可愛い悪魔の飼いならし方

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第二章

お誘い

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「ゆーちゃん。おれ、見回り行ってくるね」

 うん。とユーゴはベッドの中からくぐもった声で返事をした。パタンと部屋のドアが閉まる音がする。どうしようかと少し考えて、それからのそのそと布団の中から這い出た。
 例の仕事のための見回りだ。状態が状態なのでユーゴはまだ参加出来ずにいる。セオドアにはちゃんと説明しといた! とレイは言っていたけれど、何をどう説明したのか、考えるとちょっと怖い。
 角を着けてもらってから一日と半分、そのほとんどをユーゴはベッドの上で過ごしている。怠惰だし爛れている、と恥ずかしく思わないでもないけれど、角がきちんと定着しないことには仕舞えないし、仕舞えなければこの部屋の外に出ることもできない。仕方がないと割り切ることにした。
 そうしてレイと頑張ったおかげか、角はだいぶユーゴの身体に馴染んできている。最初はひと目見ておかしいとわかるほどだった角の段差もだいぶ解消されてきた。見た目だけでなく、体調だってすごくいい。角一本でこれほど違うのかと驚くほどだ。
 ユーゴは裸足のままペタペタ歩いてバスルームに向かった。それからそこの鏡に映る自分を見る。片方だけ角のついた姿は見慣れない。まあ、擬態を解いた姿自体、あまり自分で見ることはないのだけれど。

「あ、れ?」

 瞬きをひとつしている間に空気が揺らいだような違和感を覚えて、ユーゴはきょろきょろと辺りを見回した。途端、するりと何か柔らかいものが足を撫でて、びっくりして飛び上がる。うひゃあとユーゴが間抜けな声を上げると、その生き物が驚いたように後ろに飛び退いた。

「あ…タフィーの…」

 まだ少し怯えているキジトラの猫を抱き上げると、その子がにゃーんと声をあげる。確か、メーメ、という名前だった、はず。
 記憶を辿りながらその頭を撫でると、『おい』と低い声がメーメの口から聞こえた。たぶん、タフィーの声だ。

『具合、どう?』

 メーメを通じて連絡すると言っていたけれど、こういう方法なんだな、と感心する。喉元を撫でると、メーメがぐるるると喉を鳴らした。
 タフィーたちがどういう説明を受けているのかわからないけれど、普通に状態を把握してくれていると信じて、「もうほとんどくっついてるよ」と返事をする。

『角、まだ仕舞えない感じ?』
「どうかな。試してないからわかんないけど……何で?」
『これからショーがあるんだよ。レイくんも出るみたいだし、ユーゴも見たいかな? って思って』
「……は?」

 聞いてないが? と半眼になりながらタフィーから詳しく話を聞くと、これからこの船の名物になっているショーが開催されるのだという。

 この一日と半分、寝物語に色んな話をレイから聞いた。だからそれが、この船の目玉とも言える催し物で、船長のセオドアを筆頭に、テオ、リアム、アランの四人が歌ったり踊ったりするショーだ、というのは知っている。それを目当てにこの船に乗る人も多くいるほどの人気で五日に一度くらいのペースで開催されている、とも。更にそれが、人々の精気を少しずつ集める装置の役割を果たすというのだから、驚きだ。

 『一緒に見に行こうね』と約束はしていた。
 けれど、レイ本人が出る、などという話は一言も聞いていない。

「行く」

 レイはユーゴの角の状態を慮ったのかもしれないけれど、正直、自分だけ何も聞かされていないのは面白くなかった。
 大丈夫なの? と心配するタフィーに、大丈夫と強めに言って、ユーゴは恐る恐る角に力を入れた。
 多少引っかかるような感触はあったものの、特に問題なく角はするりと小さくなってユーゴの中に入っていく。

「…よし」

 大丈夫だった旨をタフィーに伝えて、待ち合わせ場所を決める。パタパタと忙しく動き始めたユーゴの足にじゃれついて、メーメがにゃあんと甘えたように鳴いた。


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