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第三部【前編】
ex3 フレイムパターン
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実際に存在した〝いわく付きの小学校〟をモデルに造られたお化け屋敷型アトラクション『異形類小学校』まで残り五十メートルを切った。既にその巨大な遊戯施設が直人班の眼前にそびえ立っている。
おどろおどろしい廃墟と化した学校―――、というイメージ通りに作られている上に、実際に廃墟になっていることが加わり本当に幽霊が出てきてもおかしくない雰囲気を醸し出している。
先頭を歩いていた直人の足がピタリと止まった。
「あれま、どうやら敵さんに気付かれちまったみたいだぞ」
「そりゃあ、こんだけ堂々と歩いてれば気付きますよ……」
あっけらかんとする直人に照が独り言を漏らした。
照の視界の先、約五十メートル先の校舎屋上から大小様々な無数の火の玉が一斉に放たれた。晴天の空を高く昇った火炎の玉は放物線を描きながら一行の頭上目掛けて落下し始める。
咄嗟にトンファーを構える咲を押しのけて志津が先頭に立つ。
不敵に口角を上げてギラリと噴石のように降り注ぐ火炎弾群を睨み付けた直後、水性の膜が展開し照たちを包み込んだ。
降り注ぐ火炎の玉は志津の生み出した水のバリアに接触すると同時に威力が相殺され、大量の水蒸気を生み出し視界を白く覆い尽くしていく。
紫煙を吐き出した直人は携帯灰皿に吸殻を押し込んだ。
「……よし、各員配置に付け」
「「了解」」
各員が左右に分かれて展開していく中、咲、照、志津の三人は正面入り口に向かって走り出した。
「なあ、平崎はん、ただ勝負するだけやつまらんからなんか賭けせんか?」
志津は並走して走る咲に告げる。
「賭け?」
「そやなぁ、負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞くってのでどうや?」
「良識の範囲内であれば別に構いません。それに私が負けることはありませんので」
「ほう、やっとやる気になったみたいやな……ほな決定や、提案したのはウチやからハンデくれたる。ウチは十分後にスタートするからお先にどうぞ」
「何を言われようが私は私の仕事をするだけですから」
八重歯を光らせて立ち止った志津を置いて咲と照はアトラクションのゲートを潜った。
大人二人がやっと通れる狭いゲートの先に広がっていたのは、長く暗い学校の廊下だった。廊下に沿って職員室や保健室など各教室が続いている。お化け屋敷といっても内装は学校そのものである。さらに窓は鉄板で覆われ昼間でも一筋の光も入って来ない。
所々に設置された提灯の僅かな灯りをたよりに咲と照は薄暗い板張りの廊下をギシ、ギシと軋ませて歩いていく。
だがしかし、咲は建物に入った途端ガクガクと足を震わせ、照の腕にしがみついていた。
体重を乗せられる照の右腕は下に引っ張られ、非常に歩きにくい。
「……さっきまでの威勢はどこいったんだよ。お化けが苦手なら最初からそう言えばいいのに……」
「わ、私はオバケではなく、お化け屋敷の雰囲気が苦手なだけです!」
「変なの……」
「うるさいです! いいから早く捕まえなさい!」
目をつむりながら咲は叫んだ。
「そんな無茶苦茶な……、てか目ぐらい開けてないと危ないよ」
おそるおそる瞼を開けた咲の目に骸骨が映る。
「ひぃ! お、お化け!」
振り払うように咲が手を振った瞬間、イミテーションの骸骨は音を立てて吹っ飛んだ。
「それ……、ただの骨格模型だからね」
そんな照の言葉は咲に届いていない。
さらに、薄暗い廊下の先で小さな炎が灯った。空間に浮かび上がった赤い火の玉が揺らめきながら近づいてくる。
「ひ、人魂!」
ギョッと目を剥いた咲は声を上げる。同じく、揺らめく炎を視界に捉えた照はそれがパイロキネシスの攻撃であることに気付いた。
「さ―――ッ!」
照が咲の名を呼ぼうとした刹那、無我夢中に腕を振るう咲によって火の玉は掻き消されていた。
ついでに、後方にいた術者にも特異打撃がヒットしていたらしく、「ぐふっ!」という声が暗闇から聞こえて来た。
敵のホームであるが地の利は完全に咲にあった。薄暗い環境によってパイロキネシス能力者が異能を発動した瞬間、炎が灯り、同時に炎は周囲を照らし術者の姿を暗闇に浮かび上がらせる。その瞬間、咲の異能によってノックアウトされてしまうのだ。
その後も咲は無駄撃ちを続けた。パイロキネシスを人魂だと勘違いし続ける咲は特異打撃で異能を打ち消し、同時に術者も倒していく。
さらにアトラクションの備品を壊しながらも奥へと進んでいき、咲と照が二階に到達するまでの間に二十人近い異能者を拘束していた。
このままいけば咲の勝利は確実である。
順調なペースで敵地を攻略していくが―――、
「咲! 向こうにもいるぞ!」
照は自身の腕にしがみ付いて目を閉じる咲の肩を叩く。
「む、無理です……」
咲は腕ではなく首を振った。
「無理だって?」
「た、弾切れしました……」
おどろおどろしい廃墟と化した学校―――、というイメージ通りに作られている上に、実際に廃墟になっていることが加わり本当に幽霊が出てきてもおかしくない雰囲気を醸し出している。
先頭を歩いていた直人の足がピタリと止まった。
「あれま、どうやら敵さんに気付かれちまったみたいだぞ」
「そりゃあ、こんだけ堂々と歩いてれば気付きますよ……」
あっけらかんとする直人に照が独り言を漏らした。
照の視界の先、約五十メートル先の校舎屋上から大小様々な無数の火の玉が一斉に放たれた。晴天の空を高く昇った火炎の玉は放物線を描きながら一行の頭上目掛けて落下し始める。
咄嗟にトンファーを構える咲を押しのけて志津が先頭に立つ。
不敵に口角を上げてギラリと噴石のように降り注ぐ火炎弾群を睨み付けた直後、水性の膜が展開し照たちを包み込んだ。
降り注ぐ火炎の玉は志津の生み出した水のバリアに接触すると同時に威力が相殺され、大量の水蒸気を生み出し視界を白く覆い尽くしていく。
紫煙を吐き出した直人は携帯灰皿に吸殻を押し込んだ。
「……よし、各員配置に付け」
「「了解」」
各員が左右に分かれて展開していく中、咲、照、志津の三人は正面入り口に向かって走り出した。
「なあ、平崎はん、ただ勝負するだけやつまらんからなんか賭けせんか?」
志津は並走して走る咲に告げる。
「賭け?」
「そやなぁ、負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞くってのでどうや?」
「良識の範囲内であれば別に構いません。それに私が負けることはありませんので」
「ほう、やっとやる気になったみたいやな……ほな決定や、提案したのはウチやからハンデくれたる。ウチは十分後にスタートするからお先にどうぞ」
「何を言われようが私は私の仕事をするだけですから」
八重歯を光らせて立ち止った志津を置いて咲と照はアトラクションのゲートを潜った。
大人二人がやっと通れる狭いゲートの先に広がっていたのは、長く暗い学校の廊下だった。廊下に沿って職員室や保健室など各教室が続いている。お化け屋敷といっても内装は学校そのものである。さらに窓は鉄板で覆われ昼間でも一筋の光も入って来ない。
所々に設置された提灯の僅かな灯りをたよりに咲と照は薄暗い板張りの廊下をギシ、ギシと軋ませて歩いていく。
だがしかし、咲は建物に入った途端ガクガクと足を震わせ、照の腕にしがみついていた。
体重を乗せられる照の右腕は下に引っ張られ、非常に歩きにくい。
「……さっきまでの威勢はどこいったんだよ。お化けが苦手なら最初からそう言えばいいのに……」
「わ、私はオバケではなく、お化け屋敷の雰囲気が苦手なだけです!」
「変なの……」
「うるさいです! いいから早く捕まえなさい!」
目をつむりながら咲は叫んだ。
「そんな無茶苦茶な……、てか目ぐらい開けてないと危ないよ」
おそるおそる瞼を開けた咲の目に骸骨が映る。
「ひぃ! お、お化け!」
振り払うように咲が手を振った瞬間、イミテーションの骸骨は音を立てて吹っ飛んだ。
「それ……、ただの骨格模型だからね」
そんな照の言葉は咲に届いていない。
さらに、薄暗い廊下の先で小さな炎が灯った。空間に浮かび上がった赤い火の玉が揺らめきながら近づいてくる。
「ひ、人魂!」
ギョッと目を剥いた咲は声を上げる。同じく、揺らめく炎を視界に捉えた照はそれがパイロキネシスの攻撃であることに気付いた。
「さ―――ッ!」
照が咲の名を呼ぼうとした刹那、無我夢中に腕を振るう咲によって火の玉は掻き消されていた。
ついでに、後方にいた術者にも特異打撃がヒットしていたらしく、「ぐふっ!」という声が暗闇から聞こえて来た。
敵のホームであるが地の利は完全に咲にあった。薄暗い環境によってパイロキネシス能力者が異能を発動した瞬間、炎が灯り、同時に炎は周囲を照らし術者の姿を暗闇に浮かび上がらせる。その瞬間、咲の異能によってノックアウトされてしまうのだ。
その後も咲は無駄撃ちを続けた。パイロキネシスを人魂だと勘違いし続ける咲は特異打撃で異能を打ち消し、同時に術者も倒していく。
さらにアトラクションの備品を壊しながらも奥へと進んでいき、咲と照が二階に到達するまでの間に二十人近い異能者を拘束していた。
このままいけば咲の勝利は確実である。
順調なペースで敵地を攻略していくが―――、
「咲! 向こうにもいるぞ!」
照は自身の腕にしがみ付いて目を閉じる咲の肩を叩く。
「む、無理です……」
咲は腕ではなく首を振った。
「無理だって?」
「た、弾切れしました……」
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