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番外編④会計の恋
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番外編 (side 会計)
どうして俺の恋は、いつもこうなんだろう。 気づけばため息ばかりついている。電卓を叩く指が、ため息のたびに止まる。 机の上には未処理の伝票が山のように積まれていて、生徒会室には僕以外誰もいない。会長と補佐の嶺先輩は並んで帰り、副会長は風紀委員長に呼び出され、書記の先輩は部活でバタバタ。
今までサボっていた分をしっかりやれと会長に叱られてから真面目に顔を出すようになった。だって、まさか副会長が自室に仕事を持ち帰ってるだなんて知らなかったしもう一人の会長補佐になった真柴も俺と同じように行ってなかったから行かなくてもいいものだと思っていた。
実際は、会長補佐の仕事が少なかったというだけの話だったけれど。
残ってるのは自分ひとり。いつものことだ。
……いや、正確には、もうひとりいる。 生徒会室のソファで、眠たそうに頬杖をついている——柊。
柊は俺がサボらないようにお目付け役として会長がわざわざ呼び出していた。 転校生として学園にやってきた柊は誰とでも仲良くなれて、笑顔がまぶしくて、嶺先輩のファンクラブに入っていて。
柊は俺の恋の相手だ。
はじめて会ったのは、あの日。 学校行く途中の中庭で、派手なスニーカーを履いた彼が校舎案内図を逆さまにして見ていた。
「ここって、職員室?」 「……そんな訳ないでしょ。地図、上下逆になってる」 「マジか!どうりで外だと思った!」
その軽さに思わず笑ってしまった。 そして、僕は恋に落ちた。まっすぐに。
だけど彼の目の先には、ずっと嶺先輩がいた。 それを知ったのは、案外すぐのことだった。 生徒会の打ち合わせの帰り、歩きながら彼がぽつりとつぶやいたのだ。
「嶺先輩ってさ、綺麗だよね」
あのときの声の柔らかさを、まだ忘れられない。 嶺先輩に向ける眼差しが、僕には一瞬で分かった。
——あ、柊は先輩のことが好きなんだ。
そしてその瞬間、俺の恋は片思いに変わった。
それでも、諦められなかった。 彼と話す時間が楽しくて、文化祭の買い出しも、試験勉強も、何気ない雑談さえも、全部が宝物みたいに感じた。 彼は本当に優しい。気取らず、嘘がなくて、時々ちょっと鈍くて。 だから僕は、笑いながらも心のどこかでいつも泣いていた。
そんな中で起きた、嶺先輩と会長の交際発覚。 校内が一気にざわついた。 親衛隊が騒ぎ、副会長が青ざめ、そして柊は—— 笑ってた。
「そっかぁ……あの二人、そうだったんだ」
その声は軽かった。でも、笑顔の端が震えていた。 俺は何も言えなかった。 肩を抱くことも、慰めることもできず、ただ隣でコンビニの袋を握りしめていた。
その日の夜。 寮の廊下で偶然会った彼が、ぽつりと言った。
「なぁ、真弥。俺、先輩のこと、結構本気だったんだよね」
「うん、知ってる」
「でもさ、もうやめる」
「……そう、なんだ」
「代わりに、今度は別の人を好きになってみようかな」
その言葉で、心臓が跳ねた。 からかいかと思った。けど、目はまっすぐで、冗談ではなかった。 俺は答えられなかった。 そのまま、何も言えずに逃げるように自室に戻った。
それからの俺は、ちょっとおかしかった。 会計の仕事は後回し、書類は溜まりっぱなしで放置、頭の中は彼の笑顔でいっぱい。 誰かが笑うと彼の声に聞こえたし、風が吹くだけで香水の匂いがした。
——恋って、バカだ。
分かってても止められない。
でも、いつまでも逃げているわけにはいかなかった。 ある日の放課後、校舎裏で彼に声をかけた。
「……柊、話、ある」
「ん?どうしたの」
「俺さ、お前のことが好き」
言葉はそれだけだった。準備していた台詞なんて全部どこかに消えて、気づけば心臓の音だけが響いていた。 柊は目を見開き、すぐに笑った。
「ありがとな。でも、ごめん。やっぱり先輩のこと、まだ諦められない」
——やっぱり、そうだよな。 分かっていたけど、涙は勝手に出てきた。 笑おうとしてもうまく笑えなかった。
「バカだなぁ、俺……」
「うん、バカだよ」
柊は優しく笑って、俺の頭をぽん、と叩いた。
「でも、そんな真弥が結構好きだぜ。友達としてな」
その言葉に救われたような、さらに痛くなったような。 混ざった気持ちで曖昧に頷くしかなかった。
そのあとどうやって帰ったのか、覚えていない。
気づけば寮の裏庭で、芝生に座り込んでいた。 夜風が冷たくて、涙が乾かないうちに誰かの影が伸びてきた。
「生徒会の……会計か? こんなところで何してる」
顔を上げると、風紀委員長だった。 ——あの、硬派な厳格で知られている先輩。
「別に……ちょっと、風に当たってただけです」
「泣いてただろ」
「泣いてません」
「嘘つけ」
そう言って、隣に腰を下ろした。 少しの沈黙のあと、彼がぽつりと呟いた。
「失恋か?」
「……はい」
「そうか。なら、今夜は奢ってやる。食堂で」
「え、なんで」
「お前の泣き顔見たら、ほっとけなくてな」
優しい声に、思わず笑ってしまった。 泣き笑いの顔を見て、風紀委員長も小さく笑った。
それが、たぶん俺の新しい恋の始まりだったのかもしれない。 いや、まだ恋と呼ぶには早いかもしれないけど—— 少なくとも、夜風がもう冷たくはなかった。
翌朝、寮の廊下で柊とすれ違った。 彼はいつもの笑顔で「おはよ」と言い、僕も同じように返した。 胸の奥に、少しだけ痛みが残っていたけれど、不思議と穏やかだった。 窓の外では、桜のつぼみがほころびはじめていた。 失恋のあとにやってくる春の匂い。 その匂いの中で、僕は小さくつぶやいた。
「次は、ちゃんと咲かせよう」
誰かが、きっと待っていてくれる気がした。
どうして俺の恋は、いつもこうなんだろう。 気づけばため息ばかりついている。電卓を叩く指が、ため息のたびに止まる。 机の上には未処理の伝票が山のように積まれていて、生徒会室には僕以外誰もいない。会長と補佐の嶺先輩は並んで帰り、副会長は風紀委員長に呼び出され、書記の先輩は部活でバタバタ。
今までサボっていた分をしっかりやれと会長に叱られてから真面目に顔を出すようになった。だって、まさか副会長が自室に仕事を持ち帰ってるだなんて知らなかったしもう一人の会長補佐になった真柴も俺と同じように行ってなかったから行かなくてもいいものだと思っていた。
実際は、会長補佐の仕事が少なかったというだけの話だったけれど。
残ってるのは自分ひとり。いつものことだ。
……いや、正確には、もうひとりいる。 生徒会室のソファで、眠たそうに頬杖をついている——柊。
柊は俺がサボらないようにお目付け役として会長がわざわざ呼び出していた。 転校生として学園にやってきた柊は誰とでも仲良くなれて、笑顔がまぶしくて、嶺先輩のファンクラブに入っていて。
柊は俺の恋の相手だ。
はじめて会ったのは、あの日。 学校行く途中の中庭で、派手なスニーカーを履いた彼が校舎案内図を逆さまにして見ていた。
「ここって、職員室?」 「……そんな訳ないでしょ。地図、上下逆になってる」 「マジか!どうりで外だと思った!」
その軽さに思わず笑ってしまった。 そして、僕は恋に落ちた。まっすぐに。
だけど彼の目の先には、ずっと嶺先輩がいた。 それを知ったのは、案外すぐのことだった。 生徒会の打ち合わせの帰り、歩きながら彼がぽつりとつぶやいたのだ。
「嶺先輩ってさ、綺麗だよね」
あのときの声の柔らかさを、まだ忘れられない。 嶺先輩に向ける眼差しが、僕には一瞬で分かった。
——あ、柊は先輩のことが好きなんだ。
そしてその瞬間、俺の恋は片思いに変わった。
それでも、諦められなかった。 彼と話す時間が楽しくて、文化祭の買い出しも、試験勉強も、何気ない雑談さえも、全部が宝物みたいに感じた。 彼は本当に優しい。気取らず、嘘がなくて、時々ちょっと鈍くて。 だから僕は、笑いながらも心のどこかでいつも泣いていた。
そんな中で起きた、嶺先輩と会長の交際発覚。 校内が一気にざわついた。 親衛隊が騒ぎ、副会長が青ざめ、そして柊は—— 笑ってた。
「そっかぁ……あの二人、そうだったんだ」
その声は軽かった。でも、笑顔の端が震えていた。 俺は何も言えなかった。 肩を抱くことも、慰めることもできず、ただ隣でコンビニの袋を握りしめていた。
その日の夜。 寮の廊下で偶然会った彼が、ぽつりと言った。
「なぁ、真弥。俺、先輩のこと、結構本気だったんだよね」
「うん、知ってる」
「でもさ、もうやめる」
「……そう、なんだ」
「代わりに、今度は別の人を好きになってみようかな」
その言葉で、心臓が跳ねた。 からかいかと思った。けど、目はまっすぐで、冗談ではなかった。 俺は答えられなかった。 そのまま、何も言えずに逃げるように自室に戻った。
それからの俺は、ちょっとおかしかった。 会計の仕事は後回し、書類は溜まりっぱなしで放置、頭の中は彼の笑顔でいっぱい。 誰かが笑うと彼の声に聞こえたし、風が吹くだけで香水の匂いがした。
——恋って、バカだ。
分かってても止められない。
でも、いつまでも逃げているわけにはいかなかった。 ある日の放課後、校舎裏で彼に声をかけた。
「……柊、話、ある」
「ん?どうしたの」
「俺さ、お前のことが好き」
言葉はそれだけだった。準備していた台詞なんて全部どこかに消えて、気づけば心臓の音だけが響いていた。 柊は目を見開き、すぐに笑った。
「ありがとな。でも、ごめん。やっぱり先輩のこと、まだ諦められない」
——やっぱり、そうだよな。 分かっていたけど、涙は勝手に出てきた。 笑おうとしてもうまく笑えなかった。
「バカだなぁ、俺……」
「うん、バカだよ」
柊は優しく笑って、俺の頭をぽん、と叩いた。
「でも、そんな真弥が結構好きだぜ。友達としてな」
その言葉に救われたような、さらに痛くなったような。 混ざった気持ちで曖昧に頷くしかなかった。
そのあとどうやって帰ったのか、覚えていない。
気づけば寮の裏庭で、芝生に座り込んでいた。 夜風が冷たくて、涙が乾かないうちに誰かの影が伸びてきた。
「生徒会の……会計か? こんなところで何してる」
顔を上げると、風紀委員長だった。 ——あの、硬派な厳格で知られている先輩。
「別に……ちょっと、風に当たってただけです」
「泣いてただろ」
「泣いてません」
「嘘つけ」
そう言って、隣に腰を下ろした。 少しの沈黙のあと、彼がぽつりと呟いた。
「失恋か?」
「……はい」
「そうか。なら、今夜は奢ってやる。食堂で」
「え、なんで」
「お前の泣き顔見たら、ほっとけなくてな」
優しい声に、思わず笑ってしまった。 泣き笑いの顔を見て、風紀委員長も小さく笑った。
それが、たぶん俺の新しい恋の始まりだったのかもしれない。 いや、まだ恋と呼ぶには早いかもしれないけど—— 少なくとも、夜風がもう冷たくはなかった。
翌朝、寮の廊下で柊とすれ違った。 彼はいつもの笑顔で「おはよ」と言い、僕も同じように返した。 胸の奥に、少しだけ痛みが残っていたけれど、不思議と穏やかだった。 窓の外では、桜のつぼみがほころびはじめていた。 失恋のあとにやってくる春の匂い。 その匂いの中で、僕は小さくつぶやいた。
「次は、ちゃんと咲かせよう」
誰かが、きっと待っていてくれる気がした。
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