私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていました~

あんねーむど

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2 追放……されないだと!?

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「聖女様、どうか我が国をお救いください」

 ローブ姿の初老の男が、天然石を敷き詰めた広間の中央で膝をつき、深々と頭を下げた。
 
 床に埋め込まれた青白い鉱石が淡く光り、空気そのものが張りつめている。
 その中心、まるで祭壇の上に捧げられる生贄のような場所に私は立っていた。見渡す限り、外国人の男性ばかり。誰も彼もが重そうなローブをまとい、手には装飾の施された杖を持っている。

 映画で見たことのある「魔法使い」そのものの格好だ。

 え、なにここ?

 理解が追いつかないまま、私はようやく一つの結論にたどり着いた。

 私こと白城千鳥は、心の中でそっと呟く。

 あ、これってあれだ。異世界召喚からの聖女認定、絶対そういうやつだよね。

 社会人五年目、社員食堂の栄養士として毎日何百人分もの献立と栄養計算に追われるだけの日々、脂質、塩分、カロリー、原価率、数字と鍋に囲まれた地味な日々よグッバイ! 私の人生はついに報われるときが来たのだ! これからずっと私のターンだ!

 期待で胸が膨らんだ、その瞬間。

「司祭様、おかしいです……」

 空気を切り裂くような声が響いた。

 初老の男――司祭と呼ばれた人物に、別の男が駆け寄ってくる。彼の手には拳ほどの大きさの水晶があった。

「どうした?」
「聖女であることを示す水晶が……、光りません」

「なんだと!?」

 ざわ、と周囲が一斉に色めき立つ。

「……え?」

 私の口から、間抜けな声がこぼれた。

 嘘でしょ?

 水晶は、どこからどう見てもただの透明な石だった。神々しい輝きは微塵もない。

 それから私は取り調べ、もとい精密検査を受けた。

 水晶を使った測定は何度も繰り返され、魔導士と呼ばれる人たちが入れ代わり立ち代わり私に向かって魔法を放つ。

 眩しい光、耳鳴りな詠唱、意味の分からない言葉の連なり。けれど、どれだけやっておも結果は変わらなかった。

「……やはり聖女の力が確認できませんでした」

 その一言で、大広間は水を打ったように静まり返った。

 さっきまで期待に満ちていた視線が落胆へ、失望へ、そして困惑へと変わっていく。

 魔法適性なし。
 神聖反応なし。
 戦闘能力は、もちろん皆無。

 つまりこの世界においても私はただの一般人だった。

 ちょっと待ってよ……。転生ものあるあるのチートは? 聖女パワーは? ここで人生逆転じゃないの?

 ざわつく大広間の中で、居たたまれなくなった私は思わず口を開く。

「あ、あのぉ~……、もう帰ってもいいですか?」

 全員が一斉にこちらを見る。

「申し訳ない……」と司祭は本当に申し訳なさそうな声で言った。
「召喚は一方通行なのだ」

 ですよね、知ってた。

「間違えたとはいえ、我々にも召喚してしまった責任はある。かといって重要な役職を与えることもできないが、住みかと職くらいは斡旋しよう」

「はあ……」
 ため息しか出ない。

「得意なことはなんだね?」

「得意なこと、ですか?」

 一瞬考えて私は正直に答えた。

「私は栄養士で料理を作っていました」

 その言葉に何人かが顔を見合わせる。

「それじゃあ……、王宮の厨房で働いてもらおうかな」
 
 軽っ!

 あまりにも軽い決定に思わず心の中で突っ込んでいた。

 こうして私は王宮内の広大な食堂で再び鍋と包丁を手にすることになったのだ。

 異世界でも、結局厨房。
 だけど生きていけるなら、まあいいかな。

 煉瓦造りの厨房に立ち、異国の香辛料の匂いを吸い込みながら私はエプロンを結ぶ。
 
 こうして聖女になりそこねた栄養士の異世界での新生活が始まったのだった。
 そんな私が司令官騎士になるのは、もう少し先のお話。

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