呪いなんて怖くない!〜木こりの息子と仮面の少年

閑人

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45.誘拐 ④

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   <外>

 「救出完了の合図は指笛でするのでよろしく」

 先生との打ち合わせが終了。オットー先生の「学園の警備がきてからでも…」と言う意見は、ノラ先生の「その間にルドルフ君に何かあったら?」に退けられた。
 その言葉で腹をくくったらしいオットー先生は剣を試す様に振り「久しぶりだ…うまく使えるだろうか」と呟いた。大丈夫!先生たちはあいつらを引きつけてくれればいいんで。ルドルフさえ助け出せれば万事OKだ。
 「私はどのくらいやっていい~?」とノラ先生がこっそり俺に聞いた。 
 「派手にお願いします。ただオットー先生は巻き添えにしないようにだけ気をつけてください。この建物を壊すってリスと約束しちゃったんで」
 「だと思った~じゃ屋根は壊すと危ないから外壁中心に狙うね~楽しみ~」建物を壊していい機会なんてあまりないもんな…怖。
 そんな言葉を残して、先生たちは建物に向かった。

 「すげえなぁー、何あれ?あの女先生だよな?ぶっ壊してんの」文字通り木の上で高みの見物をしているフォーちゃんがびっくりしている。俺もびっくりだよ。

 開口一番「お邪魔しま~す。ダメだと言っても入りま~す」と大声で言い、ノラ先生は入り口をパンチ1発で粉々にして、建物内にオットー先生と乗り込んで行ったのだ。その後中でバタバタと音がして、「何だてめえ!」「なにしやがるんだ!」「こいつも化け物だ!」などと悲鳴とも罵声ともつかない声が外まで聞こえてきた。その間も外壁にボコボコ穴が空いていく。よし、敵を充分引きつけたところで俺の出番だ。
 


   <内>

 心を落ち着かせる為、紅茶を飲んでいると視線を感じた。窓を見ると愛らしいリスが窓際からこちらをじっと見ている。「何かご用かな?」と近づくとちょっとふらついた後、逃げて行ってしまった。
 身震いするほど窓際は寒い。ただ身体以上に心が寒い。今のところ危害を加えられる事はなさそうだが、それも彼女の気持ち1つで変わるだろう。
 一応救出しに来てくれた人たちがここに辿り着けるよう香水を使って匂いを残してみたが、もし馬車が発見されるまで時間がかかった場合、匂いが消えてしまう可能性が高い。その時は…どんな手をうったらいいのかと悩んでいると、何やら大きなー物を壊した時の様な音ーがして見張りたちがそれを確認する為にドアから離れた。これはとドアを動かしてみるが、残念ながら鍵がかけられていてびくともしない。でも見張りがいないのはチャンスには違いない。さてどうする私?思考をまとめる為部屋をうろうろする。すると
 
 「ルドルフ、窓から離れて」

 その声で反射的に窓際から離れた。次の瞬間重い音がして窓の鉄格子が窓枠ごと外され、見慣れた手がにゅっと伸びてきた。

 「ごめん遅くなって。さあ逃げよう!」

 私はその手をぎゅっと掴んで…


 俺はルドルフの手を掴んで引っ張った。半地下の部屋から引っ張り出すのに四苦八苦したが、なんとかルドルフを外に出す事に成功した。
 「身体強化でやれば簡単だったのでは?」
 開口一番それかよ?
 「まだ力加減ができないから骨折れるかもよ」
 「…そうか。あ、まだ言ってなかった…ありがとう。助かったよ」

 俺は指笛を高らかに鳴らした。


 俺たちはそのまま先生たちと合流する為建物正面まで戻った。誰も追ってはこない。正面に近づくと
 
 「「うわぁ…」」

 建物の惨状が目に入ってきた。「屋根は壊さない」とノラ先生は言っていたけど、確かに壊してはいないが、ここまで壁を壊したら屋根が落ちるのも時間の問題だ。

 俺の指笛を聞いた先生たちは建物から脱出し、俺たちと合流しようとこちらに向かってきた。するとその後ろで、どこに隠してあったのか手下たちがメヒティルトさんを馬に乗せて逃げようとしていた。俺たちの馬は森の入り口に繋いできてしまったので、追いかける事はできない。頼みの綱のノラ先生もさすがに魔力切れでへばっている。どうする?このまま逃げられてしまうのか?

 「兄さん!そいつらが誘拐犯だ!捕まえてくれ!」
 
 オットー先生のその大声を期に森の入り口付近からどっとガタイのいい集団が現れて、あれよあれよという間にメヒティルトさんたちは捕まって連れていかれた。

 「あれは騎士団じゃないか!どうしてこんな所に?」
 
 誘拐の話と王家の紋章つきの馬車が襲われた事を重く見た学園長が1番近くで演習中の騎士団を救助に向かわせてくれたらしい。逃げられなくて本当に良かった。
 そして森に残った騎士団のうちの数人は建物を取り壊し始めた。(と言ってもノラ先生があらかた壊していたのでどちらかというと片付けに近い作業のようだ)本当にここは軍事的に大事な場所なんだな…これでリスの約束も守る事ができてほっとした。
 騎士団の1人、1番偉いと思われるひときわ身体の大きく優しそうな目をした人が俺たちに怪我が無いことを確認した後、小声で
 「君たちのオットー先生ってどんな先生かい?」と聞いてきた。
 『武術を大切にしてきた家』
 『兄さん!』
 この人ひょっとして…
 
 「学生思いのとても良い先生です」

 とルドルフが言うと
 
 「そうか…」と呟き

 俺たちの頭をそのでっかい手でポンポンと撫でてくれた。手の触れた所がとても暖かく感じた。

 お迎えの馬車が学園から来て、俺たちはやっと帰途につくことができた。疲れてしまったオットー先生も魔力切れでダウン中のノラ先生も一緒だ。
 ふかふかの座席に着くと隣のルドルフが俺をつついて
 
 「ダメだ。何故だか涙が止まらない。どうしよう」

見ると肩が震えている。そりゃそうだよなあんな怖い目にあったんだから…あれ?俺もいつの間にか泣いているのに気がついた。おかしいな?
 
 先程の騎士団の人と同じ様な優しい目で
 
 「2人とも大変な目に会いましたからね。涙が出るのも当然ですよ」とオットー先生が言った。
 
 ノラ先生はどこから取り出したのか大きな袋(後で聞いたらルドルフを誘拐する時に使った袋らしい。『建物の中で拾った~』と言ってた)を俺たちに被せた。
 
 「何でこんな袋被せられた?」と思いつつも、俺たちは一緒に入れられた袋の中で泣き続けたのだった。

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