【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97

文字の大きさ
15 / 29

14

しおりを挟む
あの日のことは、僕が後になって兄本人から詳しく聞いた話から知りました。
僕は自室で待機していましたが、兄がどれほど動揺していたかは、もちろんその場にいない僕には分かりません。
しかし、兄の言葉を通してその時の情景や、兄の心情が鮮明に浮かび上がってきました。

「……あの日、……生徒会室で泣いていた後……」

兄は少し顔を伏せ、遠慮がちに話だします。
僕は静かに頷きました。兄を少しでも安心させて話しやすくさせたかったからです。
あのとき、僕は兄の涙に気づきながらも、背中を撫でることしかできずにいたのです。
控えめに見守るしかなかったあの日の自分が、今では少し悔やまれます。

「生徒会室で、転校生の話が出て、つい泣いてしまって……みんなの前で……」

僕はその言葉を聞きながら、胸がぎゅっと締め付けられるのを感じました。
普段の兄は、冷静で凛として、誰もが一目置く存在。
しかし、あの日はまるで幼い子供のように、心の揺れが表に出てしまったのだそうです。

兄が話すには、あの転校生の存在が、自らの弱さを露呈させる引き金だったそうです。
風紀委員長は、いつも穏やかに振る舞い、転校生と楽しそうに会話をします。

ーー自分と会話する時はあんなに楽しそうだったか?もっと笑顔が少なかった気がする。

その姿を見た会長は、胸の奥で小さな嫉妬が芽生え、心臓がどきどきと高鳴ったといいます。

「……もう諦めるしかないんじゃないかと思ってた……俺があの人に勝てる訳がないって……」

僕は黙って、兄の手を取りました。あのときの兄の心が、どれほど不安定で繊細だったかを、改めて理解した瞬間でした。



僕達生徒会役員がひたすら空気に徹して数十分以上経っていた頃、風紀委員長が生徒会室にやってきました。

風紀委員長は、すぐにその異様な空気感に気が付きます。
一人で泣いていた兄を見て、風紀委員長は一瞬、少し眉をひそめていました。
普段の凛とした兄の姿からは想像できない光景。
何があったかを目線で訴えられますが、皆で風紀委員長のことを一斉に指差ししたので、逆に怯まれました。

しかし、風紀委員長は迷うことなく静かに近づき、兄の手を取り、ただ優しい目で見つめました。

「会長……大丈夫か?」

その一言で、兄は一気に心が揺れ動き、さらに涙が滲んだといいます。
普段は絶対に見せない表情を、風紀委員長だけには見せてしまう――それが兄の心をより不安定にしていました。
そして、風紀委員長はふと提案しました。

「少し、外に出てみないか? 落ち着ける場所があると思うから」

兄は一瞬ためらったそうですが、心の奥で「このままでは自分を抑えられない」と思い、頷きました。
二人は廊下に出て、静かな場所へ向かいます。僕達も実はこっそり後をつけました。
校舎の中では、まだ生徒たちの声や足音が響いていましたが、兄と風紀委員長が通る際には、まるで時間が止まったかのような静けさがありました。

風紀委員長は、兄を寮の自室、風紀委員長の部屋へと連れて行きました。
僕達生徒会役員も、今日は解散しようということになり、各々の部屋に帰りました。





「……俺は……転校生のあの人に君を取られたような気がして……心がざわついてしまった……」

兄の言葉に、風紀委員長は軽く笑みを浮かべました。
しかしその笑みはからかいではなく、落ち着かせるためのものです。

「会長、僕はあなただけのものだ。他の人は誰も好きにならない」

その言葉を聞いた瞬間、兄の心拍数はさらに上がったといいます。
普段の冷静な自分が、こんなにも動揺する。
それを風紀委員長に見抜かれたと思うと、赤面し、息が詰まる思いになったそうです。

部屋に入り、リビングのソファに腰を下ろした二人。
兄は顔を伏せ、言葉を絞り出すように小さな声で呟きました。

「……俺は、普段は誰にも弱みを見せたくない。けれど、君の前では……どうしても……心が揺れてしまう……」

風紀委員長はその言葉をじっと聞き、少しだけ微笑みました。
腰に手を回され、身体と身体が密着したそうです。

「無理に強がる必要はないよ。会長のそのままの気持ちを、僕は受け止めたい。」

兄はその優しさに、思わず小さく涙をこぼしたと言います。
普段は誰も見ていないと信じていた心の奥を、風紀委員長だけが理解し、受け止めてくれる。そのことに、会長は心底安心したのだといいます。


その後、風紀委員長の顔がゆっくり近づき、キスをされたと言う兄はまだ顔を赤くしていましたが、心の内のもやもやが少しずつ解け、風紀委員長への気持ちの大きさを実感したといいます。

「……絋、あの日の風紀委員長の言葉と……はじめてのキスは、忘れられないものになった」

僕は頷き、そっと兄の表情を見ました。あの瞬間、兄の心が少しでも軽くなったことを知り、僕も安堵しました。

兄が後から語った通り、嫉妬に揺れる自分を認め、風紀委員長に心をさらけ出すことで、二人の間には確かな距離感の変化が生まれました。
それは、僕が後から聞いても、兄の表情や声の震えから生々しく伝わってきました。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

処理中です...