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島の食料は3日分。
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次のニュースです。勇者達がやり遂げました。
今朝未明、国連軍広報部による発表がありました。発表によると砂漠の魔王オサラ・バラディンへの襲撃が成功したとのことです。
なお、本作戦に参加した勇者達は玉砕したとのことです。各国からは追悼の声が上がっています。
★★★
__波の音で目を覚ました。
中学生の頃、異世界で勇者をしていた時以来の中級魔法だ。しばらく意識を失っていた。
この倦怠感は魔力の欠乏だ。マップを開くことでさえ出来ない。
異世界とは異なり、こちらの世界では魔力の回復が遅い。さっき使った、全力の対物理結界は、2年分の回復量に値するのだ。
それにしても、ここはどこだろうか。
服に染み付いた塩の臭いから、海辺なのかもしれない。背中の硬い感触と光の入らない岩の壁。
なんか、ダンジョンみたいだな。
久しぶりの魔法で気分が異世界に戻ったかのように感じる。
海辺の岩場とはいえ、オスプレイから見た下の様子は一面の海だった。
それでもパイロットが降りていったのだから、島があったのだろう。もしかしたら仲間がいるのかもしれない。
……仲間か。あの二人のことまで意識が向いていなかったな。
2ヶ月ほどの短い間。しかも、自分の身バレにつながる情報は秘密にしての作戦だった。
本名すら知らない二人だが命を掛け合っていた。その微妙な距離感がとても気分が良かったものだ。
★★★
海につながる洞窟を抜けると、50ほどの岩場があった。そこにはオスプレイの残骸が流れ着いている。
あたりを見回しても、人の姿は見当たらない。
近くによってみると、右翼は500円玉位の金属片にまでなっている。
あの爆発は人為的なものだったようだ。
飲食物が残っていないか辺りを見回す。すると岩場のくぼみに赤い布地が引っかかっているのが見える。
さっき見たパラシュート。俺達を置き去りにした機長は、この島にいるのか。
ベルトに挟ませたセラミックのナイフを握りしめる。
パラシュートを自ら引き上げようとするも何かに引っかかつている。
怒りからとっさに握りしめていたナイフで切り離そうと水辺に近づく。
そこには穴だらけの遺体があった。ブーツからこの遺体は機長のものだとわかる。
胸に2つ、腹に1つの拳大の風穴。頭には両耳を貫いた銃弾の穴。大きな穴は肉が焼け焦げており、頭からは中身が漏れ出している。
胸にこみ上げる酸っぱさを感じる。
何だよこれ。
グロテスクな死体ならたくさん見てきた。それこそ、戦場では日常風景の一部だ。
派遣先の中東では
「拷問された死体を掃除する為、5分の渋滞です」なんて、アナウンスがラジオで流れるくらいには日常茶飯事だ。
しかし、吐き気を覚えた。それは心が弱っているだとか、そういったものでは無い。
口封じの実行犯も口封じにあう。ただそんな悪意の大きさに吐き気を覚えたのだ。
うっ、オエ。
「手を上げろ、跪け」
思わず膝に手をついたその時、背中に銃口があてられた。くぐもっていながらもハッキリと聞こえる声。
ゆっくりと手をあげ跪くと、腕を後ろに引き上げられた。岩肌に顔が押し当てられる直前、見覚えのあるブーツが目に入った。
連合軍のブーツは合成樹脂の黒地で三本のラインが入っている。そのラインは個人ごとに色が異なる。
目に入った色は赤・緑・緑。知っているパターンだ。
「そこの死体、お前か」
「違う。いま武器はナイフしかもっていない」
「ここはどこだ」
「わからない」
やはり、機長の味方ではないようだ。だが安心はできない。
頭に加わる体重が増えた。鼻血が出てきたのがわかる。
「嘘をつくな、おまえの能力はわれている。現在地を確認できるはずだ、そうだろ」
「今は使えない。オスプレイから逃げるのに使った力の反動」
「ふむ。偽りを述べている可能性は4%か。それよりも、やっぱり暗殺だったのね」
妙な威圧感と口調が、緩んだのを感じた。
「ちなみに、オスプレイから脱出しようとしたのは何でなの」
「海の上なのに、日本に到着なんていわれたから。それでドアを開けようとしたら鍵がかかっていたから」
「メガフロートとかかもしれないじゃない。本当に変なところで抜けているのね、アサシン君」
「そんなのがあるんですか。さすが情報通ですね。それにしても口調を変えたんですね、ノダメさん」
「ふふ、レディには秘密がたくさんあるのよ」
すると、体の拘束が解けた。
「謝罪はしないわ。必要なことだったからね」
「さっきの声、どこから出してたんですか」
「あら、みたいのかしら」
「い、いや。いいです。冗談ですって」
「ふーん。アサシン、貴方。まだピヨピヨさんでしょ、86%で。私が生きてるのもあなたのおかげみたいだし、経験してみる。死ぬ前に、ね」
「え、なんで死ぬんですか」
「この島ね。食べ物がほとんどないの。それに、相手が衛星を使っているだろうから、生存がバレてるわ。生き残る可能性は、3日で1%を下回り、1週間で0%になるわ」
「そ、そんなにですか。いや、ならそれまでに脱出すればいいだけです」
そう、脱出だ。きっと、きっと生きて帰るために。仲間の生存に気持ちが昂ぶる。
彼女は、そんな俺の様子を見つめていた。そして寂しそうに口を噛み締めていることに気が付かなかった。
今朝未明、国連軍広報部による発表がありました。発表によると砂漠の魔王オサラ・バラディンへの襲撃が成功したとのことです。
なお、本作戦に参加した勇者達は玉砕したとのことです。各国からは追悼の声が上がっています。
★★★
__波の音で目を覚ました。
中学生の頃、異世界で勇者をしていた時以来の中級魔法だ。しばらく意識を失っていた。
この倦怠感は魔力の欠乏だ。マップを開くことでさえ出来ない。
異世界とは異なり、こちらの世界では魔力の回復が遅い。さっき使った、全力の対物理結界は、2年分の回復量に値するのだ。
それにしても、ここはどこだろうか。
服に染み付いた塩の臭いから、海辺なのかもしれない。背中の硬い感触と光の入らない岩の壁。
なんか、ダンジョンみたいだな。
久しぶりの魔法で気分が異世界に戻ったかのように感じる。
海辺の岩場とはいえ、オスプレイから見た下の様子は一面の海だった。
それでもパイロットが降りていったのだから、島があったのだろう。もしかしたら仲間がいるのかもしれない。
……仲間か。あの二人のことまで意識が向いていなかったな。
2ヶ月ほどの短い間。しかも、自分の身バレにつながる情報は秘密にしての作戦だった。
本名すら知らない二人だが命を掛け合っていた。その微妙な距離感がとても気分が良かったものだ。
★★★
海につながる洞窟を抜けると、50ほどの岩場があった。そこにはオスプレイの残骸が流れ着いている。
あたりを見回しても、人の姿は見当たらない。
近くによってみると、右翼は500円玉位の金属片にまでなっている。
あの爆発は人為的なものだったようだ。
飲食物が残っていないか辺りを見回す。すると岩場のくぼみに赤い布地が引っかかっているのが見える。
さっき見たパラシュート。俺達を置き去りにした機長は、この島にいるのか。
ベルトに挟ませたセラミックのナイフを握りしめる。
パラシュートを自ら引き上げようとするも何かに引っかかつている。
怒りからとっさに握りしめていたナイフで切り離そうと水辺に近づく。
そこには穴だらけの遺体があった。ブーツからこの遺体は機長のものだとわかる。
胸に2つ、腹に1つの拳大の風穴。頭には両耳を貫いた銃弾の穴。大きな穴は肉が焼け焦げており、頭からは中身が漏れ出している。
胸にこみ上げる酸っぱさを感じる。
何だよこれ。
グロテスクな死体ならたくさん見てきた。それこそ、戦場では日常風景の一部だ。
派遣先の中東では
「拷問された死体を掃除する為、5分の渋滞です」なんて、アナウンスがラジオで流れるくらいには日常茶飯事だ。
しかし、吐き気を覚えた。それは心が弱っているだとか、そういったものでは無い。
口封じの実行犯も口封じにあう。ただそんな悪意の大きさに吐き気を覚えたのだ。
うっ、オエ。
「手を上げろ、跪け」
思わず膝に手をついたその時、背中に銃口があてられた。くぐもっていながらもハッキリと聞こえる声。
ゆっくりと手をあげ跪くと、腕を後ろに引き上げられた。岩肌に顔が押し当てられる直前、見覚えのあるブーツが目に入った。
連合軍のブーツは合成樹脂の黒地で三本のラインが入っている。そのラインは個人ごとに色が異なる。
目に入った色は赤・緑・緑。知っているパターンだ。
「そこの死体、お前か」
「違う。いま武器はナイフしかもっていない」
「ここはどこだ」
「わからない」
やはり、機長の味方ではないようだ。だが安心はできない。
頭に加わる体重が増えた。鼻血が出てきたのがわかる。
「嘘をつくな、おまえの能力はわれている。現在地を確認できるはずだ、そうだろ」
「今は使えない。オスプレイから逃げるのに使った力の反動」
「ふむ。偽りを述べている可能性は4%か。それよりも、やっぱり暗殺だったのね」
妙な威圧感と口調が、緩んだのを感じた。
「ちなみに、オスプレイから脱出しようとしたのは何でなの」
「海の上なのに、日本に到着なんていわれたから。それでドアを開けようとしたら鍵がかかっていたから」
「メガフロートとかかもしれないじゃない。本当に変なところで抜けているのね、アサシン君」
「そんなのがあるんですか。さすが情報通ですね。それにしても口調を変えたんですね、ノダメさん」
「ふふ、レディには秘密がたくさんあるのよ」
すると、体の拘束が解けた。
「謝罪はしないわ。必要なことだったからね」
「さっきの声、どこから出してたんですか」
「あら、みたいのかしら」
「い、いや。いいです。冗談ですって」
「ふーん。アサシン、貴方。まだピヨピヨさんでしょ、86%で。私が生きてるのもあなたのおかげみたいだし、経験してみる。死ぬ前に、ね」
「え、なんで死ぬんですか」
「この島ね。食べ物がほとんどないの。それに、相手が衛星を使っているだろうから、生存がバレてるわ。生き残る可能性は、3日で1%を下回り、1週間で0%になるわ」
「そ、そんなにですか。いや、ならそれまでに脱出すればいいだけです」
そう、脱出だ。きっと、きっと生きて帰るために。仲間の生存に気持ちが昂ぶる。
彼女は、そんな俺の様子を見つめていた。そして寂しそうに口を噛み締めていることに気が付かなかった。
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