死神探偵事務所

十六路木

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調査 File.1 強引な信神者

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ガタンゴトンッ…ガタンゴトンッ…

『まもなく5番ホームに列車が参ります。白線の内側まで下がってお待ちください』

 地下鉄の駅に電車の到着を知らせるアナウンスが響く。いつもと変わらない風景。そんな時、1人の女性が線路に落ちた。

「きゃあっ!」

 突然の事に誰も動けずにいた。女性も自分の状況が分からないのか、キョトンとしていた。しかしだんだんと近付く電車の音に現状を把握し、焦り出した。

「お、おい!誰か助けろよ!」

「あなたが行きなさいよ!」

「もう電車近いぞ!」

「何何?自殺?」

「えぇ?怖いんだけど…」

ガタンゴトンッ…ガタンゴトンッ…

 女性には電車の音が死刑宣告の様に聞こえていた。しかしその時、1人の灰色のパーカーを着た青年が降りてきた。

「大丈夫ですか?立てますか?」

「え?あ、はい!」

「了解です。日和!俺が上げるから引き上げろ!」

「分かってるよ兄さん」

 日和と呼ばれた少女がホームの端ににしゃがみこみ、思いっきり手を伸ばした。

「掴まって!」

 女性は一瞬躊躇ったが、すぐにその手を掴んだ。

「行くぞ?せーのっ!」

「兄さんも早く!」

ガタンゴトンッ…ガタンゴトンッ…!

 遂に見えた電車のライトの光が、青年に迫る。

「分かってるって。よっと」

 青年は軽く飛んでホームに戻った。

ゴォォォォォォ!

 電車の通過で生じた突風が青年の頬を掠め、整った黒い髪を乱した。

「うおっ、風強っ!」

「ハハッ、兄さん髪の毛すごい事になってる」

 そんな風に呑気に会話する兄妹を見て、女性は先程の事を一瞬忘れそうになった。だがいつまでもそのままとは行かず、少し勇気を出して会話に入った。 

「あ、あの!さっきはありがとうございました!」

「ん?いえいえ、これも仕事ですし」

「仕事?」

「あれ?所長から聞いてないですか?今日から警護に入るって」

その言葉に一瞬キョトンとして、その次には驚いた。

「えぇ?!あなた達がしにがむぐ?!」

「ちょい待ち!あの、なるべくその話ここでは」

「あ、すみません…」

「今日ご予定等は?」

「無いですけど?」

「それじゃああそこのカフェで話しませんか?あ、大丈夫ですよ?俺の奢りですから」

 そう言って青年は駅内にあるカフェを指さした。

「いや、依頼してる側が奢ってもらうなんてそんな!」

「いえいえ、別に気にしないで下さい。依頼人の警護の場合は親睦を深めたり、リラックスさせたりする為に食事に誘うのが決まりみたいなもんですから」

「えっと、じゃあお言葉に甘えて…」

 青年に一点の曇りも無い笑顔でそう言われて、女性は少し罪悪感の様なものを感じながら付いて行く事にした。









「もぐもぐ、んっ、美味しいぃ!」

「日和、仕事中なんだぞ?程々にな。あ、すみません。自己紹介でしたっけ?俺は『神城かみしろ れん』です。それでこっちは」

「『神城かみしろ 日和ひより』です!」

 日和は食事をする手を止めて、にこやかに答えた。

「あ、改めて自己紹介しますね。『立原たちはら 優奈ゆな』です。よろしくお願いします」 

「あぁ、そんなに堅くならなくていいですよ?俺達あなたと同い年ですから」

「あ、私も」

「いや、でも」

「俺達がやりにくいです。これじゃあ距離感じて、上手く警護出来ないかもなぁ」

「そんな!どうすればいいんですか?!」

「いや、敬語直してくれればいいんですが…」

「兄さん、周り」

「ん?」

 日和に言われて蓮は周りを見渡す。すると、優奈の大声に反応した他の客がこちらを見ていた。

「あ、すみません…」

「それで、敬語って抜いた方がいいですか?」

「お願いします」

 蓮が少し嫌そうにしているのを見て、優奈は少しニヤッとした。

「じゃあ私にも敬語は抜きで」

「え?いや、でも依頼人と雇われ者ですよ?」

 蓮は困惑した様な表情になりながら

「そうしてもらえないとリラックス出来ないなぁ」

「それを言いますか?はぁ、わかりまし…分かった」

「それでいいで…いいよ………ふふっ」

「ははっ」

「なんか、いい雰囲気だね」

 互いの言葉や言い直したりする所が可笑しかったのか、二人は顔を見合わせて笑いだした。それを見て日和もニコりと笑った。だが、その直後蓮と日和の表情は一変して険しくなった。

「優奈さん……いや、優奈行くぞ」

「え?どうして?」

「近くにいます」

「え?」

「とりあえず広い場所に行く。ここでアイツに行動を起こされても困る」

 蓮と日和の会話に着いていけずに、流される様に会計を済ませ店を出た。
 そして人気のない閉鎖されたグランドに入ると、蓮は振り返って木陰を睨んだ。

「いるんだろ?出てこいよ」

「いやいや、流石は噂に名高い死神探偵事務所。よく私の不可視の術を見破りましたね」 

 蓮が少し声を張って言うと、物陰から茶色いベンチコートを着た、眼帯の男が現れた。

「何、ただの感だよ。それより、お前の目的は何だ?『新世界派』の神父、アルゴル・サージェントさん?」

「新世界派?」

「新世界派ってのは、この世界を破壊して新たなる世界の創造して自分達が崇める神に献上しようっていう何とも胡散臭い組織だ。けどその組織力は膨大で、特殊な能力を持つ者も多く組織内に居るって話だ。そして、コイツらのせいで既に把握してるだけでも全世界で99人が殺されている。自分達の教えに従わない人間は世界に不必要だって言って何の躊躇いも無く人を殺す、腐れ外道共だ」

 優奈が蓮の方を向くと、蓮の表情は先程からは想像出来ない程に怒りに染まっていた。

「黙れ。貴様ら死神風情に我らの崇高なる信仰を語られるのは我らが神への冒涜だ。そこの女性は我らが主神、サキア様への生贄の記念すべき100人目の生贄となるのだ。邪魔をしないで頂こうか」

その言葉に、蓮は呆れた様な仕草をとった。

「は?お前馬鹿なのか?この人は俺の…いや、俺達の依頼人だ。てめぇなんかには指一本触れさせねぇよ」

 その言葉にアルゴルは額に血管を浮かび上がらせて激怒した。

「黙れ!たかだか死神の力の断片しか使えん貴様らに私が負ける筈が無い!今すぐ貴様らを殺して、生贄の足しとしてやる!」

 アルゴルがそう言うと彼の足元に魔法陣が現れて彼の体を包み、光を発した。光が止むとそこには灰色のローブを着たアルゴルが立っていた。

「交渉の余地無しか。まぁ、もともと交渉なんてするつもり無かったけどな」

 そう言うと蓮はポケットから一枚の模様の入った黒いカードを取り出した。そして日和の手にも同じ様なカードが握られていた。

「行くぜ、日和」

「分かってるよ、兄さん」

 そう言って二人は自分達の前に向かってカードを投げた。するとカードは黒い光のゲートとなり、蓮達の体に溶け込んだ。
 そして蓮は黒いパーカー姿になり、日和も黒いマントの様なものを羽織った姿になっていた。

「さてと、始めようぜ?」

 蓮はそう言いながら中世の剣の様な物を構え、日和は大きな鎌を構えた。

「かかって来ーーーい!」

 アルゴルの言葉と共に足元から影の獣が飛び出して来た。二人は真上に飛び上がり、下に向かって手を突き出した。

「「だん!」」

 二人がそう叫ぶと手の前に一瞬『弾』という文字が現れ、蓮達の手に吸い込まれたと思うと次の瞬間無数の光弾が蓮達の手から降り注いだ。

ドガーーーンッ!

「何っ?!」

 アルゴルは自分にも迫って来る光弾を避けながら影の獣を蓮達に向かって放った。しかし、それは日和に阻まれ霧散した。

「兄さんは本体を!」

「了っ解!へき!」

 蓮の言葉と共に空中に光の壁が現れ、それを蹴って蓮は高速アルゴルに迫った。そしてその間も迫り来る影の獣を日和が鎌を振って切り裂いていき、その度に黒い霧になって消えて行く。 

「はぁっ!」

「甘い!」

 蓮は剣を振り下ろしてアルゴルを切り裂こうとしたが、間一髪で影で生まれた剣で阻まれた。
 そこからは蓮とアルゴルの剣戟は加速して行き、遂には残像すら残す程のスピードに至っていた。

(ちっ!スピードは互角かよ!)

 二人は剣の刃が防がれる度に鋭く、避けられる度に早く剣を振るった。その二人の戦いに優奈は見惚れ、そして恐怖した。

「なんなの?一体何が起こって………夢、なのかな?」

 その時、優奈の目の前に影の獣が現れて彼女に襲いかかった。死を覚悟して目を瞑った優奈だったが、体が痛むどころか獣の悲鳴が聞こえた。

「夢じゃないよ。全てが現実で起こっていること。これが私達の仕事なんだから」

「あなた達は、一体何者なの?」

「アルゴルが言ってたでしょ?死神だよ」

「死神って何なの?!それに、あの人も!」

「キシャァァァ!」

ザシュッ

「言ったでしょ?アイツは新世界派の神父。そして死神は私達が使う力の名前。それ以上今この状況じゃ説明出来ない」

 日和は襲いかかる影の獣達を鎌で切り裂き、優奈を守っていた。だからこそ今説明は出来ないんだと気付いた優奈は、守られているだけの自分に苛立ったのか、下唇を噛んだ。




「やりますね。私の影の剣の動きを見切って更に私に一度でも傷を負わせるとは」

「はっ、逆にまだ一度だけなんだがな…」

 肩から血を垂れ流すアルゴルと、身体中に細かい切り傷のある蓮。はたから見たら明らかに蓮が押されている。だが蓮の顔は痛がる様子も無く、笑っている。

「さてと、そろそろ終わらせようぜ」

 蓮はそう言いながら先程とは違う赤いカードを取り出した。

「それはっ!貴様鎧使いか!」

「半分正解で半分不正解。鎧は鎧でも、俺のはちょっと特別なんでね。行くぜ?フレイム!」

『了解した!』

 その言葉に応える声がどこからか響き、それと同時に蓮は死神の力を纏った時と同じ様にカードを投げた。すると先程とは違い、赤い魔法陣が現れた。それを殴りつける様に右腕を通過させると、蓮の右腕は赤い龍の様になり更にその上からカードに刻まれていたのと同じ模様が刻まれた鎧と炎がその腕を包んだ。

『フレイムドラゴン!アームド!モードナックル!』

「はぁっ!」

 掛け声と共に腕に包んでいた炎を払うと、蓮は右腕を突き出して力を込め拳を握った。

「宣告する。お前はもう俺には勝てない」
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