花街警ら隊、特別任務中!

みくもっち

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 金城きんじょうが提灯でうしろから照らし、悠を先頭に裏通りを進む。
 ゆうの影が伸びた先。小さな黒い塊がさささ、と動いた。

 どん、と建物の壁にぶつかったそれはころころと転がりながら奥へ逃げるように転がっていく。提灯の灯りが届かないところまで。

「逃がすか。追うぞ」

 足早に追うふたり。通りの中ほどだろうか。そこでこちらに背を向けてうずくまっている人物の姿が照らし出される。

「おい、ありゃあ──」

 金城がごくりと息をのむ。
 着物の袖で顔を覆い、さめざめと泣いているのは先ほど別れたばかりの茶館の少女。

「騙されるな、あの娘に化けているだけだ」

 悠は落ち着いた口調でサーベルを構える。

「あ、ああ。わかってる。だけどよ」

 前に組み合ったときのアレは至近距離で見ないとはっきりしない、ぼんやりとした輪郭だった。
 それが今はある程度離れていてもその容姿がくっきりわかる。

「あんまりです……日無坂ひなしざか様。わたしはこんなにもあなたのことをお慕いしているのに。あなたはそうやって刃を向けるのですね」

 振り返り、涙を流しながら訴える少女の姿。金城は悠のように落ち着いてはいられない。

「しゃべりやがった! おい、本当に化け物なのかよ、コイツ」

「そこまで力をつけているという証拠だ。まずいな」

 すくっと立ち上がった少女。同時にゴキゴキッ、ボキッと関節の外れるような音。悠より低かった少女の背丈が不気味な動きとともに伸びる。

「こいつぁ……」

 金城が呆れた声を出し、見上げる。少女の姿はすでに八尺にも届こうとしている。
 瞬時に悠が動いた。閃電のような刺突。

 少女の胴を容赦なく貫いた──かに見えたが、敵は身をひねってかわしていた。悠の刃は脇腹をかすめたのみ。
 かわしざまの肘打ちが悠の顔面を狙う。のけ反って避け、サーベルを薙ぐ。十分な手応えだが、相手は怯まない。

 ボッ、と寒気のするような前蹴り。
 後方転回し、距離を取る。金城と挟み撃ちの形になった。

「悠っ! 俺も行くぜ!」

 提灯を投げ捨て、金城がサーベルを抜く。少女の注意がそちらに向いた。
 金城の雄叫びをあげながら豪快な袈裟懸け。軽くかわされたが、背後より悠が跳躍。強烈な唐竹割りを頭部へ打ち込む。
 
「うおらああっ!」

 すかさず金城が横薙ぎの一閃。サーベルが少女の胴にメキメキと食い込む。
 渾身の力で振り抜く。サーベルが中ほどから折れ、その巨体が建物の壁に激突。

 ぐらあ、と少女の身体が傾く。悠と金城は同時に踏み込む。
 膝の関節を狙った金城の蹴りが炸裂。悠のサーベルも大腿部を刺し貫いた。

 倒れる──ふたりともそう確信した。だが、少女は負傷をものともせずに踏ん張る。そして金城うりふたつの姿に変化していた。
 その巨体から繰り出す剛腕にふたりは弾き飛ばされる。

「くそっ、つええ」

 悠をかばうように倒れこむ金城。そのブ厚い胸板を押しのけながら悠も舌打ちする。

「武器が……」

 悠のサーベルは金城の姿をした化け物に刺さったままだ。金城のサーベルも折れたためにすでに捨てている。
 化け物は足を引きずりながらふたりに近づいてくる。

「悠、やべえぞ。勝てそうにねえ。やっぱり化け物だ」

 悠を助け起こしながら、めずらしく弱気な台詞を吐く金城。
 悠は覚悟を決めた顔で金城の胸ぐらを乱暴につかむ。

「この方法は使いたくなかったんだが」

 強引に引き寄せる。金城は屈むような体勢に。

「────!」

 金城は硬直する。悠の柔らかい唇が自分の唇に重ねられている。

 熱い吐息とともにふたりの唇が離れる。時間にしてわずか一、二秒のことだったが、金城には時間の感覚を忘れさせるほどの出来事。

 我に返ったのは悠が化け物に向けて突進していったからだ。しかも素手のまま。止める間もない。

 だが化け物のほうの様子がおかしい。頭を抱え、苦しそうに身体を震わせている。その体格も縮んでいるようだ。
 悠は滑り込むように化け物へ接近。すれ違いざまに刺さったサーベルを引き抜く。

 化け物の咆哮。悠に向けて拳を振り下ろす。
 悠と化け物の身体が交差。悠の制帽と化け物の首が落ちたのは同時だった。

 化け物の身体はゆっくりと倒れ、地面へ着く前に霧散。その首もしばらく形を留めていたが、同じように消えていった。
 化け物の最期。金城ははっきりと見た。自分と同じ顔から妙齢の女性の顔へと変わっていたのを。
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