47 / 51
47.表舞台の大人たち ②
しおりを挟む
明朝早くに私は息子の無事を確認する為に学園の使者と屋敷を出た。出発前、シャルロッテに『彼女は遠くへ追放、そして外に出られない様にして欲しいと陛下にお伝えしてね』と何度も念押しされた。確かにそうでもしないとこれからもルドルフが今回みたいな事に何度も巻き込まれかねないので当然の訴えだ。私も陛下に強く伝えようと決めた。
急ぎに急いで、数時間後私は学園に到着した。使者は少し先に行って、私の到着を学園に知らせておいてくれたので、学園内にスムーズに入る事ができた。それがなければ多分名前やら学生との関係やら面会理由やら色々聞かれて手間取った事だろう。ありがたい。
「こちらでお待ち下さい」
学生との面会の為の待合室に通された。そこには先客がいたが、何やらその姿に違和感が…
私を同じくらいか少し若い彼は、疲れたように椅子に座りウトウトしている。そしてよく見るとズボンの裾や髪の毛が濡れていて…やっと気がついた。違和感の正体は『濡れてる』か。ここ1週間以上雨など全く降っておらず空気はカラカラなのに、わざと水たまりでも踏んだのかというくらいズボンの裾が濡れている。髪の毛も洗髪中なのかと思うくらいだ。どこで濡れたのだろうか?と向こうが寝ているのをいいことにしげしげと見つめてしまった。
すると奥から学園の職員らしき人が現れて彼を起こし始めた。
「ハンス様、このままでは冷えて風邪ひきますよ。こちらで乾かしますから一緒に来てください」
その声でやっと目覚めた彼は、んーと大きな声をだし伸びをして「大丈夫大丈夫」と言ったが、職員は諦めない。2往復くらいそんなやりとりをして、渋々彼は立ち上がった。
立ち上がった彼はかなり背が高かった。私も高い方だがその私より頭半分いや頭1つ分背が高い。そして厚い服の上からでもわかる筋肉質な身体つきも相まってとても大きく感じられる。そんな私の視線を感じとったのか彼はこちらを向き会釈し、職員の後をついて部屋を出て行った。意外にも苦笑いを浮かべたその顔は愛嬌があり、親しみを感じられる…と言うかどこかで見た事があるような気がするのだが?
「エルンスト様こちらへどうぞ」
名前が呼ばれて事務員のあとをついていくと、面会室の前を通り過ぎた。
「おや?面会室ではないのですか?」
「はい。本来は面会室を使うのですが、今回は関わった先生方から事情説明もしたいとの事なので…どうぞ」
案内されたのは来賓用の部屋だった。
「父上!」
そこにはルドルフが先にいて待っていた。
「職員は一旦席を外しますのでまずはお2人でお話し下さい。終わりましたらそこのベルを鳴らしていただけれれば…その後先生方とのお話し合いになりますので。では失礼します」
そうか、彼の素顔を含めた様子などを確認したいという親心を理解してくれたのだな。第三者がいたら素顔になる事ができないから。
ドアが閉められ職員が出て行ったのを見て、ルドルフは仮面を外した。泣き腫らした様な目をしてはいるが顔色は悪くない。
「良かった無事で。心配したんだよ、怪我は?昨日は寝られたかい?」
「はい怪我はありません。昨晩は変な夢をたくさん見た気がしますがよく寝られました。リュや先生方に色々助けてもらったので後で父上からもお礼をして下さいませんか?」
あんな大変な目に合ったのに落ち着いている。ただ『変な夢』を見ているとの事なので精神的にはダメージがないわけではなさそうだ。彼の体調さえ許せばこの話し合いの後屋敷に連れて帰ろう。そしてゆっくりと冬休みを過ごしてもらおう。
「どうだろうこの話し合いの後私と一緒に屋敷に帰らないか?元々帰省予定だったのだし、もちろんルドルフの体調次第だけれども」
と私が言うと、彼はちょっとこちらを探るような眼差しでこちらを見て
「帰省はしますが学園は辞めませんよ」
あぁこんな事になったから学園を辞めさせられると思ったのだな。実はその考えもルイーゼから出たのだが、シャルロッテの
『彼の未来は彼が決めるべきです。辞めたいのなら辞めればいいですがそうでなければ口出し無用です』
と言う至極真っ当な意見に封じられたのだ。その事をそのままルドルフに伝えるとちょっと苦笑し
「お姉様らしいですね。でも嬉しいです。あ!お姉様に頼まれた流行り物、あの騒ぎで壊してしまったのだった…手ぶらで帰省して怒られたりしないでしょうか?」
そんな事を気にしているとは…大人びているがやはり子どもだなと感じた。
そして私はベルを鳴らした。
副学園長を筆頭に、痩せていて穏やかそうな男性の先生と小柄な女性の先生とリュ君が入ってきた。リュ君も泣き腫らしたような目をしている。ルドルフとお揃いだ。すぐ話が始まるのかと思ったが副学園長が
「リュ君のお父様も心配していらしているので一緒にお話をしたいのですが…」
するとコンコンとドアがノックされ、職員が「リュ君のお父様をお連れしました」とドアを開けた。
「いやーお待たせして申し訳ない。服を乾かすのに手間取りまして。初めまして、どうもリュの父です…ってあれ?先程待合室でお会いしましたね」
あのずぶ濡れ大男が入ってきた。そうか!リュ君の実家のあるはじまりの村は今大雪だと聞いている。そこからやってきたのだから濡れているのは当たり前か。2人並んでいるのを見ると顔もリュ君そっくり。どうりで見覚えがあるはずだ。合点がいった。しかし大雪の村からここまで来るのは大変だっただろうに…子どもを心配する気持ちは彼も一緒なのだなと少し胸が暖かくなった。
急ぎに急いで、数時間後私は学園に到着した。使者は少し先に行って、私の到着を学園に知らせておいてくれたので、学園内にスムーズに入る事ができた。それがなければ多分名前やら学生との関係やら面会理由やら色々聞かれて手間取った事だろう。ありがたい。
「こちらでお待ち下さい」
学生との面会の為の待合室に通された。そこには先客がいたが、何やらその姿に違和感が…
私を同じくらいか少し若い彼は、疲れたように椅子に座りウトウトしている。そしてよく見るとズボンの裾や髪の毛が濡れていて…やっと気がついた。違和感の正体は『濡れてる』か。ここ1週間以上雨など全く降っておらず空気はカラカラなのに、わざと水たまりでも踏んだのかというくらいズボンの裾が濡れている。髪の毛も洗髪中なのかと思うくらいだ。どこで濡れたのだろうか?と向こうが寝ているのをいいことにしげしげと見つめてしまった。
すると奥から学園の職員らしき人が現れて彼を起こし始めた。
「ハンス様、このままでは冷えて風邪ひきますよ。こちらで乾かしますから一緒に来てください」
その声でやっと目覚めた彼は、んーと大きな声をだし伸びをして「大丈夫大丈夫」と言ったが、職員は諦めない。2往復くらいそんなやりとりをして、渋々彼は立ち上がった。
立ち上がった彼はかなり背が高かった。私も高い方だがその私より頭半分いや頭1つ分背が高い。そして厚い服の上からでもわかる筋肉質な身体つきも相まってとても大きく感じられる。そんな私の視線を感じとったのか彼はこちらを向き会釈し、職員の後をついて部屋を出て行った。意外にも苦笑いを浮かべたその顔は愛嬌があり、親しみを感じられる…と言うかどこかで見た事があるような気がするのだが?
「エルンスト様こちらへどうぞ」
名前が呼ばれて事務員のあとをついていくと、面会室の前を通り過ぎた。
「おや?面会室ではないのですか?」
「はい。本来は面会室を使うのですが、今回は関わった先生方から事情説明もしたいとの事なので…どうぞ」
案内されたのは来賓用の部屋だった。
「父上!」
そこにはルドルフが先にいて待っていた。
「職員は一旦席を外しますのでまずはお2人でお話し下さい。終わりましたらそこのベルを鳴らしていただけれれば…その後先生方とのお話し合いになりますので。では失礼します」
そうか、彼の素顔を含めた様子などを確認したいという親心を理解してくれたのだな。第三者がいたら素顔になる事ができないから。
ドアが閉められ職員が出て行ったのを見て、ルドルフは仮面を外した。泣き腫らした様な目をしてはいるが顔色は悪くない。
「良かった無事で。心配したんだよ、怪我は?昨日は寝られたかい?」
「はい怪我はありません。昨晩は変な夢をたくさん見た気がしますがよく寝られました。リュや先生方に色々助けてもらったので後で父上からもお礼をして下さいませんか?」
あんな大変な目に合ったのに落ち着いている。ただ『変な夢』を見ているとの事なので精神的にはダメージがないわけではなさそうだ。彼の体調さえ許せばこの話し合いの後屋敷に連れて帰ろう。そしてゆっくりと冬休みを過ごしてもらおう。
「どうだろうこの話し合いの後私と一緒に屋敷に帰らないか?元々帰省予定だったのだし、もちろんルドルフの体調次第だけれども」
と私が言うと、彼はちょっとこちらを探るような眼差しでこちらを見て
「帰省はしますが学園は辞めませんよ」
あぁこんな事になったから学園を辞めさせられると思ったのだな。実はその考えもルイーゼから出たのだが、シャルロッテの
『彼の未来は彼が決めるべきです。辞めたいのなら辞めればいいですがそうでなければ口出し無用です』
と言う至極真っ当な意見に封じられたのだ。その事をそのままルドルフに伝えるとちょっと苦笑し
「お姉様らしいですね。でも嬉しいです。あ!お姉様に頼まれた流行り物、あの騒ぎで壊してしまったのだった…手ぶらで帰省して怒られたりしないでしょうか?」
そんな事を気にしているとは…大人びているがやはり子どもだなと感じた。
そして私はベルを鳴らした。
副学園長を筆頭に、痩せていて穏やかそうな男性の先生と小柄な女性の先生とリュ君が入ってきた。リュ君も泣き腫らしたような目をしている。ルドルフとお揃いだ。すぐ話が始まるのかと思ったが副学園長が
「リュ君のお父様も心配していらしているので一緒にお話をしたいのですが…」
するとコンコンとドアがノックされ、職員が「リュ君のお父様をお連れしました」とドアを開けた。
「いやーお待たせして申し訳ない。服を乾かすのに手間取りまして。初めまして、どうもリュの父です…ってあれ?先程待合室でお会いしましたね」
あのずぶ濡れ大男が入ってきた。そうか!リュ君の実家のあるはじまりの村は今大雪だと聞いている。そこからやってきたのだから濡れているのは当たり前か。2人並んでいるのを見ると顔もリュ君そっくり。どうりで見覚えがあるはずだ。合点がいった。しかし大雪の村からここまで来るのは大変だっただろうに…子どもを心配する気持ちは彼も一緒なのだなと少し胸が暖かくなった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
これで、私も自由になれます
たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる