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6.シンデレラ ver.4−1
しおりを挟むー私は死んだー
息苦しさで飛び起きた。また以前見た夢とも現実ともつかないモノを見たようだ。
そういえば私は今どこにいるのだろう?
部屋を見回すと、大きな窓、派手ではないがお金のかかった調度品、ふわふわのベッド…伯父様のお屋敷の一室だった。安心した。またあの半地下の部屋に戻っていては堪らない。カーテンの隙間から見える外はまだ暗くて夜明けにはまだ時間がありそうだ。
実家ならばそろそろ起きて水汲みなどをしなければならなかったが、今そんな事をしようとしたら皆から叱られるに違いない。何という待遇の違い!
そっと髪を触るとまだ耳が隠れ切っていない長さ、触り心地もゴワゴワだーー伯父様のお屋敷に逃げ込んでまだ数日しか経っていない。ならばあの様な状況になるまでまだ時間がある。
もう一度寝ようとしたが寝られない。
夢?の中の私は殺されたのだろうか?多分そうだろう。私は若かった。あんなタイミングで急死するなんておかしすぎる。水差しに毒でも仕込まれていたに違いない。
水差しに触れる機会が多いのは使用人たちだが、使用人から恨みを買っていたのだろうか?しかし私が離縁されるのは時間の問題だと屋敷中皆薄々知っていたはずなので、彼らはわざわざ手を汚す必要がない。
『どうしても殺してやる』とまで恨まれていたなら話は別だが、そこまで何かをした記憶もないし、バレた時には主人殺しは理由の如何を問わず犯人一族全員死罪となるのでリスクが高すぎる。
それなら腹の中でほくそ笑みながら私が離縁され惨めに家を出る日を楽しみにしている方がよほど良い。
だとすると夫か?一応、私が使用人の控え室で話をしている間に毒を仕込む事は出来そうだが…私が『離縁しない』と言い張ったのならわかるが…これから新しい妻子と暮らせるのにそんな事をするわけは…
まさか!持参金?
この街のある程度の資産家は娘が結婚する時、持参金を持たせる。そのお金は一旦夫側の家に入るが夫の物ではない。言わば『これだけのお金を用意できる家の人間ですよ』という身元保証金なのだ。だから離縁する時は『即全額返さなければならない』そういう決まりだ。
夢?の中で私が結婚する時も伯父様が持参金を用意したが、その額の大きさから
『このクレアとか言うお嬢様は彼の隠し子なのでは?』
という噂が出たくらいだ。(しかしその噂は伯母様の迫力満点の高笑いで一掃されたが)
それはさておき、私が離縁前に死亡すれば持参金は返さなくてもいいので殺害の動機にはなる。
でもそれはおかしな話だ。夫の家は手広く商売をしており、伯父様の家と同じくらいの資産家だったはず。だったらあの程度の持参金なんてポーンと…
待って、そういえば執事から『旦那様の浪費が激しくて困っている』と何度か愚痴を聞いた事がある。まさかそれが原因でお金がない?
私自身は商売に関わってこなかったので『今、夫の商売がどの様な状況なのか』についてきちんと把握しておらず、夫も『お前は奥向きだけやってればいい』と教えてはくれなかったのでその可能性には気がつかなかった。
…まあ、彼の性格上ーお金があろうがなかろうがー私が離縁を嫌がり拒否してくると思い、持参金の支払いはまだまだ先だろうとたかを括って
『あいつが離縁に頷いたらお金を準備するか』
と余裕綽々に構えていたに違いない。
それなのに私はすぐ離縁に合意して出て行こうとした。私が戻れば伯父様は即持参金の返金を要求するだろう。そこで支払えないと『決まりを守れない/その程度のお金も動かせない奴』と判断され、商売人としての信用が大いに損なわれる。であれば…動機十分だ。
私は使用人から女性の事を聞いて以来、夫には内緒で伯父様と密に連絡をとり、どう身を処していけば良いのか教えてもらっていた。だからこそ離縁を言い渡されても慌てなかったし、何なら引き継ぎ書まで仕上げて準備万端でその日を待っていた。しかしながらその準備万端・素早い対応が最悪の結果に結びついた可能性があるとは…不幸としか言いようがない。
しかしそこまでして持参金の返金を逃れたとしても先行きはどうだろうか?
絶妙なタイミングでの私の急死、新しい妻、それも妊娠中…証拠はないが、疑いの眼で見る人は伯父様だけではないはずだ。それが夫の商売にどう影響するのか?少なくとも伯父様は彼との商売の内容を見直すに違いない。伯父様が手を引いた後、他の取引先がどう出るか…良い方にいく事はないだろうと私のような素人でも想像出来る。
こんな所業に出ずに、持参金は慌ててどこかから借金でもして返すか、恥をしのんで伯父様と交渉し(泣きついて)分割での返金にして貰えばよかったのに…そうすれば多少生活が苦しくなっても新しい妻と子どもとの楽しい暮らしが待っていたはず…馬鹿な人。
それとも私の存在がそこまで嫌だったのかしら
と色々考えては見たものの、これは全て机上の空論。眠れない夜の頭の体操にすぎない。ただこんな不幸な未来を私は望んでいないのも確か。
どうすれば私の望むような静かな暮らしがおくれるのかしら?
頭の中をぐるぐると色んな考えが回り、そのうち私はまた眠ってしまっていた。
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