2 / 11
2 追放……されないだと!?
しおりを挟む
「聖女様、どうか我が国をお救いください」
ローブ姿の初老の男が、天然石を敷き詰めた広間の中央で膝をつき、深々と頭を下げた。
床に埋め込まれた青白い鉱石が淡く光り、空気そのものが張りつめている。
その中心、まるで祭壇の上に捧げられる生贄のような場所に私は立っていた。見渡す限り、外国人の男性ばかり。誰も彼もが重そうなローブをまとい、手には装飾の施された杖を持っている。
映画で見たことのある「魔法使い」そのものの格好だ。
え、なにここ?
理解が追いつかないまま、私はようやく一つの結論にたどり着いた。
私こと白城千鳥は、心の中でそっと呟く。
あ、これってあれだ。異世界召喚からの聖女認定、絶対そういうやつだよね。
社会人五年目、社員食堂の栄養士として毎日何百人分もの献立と栄養計算に追われるだけの日々、脂質、塩分、カロリー、原価率、数字と鍋に囲まれた地味な日々よグッバイ! 私の人生はついに報われるときが来たのだ! これからずっと私のターンだ!
期待で胸が膨らんだ、その瞬間。
「司祭様、おかしいです……」
空気を切り裂くような声が響いた。
初老の男――司祭と呼ばれた人物に、別の男が駆け寄ってくる。彼の手には拳ほどの大きさの水晶があった。
「どうした?」
「聖女であることを示す水晶が……、光りません」
「なんだと!?」
ざわ、と周囲が一斉に色めき立つ。
「……え?」
私の口から、間抜けな声がこぼれた。
嘘でしょ?
水晶は、どこからどう見てもただの透明な石だった。神々しい輝きは微塵もない。
それから私は取り調べ、もとい精密検査を受けた。
水晶を使った測定は何度も繰り返され、魔導士と呼ばれる人たちが入れ代わり立ち代わり私に向かって魔法を放つ。
眩しい光、耳鳴りな詠唱、意味の分からない言葉の連なり。けれど、どれだけやっておも結果は変わらなかった。
「……やはり聖女の力が確認できませんでした」
その一言で、大広間は水を打ったように静まり返った。
さっきまで期待に満ちていた視線が落胆へ、失望へ、そして困惑へと変わっていく。
魔法適性なし。
神聖反応なし。
戦闘能力は、もちろん皆無。
つまりこの世界においても私はただの一般人だった。
ちょっと待ってよ……。転生ものあるあるのチートは? 聖女パワーは? ここで人生逆転じゃないの?
ざわつく大広間の中で、居たたまれなくなった私は思わず口を開く。
「あ、あのぉ~……、もう帰ってもいいですか?」
全員が一斉にこちらを見る。
「申し訳ない……」と司祭は本当に申し訳なさそうな声で言った。
「召喚は一方通行なのだ」
ですよね、知ってた。
「間違えたとはいえ、我々にも召喚してしまった責任はある。かといって重要な役職を与えることもできないが、住みかと職くらいは斡旋しよう」
「はあ……」
ため息しか出ない。
「得意なことはなんだね?」
「得意なこと、ですか?」
一瞬考えて私は正直に答えた。
「私は栄養士で料理を作っていました」
その言葉に何人かが顔を見合わせる。
「それじゃあ……、王宮の厨房で働いてもらおうかな」
軽っ!
あまりにも軽い決定に思わず心の中で突っ込んでいた。
こうして私は王宮内の広大な食堂で再び鍋と包丁を手にすることになったのだ。
異世界でも、結局厨房。
だけど生きていけるなら、まあいいかな。
煉瓦造りの厨房に立ち、異国の香辛料の匂いを吸い込みながら私はエプロンを結ぶ。
こうして聖女になりそこねた栄養士の異世界での新生活が始まったのだった。
そんな私が司令官騎士になるのは、もう少し先のお話。
ローブ姿の初老の男が、天然石を敷き詰めた広間の中央で膝をつき、深々と頭を下げた。
床に埋め込まれた青白い鉱石が淡く光り、空気そのものが張りつめている。
その中心、まるで祭壇の上に捧げられる生贄のような場所に私は立っていた。見渡す限り、外国人の男性ばかり。誰も彼もが重そうなローブをまとい、手には装飾の施された杖を持っている。
映画で見たことのある「魔法使い」そのものの格好だ。
え、なにここ?
理解が追いつかないまま、私はようやく一つの結論にたどり着いた。
私こと白城千鳥は、心の中でそっと呟く。
あ、これってあれだ。異世界召喚からの聖女認定、絶対そういうやつだよね。
社会人五年目、社員食堂の栄養士として毎日何百人分もの献立と栄養計算に追われるだけの日々、脂質、塩分、カロリー、原価率、数字と鍋に囲まれた地味な日々よグッバイ! 私の人生はついに報われるときが来たのだ! これからずっと私のターンだ!
期待で胸が膨らんだ、その瞬間。
「司祭様、おかしいです……」
空気を切り裂くような声が響いた。
初老の男――司祭と呼ばれた人物に、別の男が駆け寄ってくる。彼の手には拳ほどの大きさの水晶があった。
「どうした?」
「聖女であることを示す水晶が……、光りません」
「なんだと!?」
ざわ、と周囲が一斉に色めき立つ。
「……え?」
私の口から、間抜けな声がこぼれた。
嘘でしょ?
水晶は、どこからどう見てもただの透明な石だった。神々しい輝きは微塵もない。
それから私は取り調べ、もとい精密検査を受けた。
水晶を使った測定は何度も繰り返され、魔導士と呼ばれる人たちが入れ代わり立ち代わり私に向かって魔法を放つ。
眩しい光、耳鳴りな詠唱、意味の分からない言葉の連なり。けれど、どれだけやっておも結果は変わらなかった。
「……やはり聖女の力が確認できませんでした」
その一言で、大広間は水を打ったように静まり返った。
さっきまで期待に満ちていた視線が落胆へ、失望へ、そして困惑へと変わっていく。
魔法適性なし。
神聖反応なし。
戦闘能力は、もちろん皆無。
つまりこの世界においても私はただの一般人だった。
ちょっと待ってよ……。転生ものあるあるのチートは? 聖女パワーは? ここで人生逆転じゃないの?
ざわつく大広間の中で、居たたまれなくなった私は思わず口を開く。
「あ、あのぉ~……、もう帰ってもいいですか?」
全員が一斉にこちらを見る。
「申し訳ない……」と司祭は本当に申し訳なさそうな声で言った。
「召喚は一方通行なのだ」
ですよね、知ってた。
「間違えたとはいえ、我々にも召喚してしまった責任はある。かといって重要な役職を与えることもできないが、住みかと職くらいは斡旋しよう」
「はあ……」
ため息しか出ない。
「得意なことはなんだね?」
「得意なこと、ですか?」
一瞬考えて私は正直に答えた。
「私は栄養士で料理を作っていました」
その言葉に何人かが顔を見合わせる。
「それじゃあ……、王宮の厨房で働いてもらおうかな」
軽っ!
あまりにも軽い決定に思わず心の中で突っ込んでいた。
こうして私は王宮内の広大な食堂で再び鍋と包丁を手にすることになったのだ。
異世界でも、結局厨房。
だけど生きていけるなら、まあいいかな。
煉瓦造りの厨房に立ち、異国の香辛料の匂いを吸い込みながら私はエプロンを結ぶ。
こうして聖女になりそこねた栄養士の異世界での新生活が始まったのだった。
そんな私が司令官騎士になるのは、もう少し先のお話。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。
下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。
アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。
小説家になろう様でも投稿しています。
聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま
藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。
婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。
エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる