遠慮なく頂くのみ。それと裏切り者のアルマ。キミを連れ戻しにきた」
アルマはさっ、とわたしの背後に隠れる。
「質問に……答えろっ」
ナギサの怒りの問いには、ミリアムが答える。
「始末したに決まっているでしょう。今頃は全員、海の底……まったく、あなたが《覇王》の息子で継承者だったなんて」
ナギサの仲間たち──全員、殺されてしまったのか。さも当然とばかりに言い放つミリアムに、わたしも怒りを覚えた。
「アルマ……あなたがわたくしを裏切るとはね。あなたの意思でそこにいるのね」
「ミリアム……ごめんなさい。あたしはもう、戻らない」
背中からアルマの覚悟したような声。それを聞いてミリアムは軽く首を振る。
「……由佳さん。アルマはあなたに亡き母親の面影を重ねているようですね。無理もない。リアルな中身はまだまだ子供ですもの……ですが」
ミリアムの願望の力が高まる。本格的な戦闘モードに入ったようだ。
「溢忌さまの敵となるなら容赦はしない。連れ戻す、などと生温いことは言わない。ここで始末する」
「おや、それは困りますね。わたしは彼から──葉桜溢忌から頼まれているのですよ。アルマを連れ戻せ、と。彼女の事をたいへん気に入っているようだ。夜の相手の順番に早く加えろと」
ヨハンがミリアムに意見する。ミリアムはやや怒気を含んだように返した。
「それは溢忌さまにも説明済みです。アルマの中身はまだ年端もいかぬ子供……溢忌さまに失礼があるといけない。ましてや今は裏切り者。そんな者を寝所へ送り込むわけにはいかないでしょう」
「お前ら……いい加減にしろよ」
ナギサ。いかん、完全にブチキレている。願望の力がはね上がった。
巻き付いている鞭を両手でグアッ、と引っぱる。あの重いクシエルを一気に引き寄せた。
「おらぁっ!」
手甲での一撃。クシエルは木人形が壊れるようにバラバラに粉砕された。
巻き付いていた鞭を地面へ叩きつけ、ナギサは跳躍。ヨハンに殴りかかった。
「ふ、本来の武器も無しに愚かな」
バックステップでかわしたヨハンに、バラバラになったクシエルのパーツが吸い寄せられガシガシ、ガシーン、と装着。洞窟内で黄金色に輝きだした。
「クソがぁっ!」
ダメだ、ナギサは怒りに我を忘れている。無防備に突っ込んでいった。
ドガガガガガッ。
ナギサの身体が何発も銃弾を浴びたように震え、宙を舞った。
「いかんっ」
神速で接近。ゴツゴツした洞窟の地面に叩きつけられる前に、ナギサの身体を受け止める。
ヨハンの超高速拳打を何発も喰らったナギサ。全身アザだらけで、わたしの腕の中でぐったりしている。
「うあっ」
両手のふさがったわたしにも、超高速の拳。どしゃあっ、と二人とも地面に転がった。
「由佳っ!」
叫んだ志求磨とアルマ。わたしを助けようと近づいたが、地面からぐおっ、と複数の黒い手が伸び、掴まれて身動きが取れなくなった。
「こ……のおっ!」
志求磨の身体が白銀色の光に包まれる。消失の力を使うつもりか。
いや、ミリアムが接近。ショウばりのボディーブローを志求磨に叩き込んだ。
「ぐ、うぅっ」
消失の力が発揮される前に、白銀色の光は消えてしまった。黒い手は二人を地面へ乱暴に押さえつける。
「もう一人の由佳さん……あの黒いほうがいないのが残念ですが……同じ顔のキミを痛めつけたので、いくらか溜飲が下がりましたよ。大衆の面前で受けた屈辱への報いは、こんなもので済みませんが」
わたしの頭を踏みつけながらヨハンが笑い声をあげる。くそ、コイツ……やはり強い。数発被弾しただけなのに、全身がバラバラになりそうだ。
常識はずれの攻撃をする黒由佳だからこそ、油断したコイツに運よく勝てたのだ。その黒由佳も今はいない。
もしかしたら、これがウメコの言っていたとんでもない危機というヤツなのか。だが、頭の簪はなんの反応も変化も見せていない。
「ミリアムさん。あとはわたしに任せてもらえませんか。この者たちの件は……わたしが片付けないと気が済まない。アルマの処遇もすでに我が友人によって決定しています。あなたがどう言おうと、変更はありません」
「…………好きになさい。わたくしは先に戻ります」
ミリアムは願望者全書を開くと、あるページを引き破った。
手に長剣が現れ、それで地面に円を描く。
円は黒い空間になり、ミリアムは吸い込まれるようにその中へ消えていった。
「ふふ、キミも可哀想に。いっそ死んだほうが楽かもしれないな。彼女──ミリアムはキミをまだ子供だ、と葉桜溢忌に差し出すのを引き延ばしていたのだが……バカだなあ。だからいいんじゃないか。何も分かっていない」
地べたに押さえつけられたアルマに、下卑た笑いをこぼしながらヨハンが話しかける。
……コイツも葉桜溢忌もサイテーなヤローだ。身体さえ動けば──くそ、こんなヤツに……。
ヨハンが両拳に願望の力を込めている。トドメを刺すつもりだ。そしてアルマは連れ去られてしまう。そんなこと、絶対許さない──。
「まあぁぁてえぇいぃっっ!」
突然の声。天井に空いている大きな穴。そこから覗き込むひとつの影。
あれはまさか。そう、呼んでもないのに現れるあの中年だ。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる