異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

27 次の目的地は

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「ねえ、終わったの~?」

 青の館からウメコ・エキセントリックが出てくる。

 ヒザをついてうなだれるわたしと、それを気遣うアルマとヤン

「え、何が起きたの? 敵は追い払ったのよね」

 説明するのも面倒だ。わたしはああ、と弱々しく答えながら立ち上がる。

「それにしても厄介なヤツらに目をつけられたもんね。ナギサ公も何を考えてるのかしら、あんなヤツらをのさばらせておくなんて……ああ、そうそう。由佳、アンタの身体の状態ね。アタシなりに分かったことを伝えるわ」

 そうだった。《断ち斬る者》になれなくなった原因……黒由佳の存在を感じなくなった理由を聞かなくては。でも本当にこんな太っちょ偽カーラなんかに分かったのか。

「さっき触れた時、感じたの。アンタの願望の力……たしかに一部が欠けているわ。それがアンタが一度手に入れた力を発揮出来なくなった原因ね。なんか身に覚えないの? アンタの力を奪うような出来事があったとか」

 力を奪われた……たしか最後に《断ち斬る者》に変化したのはナギサと戦った時だった。
 もしかしたらあの時の戦いで……? そういえばナギサは元五禍将ごかしょうの奪の将。
 能力でわたしの力を奪ったのかもしれない。

「どちらにしろ確かめてみなきゃ分からない。ナギサにはいずれ会いに行く。それよりカーラさんはどこに」

 わたしの質問にウメコは考え込むような表情。

「うーん……参ったわね。カーラは……言いにくいんだけど、彼女はテンプルナイツの要請で天罪の塔に向かったわ。理由はよく分かんないけど」

「カーラさんが? まさか、カーラさんはテンプルナイツの味方なのか?」

「そうじゃないけど、ナギサ公からも頼まれて断れなかったみたい。……アンタ達、まさかカーラに会いに天罪の塔に行くつもりなの?」

「ここで待っててもいつ戻るか分からないんだろ? テンプルナイツのヤツらにも借りを返すついでだ。その天罪の塔に乗り込む」

 今までかかされた恥の数々……この恨みはらさでおくべきか。
 それにここらでお笑いズッコケキャラのイメージを払拭しなければ、人々に《アライグマッスル》と同じ枠で認識されているかもしれない。

「あきれた……自分から敵地に飛び込むなんて。カーラに会えたとしてもアンタが探している人の行方なんか知らないかもしれないのに」

 ウメコの言葉に、もしカーラさんが行き違いで戻ってきた時はわたし達のことを伝えてくれと頼んだ。
 これでもしわたし達が天罪の塔とやらでピンチになったとしても、カーラさんの力があればどんなに離れていても助けてくれる……気がする。

「そう……分かったわ。会ったらたしかに伝えておくわ。アンタ達、くれぐれも気を付けなさいよ」

 ウメコから天罪の塔の場所を聞き、礼を言って別れた。
 天罪の塔……危険な願望者デザイアを捕らえて閉じ込めておく場所……監獄みたいなものか。
《ドラグーン》レオンによると、そこにテンプルナイツの団長がいるらしい。わたしに数々の刺客を送り込んできた親玉……一体どんなヤツなんだ。
 
 天罪の塔は旧王都のすぐ近くにあるらしい。  
 セペノイアから旧王都までは馬で6日ほどと楊が教えてくれた。

「旧王都までは街道も広くて整えられている。途中に小さな宿場町もあるし、治安もいい。まずはセペノイアで馬を借りるか……」

 これだ。この異世界の移動感覚。
 馬で6日ってどんだけの距離だよ。
 それに馬ってわたし、乗れないわけじゃないけどお尻が痛くなるので好きじゃない。
 ここは馬車がいい。前みたいに隊商キャラバンに頼んで乗っけてもらうのがベストだ。

「隊商か……知っていると思うけど、一般人は願望者デザイアとの旅を嫌う。金を渡したとしても難しいんじゃないかな」

 そんな事は知っている。志求磨しぐまと旅したときも苦労した経験がある。でもそこをなんとかするのが美少女と旅をする男の役目であろう。

「仕方ないな。隊商との交渉は僕がやるから、お前達は仲間のことを街で聞いてみたらどうだ。2時間後にあの軽食屋で落ち合おう」

 そうだった。街に着いてからのドタバタで忘れていたが、志求磨は1ヶ月前にはここにいたはずだ。もうこの地にはいないと思うが、聞き込みをしてみれば何か情報を得られるかもしれない。

 楊はセペノイアから旧王都に向かう隊商を探しに。わたしとアルマで志求磨のことをあちこちで聞いて回った。

 人が多く集まりそうな商店街や広場、繁華街。様々な人に志求磨のことを聞いてみたが、皆首を横に振った。
 2時間はあっという間に過ぎ、仕方なくわたし達は約束の軽食屋へと戻った。

 楊はまだ来ていないようだった。隊商との交渉に苦戦しているのか。
 でも主要都市同士を行き来する隊商なんて腐るほどいるだろうし、しっかり者の楊のことだ。わたしとアルマはなんの心配もなく、窓際のテーブルに座った。

 紅茶を頼み、雑談しながら待つことにした。



……遅い。あれから1時間以上は経つ。
 交渉がうまくいってないのだろうか。
 まさか敵に襲われたとか……。いや、もしそうだとしても慎重な楊ならば単独で戦おうとはしない。なんとか逃げてわたし達に合流するはずだ。

「やっぱり交渉がうまくいってないのかな。なんか心配になってきた」

 わたしが不安そうに窓から外を眺めているとアルマがもしかしたら、と声をあげた。

「ほら、サーブルで楊が言ってたよね。セペノイアに過去の記憶があるって……もしかしたら何かを思い出したのかも」

 そういえばそんなこと言ってたか。街を歩いているうちに過去の記憶と繋がる場所にでも行き着いたのかもしれない。

「それだけならいいんだけど……。もうしばらく待って戻ってこなかったら探しにいこう」
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