異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

32 大猿退治

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 ギャギャッ、ギャアッ、と威嚇するように鳴きながら近づく猿の魔物たち。
 
「シッ!」

 太刀風たちかぜを放つ。だが猿たちはバッ、と散らばってかわした。

 素早い──ならば名刀変化フォームチェンジ
 脇差──名刀燕雀えんじゃく
 
 ギィアッ、と叫びながら猿たちがまた群がってきた。
 これはかわせないだろう。飛剣──。
 鞘からギャッ、と放たれた刀がわたしの周りを回転。
 飛びかかってきた3匹を切り刻んだ。
 さらに2匹が襲いかかってくる。手元に戻ってきた刀をキャッチすると同時にまとめて斬って落とす。

 もう2匹はうしろへ跳躍。逃がすか。
 地面を一蹴り。ヒュッ、と一瞬で追いつく。

 驚いた顔の猿2匹を追い抜きざま、斬る。
 まだだ、興奮した猿どもが向かってくる。十数匹はいるか。

 一斉に掴みかかろうとしている。だがこのフォームの動きについてはこれない。
 猿の手や牙をかわしながら流れるような斬撃。
 猿の魔物たちはバタバタと倒れていく。

 ヒュゴッ、と岩が飛んできた。危ねぇ、大猿のことを忘れていた。
 大きくうしろへ跳んでかわしたが、猿の数匹が岩の下敷きに。味方だろうとおかまいなしか。

 アルマのほうは──さすがだ。わたし以上に大勢の猿に囲まれているが、嵐のような二刀ダガー連撃と投げナイフで屍の山を築いている。

 いかん、大猿が今度はアルマに狙いを定めている。
 ゴッ、と放たれた岩。アルマは猿どもの対応でかわせない。
 ここはわたしが──燕雀のフォームのまま走り、跳躍。
 着地点にはすでに飛剣で刀を飛ばしてある。
 刀を踏み台にしてさらに跳ぶ。

 落下する岩が目前に。わたしの手に刀を戻し、刀剣変化フォームチェンジ
 大太刀──鋼牙こうが
 そしてぐっ、と柄を握る手に力を込める。
 
「せやぁっっ!」
 
 斬壊ざんかい。斬撃と打撃の属性を持つ、鋼牙独自の技。
 空中でわたしより大きい岩を粉砕。

「由佳、ありがと」

 アルマが礼を言う。猿の魔物たちは片付けたようだ。残るはあのデカイやつ。

 グアアアッ、と怒りを露にして大猿が突進してきた。アルマは左に。わたしは右にかわして挟みうちに……しまった。
 鋼牙のフォームは動きは鈍い。名刀変化フォームチェンジしなければ、と思ったが──大猿のデカイ手につかまってしまった。

「由佳っ!」

 アルマの声。心配するな、こんなもの鋼牙のパワーで──うわっ。

 わたしはさっきの岩みたいにブン投げられた。
 弾丸みたいな勢いで岩山に激突。
 いったぁ……鋼牙のフォームじゃなけりゃ、大ケガしていたところだ。
 
 大猿はドンドンドンと自分の胸板を叩いて興奮している。
 
「この……魔物のクセに」

 名刀変化フォームチェンジを解除し、いつもの名刀飛蝶ひちょうに。
 神速で移動──正面からは避け、側面に回り込む。
 
 あ、アルマがすでに攻撃をしかけている。待て、単独じゃなくて同時攻撃を──。

「よくも由佳をっ……」

 ダメだ、めずらしく冷静さを欠いて怒っている。
 わたしはこの通り無事だったのに、なんか死んだみたいじゃないか。

 アルマは大猿の周りを撹乱するように高速で移動。
 大猿が苛立ちながら腕やシッポを振り回す。
 跳躍して避け、空中でも木の葉のようにひらひらと攻撃をかわしている。

 大猿の拳をよけ、それを踏み台にしてさらに高く跳ぶアルマ。
 宙返り──そしてズババババ、と無数の投げナイフ。
 うお、スゴい。ナイフは大猿の全身に突き刺さっていく。ていうかあんな量、どこに隠し持っているんだ。

 絶叫する大猿。さらにアルマは縦に回転しながら落下──青白く発光する二刀ダガーでガガガガッ、と斬り下ろす。

 雷属性の技だ。大猿は毛を逆立せながらガクガク震え、ヒザをついた。
 ヒュカッ、とアルマの二刀ダガーが大猿の喉を斬り裂く。
 これで決着だ。大猿は口と喉の傷から黒い煙を出し、完全に沈黙した。

 アルマがすぐに駆け寄ってくる。
 隊商キャラバンの商人たちも無事を確認して離れたところからおーい、と呼びかけている。

「由佳っ、大丈夫?」

「ああ、大したケガはしてない。にしてもスゴいな、アルマ。あんなデカブツをひとりで……」
 
「!……いけない、由佳。首から血が出てる……」
 
「いや、これは少し擦りむいただけだから」

「ダメ、バイ菌が入ると命に関わる。まずは傷口をキレイにしないと」

 アルマは口元のストールをずらし、ぐいっと顔を近づける。

「え、な、どうするつもりだ」

 動揺するわたしにアルマは真剣な顔で言う。

「ほんとは水で洗い流したいけど、すぐには用意できないから……あたしが舐めてキレイにする」

……何を言ってるんだ。このもにょっ娘は。水なら隊商キャラバンの馬車まで戻ればあるのに。
 わたしがそう説明しようとする前にアルマに押し倒された。

「や、やめっ……おい、お前らもなんとか言え! なんで手を合わせてるんだっ!」

 隊商の商人たちは朝日の出を拝むように一斉に合掌している。

 あ、ああっ~、とわたしの悲鳴が辺りににこだました。
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