異能ランクEの絶対皇帝≪Absolute Emperor≫

あんねーむど

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紺碧の臨界

紺碧の臨界1

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「インペリアル・オーダーがあった日から、まだ二年しか経っていないのに……あの悲劇の爪痕はどこにも残っていないように感じますね」

 早朝の首都高速を走行する使い古されたミニバン、そのハンドルを握る短髪の男がつぶやくように言った。

「ああ、世間は虐殺があったなんて知らないからな。だが、変わってないのは表面だけだ。八重山照が裏で政府を操っているのは間違いない」

 助手席から返してきたのは、髪を金髪に染め上げた長身痩躯の男だ。男は、「世の中から取り残されちまったのは俺たちだけってことだ」と続けた。

「はは、確かにそうかもしれませんね。西日本支部のみんな、元気でやっていますかね」
「まあ、あいつらなら大丈夫だろ。この雪村レイジ様の下で働いていたんだから、どこにいっても成り上がれるに決まってるさ。それより修二……お前はよかったのか?」
「なにがですか?」
「今回の件、付いて来ることはなかったんだぞ?」
「なにを言っているんですかぁ、自分はずっとレイジさんに付いていきますよ」
「ふっ……お前ってヤツはホントに馬鹿な漢だぜ……」

 レイジがニヒルに決めたところで、ドガッと助手席のシートが後ろから蹴っぱぐられる。

「うごっ!?」

 衝撃で上体が前につんのめったレイジは、「なにしやがるんだテメぇ!」と振り返り、後部座席の小柄な少女を非難した。 

「うっさいわボケ、無職どもが……」

 少女はじっとりねっとり湿った目付きで吐き捨て、さらにシートを蹴っぱぐる。その度に彼女のサイドポニーテールが揺れ動く。

「うおっ!? やめろ志津!」

 注意されても少女は無視してシートを蹴り続け、盛大に溜め息を吐いた。

「あーあ~、ほんま辛気臭いわぁ。無能な無職が二人もいると無性に息が詰まりそうになるわぁ~。無知な無職の会話ほど無駄なもんはないとオカンもよう言うとったが、ホンマやなぁ」

「『無』を連発するんじゃねぇ! 心がエグられるだろうがっ!」
「悔しかったら就職しろや、この無職ども」

「ぐぬぬぅ……大人には事情ってもんがあるんだよ……」
「無職はみんなそう言うんやで」

 淀みなく繰り出される言葉の暴力に、修二は苦笑いを浮かべた。

「まあまあ、志津ちゃん。レイジさんだって僕だって別に再就職できない訳じゃないんだからさ」
「ふん、修二はまだ可能性ありやけど、そこの中年は完全アウトやろ」
「俺はまだ三十歳だ!」
「じゅうぶん中年やんか、このオッサン」

 志津に苛められる上司をみかねて修二は、「でもレイジさんって実年齢より若く見えますよ」と微妙なフォローを入れた。

「うむ、よく言ったぞ修二。お前はえらい!」
「中身も中二っぽいですし」
「おい……」
「まあ、僕も学生の志津ちゃんが羨ましいのは確かだけどね。あれ? 志津ちゃん来年から中学生だっけ?」

 バシュッとフロントガラスのど真ん中に一円玉ほどの穴が開き、「修二……死にたいんか?」と志津は右手に握るFRP製の銃をルームミラーに映る修二に向けた。

「ご、ごめんなさい……」

 志津はふんと鼻を鳴らして、「で、あとどれくらいで着くんや?」と言いながら助手席を蹴る。

「あと一時間くらいかな? そういえば志津ちゃん、あの話って本当なのかい?」
「あの話?」

 眉根を寄せた志津の代わりにレイジが答える。

「八重山照から志津に電話があったときに言ってた『リサ・ナイトレイを関西に潜伏させている』って話だろ?」
「……ああ、照のヤツは確かにそう言っとった。『もし僕と敵対するようなら、潜伏させているリサに動いてもらうことになるだろう』とな……」

「……異能ランクA《ニュークリアウエポン》のリサ・ナイトレイ……つまり数百万が人質ってことですか……。よくもそんな外道なことを思いつきますね、八重山照って男は……」

修二の口から出たセリフを聞いた志津は、悲しげに目を伏せる。

「……脅しとるだけや、結局のところあの男はそんなことはせぇへん。そんな男やない」
「僕は八重山照に会ったことないから分からないけれど……志津ちゃんがただそう思いたいだけじゃないのかい?」

 志津は答えず、窓の外に視線を向けた。

「修二、志津を責めてくれるな。それにもうここまで来ちまったんだ。行くしかねーだろ」
「すみません……ただ、家族が向こうにいるから、心配になっちゃって……でもそれはみんな同じなのに……すみません……」
「謝ることはないさ。俺にだって不安はある。だが、このままじゃズルズルとヤツのペースに嵌っていくだけだ。西日本が落ちれば日本は完全にヤツのモノになっちまう。それだけはなんとしても阻止する。俺たちが打って出るしかねーんだ」

 それから車内は静まり返り、霞が関出入口から一般道に入ったところでレイジは振り返った。

「もう一度確認するが、本当にいいんだな?」

 腕を組んだ志津は、レイジの眼をじっと見つめて小さく頷く。

「照の《アブソリュート・エンペラー》に対抗できるのはウチだけや。それに一人の方が気楽でええ。雑魚どもの相手は任せたで」
「……分かった。死ぬなよ、志津」

 志津はふんと鼻を鳴らす。

「全部終わったら酒でもおごってな」
「ああ、死ぬほど呑ませてやる」
「なら今回は僕におごらせてくださいよ」
「そうか? 悪いな修二、今月金欠でよ」
「ええっ!? もっと応戦してくださいよレイジさん!」

 志津は唇の両端を吊り上げ、フロントガラスの向こう側に広がる摩天楼をみつめた。

「それじゃあ気合い入れていくで、ボンクラども。これが異能管理局西日本支部、最後の仕事や!」
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