花街警ら隊、特別任務中!

みくもっち

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4 闇にうごめくもの

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 ゆうが走りながらサーベルを抜く。
 ようやく金城にも見えた。少女の前方ににずんぐりと黒い塊。

 むくりと立ち上がるような仕草を見せたそれは、たちまち金城以上の背丈に。間違いなくあの夜に出会った大男。

 少女が悲鳴をあげるより早く、悠が男の脇腹の辺りを打ち据える。よろめいたところをさらに連撃。
 大男は怯んだように後退。悠は背に少女をかばいながら聞く。

「ここは僕らに任せて逃げろ。家は近いのか」

「は、はいっ。この先に集落があります」

「走れ。全力で」

「は、はいっ」
 
 少女は走りだす。大男はそれを追おうと悠を回り込もうとするが、今度は脛を打たれ、前のめりに倒れる。 
 悠はさらに柄で後頭部を痛烈に打ち据える。

「狙いは僕だろう。他の者に手を出すことは許さない」

「悠っ、油断すんなっ!」

 金城きんじょうが叫ぶ。這いつくばっていた男が起き上がりざまの攻撃。
 悠は紙一重でかわし、制帽が吹き飛ばされただけだった。

「この野郎っ! 今度は俺が相手だ!」

 怒りにまかせ、金城が突っ込む。 
 襟首をつかみ、ぶん投げようとしたときだった。おぼろげだった相手の顔がはっきりと見える。

「なんだっ、てめえは……!」

 大男の顔。長髪をうしろで束ねた、整った顔の持ち主──金城そのものの顔がそこにあった。

 鏡でも見ているような感覚。だが自分よりデカイ。襟をつかんだ手の力は緩めないが、金城はそこからどうしていいのかわからなかった。
 金城と同じ顔の男がニタリと笑う。そのとき相手の服装もはっきりと認識できた。同じ警官の制服。そして腰にはサーベル。

 男がサーベルの柄に手をかけ、鞘との間から光刃が漏れたと思った瞬間。
 男の胸板から飛び出すサーベルの切っ先。ちょうど金城の目線。目の前で刃は止まり、すっと引っ込む。刹那、男の表情が苦悶に歪み、たちまち顔や容姿が黒いもやに包まれたように曖昧になる。

 薄暗い道に溶け込むようにそれは消えていった。突然の出来事に金城は唖然。男の襟をつかんでいた感触はまだ残っている。

 サーベルを鞘に納め、制帽を拾い上げる悠。
 
「まだ完全に倒したわけじゃない。とりあえず戻るぞ」
 

 👮 👮 👮


「アレにはじめて出会ったのは僕が五歳のときだ。数年周期で僕の前に現れる」

 花街のほうへ戻りながら悠が語りだした。金城は無言で頷く。

「アレは僕に好意を向けている人物の姿で現れる。その想いが強いほど大きく、はっきりとした形で」

「そうなのか。俺と同じ顔で俺以上にデカイなんて……やっぱ人間じゃなかったんだな……悪霊みたいなもんか?」

 金城がそう言うと、悠は驚いたような顔をする。

「金城。信じるのか? こんな突拍子もない話を」

「実際に見ちまってるからな。それにおまえの言う事を信じなかった事があるか? 俺が」

 金城の言葉に悠はうつむきながら鼻をかく。

「そう……だな。だからおまえには話した。誰にも話したことはなかったのに」

「これからどうするんだ。あんな影みたいなヤツ、追う方法なんてあるのかよ」

「ふとしたきっかけで僕はアレの出現する場所や時間がわかるときがある。茶館で手紙を渡されたときのように。やはり僕への好意が関係あるようだ」

「ああ、それで茶館で待ってたわけか。あの娘についていけば出てくるって知ってたんだな」

「そうだ。今度もなにかきっかけがあればすぐにわかりそうなものだが──んっ」

 悠は急に力強く引き寄せられ、金城の胸に顔をうずめる格好に。
 ぶはっ、と顔を上げると、金城が頭を撫でながらさらに強く抱きしめる。

「どうだ? なんかわかったか? おまえのことは俺が一番想っているからな──いてぇっ!」

 脛を思い切り蹴られ、そして突き飛ばされる金城。悠は制帽を被り直し、赤くなりながら睨みつける。

「バカッ……急に驚くだろ! なにやってんだ、おまえは」

「いや、だからよ。なんか刺激を与えたらヤツの居場所がわかるんじゃねえかって」

「…………」

 悠はしばらく考え込み、それからはっとした表情に。
 得意気な顔の金城をもう一度蹴り、ついて来い、と言った。


 👮 👮 👮


 悠が行く先は花街の裏通り。
 一週間前、あの大男と戦った場所。

 灯りも届かない闇の入り口。そこへ入る前に金城が確認する。

「ここかよ……。アレってよ、もし放っておいたらどうなるんだ?」

 明確な倒し方もわからない化物。最初に戦ったときは惨敗といっていい結果だった。達人並みの強さとはいえ、悠には無理をさせたくない。戦う以外に何か方法はないのかと金城は思ったのだ。

「僕もはっきりとはわからない。だが僕の周囲の人間、そして僕自身に危害を加えようとするのは間違いない。ましてやあそこまでデカくなってたらな。僕が十四の時には実際に死にかけた。出てくる度に強くなっている気がする」

「……だったら、ここで決着をつけねえとな。おまえは俺が絶対に守ってみせる」

 金城は覚悟を決め、提灯に灯りをともす。
 悠は苦笑しながらサーベルの柄に手をかけ、裏通りの中へ。

「僕より弱いクセになに言ってるんだ。おまえは補佐にまわれ。僕自身でカタをつける」
 
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