呪いなんて怖くない!〜木こりの息子と仮面の少年

閑人

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35.塔

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 その後蜂の巣を突いた様な騒ぎに…はならなかった。話を聞いた警備の人は一瞬狼狽えたが、すぐに
 
 「ここで待ってて」

と手近な部屋に俺たちを案内してどこかに行ってしまった。

 「…まずい事になった?」

せいぜい先生と寮長に叱られて終わると思っていたのに…豪華な室内の隅っこで途方にくれる俺たち。

 「ただの校則違反とかではこうは扱われないからね。何か知られてはいけない事を知ってしまったのかも」

 「…巻き込んでごめん。もし本当にまずい事になったら床と壁を壊すからその間に学園の馬に乗ってお前だけでも逃げて。俺は大丈夫だから」

 「私も断ればよかったのだから同罪だ。…『俺は大丈夫』ってどうする気なのかい?」 

 「あちこち壊してお前を逃した後、この子たちに助けてもらうよ」

と俺たちと同じく隅っこにいたネズミを指差した。

 「ひっ!ごめん、ネズミさんは苦手なのでもう少し離れてもらってもいいかな?」

 怯えてても「さん」つけるんだな。

 「石造の建物は暖かいらしくて思った以上にいるんだよね、ネズミ。俺が呼んだら集まってくれる事になってるから、ここが足の踏み場もなくなるくらい集めて皆がお前と同じ様になってる隙に逃げる予定」

 「たくさんのネズミさん…考えるだけで恐ろしい。ひょっとしてハインリヒ君の時もそうやって逃げるつもりだったとか?」

 「あたり。ただあの時はまだそこまで頭数が集められそうになかったから、壁と床壊しまくって…それでも追って来る奴がいたらって思ってた」

 などと話していると、人が現れた。副学園長とオットー先生だ!オットー先生だけならともかく、もっと偉い先生まできてしまった。まずい。本当にまずい。これは本格的に逃げる算段をせねば…
 俺たちの様子を見て、寝起きなのか髪の毛がぼさついているオットー先生は副学園長に詰め寄った。

 「彼らが何をしたというのですか?確かに夜勝手に寮から抜け出すのは校則違反ですが、それなら反省文などで充分でしょう?そんな大事では…」

 そんなオットー先生をまあまあと宥めながら副学園長はこう言った。

 「いえいえ、彼らにちょっと口止めしたい事があるのでこんな場を設けたんです。で、ですね彼らを口止めしても『彼らはオットー先生に嘘をつけない』と思ったのでこの際あなたも含めまとめて事情説明と口止めを一気にしてしまおうと」
 
 事情説明?口止め?

 退学とか処罰とかじゃなくてよかったが…全く話が読めない。それはルドルフもオットー先生も同じらしい。顔を見合わせて悩んでいる。

 「とにかくあの方をお待たせするのもなんですので、行きましょう」

 副学園長に連れられてきたのは隣の塔だった。

 「ここって立ち入り禁止なんじゃあ…」

 恐る恐るオットー先生に確認すると

 「そうです。学生どころか職員も立ち入り禁止の場所です。中が傷んでて危険だと聞いていたのですが」

 そんな俺たちには構わず、副学園長は塔の扉を古びた鍵で開けた。ギィーと軋む音が恐怖を誘う。

 「さあ上がりますよ。足元暗いので気をつけて」

 塔の中に入ってみると確かに暗くて陰気ではあるが、傷んでて危ないという感じではない。むしろ…

 「ルドルフ、この塔の中って実は豪華?」

 キョロキョロと辺りを見渡したルドルフは

 「そうだね。この燭台なんて年代物だよ。あの壁に掛
かっているタペストリーも多分良いものだね」

 オットー先生に至ってはポソポソと「あれは〇〇作の!」とか「こんな素材をふんだんに!」とか言っているので、わかる人にはわかるんだろう。

 そうこうしているうちに1番上の階に到着した。そこには『学園長室』のプレートがかかっている重そうなドアがあった。コンコンと副学園長はそのドアをノックし
 
 「失礼します。全員連れて来ましたよ」

 「どうぞ」

 ん?どこかで聞いた事のあるような…

ドアを開けるとそこには

 「ラディさん!無事だったんですね!」

 ラディさんがいた。俺は彼の無事が嬉しくて駆け寄ろうとしたが、ルドルフとオットー先生はラディさんを見て固まった。そして最上級の礼をー足を揃えて手を前で組み、頭を下げるーをし始めた。何だ?

 『左にさしてある長剣のつかに左手を置き、足は肩幅、右手はゆったりと下げる』

 
 長剣こそさしてないが、王族の正式な作法…今のラディさんの姿そのままだった
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