シンデレラと呼ばないで

閑人

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7.シンデレラ ver.4−2

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 目覚めが悪い…何かを真剣に考えながら寝るのは良くない…伯父様一家と朝ごはんのテーブルを囲んではいるものの食は進まない。フランツ君の可愛らしい激励を受けながら何とか食べ終えた。

 「少し話がしたいのだがいいかい?」

そんな様子を見かねた伯父様に呼び止められ、伯母様と3人でお話をする事になった。そこで、私はこれからどうしたら良いのかわからなくて…とはっきり伝えてみた。夢?のことは言っても信じてもらえそうにないのでそれには触れずに…
 
 伯父様は少し考えて

 「まぁ、クレアは知識も経験もまだ少ないし仕方ないと思うよ。…ただこれだけ早く決めた方がいいと思うから確認するけど家に帰る気はないね?」

 絶対ないと断言した。

 「では貴族として生きていたいと思う?」

 これもない。街の片隅で穏やかに暮らしたい。でも何故『早く決めた方がいい』の?

 「それはね、時間がたつと君の義理の母が君の死亡届を貴族院に提出してしまい、貴族の名簿から君の名前が消されてしまう可能性が高くなるからだよ。そうすると『男爵令嬢のクレア』はいなくなってしまうんだ。もちろん後から間違いでしたと訂正する事もできるけどかなり時間と手間がかかるし、その上訂正できる確率は低い。だから『男爵令嬢のクレア』でいたいなら早めに何らかの手をうたないと」

 なるほど。彼女たちが私の事を真面目に探すとは思えない。でも屋敷にいないのは周りにバレバレ、ならば『不慮の事故で亡くなりました』とした方が…でもそんな届出すら面倒くさがってそのまま『行方不明』にしておく気がするのは私の気のせいだろうか?それは流石にうがちすぎだと思うので黙っておこう。

 私の意思を確認した伯父様は伯母様と顔を見合わせて微笑んだ。

 「ではクレアを『私の遠縁の娘』としてこの街の住民登録の手続きをしよう。それでいいね?」

 「よろしくお願いいたします」

 私は深々とお辞儀を…

 「待って!」
 
 伯母様からのストップがかかった。伯父様が驚いて

 「どうしたんだ?クレアをうちに引き取る事は君も賛成してくれたじゃないか?」

 「そうじゃないの。うちに引き取る事じゃなくて、その『お辞儀』よ」

 お辞儀?何かいけなかっただろうか?

 「前にしたときも気になっていたのよ。クレアちゃんのお辞儀は貴族の人のお辞儀なの。これから平民として暮らしていくのにそれはダメ。貴族かぶれのおかしな人にしか見えないわ」

 …!気がつかなかった。私はあのお屋敷という狭い場所でしか暮らしてなかったのでそんな違いもわかっていなかった。

 伯母さまはすっと立ち上がって私にお辞儀をした。私とは違う、簡素な、でも綺麗なお辞儀だった。

 「これが平民のお辞儀よ。覚えてね。…遅れちゃったけど、クレアちゃん私たちの家族の一員になってくれてありがとう。これからよろしくね」

 ちゃんづけは子どもっぽくてとても恥ずかしいが、受け入れられて嬉しい。私にもやっと居場所が出来た。

 「おいおい色んな作法を…あ、多分作法だけじゃなくて、細かい言葉の使い方とかも貴族と平民は違うからちょっと大変ね。身についちゃってるモノを忘れて、新しいモノを身につけなければいけないから時間がかかるわ…でも焦らずにじっくりやりましょう」
 
 伯母様の笑顔が眩しい。

 そうか…1回目の夢?の時急に王子の婚約者になった為急ぎ教育を受け、私本人は『何とか形だけでも様になている』と思っていたけど、じっくり身に染みる様に教育を受けた方たちからみたら、私は形にすらなっていない『男爵令嬢とも公爵令嬢ともつかないおかしな人』だったに違いない。そんな人間が次期お妃様…無理だ。受け入れ難かっただろう。

 伯父様は伯母様と私の会話に頷きながら

 「そうだね。じっくりとね、慌ててはダメだよ。あ、これも早めにけりをつけておきたいな…」

といい執事に何か指示を出した。なんだろう?私に関係することよね?

 「男爵家の様子を確認して来てもらおうと思ってね。クレアの死亡届が出されているかどうか…出されていなければ出すようにうまく誘導して、出されていれば…」

 いれば?

 「エリーゼの遺品を返してもらおうかなと」

 訝しげにしていると詳しく教えてくれた。

 母は花嫁道具としてこの家に代々続いている宝飾品の一部を持っていったらしい。その宝飾品は男爵家との契約で

 『母が亡くなった後はその子どもに、そして孫へと受け継がれる。もし母の血筋が途絶えた場合は(伯父様の家に)返却される事とする』
 
 となっているらしい。

 「あれはエリーゼの…そして君に受け継がれる物なんだ。絶対返してもらわねば」

 そんな物があったなんて…伯父様は取り返す気満々だけど、あの義理の母の事だから売り飛ばしているんじゃないかしら?
 ただ伯母様に言わせると売り飛ばすよりアンティークの宝飾品として身につけて『昔からある物で…オホホ』と自慢した方が『貴族的』らしいので十中八九とってあるはずと断言した。
 
 「でもそんな事をして目をつけられたら?」

 「それは大丈夫」

 私の心配を打ち消すように言った。

 「今うちは公爵家の婚礼支度の一部を任されているんだよ。だからあちらで何か言われたら『貴族の事は良くわからないので…お付き合いのある公爵家様にご相談します』と言えば手も足も出ないはず。大船に乗った気で私に任せなさい」

 婚礼支度…公爵家…私は恐る恐る夢?で出てきた王子の婚約者の家名を言ってみた。すると

 「おお、さすがに知っているのか。そう第一王子と婚約している御家だよ。この間の舞踏会でやっと本決まりしたんだ。長かった…」

 長い?

 「そうだよ。お嬢様が生まれてすぐ『婚約者候補』になったので、そこから準備が始まっているんだ。お妃様に相応しい教育ー礼儀作法は勿論、外交上必要な語学、どんな内容の会話もできる様な広い知識、それから健康状態も大事だね。怪我や大きな病気にかかるのも避けたい、でも体力は必要なのである程度運動はした方がよい…これをずっと気を抜く事なくやり続ける。その一方で王家と密に連絡をとりながら婚約、婚礼支度も進めていくんだ。うちは婚礼支度から参加しているから5年程度だけれども10年以上仕事をしている人もいる。長期戦だよ」

 すごい…一大事業なのね。ふと私は思いついた事を聞いてみる。

 「もし…もしよ、王子様が別の人ー例えば高位貴族じゃない人と結婚したいと言い出した場合は?」

 伯父様は腕組みをして悩んだ末、こう言った。

 「別の公爵家のお嬢様とかならば、そちらにスライドできるけど…高位貴族の方でない場合か…その御家が支払いができるのかもわからないし…王家が支う?…いやいや、とにかく携わっていた商売人たちで路頭に迷う人が出てきそうだ。勘弁願いたいね」

 やはりそうか。王子の婚約は多くの人を巻き込んだ一大事業。当人とはいえ王子1人のわがままで変えられるものではなかったのだ。
 そしてそのわがままにホイホイとのって婚約した人間なぞ、苦労して話を進めていた人たちにとってみたら

 『王子をたぶらかした魔女』

である事は間違いない。処刑の結論に至るのは当たり前だったのだ。

 私の1回目の処刑は避けられない道だったのだ。
 
 
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