シンデレラと呼ばないで

閑人

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8.シンデレラ ver.4−3

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 次の日から私の平民教育が始まった。礼儀作法などは気をつければ何とかなりそうだが、話言葉の違いが難しい。気を抜くと以前の言葉が出てしまう。やはり一朝一夕には出来そうにない。
 並行して伯父様のお手伝いでもできればと思い、私は商売に必要な事も学ばさせてもらう事にした。金銭勘定や取引上のルールなど覚える事がいっぱいで目が回りそうだが、思いの外楽しい。ひょっとして頭の中は商売向きなのかしら?
 

 数ヶ月後

 「そろそろ社交の場にでてみましょうか?」

と伯母様から言われた。社交…露骨にやりたくないという表情をしていたらしく伯母様に笑われた。

 「うふふ…大丈夫よ、舞踏会とかじゃないから。私の友人たちのホームパーティーに一緒に参加するだけ。あなたを家族として紹介しておかないと、困るのはあなたよ。だから苦手でも頑張って」

 でもあの家に私が生きているとバレたら…

 「それも大丈夫。死亡届は受理されたそうよ。『男爵令嬢クレア』はもういないの。もし見つかったとしても『どちら様ですか?』ってはねのければいいのよ」

 思ったより早い。てっきり行方不明のまま放っておくのかと思ったけど…するとこそっと伯母様が呟いた。

 「貴族の家族が亡くなると弔慰金が出るのよ」

なるほどそれが目当てか…お金にうるさい彼女たちらしい。そういえば遺品は無事返してもらえたのだろうか?

 「ちょっと強面の方達を連れて行って、その場で返してもらったそうよ。…みんな顔が怖いだけで、中身はいい人ばかりなんだけどね」

 
 ホームパーティーの日、私の不安とは裏腹に伯母様の友人たちからとても歓迎された。みんな私の顔をまじまじと見て何か言いたげに…何ならちょっと涙ぐむ人もいたり…とりあえず私は伯母様から言われた通りの挨拶をし、後はお話に頷いているだけで殆どの時間が過ぎた。帰り道、疲れてぐったりしている私に、まだまだ元気に見える伯母様は嬉しそうに

 「お疲れ様、クレア。大成功よ」と言った。

 「大成功?私何もしていないわ」

 不思議がる私に伯母様は説明してくれた。あの集まりの人たちは伯母様の昔からの友人でもあるが『エリーゼの友人』でもある方ばかり。母エリーゼが貴族と結婚した事もその娘がクレアという名前だとも知っている。

 その集まりに『貴族育ちが隠しきれない』『クレア』という名前の『エリーゼそっくりの娘』が、しかもその娘は『手や肌、身体つきに苦労したのがはっきりとわかる状態』で、『エリーゼの兄の一家と住む事になった』と紹介されたのだ。
 口には出さないが何となくみんな私の事情を察した。それで涙ぐむ人もいたのか…私の半端な平民ぷりも役に立ったらしい。

 「口が堅い上に事情を知っていて、尚且つ何かの時あなたの味方になってくれる人が出来たわ。だから成功」

 社交の効能か…

 「他に情報収集・交換なんかも目的だけど、それだけじゃないわ。信頼のおける人、敵になりそうな人、親交を深めたい人、近づいてはいけない人、尊敬できる人…色んな人に出会ってその見極めをする目を養う場でもあるの。商売をやるなら絶対必要よ。あ、自分も相手からそういう目で見られている事も忘れずにね」

 それからというもの10日に一度くらいのペースで社交の場に引っ張り出される事になった。新顔の私は珍しいのかあちこちから招待状が届くのには閉口したが、伯父様と伯母様がそれを「これは出席」「これは…丁寧にお断りして」などと仕訳しているの見、たまに2人の意見が食い違い

 「「クレアちゃんはどう思う?」」

と聞かれるのが少し面白い。何度かそれを繰り返していると、私自身意見を出せるほどの経験も考えもない事に気がついたので、それ以降は社会勉強の一貫と考え、嫌がらずに社交を率先してやる事にした。
 
 その中で同じ年頃の友人ができた。1番最初のホームパーティーにいた伯母様の友人の娘さんだ。非常に穏やかな人で一言で言うと『いいところのお嬢さん』
 最初はいい人すぎて『実は裏の顔でもあるのか?』と警戒したが全く無かった。眩しく、羨ましいほどいい人だ。
 そんな彼女が見合いをしたと頬を染めて話をしてくれた。お見合いはうまくいって、結婚話が前向きに進んでいる様子だ。大変楽しそうに話す彼女を見ていると私も幸せな気持ちになった…しかし次の彼女の言葉でそれは砕け散った。

 「でね、お相手の〇〇さんが…」

 「〇〇」…私が夢?の中で結婚した相手の名前だった。美人が好みで女癖が悪く金遣いも荒かった彼。もちろん、あの夢?が確かかどうかはわからないが、心の中に不安という黒い靄がかかる…彼女にそのまま伝えても私が悪い冗談を言ったと思われるだけ…でも
 
 色々考えて私は伯母様に

 「〇〇さんについてパーティーで悪い噂を聞いた。友人の見合い相手と聞いて不安になったので、真偽を調べてもらう事は出来るかしら?」

 とお願いをしてみた…嘘をつくなんて心が痛いが仕方ない…最初伯母様には『そんな噂くらいで』と軽くあしらわれたが『金遣いが荒い』というところがやはり気になったらしく

 「うちの商売相手の後継者がそんな状態だと困るから調べてもらうよういってみるわ」
 
 協力をしてくれる事になった。もしこれが空振りで笑われても構わない。彼女には幸せになって欲しい。

 これが友情と言うものなのだろうか?この初めての気持ちに戸惑いはあるが悪い気持ちはしなかった。
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