花街警ら隊、特別任務中!

みくもっち

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3 明石茶館

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 ゆう金城きんじょうが入った店は明石茶館あかしちゃかん
 海外の仕事が長かったという明石という男が開店した店で、西洋館造りの二階建て。立派な外装の店だった。
 
 中にはビリヤードやトランプ、クリケットができる遊戯場があり、更衣室や化粧室まで完備してある。
 さらに国内外の新聞や書物がずらりと並べてあり、これらは閲覧自由。本好きの悠にはいいだろうが、金城はどうにも居心地が悪い。

「へっ、鹿鳴館気取りかってんだ。南蛮菓子だか阿蘭陀菓子か知らねえが、そんなもん出すのに大層なモン建てやがって」

 腰掛けるなり文句を言う金城。それをたしなめながら悠も向かい側に座る。

「いや、店主の明石さんはここを庶民の共通のサロン……つまり知識の広場として開放したいという立派な理念の持ち主だ。ご自身も若いときに生活苦で学校に満足に行けなかったことを後悔しておられた」

「ふーん。にしては高っけえよな、この黒っぽい茶。苦いし、焦げくせえしよ。これが一銭五厘もするんだと。蕎麦が食えるじゃねえか」

 和服にエプロン姿の女給が運んできたコーヒーにケチをつける金城。じゃあ蕎麦屋に行けと悠に言われ、むっつりとした表情になる。
 ほどなくして運ばれてきた洋菓子も気に入らないようだ。

「んだよ、これ。パッサパサしてんな。乾蒸餅? 西洋の煎餅みたいなもんか?」

「びすかうと、という名の菓子らしい。僕はこの食感好きだけどな。珈琲にもよく合う」

「こりゃあなんだよ。プルプルしてやがる。茶碗蒸しか、玉子豆腐か。うわ、こいつも甘ったりいな」

「ぷっでぃんぐ、という名の菓子だ。文句の多いやつだな。まだめずらしいからここでしか食べられないんだぞ」

「ああ、こいつは知ってる。かしわ餅だろ」

「バカ、それはわっふるという菓子だ。せっかく二つ折りにしてあるのに開くんじゃない」

 たらたらと文句を言いながらペロリと平らげる金城。言うほど甘いものが嫌いなわけではないらしい。

 しばらくくつろぎ、そろそろ席を立とうとしたときだった。
 女給のひとり。十五、六ほどの少女がもじもじと悠へ近付き、おずおずと何かを差し出した。

「あ、あ、あのっ! これ、読んでください!」

「…………」
 
 悠が無言でそれを受け取ると、少女は顔を真っ赤にしながら小走りに去っていった。

「くそ、これだから嫌だったんだよ、ここに来るのはよ」

 金城が恐れていたことが現実となった。はじめてこの店に来た時から、ふたりを見ながら複数の女給がこそこそ話をしていたのは知っていた。慣れていることではある。金城自身もあちこちの店で恋文を渡されそうになったことがある。決して受け取ることはないが。

 冷静を装っているが、金城は柱の陰に隠れて様子をうかがっている少女を親の仇のように睨んでいる。
 
「行くぞ」

 悠は受け取った手紙をその場では開かず、制服のポケットにしまった。そして卓へ代金を置いて席を立つ。

「おい悠、どうせ断るんだからはじめから受け取るなよ。俺みたいによー、突っ返せばいいんだ」

「そんな失礼なことができるか。改めて断りの返事をこちらも書いて渡す」

「期待もたせる分、そっちのほうが残酷だと思うがね。今、俺から言ってきてやろうか」

「余計なことをするな。もう出るぞ」

 言い合いながらふたりは店の外へ。深く息を吐いてから悠は言った。
 
「もういい、大体わかった」

「えっ、何が?」

 金城が顔をのぞき込む。悠は視線を合わせずにポケットの手紙を握りしめる。

「この茶店が閉まる頃にもう一度来よう。その時にはっきりする。昼の警らはここまでだ」

「ここまでって、まだ花街のほうをちゃんと見回ってねえぞ。おい、悠!」

 悠は制帽を目深にかぶり、もと来た道を戻っていった。金城は首をひねりながらそれについていく。


 👮 👮 👮


 夕方。交番所の仕事を早めに切り上げた悠と金城は明石茶館の近くまで来る。
 少し離れた場所で店の様子を見ている悠。金城はわけもわからないまま、その背後に立つ。

 華奢な背中をうしろから抱きしめたい衝動をこらえながら金城は聞く。

「おい、店の中に用があるんじゃねーのか。おまえまさか、昼間の女給に会おうと思って……」

「少し黙ってろ。もう店が閉まる頃だ」

 しばらくして仕事を終えた女給たちが出てきた。
 そのうちひとりは悠に恋文を渡した少女。

「よし、あの娘を追うぞ」

 それを聞いた金城は声を荒げ、悠の肩をつかむ。

「おまえっ……断りの手紙書くって言ってたくせに! なんなんだよ、あんな小娘のどこがいいってんだ! おい、悠──イテテッ!」

 つかんだ手をひねり上げ、悠は人差し指を金城の口元に持っていく。

「静かにしろ、気付かれる。これは特別任務だ」

「特別任務って……あの娘が犯人に関係あんのかよ」

「歩きながら説明する。見失うからな」

 女給たちのあとを追う悠。金城もそれに続く。

 少女は他の女給たちとは帰り道が違うらしく、すぐにひとりだけ別れて花街の中を進んでいく。

 花街の大通り。茶屋からはすでにお囃子の音や芸妓の唄、客の声が聞こえだし、それに誘われるように人通りも多くなってくる。
 茶屋や料理屋に向かう客とは逆方向に石畳の上をとぼとぼ歩いていく少女。

「気配はここに配属されたときから気付いていた。いや、ここに来てから強くなったというべきか」

「気配? 犯人のってことか?」

「そうだ。ヤツははじめから僕だけを狙っていた。僕だけをずっと見ていた」

「悠を……? まあ警官は恨みを買いやすいからな。ン? でもそれだとやっぱ、あの娘と関係ねえんじゃねえのか」

 悠はそれには答えない。その先を説明するか悩んでいるようだった。金城も無理に聞き出そうとはしない。

 少女は大通りの途中から石造りのアーチ橋を渡る。この先は雑多な看板の並ぶ商店街。今の時間帯、ここは閑散としている。
 この通りに家があるのかと思ったが、少女はさらに進む。

 両脇を竹林に挟まれた舗装もされてない道へ入る。もちろんガス灯も民家の明かりもない。薄暗くなってきたので少女の足取りも早くなる。
 ある程度進むと急に少女の動きが止まった。前方に何かを見つけたようで、こわごわと後ずさりだす。

「出たっ、行くぞっ」

 悠が走り出し、金城も慌ててそれに続く。
 出た、というが目を凝らしてみてもよく見えない。だがあの夜に悠を見失ったときと同じ胸騒ぎは確実に感じ取ることができた。
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