可愛い悪魔の飼いならし方

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第二章

天然系意地悪彼氏-1 ※

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 彼の言葉は、魔法みたいだ。
 甘く柔らかなその声には威圧感だとかそんなものは微塵もない。なのに、ああして、こうしてとお願いされると、言うことを聞きたくなってしまう。今だって、ユーゴはレイに乞われるまま、へッドボードに背中を預けて座っている彼の太ももの上に跨り、座っていた。

「口、開いて?」

 ユーゴは微かに身を震わせて、それから言われたとおりに口を開く。

「いい子やね」

 レイに褒められると、嬉しい。嬉しくて、もっともっととねだりたくなる。
 ふふっと笑った気配がして、両の頬がレイの手に包まれる。薄く開いた唇がするりと撫でられ、それからレイの人差し指が中に侵入してきた。

「んん…っ」

 口の中に入れられた指が、カリリとやさしく上あごを引っ掻いて、あまい痺れに声が漏れてしまう。普段、指でなど触れられることがない口の中を、レイが探る。そうやって薄い粘膜をなぞられるたびに、ユーゴの身体はぴくんぴくんと陸に打ち上げられた魚みたいに跳ねた。
 唾液が溜まって、口の端からつうっと涎が垂れる感触がする。眉根を寄せて見上げると、レイはひどく楽しげな表情でユーゴを見ていた。

 その瞳はいつものブラウンではなく、深い紅玉の色をしていて、とても綺麗だ。
 レイ曰く、今日はお揃い、らしい。
 ところどころに銀のメッシュが入った黒髪、黒曜石のような角、紅玉の色をした瞳。それから、今は仕舞われていて見えないけれど、月のない夜の色をした羽根。
 どれも普段のレイとは違うけれど確かにレイで、しかも普段の彼より更に美しかった。

「ん…っ。ぁあ……」

 ずるりと引き抜かれた指が、自分の唾液でてらてらと濡れている。ユーゴはそれから目を逸らして、乱れた息を整えながら手の甲で口元を拭った。
 すっかり息があがってしまっていて、けれど休む暇は与えられない。頬を両の手で包まれ、軽く引き寄せられる。そっと唇が重なって、レイの舌がするりと中に侵入してきた。
 指で散々探られた腔内は、すでにとても敏感だ。レイの舌があちこちをくすぐるたび、ぴくんぴくんと恥ずかしいくらいに身体が跳ねる。腹の奥から背筋を伝って、ぞくりとするような快感が這いあがってくる。
 なんだかこのまま身体が崩れ落ちてしまいそうな気がして、ユーゴはあわててレイの肩を掴んだ。応えるようにまわされたレイの腕がぎゅうとユーゴを抱きしめる。ぴったり重なった裸の胸から、お互いの心音が聞こえた。ド、ド、ドと鳴るその音が、自分の方が大きい上に速いことに気が付いて、ユーゴは少し悔しくなる。

 レイの愛情を疑っているわけではない。
 でもやっぱり、自分の気持ちの方が大きいような気がしてしまう。
 今、ユーゴの世界の大半はレイで占められている。けれどレイの世界にはユーゴ以外にもたくさん人がいて、交流がある。そんな当たり前のことに今日、改めて気付いてしまった。
 レイが悪魔であることを隠していたことについては、もちろん驚いたけれど、実はそれほど怒ってはいない。あんなに悩んだのに、という気持ちはなくはないけれど、内容としては朗報だ。びっくりさせたかった、という馬鹿みたいな理由だってレイの性格を考えれば、さもありなんと思える。
 むしろ隠されていた背景や、彼に大勢の仲間がいたことの方が、ユーゴにはショックだった。
 ここ数ヶ月、ずっとレイと行動を共にしてきた。恋人で相棒で、色々とわかった気になっていたけれど、実はレイのことなど何も知らなかったことに気付いてしまったのだ。他の人の方が断然、彼を良く知っている。
 出会ってからの日数を考えれば当たり前のことだと、冷静に考えればわかる。わかるけれどどうしてもモヤっとしたものが胸に湧いてしまうのだ。
 そんな自分の狭量さに呆れていたし、思っていたよりずっとずっと欲深いことにも驚いていた。

「なに、考えとるん?」

 体勢を入れ替え、ベッドの上にころんとユーゴを転がしながら、そう問うてきたレイを見上げた。ユーゴの顔の両脇に手をついて、少し拗ねたような顔をしてこちらをじっと見つめている。

「おれのことだけ、考えて」

 馬鹿だな、と思う。
 聞きたいこと言いたいこと、たくさんあるはずなのに、レイにそんなことを言われたらすべてがどうでもいいような気がしてくる。
 
「…考えてるよ」

 たぶん、ユーゴは本当にレイのことばかり考えている。拗ねる必要なんかないのだけれど。
 触れた部分から気持ちが伝わればいいのにと思いながら、ユーゴはその首に腕をまわし、自分からレイにそっと優しく口付けた。


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