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第2部 消えた志求磨
33 天罪の塔
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ムフー、と満足したような顔のアルマと涙目で着衣の乱れを直すわたし。前にも太ももを吸われたし、やだもう……お嫁にいけない。
そのとき、うわぁ~っ、と男の叫び声が聞こえてきた。
何事だ、もしやまだ敵が……! 商人たちは一目散に荷馬車の中へ。わたしとアルマはすぐに戦闘態勢へ──。
声がしたのはあの岩山の陰だ。そこからひとりの男が転がり出てきた。
フジータだ。無事だったのか。まだ生き残っていた1匹の小さい猿の魔物に襲われている。
「仕方がないな。アルマ、助けてやるか」
わたし達がフジータを助けようとしたとき、青髪のブサイクな青年が飛び出てきてそれを止めた。
「待て、手を出すなっ」
チョナンクスだ。コイツも無事だったのか。しかし父親(という設定)のピンチに手を出すなとは?
「父は……父さんはプライドが非常に高い人なんです。僕らに助けられるぐらいなら敵にやられたほうがマシだと思ってる。そういう人なんです……!」
そうだろうか。そんなふうには見えないが……。
フジータは髪を引っ張られたり、鼻の穴に指を突っ込まれたり、噛まれたりと散々な目にあっている。
「ほげえっ! だずげでっ、じぬっ、じんでじまうっ!」
ほら、必死な顔で助けを求めている。
あまりの見苦しさにアルマが投げナイフを放つ。
猿の魔物の眉間に命中。フジータは魔物の死体を押しのけ、鼻水を垂らしながらこちらに走ってくる。
「おいっ、チョナンクス! なんでもっと早く助けないんだ!? 死ぬところだったぞ!」
「僕の尊敬する父さんはそんな事は言わない! いつだって誇り高く、強い父さんなんだ! お前なんか父さんじゃない!」
「な、なんだと~! 俺に逆らうって言うのか! コイツめっ」
フジータがチョナンクスをポカッと殴りつけた。
「ぶったね……本当の親にもぶたれたことないのに!」
「チョナンクスッ! それは言わない約束だろうっ!」
あ~あ、ふたりはとうとう取っ組み合いのケンカをはじめてしまった。
アホどもはほっといて先を急ごう。
わたしとアルマ、商人の荷馬車はふたりの横を通り過ぎていく。
ふたりが言い争う声はいつまでも続いていた。
旧王都はもう目の前だ。だが……やたら兵士が多い。ノレストとの戦争の影響か。
荷馬車の幌の隙間から外の様子をうかがいながらわたしはどうしようと呟いた。
ここはまだいいが、関所では荷馬車の中まで調べられるだろう。わたしはお尋ね者みたいな感じになってるし、このまま進めば多くの兵と戦うハメになる。
旧王都の中まで入ってしまえばどうにかなると思っていたが……ここはいまのうちに身を隠して離脱したほうがよさそうだ。
わたしとアルマは商人に礼を言い、ローブに身を包んでこっそりと荷馬車の外へ。
何人かの兵士にちらちらと見られたが、呼び止められるほどではない。
広い街道……似たような姿の願望者は歩いているし、関所に近づきさえしなければ大丈夫なようだ。
この位置からでも天罪の塔ははっきりとわかった。
何階建てだアレ……あんな高い塔を造る技術があったのか、この世界に。
「塔のほうへ先に行くの?……」
アルマの質問に、ああと答える。
近づいてみる。塔の周りにはテンプルナイツ兵の姿は見えない。塔の中も高さはあるが多くの敵兵に囲まれる心配はなさそうだ。
「塔にはまだカーラさんがいるかもしれない。カーラさんがいれば旧王都にも簡単に入れるだろうし……」
危険な願望者を閉じ込めているところだから警備が厳重だと思ったが。
塔の入り口にはこれまた大きな鉄製の扉が。こんなデカイの必要あるのか。巨人が通るわけじゃあるまいし……。
試しに押してみるがびくともしない。引こうとしても取っ手もない。他に入り口はないのか。
「おおっ、キミたちはたしか……!」
突然の声にわたしとアルマは身構える。
なんと──《アライグマッスル》御手洗剛志と《ガマゾン》山中大吉だ。なんでこんなところに。
話を聞くと、南のほうの問題は別のヒーローがあっという間に解決してしまったらしい。そこで急遽、この塔へ目的地を変えたというが……ヒーローってまだお前らみたいなのがいるのか。カンベンしてくれ。
「わたし達はこの塔に無実の者がたくさん閉じ込められていると聞いて救出に来たのだ。しかし、この扉は開きそうにないし、塔のまわりをぐるっと回ってみたが他に入り口らしきものはないな」
「ガウッ、ガウウ~」
ワイルド中年、山中大吉が御手洗剛志のうしろに隠れながら恥ずかしそうにしている。なんでわたしを見て赤くなってんだ……?
「ハハハ、大吉め。久しぶりに恋人に会えたからって喜んでおるわ。だがここは敵のアジトだぞ。あまりはしゃぎすぎるなよ」
「……おい、恋人って誰のこと?」
ものスゴくイヤな予感がする。御手洗剛志は山中大吉を前に押し出しながらまた笑った。
「キミもそんなに照れなくても。前に彼から花を受け取っただろう。あれで交際の申し出をOKしたんじゃないか」
げ……! あんなん、差し出されたからもらっただけなのに。
山中大吉はわたしの目の前でキャウッ、と手で顔を覆い、さらに恥ずかしがる。ヤメろ、気持ち悪い。
背後からゴゴゴゴ、と異様な殺気……いかん、アルマだ。二刀ダガーを手にもにょもにょと呟いている。
「ガマガエル男……殺す」
ああ、またややこしい事に……。こんなところで味方同士で争っている場合じゃない。
わたしがなんとかアルマをなだめようとした時、ゴンゴンゴンという低い音と地面の揺れ。
塔の巨大な扉が開き出そうとしていた。
そのとき、うわぁ~っ、と男の叫び声が聞こえてきた。
何事だ、もしやまだ敵が……! 商人たちは一目散に荷馬車の中へ。わたしとアルマはすぐに戦闘態勢へ──。
声がしたのはあの岩山の陰だ。そこからひとりの男が転がり出てきた。
フジータだ。無事だったのか。まだ生き残っていた1匹の小さい猿の魔物に襲われている。
「仕方がないな。アルマ、助けてやるか」
わたし達がフジータを助けようとしたとき、青髪のブサイクな青年が飛び出てきてそれを止めた。
「待て、手を出すなっ」
チョナンクスだ。コイツも無事だったのか。しかし父親(という設定)のピンチに手を出すなとは?
「父は……父さんはプライドが非常に高い人なんです。僕らに助けられるぐらいなら敵にやられたほうがマシだと思ってる。そういう人なんです……!」
そうだろうか。そんなふうには見えないが……。
フジータは髪を引っ張られたり、鼻の穴に指を突っ込まれたり、噛まれたりと散々な目にあっている。
「ほげえっ! だずげでっ、じぬっ、じんでじまうっ!」
ほら、必死な顔で助けを求めている。
あまりの見苦しさにアルマが投げナイフを放つ。
猿の魔物の眉間に命中。フジータは魔物の死体を押しのけ、鼻水を垂らしながらこちらに走ってくる。
「おいっ、チョナンクス! なんでもっと早く助けないんだ!? 死ぬところだったぞ!」
「僕の尊敬する父さんはそんな事は言わない! いつだって誇り高く、強い父さんなんだ! お前なんか父さんじゃない!」
「な、なんだと~! 俺に逆らうって言うのか! コイツめっ」
フジータがチョナンクスをポカッと殴りつけた。
「ぶったね……本当の親にもぶたれたことないのに!」
「チョナンクスッ! それは言わない約束だろうっ!」
あ~あ、ふたりはとうとう取っ組み合いのケンカをはじめてしまった。
アホどもはほっといて先を急ごう。
わたしとアルマ、商人の荷馬車はふたりの横を通り過ぎていく。
ふたりが言い争う声はいつまでも続いていた。
旧王都はもう目の前だ。だが……やたら兵士が多い。ノレストとの戦争の影響か。
荷馬車の幌の隙間から外の様子をうかがいながらわたしはどうしようと呟いた。
ここはまだいいが、関所では荷馬車の中まで調べられるだろう。わたしはお尋ね者みたいな感じになってるし、このまま進めば多くの兵と戦うハメになる。
旧王都の中まで入ってしまえばどうにかなると思っていたが……ここはいまのうちに身を隠して離脱したほうがよさそうだ。
わたしとアルマは商人に礼を言い、ローブに身を包んでこっそりと荷馬車の外へ。
何人かの兵士にちらちらと見られたが、呼び止められるほどではない。
広い街道……似たような姿の願望者は歩いているし、関所に近づきさえしなければ大丈夫なようだ。
この位置からでも天罪の塔ははっきりとわかった。
何階建てだアレ……あんな高い塔を造る技術があったのか、この世界に。
「塔のほうへ先に行くの?……」
アルマの質問に、ああと答える。
近づいてみる。塔の周りにはテンプルナイツ兵の姿は見えない。塔の中も高さはあるが多くの敵兵に囲まれる心配はなさそうだ。
「塔にはまだカーラさんがいるかもしれない。カーラさんがいれば旧王都にも簡単に入れるだろうし……」
危険な願望者を閉じ込めているところだから警備が厳重だと思ったが。
塔の入り口にはこれまた大きな鉄製の扉が。こんなデカイの必要あるのか。巨人が通るわけじゃあるまいし……。
試しに押してみるがびくともしない。引こうとしても取っ手もない。他に入り口はないのか。
「おおっ、キミたちはたしか……!」
突然の声にわたしとアルマは身構える。
なんと──《アライグマッスル》御手洗剛志と《ガマゾン》山中大吉だ。なんでこんなところに。
話を聞くと、南のほうの問題は別のヒーローがあっという間に解決してしまったらしい。そこで急遽、この塔へ目的地を変えたというが……ヒーローってまだお前らみたいなのがいるのか。カンベンしてくれ。
「わたし達はこの塔に無実の者がたくさん閉じ込められていると聞いて救出に来たのだ。しかし、この扉は開きそうにないし、塔のまわりをぐるっと回ってみたが他に入り口らしきものはないな」
「ガウッ、ガウウ~」
ワイルド中年、山中大吉が御手洗剛志のうしろに隠れながら恥ずかしそうにしている。なんでわたしを見て赤くなってんだ……?
「ハハハ、大吉め。久しぶりに恋人に会えたからって喜んでおるわ。だがここは敵のアジトだぞ。あまりはしゃぎすぎるなよ」
「……おい、恋人って誰のこと?」
ものスゴくイヤな予感がする。御手洗剛志は山中大吉を前に押し出しながらまた笑った。
「キミもそんなに照れなくても。前に彼から花を受け取っただろう。あれで交際の申し出をOKしたんじゃないか」
げ……! あんなん、差し出されたからもらっただけなのに。
山中大吉はわたしの目の前でキャウッ、と手で顔を覆い、さらに恥ずかしがる。ヤメろ、気持ち悪い。
背後からゴゴゴゴ、と異様な殺気……いかん、アルマだ。二刀ダガーを手にもにょもにょと呟いている。
「ガマガエル男……殺す」
ああ、またややこしい事に……。こんなところで味方同士で争っている場合じゃない。
わたしがなんとかアルマをなだめようとした時、ゴンゴンゴンという低い音と地面の揺れ。
塔の巨大な扉が開き出そうとしていた。
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