可愛い悪魔の飼いならし方

第二章

天然系意地悪彼氏-2 ※

　レイの唾液は甘い。
　声だって、甘い。
　レイとのキスやセックスは食欲と性欲の境界が曖昧で、ユーゴはすぐにわけがわからなくなってしまう。
　今だって、口の中はレイの味でいっぱいだ。取り込んだ精気が身体を巡りながら、さっき付けた角に流れ込んでいくのもたまらない。じんじんするような微妙な感じがして、ひたひたと身体の奥に熱が溜まっていく。

「ん…っ！」

　唇を離れ首筋を辿っていたレイの舌が、鎖骨にたどり着いた。軽く歯をたてられて、刺激に思わず声が漏れる。ふふっと笑った気配がして、レイの左腕がするりとユーゴの腰に回った。え？　と思っているうちに腰が浮かされ、履いていたスラックスが器用に下着ごと取り払われる。

「まだ、何もしとらんのに」

　ユーゴのぼんやりとしたままの耳に、少し笑いを含んだ声が聞こえた。言葉の意味を理解した途端、急速に理性が戻ってくる。
　あわててそこを隠そうとした手を、レイの手がサッと払った。

「駄目やって」

　すっかり勃ちあがっていたものを、その手にきゅっと握り込まれる。甘い痺れが一気に走り抜けて、ユーゴの背が弓なりに反った。

「あ、あ、ああ…っ」

　ゆっくりと扱かれて、そこがぬちぬちと音をたてる。更に先端を捏ね回されると、高い声が漏れた。
　耳も口も塞ぎたかったけれど、先端や裏筋の弱いところばかり責められて、そんな余裕もない。シーツをきゅっと掴みながら喉を晒すばかりだ。

「かわい」

　チュッとわざと音をたてて、レイがユーゴに口付ける。同時に先端の割れ目をグリグリされると、とぷと先走りが溢れた。そのまま追い立てられ、あっさりとイかされる。はぁはぁと荒い息をつきながら、涙でぼやけた視界でパチパチと瞬きをしていると、レイがユーゴの膝裏に手を添えてぐっと上に持ち上げた。
　力の抜けた足を肩に乗せたレイが何をするつもりなのかを察して、ユーゴは緩く目を閉じた。穴の周囲をレイの指が辿っているのがわかる。少しぬるついているのは潤滑剤を使ったからだろう。いつの間に、と思っていると、つぷと指が一本ユーゴの中に侵入してきた。

「ん、あぁ…っ！」

　柔らかい内壁を押し広げて異物が入ってくる感覚に、ユーゴはきゅっと眉根を寄せる。そのまま優しく掻き回されて、あ、あ、あ、と細い声が断続的に漏れた。
　くちくちと抜き差しをされて、また掻き回される。二本、三本とレイの指が増えるたび、腹の奥がじくじく熱くなって、耐えきれずにユーゴはレイに腕を伸ばした。

「…も、いいからっ」

　ユーゴの言葉にレイは一瞬キョトンとして、それからスッと目を眇める。

「なにが？」

　こういうときのレイは意地悪だ。
　ユーゴはきゅっと下の唇を噛む。

「ちゃんと言ってくれんと、わからんよ？」

　そう言ってレイはわざとらしく、ユーゴの中の腹側にある微かな膨らみをカリリと優しく掻いた。急な強い刺激に、ユーゴの身体がビクンと跳ねる。

「い、入れてっ」

　なおもそこを執拗に擦るレイに、ためらいながらユーゴはそう答えた。一瞬レイの動きが止まって、チラとユーゴの顔を見る。

「なにを、何処に？」

　またしても意地悪な問いを返され、ユーゴはぐっと奥の歯を噛んだ。恥ずかしさで顔が熱くなってくるし、中もじくじくと熱を持っている。けれど言わなければ終わらないのも、もう、経験上知っていた。

「ねえ？」

　甘えた声でそう聞いて、レイが入れた三本の指をぐりっと動かした。

「ああ…っ！！」
　
　高い声が漏れて、また、中を優しく擦る動きに変わった指に、目の前がチカチカ明滅しはじめる。
　ユーゴは一度ぎゅっと唇を引き結んで、それからゆっくりと唇を舐めた。　

「ぼ、僕のなかに、レイくんの…を、入れて、……ぐちゃぐちゃに、か…、掻き回して、くだ、さい」

　羞恥で発火しそうだと思いながら、とんでもなくはしたないことを口にする。ぽろりと一粒、涙が頬を滑り落ちた。

「ちゃんと言えて、偉かったね」

　ユーゴを褒めながら、レイが指をずると引き抜く。その感触にぶるりと震え、かわりに押し当てられた熱に腹の奥がきゅんと鳴いた。

「ああっ！」

　狭いところを割り開いて、レイの熱がぐぐぐとユーゴの中に入ってくる。そこはもうぐずぐずに溶けていて、痛くはないけれど圧迫感は凄まじい。押し出されるようにポロポロと溢れる涙に、レイがチュっと口付けた。

「痛くない？」

　はあはあと荒く息をつきながらレイが訊ねる。何度もしている行為だ。けれどレイは意地悪を言っても無理はさせない。ユーゴが、大丈夫と返すのを待ってから、そろりと腰を使いはじめた。

「あ…っ！　あ、あん、ん…っ！」

　浅いところを出入りされて、じんじんと痺れるような気持ち良さに声をあげて身を捩る。あ、あ、あ、とレイの動きに合わせて漏れてしまう声が恥ずかしくて、ユーゴは手で自分の口を覆った。

「だーめ」

　けれどその両手はすぐにレイに捕まえられて、右も左もシーツの上に縫い止められてしまう。そのまま、チュッと口付けられてキョトンとしていると、レイが自身をずるりと抜いて、ユーゴをくるりと裏返した。
　びっくりして振り返ろうとしたユーゴの耳に、ひたとレイが唇を付ける。

「もっとぐちゃぐちゃに掻き回してあげるから、ちゃんと、どこがどう気持ちいいか、おれに教えて？　ね？」

　甘えたような話し方は可愛いけれど、内容はとんでもない。どうしよう、と迷っている間に腰を高く持ち上げられ、そこに再度熱が押し当てられる。

「んん…っ！！」

　もうすっかり解けている入口は、容易くレイの侵入を許した。そのまま奥へ奥へと深く入り込まれて、ユーゴの背が撓る。

「や、やだ…っ。ふか、深いっ」

　一番奥に当たるほど入れられて、そのまま中を揺さぶるよう小刻みにレイが動く。

「ね、だめ。それ、やぁ…、ん、ん、あ…ぁっ」
「どうして？　好きでしょ？　これ」
「ゃあ…っ」
「ほら、ゆーちゃんの中、きゅうきゅう締まる。おれ、めっちゃ気持ちいいよ？　ゆーちゃんは？」

　答えないユーゴに焦れたようにレイが中を揺らした。あ、あ、と声が止まらなくなる。

「きもち、いい、よ。おく、気持ちいい。でも、こわい。内蔵揺さ、ぶられて、きもちよすぎて、こわ、い。だめに、なる」

　やっとのことでそう言って、ユーゴはきゅっと目を瞑った。中に入っているレイがまた少し膨らんだ気がして、ぞくりと背中を快感が這い上る。

「…じゃあ、もっとだめになって」

　そう言ったレイの声はとびきり甘かった。
　とびきり甘いのに、容赦はしてくれない。

　だめ、と言った言葉がレイの耳に届いていたのかはわからない。腰を抱え直されたと思った途端、中を穿つスピードが速くなった。ガツガツと最奥を突かれ、目の前がチカチカしてくる。

「あ、あ、あ───…っ！」

　一瞬、目の前が白くなって、それから空を飛んでいるときのような浮遊感が訪れる。パタパタとシーツに白いものが散ったのが見えて、ようやく自分が射精したのだと理解した。なのに。

「ああ……っ！ 　あ、あ、だめ…っ！　いま、まだ……っ」

　止まる気配のないレイにユーゴは青ざめた。
自分の意思とは無関係にきゅうきゅうと中のレイを締め付けながら、尚も突きあげられる快感に悲鳴をあげる。

「やあっ！！ ま、って！ ぼく、今イッたばっ、か……っ。あ、やだ、やだぁ！ レイくん……っ」
「うん。でも、もうちょっと」

　ごめんねと言いつつ中を責め立てながら、レイはユーゴの背中に口付けた。そのまま肩甲骨を舌で辿り、うなじに歯を立てる。

「ひぁっ！」

　ビクンと震えた身体を強く抱きしめながら、レイはまた激しく腰を動かした。

「あっ！　 あ、あ、あ───……っ」
「…っ、出す、よ」

　自分の中が濡らされる感覚にふるりと震えながら、ユーゴは目を見開いた。腹の奥深くに中がたぷたぷになりそうなほど注ぎ込まれて、閉じることを忘れたユーゴの口から細い悲鳴と涎がぽたぽたと落ちた。その身体は小刻みに震えていて、焦点の合わない瞳は瞬きを忘れている。
　いつの間にか自分もイったのだと、少し遅れてユーゴは理解した。それでも止むことのない快楽の波に攫われて、びくり、びくりと身体を震わせながら、ユーゴはシーツの上にゆっくりと沈んだ。