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№142 手形
小学生の時のことです。放課後、友達と一緒に校内の廊下を歩いていました。先生に頼まれて授業で使った教材を準備室に返しに行った帰りです。
そこは理科室等の特別教室がある棟で、あまり人が通らないところでした。私と友達はのんびりと歩きながら怖い話をしていました。当時流行っていたんです。誰々がトイレの花子さんを見た、とか口裂け女に追いかけられたとか。
その友達は霊感が強いのが自慢で、自分が体験した話をしていると言っていましたが、どれも聞いたことがあるようなものばかりで、うっすら嘘だと気づいていました。でも私は気づかないふりをして「エー怖ーい」と面白がっていました。
その日もありきたりだけど「本人の体験談」の体をした語り口調を楽しみ、そして何となしに
「あーあ、私も怖い体験したいなぁ」
と、こぼしました。すると背後でバンッと大きな音がしました。私も友達もびっくりして振り返ると、歩いている廊下の一番端の窓に何か黒いモノが張り付いています。「何だろう?」と思う間もなく、端の窓から順番に、叩きつけるかのように黒いモノが張り付き最後に私たちが立っている真横の窓にバンッと黒い手形が張り付いたんです。黒いモノは手形でした。そこは2階で、もちろん外には誰もいません。私たちは「ギャー!」と悲鳴を上げて我先にと逃げ出しました。
私は職員室に、友達は教室に戻って鞄をつかんで先に帰ってしまいました。しかも職員室にいた先生が廊下の窓を見に行ってくれたときには、もう手形がなかったそうなんです。先生には「鳥か虫が窓に当たったのを勘違いしたんだろう」と笑われました。
そんなことがあったので、次の日は文句を言ってやろうとムカムカしながら登校すると、ちょうど友達が前日の話を他のクラスメイトに披露しているところでした。怪談をしているはずなのに若干自慢げなのが鼻につき、私はさらにムカムカしました。
友達は私が登校したことに気づいてないようで、
「よく見たらね、その手形、赤ちゃんの手だったのよ」
なんて脚色もして話していました。
「あんた悲鳴上げて逃げ出したでしょ!」
と言ってやろうとしたとき、突然バチーンと音がして友達の話が中断しました。それは張り手のような音でした。友達の話を聞いていたクラスメイトの一人が震える声で
「それ、ほっぺた、どうしたの?」
と言い、友達はそろそろと自分の頬に触れました。友達の頬は腫れているようでした。でもそれより、墨のような真っ黒な手形がくっきりと張り付いていたんです。頬に触れた友達の手は黒くなったようで前日のような悲鳴を上げて泣き出しました。その黒い手形はすぐに拭いたのになかなか取れず、数日間友達は墨で塗ったような手形をつけたまま登校していました。それ以降、友達は怪談をしなくなりました。私も、この話は怖くて誰にも話していませんでした。これが最初で最後です。
――絵北さんは始終自分の頬をなでながら話していた。
そこは理科室等の特別教室がある棟で、あまり人が通らないところでした。私と友達はのんびりと歩きながら怖い話をしていました。当時流行っていたんです。誰々がトイレの花子さんを見た、とか口裂け女に追いかけられたとか。
その友達は霊感が強いのが自慢で、自分が体験した話をしていると言っていましたが、どれも聞いたことがあるようなものばかりで、うっすら嘘だと気づいていました。でも私は気づかないふりをして「エー怖ーい」と面白がっていました。
その日もありきたりだけど「本人の体験談」の体をした語り口調を楽しみ、そして何となしに
「あーあ、私も怖い体験したいなぁ」
と、こぼしました。すると背後でバンッと大きな音がしました。私も友達もびっくりして振り返ると、歩いている廊下の一番端の窓に何か黒いモノが張り付いています。「何だろう?」と思う間もなく、端の窓から順番に、叩きつけるかのように黒いモノが張り付き最後に私たちが立っている真横の窓にバンッと黒い手形が張り付いたんです。黒いモノは手形でした。そこは2階で、もちろん外には誰もいません。私たちは「ギャー!」と悲鳴を上げて我先にと逃げ出しました。
私は職員室に、友達は教室に戻って鞄をつかんで先に帰ってしまいました。しかも職員室にいた先生が廊下の窓を見に行ってくれたときには、もう手形がなかったそうなんです。先生には「鳥か虫が窓に当たったのを勘違いしたんだろう」と笑われました。
そんなことがあったので、次の日は文句を言ってやろうとムカムカしながら登校すると、ちょうど友達が前日の話を他のクラスメイトに披露しているところでした。怪談をしているはずなのに若干自慢げなのが鼻につき、私はさらにムカムカしました。
友達は私が登校したことに気づいてないようで、
「よく見たらね、その手形、赤ちゃんの手だったのよ」
なんて脚色もして話していました。
「あんた悲鳴上げて逃げ出したでしょ!」
と言ってやろうとしたとき、突然バチーンと音がして友達の話が中断しました。それは張り手のような音でした。友達の話を聞いていたクラスメイトの一人が震える声で
「それ、ほっぺた、どうしたの?」
と言い、友達はそろそろと自分の頬に触れました。友達の頬は腫れているようでした。でもそれより、墨のような真っ黒な手形がくっきりと張り付いていたんです。頬に触れた友達の手は黒くなったようで前日のような悲鳴を上げて泣き出しました。その黒い手形はすぐに拭いたのになかなか取れず、数日間友達は墨で塗ったような手形をつけたまま登校していました。それ以降、友達は怪談をしなくなりました。私も、この話は怖くて誰にも話していませんでした。これが最初で最後です。
――絵北さんは始終自分の頬をなでながら話していた。
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