誰かの日常

遠い島にて

ここに来てもう8か月が過ぎた。今日もトンネルを掘り続け、もう少しで掘り終えるというところで、別な人員と交代となった。いつもそうだ。中途半端な作業段取、工事計画は何も知らされていないままの作業。まぁ、危険も無く、労働量もかなりゆったりとしている上に相場より高い賃金をもらえる…この仕事にありつけたのは本当に幸運だった。そんな有難い契約もあと数か月で終了となると、次の仕事はこんな高待遇では無いだろうから、少し憂鬱になってくる。休憩時間になったので、外に出て一服する。最近は禁煙だ何だとうるさい現場が多くなってるが、ここは信じられないほど寛容だ。もっとも島の自然を荒らすこと、喫煙を嫌がる人の近くで吸うことは許されないので、灰皿をしっかり使うことは厳命されている。そのルールを破ると直ちにクビという契約なので、誰もが灰一つ落とさないように注意しているし、荒々しい現場の怖い連中でも必ず「吸ってもいいか?」と声をかける。それは結構なストレスだろうが、それも我慢したくなるくらいの高給現場なのだ。南国の美しい海を眺めながらの一服は、むしろ金を払いたいくらいと思わせる。

夕日がいよいよ映えるころには業務終了となる。サイレンが鳴るわけでもなく、美しい鐘の音が島中に響き渡る。どんなに重労働が続いても疲れが抜けていくような瞬間だ。宿の食事も実に美味く、酒も少しだけ提供される。残念だが部屋で勝手に酒盛は出来ない。唯一の残念なルールだ。ただ、そのおかげで現場での事故や酒絡みのトラブルも無い。管理された現場にイラついていた者も数日で穏やかになってしまう。まさに楽園という事なのだろう。

島ではいたるところで工事が行われているらしいが､他の現場員と顔を合わせた事は無い。勝手に島内を動く事は禁止されているし、もし見てはいけない現場に出会したらやばい事になるかも…楽で高給な仕事を興味本位で失うほどマヌケでは無い。(続く)