呪いなんて怖くない!〜木こりの息子と仮面の少年

閑人

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47.表舞台の大人たち ②

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 明朝早くに私は息子の無事を確認する為に学園の使者と屋敷を出た。出発前、シャルロッテに『彼女は遠くへ追放、そして外に出られない様にして欲しいと陛下にお伝えしてね』と何度も念押しされた。確かにそうでもしないとこれからもルドルフが今回みたいな事に何度も巻き込まれかねないので当然の訴えだ。私も陛下に強く伝えようと決めた。

 急ぎに急いで、数時間後私は学園に到着した。使者は少し先に行って、私の到着を学園に知らせておいてくれたので、学園内にスムーズに入る事ができた。それがなければ多分名前やら学生との関係やら面会理由やら色々聞かれて手間取った事だろう。ありがたい。

 「こちらでお待ち下さい」

 学生との面会の為の待合室に通された。そこには先客がいたが、何やらその姿に違和感が…
 私を同じくらいか少し若い彼は、疲れたように椅子に座りウトウトしている。そしてよく見るとズボンの裾や髪の毛が濡れていて…やっと気がついた。違和感の正体は『濡れてる』か。ここ1週間以上雨など全く降っておらず空気はカラカラなのに、わざと水たまりでも踏んだのかというくらいズボンの裾が濡れている。髪の毛も洗髪中なのかと思うくらいだ。どこで濡れたのだろうか?と向こうが寝ているのをいいことにしげしげと見つめてしまった。
 
 すると奥から学園の職員らしき人が現れて彼を起こし始めた。
 
 「ハンス様、このままでは冷えて風邪ひきますよ。こちらで乾かしますから一緒に来てください」
 
 その声でやっと目覚めた彼は、んーと大きな声をだし伸びをして「大丈夫大丈夫」と言ったが、職員は諦めない。2往復くらいそんなやりとりをして、渋々彼は立ち上がった。
 立ち上がった彼はかなり背が高かった。私も高い方だがその私より頭半分いや頭1つ分背が高い。そして厚い服の上からでもわかる筋肉質な身体つきも相まってとても大きく感じられる。そんな私の視線を感じとったのか彼はこちらを向き会釈し、職員の後をついて部屋を出て行った。意外にも苦笑いを浮かべたその顔は愛嬌があり、親しみを感じられる…と言うかどこかで見た事があるような気がするのだが?

 「エルンスト様こちらへどうぞ」

 名前が呼ばれて事務員のあとをついていくと、面会室の前を通り過ぎた。

 「おや?面会室ではないのですか?」

 「はい。本来は面会室を使うのですが、今回は関わった先生方から事情説明もしたいとの事なので…どうぞ」

 案内されたのは来賓用の部屋だった。

 「父上!」

 そこにはルドルフが先にいて待っていた。

 「職員は一旦席を外しますのでまずはお2人でお話し下さい。終わりましたらそこのベルを鳴らしていただけれれば…その後先生方とのお話し合いになりますので。では失礼します」

 そうか、彼の素顔を含めた様子などを確認したいという親心を理解してくれたのだな。第三者がいたら素顔になる事ができないから。

 ドアが閉められ職員が出て行ったのを見て、ルドルフは仮面を外した。泣き腫らした様な目をしてはいるが顔色は悪くない。
 
 「良かった無事で。心配したんだよ、怪我は?昨日は寝られたかい?」

 「はい怪我はありません。昨晩は変な夢をたくさん見た気がしますがよく寝られました。リュや先生方に色々助けてもらったので後で父上からもお礼をして下さいませんか?」

 あんな大変な目に合ったのに落ち着いている。ただ『変な夢』を見ているとの事なので精神的にはダメージがないわけではなさそうだ。彼の体調さえ許せばこの話し合いの後屋敷に連れて帰ろう。そしてゆっくりと冬休みを過ごしてもらおう。
 
 「どうだろうこの話し合いの後私と一緒に屋敷に帰らないか?元々帰省予定だったのだし、もちろんルドルフの体調次第だけれども」

 と私が言うと、彼はちょっとこちらを探るような眼差しでこちらを見て

 「帰省はしますが学園は辞めませんよ」

 あぁこんな事になったから学園を辞めさせられると思ったのだな。実はその考えもルイーゼから出たのだが、シャルロッテの
 
 『彼の未来は彼が決めるべきです。辞めたいのなら辞めればいいですがそうでなければ口出し無用です』

 と言う至極真っ当な意見に封じられたのだ。その事をそのままルドルフに伝えるとちょっと苦笑し

 「お姉様らしいですね。でも嬉しいです。あ!お姉様に頼まれた流行り物、あの騒ぎで壊してしまったのだった…手ぶらで帰省して怒られたりしないでしょうか?」

 そんな事を気にしているとは…大人びているがやはり子どもだなと感じた。


 そして私はベルを鳴らした。


 副学園長を筆頭に、痩せていて穏やかそうな男性の先生と小柄な女性の先生とリュ君が入ってきた。リュ君も泣き腫らしたような目をしている。ルドルフとお揃いだ。すぐ話が始まるのかと思ったが副学園長が
 
 「リュ君のお父様も心配していらしているので一緒にお話をしたいのですが…」  
 
 するとコンコンとドアがノックされ、職員が「リュ君のお父様をお連れしました」とドアを開けた。

 「いやーお待たせして申し訳ない。服を乾かすのに手間取りまして。初めまして、どうもリュの父です…ってあれ?先程待合室でお会いしましたね」

 あのずぶ濡れ大男が入ってきた。そうか!リュ君の実家のあるはじまりの村は今大雪だと聞いている。そこからやってきたのだから濡れているのは当たり前か。2人並んでいるのを見ると顔もリュ君そっくり。どうりで見覚えがあるはずだ。合点がいった。しかし大雪の村からここまで来るのは大変だっただろうに…子どもを心配する気持ちは彼も一緒なのだなと少し胸が暖かくなった。

 

 



 
 
 
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