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あれからどうやって自室に帰ったか、記憶は定かでは無いが、起きたら身体もサッパリし、きちんとパジャマに着替えて見慣れたベッドの上に居たので、無意識に何とかしたのだろう。
とにかく、今日からは授業に戻ろうと支度を済ませ、鞄の中を整理して、校舎に向かった。
俺は友達が全くいなく、(小、中は野々山のせい)休日も特にやることがない為、勉強くらいしかすることがない。
だから、少しくらい授業に出なくてもなんら成績に支障はない。
だけど、生徒会長として学校のことは色々把握しておきたいと考えているので、俺は出来る限り授業に出たいと思っている。
「…お、おはよう!畠中。もう授業に出られるんだな」
教室に着くと、星崎がすぐ気づいてくれた。
しばらく来ていなくて忘れていたが、星崎とは席が隣だった。
告白。されたこともあり少しだけ気まずい。
「あぁ、おはよう。仕事もひと段落したしな。
あ、授業終わったら、昨日までのノート貸してもらえないか?確認しておきたい」
「もちろん、構わない。期末試験用の対策プリントもつけるか?」
「いいのか?今度なんか奢る」
思ったより普通に会話出来て、ほっとした。
星崎とは、なんだかんだ教室では仲が良い方だと思っていたから、話してもらえて安堵する。
「慶くん、何で先に行っちゃうの」
「野々山…お前、なんでここに」
「何でって、俺もこのクラスでしょ。二年S組の転校生、俺」
「……は、冗談」
「俺ってば、編入試験満点だったらしくてさ~。遥とか雄也とかとは離れちゃったのが残念だったけど。慶くんと一緒ならなんの問題も無いね」
ここの学園の編入試験は相当難易度が高かったはずだ。それを満点合格……ましてや、一番成績優秀者が集まるニ年S組に入るとは。
クラス分けは成績と家柄で決まり、いくら成績がよくても家柄が良くなければS組には入れない。
こいつの家の力を考えれば、S組になるのは当然のことだった。
ちなみに副会長と会計は生徒会役員で家柄も良いのだが、かなり頭が良くないので、D組にいる。
「……おい、野々山。慶くんって、何だ。その呼び方」
「あ?なんだよ。俺と慶くんの関係を邪魔するつもり?上等だよ」
星崎は、野々山の言葉で、露骨にショックを受けて震えていた。
「畠中、まさかこいつと付き合ってるのか?」
「あ?そうだけど?」
「違う!なんかこいつが勝手に言ってるだけだ!」
俺が否定するより前に、野々山は肯定するな。昨日バッサリなかったことになったろうが。
「……元彼?」
「そうそう、俺がDVしてたから慶くんに逃げられて~、追っかけてきたの♡」
DV、という発言に周りで聞いていた野次馬が騒めき出す。
昨日の食堂から、完全に野々山の印象はやばい奴だろう。
「はぁ!?そんな危険な奴、畠中の側に置いておける訳ないだろう!今すぐ出ていけ!」
「いや、俺は心を入れ替えかんだよ。これからは、優しくしまくって、慶くんを甘やかすことにした」
なんだか非常にめんどくさくなってきた。
「お、お前…本当なのか?」
「あ~、まぁ…うん?」
虐められていた訳ではなかったようだし、もうそれでいいか、と投げやりになる。
「……畠中には、こいつへの未練がないんだな?」
「未練?ある訳な……」
言い切る前に星崎にそっと手を握られた。
「じゃあ、俺が守るから。今まで辛かったな。こんな野蛮な男の話は聞かなくていい」
「ちょっと、慶くんの手離せよ!おい!」
あぁ、帰りたい……と、授業もまだ受けてないのに俺は疲れ切っていた。
その後、久しぶりに俺を見た先生達に一々驚かれ、日常会話をしているとその度に野々山の方から「デレデレしてんじゃねぇよ、おっさん」や「うぜーから会話すんな」と言った罵声が聞こえ、野々山はすっかりやばいDV元彼として認知されていった。
昼食の時間になり、教室で星崎と弁当を広げていると、野々山が驚いていた。
「えっ、慶くんって食堂行かないの?自炊派!?自分で作ってんの?」
「なんだ、元恋人くせにそんなことも知らないのか。畠中は学食が苦手だから三食全部自炊しているんだぞ。食堂にはたまに紅茶を飲みにいくくらいだそうだ。
「紅茶…ね」
含みを持たせた笑みでこちらを見る野々山をキッと、睨んだ。
というか、この二人仲悪すぎる。
隙あらば喧嘩するのやめてほしい。
「え~、俺知らなかったから遥達と約束しちゃった。ねぇ、明日から俺の分も作ってよ」
「は?嫌に決まってるだろ。くたばれ」
「し、辛辣……」
うぅ…と言いながら胸の辺りを押さえてよろめき出す野々山を無視して、弁当を食べる。
今日はおかずがいつもより上手く出来た。特にだし巻き卵が上出来だ。
忙しかった為、ここ最近は購買に頼りきりで久しぶりに作る弁当は不安もあったけど、無事美味しそうに出来て満足だ。
「じゃあ、この卵焼きもらいっ」
「あっ!」
俺の箸から無理矢理卵焼きを奪うと、そのまま野々山の口へと放り込まれた。
「美味っ!慶くん、美味しい!」
「……そ、そうか。なら良かったな。」
あまり人にご飯を食べさせたことがないから、褒められると普通に照れてしまう。
「畠中からのあ~ん…手料理まで…」
何故か星崎は物凄くショックを受けていた。
「じゃあ、明日からは俺も購買で買ってくるから、一緒に食べて?」
「嫌だ」
「えっ、なんで!」
「お前、うるさいから。飯くらい静かに食いたいんだよ」
だから、食堂で食べないのに。
こいつがいると周りに騒がれて鬱陶しい。
「……じゃあ、あの写真ばら撒いちゃおうかな~」
「写真?何の話だ?」
星崎が訝しげに俺と野々山を見る。
俺は野々山に小声で問い詰めた。
「消、消すって言ったのに!」
「えー?うっかりしてただけだって~。で?どうする?明日からは俺も一緒に食べていい?」
「…お前のそういう所が、本当に嫌いだよ」
「残念。俺は慶くんのこと、超愛してるからさ。じゃあ、とりあえず今日は食堂いくから!ばいばい」
「一生帰ってくるな」
野々山に中指を立てて追い払うと、何故か嬉しそうに笑い、去って行った。
あいつ、ドMだったのか。
「畠中…やっぱり過去のことであいつに脅されてるのか?」
「え?」
「今からでも遅くないから、一緒に警察行こう。ストーカーとかでも、取り締まれるかもしれないし」
そうは言うものの、野々山が持っている写真とは、DVの写真ではなく俺のお漏らし姿のことだ。
警察に見せることになったら、恥ずかしくて死ねる。
それに、俺のことを好きでここまで追っかけてきた奴のことを、なんとなく完全には突き放せなかった。
「いや…大丈夫だ。心配かけてすまない。それより、次は体育だからさっさと食べて着替えに行こう」
「……あぁ」
野々山は、5、6時間目の体育に現れなかった。副会長と会計と、昼食を取った後にサボろうと決めたのだろう。
何にせよあいつがいないから、平和でよかった。
放課後、星崎に借りたノートを整理しつつ、生徒会室で急ぎではない仕事に目を通していると、久しぶりに書記の一年生と上村と庶務で同じく一年生の渡辺が姿を現した。
「……久しぶり」
何で声をかけたらいいか分からなかったが、ここは先輩としてしっかりしなければと思い、一応一言だけ話してみた。
何も言わないままの二人を見て、他に何かあったろうと自分でも思う。
「あの、会長…」
「俺たち…」
「「すみませんでした!!!」」
二人は顔を見合わせて、いきなり謝ってきた。
何がなんだかわからず、困惑する。
「え?」
「仕事サボって、生徒会室来なくて、すみませんでした」
「会長の為とはいえ、申し訳ないことをしました。本当にすみません」
俺の為?何の話なんだ本当に。
「俺たち、転校生の野々山さんが慶くん、慶くんって探し回ってるのを見てて、絶対に会長のことを言ってるって確信したんです」
「雰囲気が怪しすぎて、会わせちゃいけないだろうって話になって……」
「だから、体調不良で部屋に篭ってるって嘘ついて、なるべく会長とあの人を鉢合わせないように生徒会室から遠ざけてました…」
「そうだったのか……」
なるほどと、合点が言った。
俺が自室に篭っていたという噂は、ここからきていたらしい。
こんなに一年生に警戒されるとか、何言って回ったんだよあいつ。
「勝手なことして、すみません!!」
「しかも,結局、会わせることになってしまって……」
「あぁ~、まぁ、大丈夫」
「元彼なんですよね、あの人。しかも会長にDVしてたって」
「う~ん、まぁ、中学の時の話だから…」
「中学!?やばい人じゃないですか!」
「まぁ、やばいよなあ」
俺は他人事のように遠い目をしていた。
上村が、俺に向き合って真剣な顔になった。
「俺、会長の分まで仕事頑張ります。まだまだ力は及ばないかもしれませんが、これまで以上に頑張るので、任せてください!」
渡辺も、負けじと俺に向き合った。
「俺も、頑張ります!まぁ言っても、雑用くらいしか出来ないんですけど…。書類の受け渡しは任せてください!」
わ、渡辺!そうだ!俺が一番苦手な仕事なんだ、それは。
「俺は、お前に一番戻ってきて欲しかった…!」
たまらず俺は渡辺の身体をひしっと抱きしめた。
「ええっ、会長…!?」
「もうどこにも行くな……」
これで苦手な仕事から解放される、と思うと喜びもより大きくなった。
「お前ばっかりずるい!会長、俺は?俺は?」
「俺、もう人生に悔いはない…」
俺が渡辺を抱きしめて、庶務の存在を有難く感じていると、生徒会室のドアが開き、何故かそこから野々山が入ってきた。
「は?何、どういう状況?慶くん、浮気?」
「……だから、お前とは付き合ってない」
「じゃあ何?そいつ新しい恋人なの?」
「だったらなんだ。お前と違って可愛いぞ。この学園にくるのが遅かったようだな」
「許さない。絶対に……」
野々山はギリ…と血が出そうなくらい親指を噛み締めながら悔しがっていた。
「か、会長もうやめて下さい……」
腕の中では、渡辺が泣きそうな顔をして震えていた。
「悪い。おい、野々山、こいつは恋人じゃない。俺のおふざけに巻き込まれただけだ。
睨むんじゃねぇぞ」
「え~そうなの?なんだ。安心した。俺うっかり殺しちゃう所だったよ」
危なかった。早々にネタバラシをしておいて正解だった。
なんか面倒くさかったからこのまま恋人のふりしてもらおうとか思わなくて良かった。
「尊、そんなことより、あの話しなくていいんですか」
「そうだよ~俺たちこの1ヶ月、会長探しに頑張ってたんだからさ~早いとこ行動してこ」
「……会長探し?」
続けて後ろから、副会長と会計が入ってくる。
その言葉に、俺の眉がピクリと動く。
「尊から、あなたに会わせろってしつこく言われてたんです」
「まさか尊の元彼が会長だったなんてね~びっくりだよ~」
「お前ら、知り合いだったのか…」
「まぁ、ちょっとね。え?慶くん、気になってんの?焼きもち?」
「全然違う」
まさか、高校の知り合い側から俺の居場所がバレるなんて思いもしなかった。
だからこいつらはここ最近生徒会室に来なかったのか。
「せめて…サボるな…」
「あ、そうか、生徒会室来ないってことは、仕事サボってたんでした。いや、うっかり」
「あ~、普通に忘れてた、ごめんね?会長」
この二人はただの馬鹿だった。
野々山の頼み事を優先するあまり、仕事のことが頭から抜けていたらしく、あっけらかんと謝罪してきた。
「……来週からまた文化祭に向けて動き出すから、忙しくなる。副会長は月曜日にある会議の準備、会計は予算案の最終確認、書記は昨年度までの議事録を庶務と整理してこい。以上」
俺の指示で、皆一斉に散らばり、仕事にうつった。
なんだかあっさりと元に戻って拍子抜けする。
「……それで、何でお前がここにいるんだ?野々山。ここは関係者以外立ち入り禁止の生徒会室だ。お前は、帰れ」
「そうそう、そのことで慶くんに話があるんだよね」
「……何」
野々山が俺にだけ聞こえるくらいの声量で話し始めた。
「今の生徒会って、遥と雄也が馬鹿で使えないし、一年生二人はちょっとまだ頼りないよね?」
正直、当たっていなくはないのでギクッとする。
「……そんなことはない。皆よくやってくれてる」
「わざと、一人で仕事してるところ見守ってたけどさ慶くんが無理すれば一人で回せちゃうこの状況、どう考えてもやばいと思うんだよ」
「……」
「もし慶くんが倒れたら?引き継ぐ会長職の子のプレッシャーは?色々考えたら、このままでいい訳ないのは分かってるよね?」
流石、天下の野々山グループで時期後継者として勉強しているだけのことはある。
観察眼が鋭いというか、先を見据えての行動に何も言えなくなる。
「だからさ、会長補佐として、俺を置かない?」
「は?」
「俺なら、仕事全般マニュアル見たら大体こなせると思うよ。もしまた、皆がここに来なくなっても、俺と慶くんの二人いれば余裕で回せるし……」
それに、と野々山は続けて言った。
耳元で囁かれたそれは、俺にだけしか完全に聞こえていなくて。
ふざけてる態度ではなく、えらく真剣に言ってくるものだから、不覚にもドキっとした。
「俺になら、慶くんも色々頼みやすいでしょ?」
人に頼ることが苦手で。仕事をあまり割り振ってないのも気付かれている。
だからこそ、負担を減らそうとしてくれているようだった。
そんなの、過去の辛かった出来事を消すにはあまりにも足りなくて。
でも、おかしいかな。俺の心は少しだけ絆されかけていて。
俺は静かに頷くと、野々山の顔が驚きに変わった。
「えっ、慶くん顔真っ赤!何それ、可愛いんだけど。じゃあ俺が会長補佐になることに決まりだね」
「いや、ちょっと待て。まだ役員の承認を得ていないからーーー。」
「尊が補佐なら全然歓迎ですよ。」
「もちろん!俺は嬉しいよ~」
一年二人をパッと見ると目を逸らされた。
「あの……野々山先輩が怖いので、それで大丈夫です……」
「俺たちもう何も言わないので……睨まないでください……」
睨んでいるのか?と思い野々山の方を振り返ると、俺を見てニコニコ微笑んでいた。
「これで決まりだね?俺頑張ろうっと」
なんか野々山に丸めこまれてる気がしてならないが、こいつは、あれよあれよという間に生徒会入りを果たしていた。
とにかく、今日からは授業に戻ろうと支度を済ませ、鞄の中を整理して、校舎に向かった。
俺は友達が全くいなく、(小、中は野々山のせい)休日も特にやることがない為、勉強くらいしかすることがない。
だから、少しくらい授業に出なくてもなんら成績に支障はない。
だけど、生徒会長として学校のことは色々把握しておきたいと考えているので、俺は出来る限り授業に出たいと思っている。
「…お、おはよう!畠中。もう授業に出られるんだな」
教室に着くと、星崎がすぐ気づいてくれた。
しばらく来ていなくて忘れていたが、星崎とは席が隣だった。
告白。されたこともあり少しだけ気まずい。
「あぁ、おはよう。仕事もひと段落したしな。
あ、授業終わったら、昨日までのノート貸してもらえないか?確認しておきたい」
「もちろん、構わない。期末試験用の対策プリントもつけるか?」
「いいのか?今度なんか奢る」
思ったより普通に会話出来て、ほっとした。
星崎とは、なんだかんだ教室では仲が良い方だと思っていたから、話してもらえて安堵する。
「慶くん、何で先に行っちゃうの」
「野々山…お前、なんでここに」
「何でって、俺もこのクラスでしょ。二年S組の転校生、俺」
「……は、冗談」
「俺ってば、編入試験満点だったらしくてさ~。遥とか雄也とかとは離れちゃったのが残念だったけど。慶くんと一緒ならなんの問題も無いね」
ここの学園の編入試験は相当難易度が高かったはずだ。それを満点合格……ましてや、一番成績優秀者が集まるニ年S組に入るとは。
クラス分けは成績と家柄で決まり、いくら成績がよくても家柄が良くなければS組には入れない。
こいつの家の力を考えれば、S組になるのは当然のことだった。
ちなみに副会長と会計は生徒会役員で家柄も良いのだが、かなり頭が良くないので、D組にいる。
「……おい、野々山。慶くんって、何だ。その呼び方」
「あ?なんだよ。俺と慶くんの関係を邪魔するつもり?上等だよ」
星崎は、野々山の言葉で、露骨にショックを受けて震えていた。
「畠中、まさかこいつと付き合ってるのか?」
「あ?そうだけど?」
「違う!なんかこいつが勝手に言ってるだけだ!」
俺が否定するより前に、野々山は肯定するな。昨日バッサリなかったことになったろうが。
「……元彼?」
「そうそう、俺がDVしてたから慶くんに逃げられて~、追っかけてきたの♡」
DV、という発言に周りで聞いていた野次馬が騒めき出す。
昨日の食堂から、完全に野々山の印象はやばい奴だろう。
「はぁ!?そんな危険な奴、畠中の側に置いておける訳ないだろう!今すぐ出ていけ!」
「いや、俺は心を入れ替えかんだよ。これからは、優しくしまくって、慶くんを甘やかすことにした」
なんだか非常にめんどくさくなってきた。
「お、お前…本当なのか?」
「あ~、まぁ…うん?」
虐められていた訳ではなかったようだし、もうそれでいいか、と投げやりになる。
「……畠中には、こいつへの未練がないんだな?」
「未練?ある訳な……」
言い切る前に星崎にそっと手を握られた。
「じゃあ、俺が守るから。今まで辛かったな。こんな野蛮な男の話は聞かなくていい」
「ちょっと、慶くんの手離せよ!おい!」
あぁ、帰りたい……と、授業もまだ受けてないのに俺は疲れ切っていた。
その後、久しぶりに俺を見た先生達に一々驚かれ、日常会話をしているとその度に野々山の方から「デレデレしてんじゃねぇよ、おっさん」や「うぜーから会話すんな」と言った罵声が聞こえ、野々山はすっかりやばいDV元彼として認知されていった。
昼食の時間になり、教室で星崎と弁当を広げていると、野々山が驚いていた。
「えっ、慶くんって食堂行かないの?自炊派!?自分で作ってんの?」
「なんだ、元恋人くせにそんなことも知らないのか。畠中は学食が苦手だから三食全部自炊しているんだぞ。食堂にはたまに紅茶を飲みにいくくらいだそうだ。
「紅茶…ね」
含みを持たせた笑みでこちらを見る野々山をキッと、睨んだ。
というか、この二人仲悪すぎる。
隙あらば喧嘩するのやめてほしい。
「え~、俺知らなかったから遥達と約束しちゃった。ねぇ、明日から俺の分も作ってよ」
「は?嫌に決まってるだろ。くたばれ」
「し、辛辣……」
うぅ…と言いながら胸の辺りを押さえてよろめき出す野々山を無視して、弁当を食べる。
今日はおかずがいつもより上手く出来た。特にだし巻き卵が上出来だ。
忙しかった為、ここ最近は購買に頼りきりで久しぶりに作る弁当は不安もあったけど、無事美味しそうに出来て満足だ。
「じゃあ、この卵焼きもらいっ」
「あっ!」
俺の箸から無理矢理卵焼きを奪うと、そのまま野々山の口へと放り込まれた。
「美味っ!慶くん、美味しい!」
「……そ、そうか。なら良かったな。」
あまり人にご飯を食べさせたことがないから、褒められると普通に照れてしまう。
「畠中からのあ~ん…手料理まで…」
何故か星崎は物凄くショックを受けていた。
「じゃあ、明日からは俺も購買で買ってくるから、一緒に食べて?」
「嫌だ」
「えっ、なんで!」
「お前、うるさいから。飯くらい静かに食いたいんだよ」
だから、食堂で食べないのに。
こいつがいると周りに騒がれて鬱陶しい。
「……じゃあ、あの写真ばら撒いちゃおうかな~」
「写真?何の話だ?」
星崎が訝しげに俺と野々山を見る。
俺は野々山に小声で問い詰めた。
「消、消すって言ったのに!」
「えー?うっかりしてただけだって~。で?どうする?明日からは俺も一緒に食べていい?」
「…お前のそういう所が、本当に嫌いだよ」
「残念。俺は慶くんのこと、超愛してるからさ。じゃあ、とりあえず今日は食堂いくから!ばいばい」
「一生帰ってくるな」
野々山に中指を立てて追い払うと、何故か嬉しそうに笑い、去って行った。
あいつ、ドMだったのか。
「畠中…やっぱり過去のことであいつに脅されてるのか?」
「え?」
「今からでも遅くないから、一緒に警察行こう。ストーカーとかでも、取り締まれるかもしれないし」
そうは言うものの、野々山が持っている写真とは、DVの写真ではなく俺のお漏らし姿のことだ。
警察に見せることになったら、恥ずかしくて死ねる。
それに、俺のことを好きでここまで追っかけてきた奴のことを、なんとなく完全には突き放せなかった。
「いや…大丈夫だ。心配かけてすまない。それより、次は体育だからさっさと食べて着替えに行こう」
「……あぁ」
野々山は、5、6時間目の体育に現れなかった。副会長と会計と、昼食を取った後にサボろうと決めたのだろう。
何にせよあいつがいないから、平和でよかった。
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「……久しぶり」
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「あの、会長…」
「俺たち…」
「「すみませんでした!!!」」
二人は顔を見合わせて、いきなり謝ってきた。
何がなんだかわからず、困惑する。
「え?」
「仕事サボって、生徒会室来なくて、すみませんでした」
「会長の為とはいえ、申し訳ないことをしました。本当にすみません」
俺の為?何の話なんだ本当に。
「俺たち、転校生の野々山さんが慶くん、慶くんって探し回ってるのを見てて、絶対に会長のことを言ってるって確信したんです」
「雰囲気が怪しすぎて、会わせちゃいけないだろうって話になって……」
「だから、体調不良で部屋に篭ってるって嘘ついて、なるべく会長とあの人を鉢合わせないように生徒会室から遠ざけてました…」
「そうだったのか……」
なるほどと、合点が言った。
俺が自室に篭っていたという噂は、ここからきていたらしい。
こんなに一年生に警戒されるとか、何言って回ったんだよあいつ。
「勝手なことして、すみません!!」
「しかも,結局、会わせることになってしまって……」
「あぁ~、まぁ、大丈夫」
「元彼なんですよね、あの人。しかも会長にDVしてたって」
「う~ん、まぁ、中学の時の話だから…」
「中学!?やばい人じゃないですか!」
「まぁ、やばいよなあ」
俺は他人事のように遠い目をしていた。
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「俺、会長の分まで仕事頑張ります。まだまだ力は及ばないかもしれませんが、これまで以上に頑張るので、任せてください!」
渡辺も、負けじと俺に向き合った。
「俺も、頑張ります!まぁ言っても、雑用くらいしか出来ないんですけど…。書類の受け渡しは任せてください!」
わ、渡辺!そうだ!俺が一番苦手な仕事なんだ、それは。
「俺は、お前に一番戻ってきて欲しかった…!」
たまらず俺は渡辺の身体をひしっと抱きしめた。
「ええっ、会長…!?」
「もうどこにも行くな……」
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「俺、もう人生に悔いはない…」
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「じゃあ何?そいつ新しい恋人なの?」
「だったらなんだ。お前と違って可愛いぞ。この学園にくるのが遅かったようだな」
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「か、会長もうやめて下さい……」
腕の中では、渡辺が泣きそうな顔をして震えていた。
「悪い。おい、野々山、こいつは恋人じゃない。俺のおふざけに巻き込まれただけだ。
睨むんじゃねぇぞ」
「え~そうなの?なんだ。安心した。俺うっかり殺しちゃう所だったよ」
危なかった。早々にネタバラシをしておいて正解だった。
なんか面倒くさかったからこのまま恋人のふりしてもらおうとか思わなくて良かった。
「尊、そんなことより、あの話しなくていいんですか」
「そうだよ~俺たちこの1ヶ月、会長探しに頑張ってたんだからさ~早いとこ行動してこ」
「……会長探し?」
続けて後ろから、副会長と会計が入ってくる。
その言葉に、俺の眉がピクリと動く。
「尊から、あなたに会わせろってしつこく言われてたんです」
「まさか尊の元彼が会長だったなんてね~びっくりだよ~」
「お前ら、知り合いだったのか…」
「まぁ、ちょっとね。え?慶くん、気になってんの?焼きもち?」
「全然違う」
まさか、高校の知り合い側から俺の居場所がバレるなんて思いもしなかった。
だからこいつらはここ最近生徒会室に来なかったのか。
「せめて…サボるな…」
「あ、そうか、生徒会室来ないってことは、仕事サボってたんでした。いや、うっかり」
「あ~、普通に忘れてた、ごめんね?会長」
この二人はただの馬鹿だった。
野々山の頼み事を優先するあまり、仕事のことが頭から抜けていたらしく、あっけらかんと謝罪してきた。
「……来週からまた文化祭に向けて動き出すから、忙しくなる。副会長は月曜日にある会議の準備、会計は予算案の最終確認、書記は昨年度までの議事録を庶務と整理してこい。以上」
俺の指示で、皆一斉に散らばり、仕事にうつった。
なんだかあっさりと元に戻って拍子抜けする。
「……それで、何でお前がここにいるんだ?野々山。ここは関係者以外立ち入り禁止の生徒会室だ。お前は、帰れ」
「そうそう、そのことで慶くんに話があるんだよね」
「……何」
野々山が俺にだけ聞こえるくらいの声量で話し始めた。
「今の生徒会って、遥と雄也が馬鹿で使えないし、一年生二人はちょっとまだ頼りないよね?」
正直、当たっていなくはないのでギクッとする。
「……そんなことはない。皆よくやってくれてる」
「わざと、一人で仕事してるところ見守ってたけどさ慶くんが無理すれば一人で回せちゃうこの状況、どう考えてもやばいと思うんだよ」
「……」
「もし慶くんが倒れたら?引き継ぐ会長職の子のプレッシャーは?色々考えたら、このままでいい訳ないのは分かってるよね?」
流石、天下の野々山グループで時期後継者として勉強しているだけのことはある。
観察眼が鋭いというか、先を見据えての行動に何も言えなくなる。
「だからさ、会長補佐として、俺を置かない?」
「は?」
「俺なら、仕事全般マニュアル見たら大体こなせると思うよ。もしまた、皆がここに来なくなっても、俺と慶くんの二人いれば余裕で回せるし……」
それに、と野々山は続けて言った。
耳元で囁かれたそれは、俺にだけしか完全に聞こえていなくて。
ふざけてる態度ではなく、えらく真剣に言ってくるものだから、不覚にもドキっとした。
「俺になら、慶くんも色々頼みやすいでしょ?」
人に頼ることが苦手で。仕事をあまり割り振ってないのも気付かれている。
だからこそ、負担を減らそうとしてくれているようだった。
そんなの、過去の辛かった出来事を消すにはあまりにも足りなくて。
でも、おかしいかな。俺の心は少しだけ絆されかけていて。
俺は静かに頷くと、野々山の顔が驚きに変わった。
「えっ、慶くん顔真っ赤!何それ、可愛いんだけど。じゃあ俺が会長補佐になることに決まりだね」
「いや、ちょっと待て。まだ役員の承認を得ていないからーーー。」
「尊が補佐なら全然歓迎ですよ。」
「もちろん!俺は嬉しいよ~」
一年二人をパッと見ると目を逸らされた。
「あの……野々山先輩が怖いので、それで大丈夫です……」
「俺たちもう何も言わないので……睨まないでください……」
睨んでいるのか?と思い野々山の方を振り返ると、俺を見てニコニコ微笑んでいた。
「これで決まりだね?俺頑張ろうっと」
なんか野々山に丸めこまれてる気がしてならないが、こいつは、あれよあれよという間に生徒会入りを果たしていた。
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この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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