呪いなんて怖くない!〜木こりの息子と仮面の少年

閑人

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44.誘拐 ③

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   <内>

 部屋のドアが開き、彼女が現れた。

 「正式にお会いするのは初めてよね、ルドルフ様」

とこんな山中に相応しくない艶然とした顔で私に微笑みかけた。強い化粧の臭いがする。

 「初めまして、ルドルフです。メヒティルト様」

 「手荒な事してごめんなさい。でもこうするしかなくって…あなたには私との結婚を『自分の意思』で決めて欲しいの。何日かけてもいいわ、その間丁重におもてなしするつもりよ」

 自分の意思か…国の法律では脅迫や暴行、監禁などによる意思表示は無効とされているはず。

 「こんな所に閉じ込めたら法律上『自分の意思』と認められないと思いますよ。私をここから出して下さい」

 「嫌よ。そうしたら逃げちゃうでしょ?」
 
 子どもみたいだな。予想はしていたけどやはり話が通じない…私の発言は却下された。そして
 
 「…香水の香り?ルドルフ様からかしら」

 『気づかれたか』私は動揺を抑えて
 
 「馬車が襲われた時、姉へのプレゼントの香水の瓶も割れて少々中身を被ってしまい…で、考え直してはいただけないでしょうか?」

 どんよりと焦点の合わない目をこちらに向けて、

 「あまり手荒にするなとは言っておいたけど…香水は今度弁償するわ。とりあえず紅茶をお出しするから、それでもお飲みになってこの部屋でじっくり考えておいてね」と言い、

 手下に紅茶を入れさせた。いい香りだな、これは『シャルロッテ』か…

 そして彼女は手下とともに部屋から出て行った。


    
   <外>

 「ここで匂いが途切れてるよ、リュどうする?」
  
 「おい!お前たち!」

 「この建物内にいるのは確実かな。でもどうするかな…どこにルドルフがいるのかわからないと手も足も出ないし…フォーちゃん探れる?」

 「聞いてるのか!おい!」

 うーんと首を捻ったフォーちゃんは

 「できない事ないけどさ、こういうのは小回りのきく奴の出番じゃね?そこで騒いでる奴みたいな」

 騒いでる奴?フォーちゃんの目線に合わせて地面の方を見るとカンカンに怒っているリスがいた。さっきから何か声がするなぁとは思っていたが…ごめん。

 「やっと気がついたか。お前俺と話せるんだよな?頼みたい事があるんだ」

 待って、こっちは今とーっても忙しいから後で…

 「手助けしてやってもいいぞ。一応この辺の仲間たちに顔は効くからな」大いばりのリス。

 本当なら渡りに船だ。

 リスが言うには、この石造りの建物が建った事で小動物たちに被害(餌を取ってた木が無くなった、巣穴が潰されたなどなど)が出ているので

 「お前たち人間の力で壊してくれないか、コレ」

 コレって建物本体の事か…やる気になればノラ先生もいる事だし壊す事は可能だけど、今じゃないな、ルドルフもこの中にいるし。それに…

 後ろにいた先生たちに

 「先生、この建物の中にルドルフがいると思うんだけど、ここってメヒティルトさん個人の物だと思います?壊したら何かまずいですか?」と質問した。

 「誰が作った物かはわかりませんが、ここは国有林なので、十中八九あの建物は違法建築物です。さっき私たちが通った道は国の防衛に大事な場所なので、その脇の森に個人がこんな建物建てる許可なんておりませんよ、国の建物ならいざ知らず」

 「ですよね~。国有の建物ならついているナンバープレートもついてないし~。誰が作ったにせよ、違法建築に間違いないでしょうね~。だったら救出に必要な範囲なら壊しても大丈夫~。さすがに更地にするのは論外ですけどね~」

 先生ってこんな事にも詳しいんだな。いい事聞いた。
 
 「なあ、リスさん。とりあえず『人が住めない状態にする』のはどう?屋根とか外壁の一部とか破壊するって感じ」

 「住めないかぁ…うーん」

 もう一押し

 「友だちを無事助け出したら、偉いさんに言ってきちんと更地にしてもらうからさ」

 「お前子どもだろ?偉いさんにツテあるのか?」

 「…いざとなったら俺1人で後で壊すよ」

 それを聞いた先生たちがこっちを見た気がした。

 「こいつ馬鹿力だからこのくらいの建物なら1人であっと言う間にぼろぼろにできるぜ」

 フォーちゃんフォローありがとう。

 「んー、よし協力してやる。その友だちを探せばいいのか?どんな顔だ?」

 「仮面を被った12歳の子!建物のどこにいるかだけでもいいから探してもらえないか?」

 「…仮面?お前も変だがそいつも変だな。まあいいや。探してやる」

 とリスは木に登り、鳴き声をあげた。『顔がきく』と威張っていた通り、10匹以上の仲間が集まり建物の周りに散っていった。
 
 「頑張ってくれよ」祈る気持ちで待つ時間は長く感じた。まだかなとちょっとイライラしてきたその時、リスが再び現れた。

 「待たせたな。出入り口の正反対、1番奥の部屋にいたぜ。半地下になってる部屋で、窓は檻みたいになってた。出入り口はドア1つ、その前にウロウロしてる奴らが2人。仮面の奴、優雅に紅茶飲んでたぜ?捕まってるんだよな?あとさ、そいつの口の辺りが見えたんだけど俺クラクラしたんだよな…あれ何だ?」

 え?リスも魅了にかかるの?教えてノラ先生。

 「生き物だからね~、人間ほどではないけど~」

 「おっかねえ人間もいるんだな。ま、とにかくこちらはきちんと頼まれた事をしたんだから、お前もキッチリやれよ」と念押ししてリスたちは森に消えていった。

 これで情報は揃った。ルドルフ今助けるからな。
 
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