かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。

白藍まこと

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40 あたしの選択肢

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 はてさて、ゆきに今後の進路を相談されたのは嬉しい事ではあったのだけど。
 それは同時に困り事でもあるというのも正直な感想だった。
 もし雪の言う通りにするのなら、より偏差値の高い大学を目指し、尚且つ友人である紗奈さなとの約束もなかった事にしないといけない。
 雪の提案に乗る事は、それだけ障壁が多い状況だった。

 それでも、あたしの気持ちは雪の方に流れているのだろうか……?

 あたしが思い悩んでいるのは“雪の提案に乗った未来”の事ばかりで。
 “元々想定していた未来”の話ではない。
 頭の中では、雪の誘いを断るパターンの想定があまり繰り広げられていなかった。
 それも気持ちの表れである事も確かなのかもしれないけど……。

「どうしたのずっと黙って。なんか、悩み事?」

 教室で考え事をしていたせいだろうか。
 というか四六時中、考えてしまっているんだけど。
 とにかく、そんな悩みが顔に出てしまっていたのかもしれない。
 紗奈さなに顔色を覗かれていた。

「うーん……まぁ、そんな所かな」

「珍しいね」

「人を悩みのない人間みたいに言うな」

「そんなつもりはなかったけど、そういう傾向はあるよね」

「それ、フォローになってないから」

 とは言え、この悩みは紗奈も関わっているわけで。
 内容を打ち明けるかどうかは迷う。
 まだ気持ちが固まっていない不確定な事を話してしまって、要らない心配を掛けるのもどうかと思うし。

「何さ、その悩みって」

「……それはまぁ、何と言うか」

 内容を隠すのか、打ち明けるのか。
 二つに一つなはずなのに、あたしの選んでいる選択肢は停滞だった。
 我ながら中途半端だなぁ。

「歯切れ悪いね、言いたいの? 言いたくないの?」

 どっちかに偏ってくれたら、あたしもそっちに転ぶかもしれないのに。
 紗奈のように気持ちを察するのに長けている人も困りものだ。
 きちんと選択肢をあたしに委ねてくるのだから、答えが見つからないまま右往左往してしまう。
 あたしは自分で思っていたよりも優柔不断のようだった。

「もしもの話なんだけど、大学の進路を変えようかなーみたいな?」

 だけど、迷うという事は両方の選択をとりたい感情があるわけで。
 どちらかを選べと言われたら、結局あたしは吐き出してしまう性分の人間だった。

「違う所、行きたいの?」

「いや、もしもの話ね。もしも」

 どこか鋭さを伴った紗奈の口調に少し驚きつつも、あくまで仮の話である事を強調する。
 まだそう行動すると決めたわけじゃない。

「でも、もしもでも何でそんな話になるの? 他に行きたい所が出てきたの?」

「んー、まぁそんな所かな。ほんとにうっすら頭に浮かんだだけなんだけど」

 本当は、もっと軽い気持ちで聞いて欲しかったんだけど。
 紗奈の視線は益々、鋭利さを増していくというか。
 空気がピリピリとひりついて行くから、ミスったかなと後悔が先立ってきた。

「急だね、どこに行きたいの?」

「いや、どこってわけじゃないんだけど。地元に残って、こっちで進学するのもありかなーみたいな」

 紗奈の質問が続いてく事で、あたしの悩みの輪郭が明瞭になってくる。
 その全容は“雪の存在”だけが省かれているけど、雪を説明しない事にはこの悩みは思っていた以上に形を成していなかった。
 中核がきっと抜けてしまっている。

「……まぁ、それは陽葵ひなたの選択だから自由だとは思うけど」

「思うけど?」

 あまりに含みがありそうな言い回しに、あたしはオウム返しで紗奈の言葉を待つ。

「気分で変えるんじゃなくて、ちゃんと理由を持って変えた方がいいと思うよ。それなりに大事だとは思うから進路って」

「……だよねぇ」

 分かってはいる。
 だから迷っている。
 雪の誘いだけでホイホイ変えていいようなものではない。
 紗奈との空気も何だか悪くなってるし。
 真剣に向き合わないといけないんだろうという事は、この会話でよーく察した。



        ◇◇◇



「雪、帰るよ」

 迷っていても時間というのは無情にも過ぎ去っていくもので。
 気付けば放課後、あたしはいつものように雪を帰りに誘う。

「あ、うん。それとコレ」

「……ん?」

 雪の手には大学受験の参考書があった。
 それをこちらに向けられても反応に困る。

「勉強しないとね」

 あまりに気が早かった。

「……えっと、まだあたし決めてないよ?」

「でも受験はするんだから持っておいて損はないよね」

「……いや」

 そうは言ってるけど、絶対に雪の大学に進学するためにあたしに勉強を進めているとしか思えない。
 いつもなら感じる事のない雪のプレッシャーから、そんな確信があった。

「あたしが志望してる所は、名前書けば受かる学校らしいし」

「勉強して損する事はないよね」

「……どんどん会話のスケール広げるのズルくない?」

「知識は人類の財産なんだよ」

「今までそんな会話した事ないよね」

 とりあえず、雪の熱意が本物であるという事だけは分かった。
 これを断った時の雪の反応はどうなるのだろうか、あまり想像出来ない。
 出来ないけど、楽しいものではない事は確かだ。

「……困ったな」

 どっちを選んでもあたしの人間関係には不和が起きそうだ。
 人間関係で進路を考えるのはどうなのって話だとは思うんだけど。
 そもそもあたしみたいな人間は将来をそこまで深く考えているわけでもない。
 だから大学なんて不確定な未来よりも、自分の周りにいる人の今の方が気になるわけだ。
 結局、悩みは尽きそうにない。

「困った時は勉強だよ、知識があれば色んな選択肢が広がるんだよ」

「うん、無理矢理にでも勉強に繋げるのやめよっか?」

 雪が必死すぎて二言目には“勉強”になっていた。

「ん、何のことかな。私は陽葵に良いと思った事をオススメしているだけで……」

「あー、誤魔化すんだ」

「私は陽葵に強制なんてしないからね」

「強制しない代わりに圧が強すぎるのは問題だと思うんだけど」

 このままだと勉強を始めるまでずっと会話がそっちに繋げて来そうで怖い。
 何で放課後までそんな話をしないといけないんだろう。

「受験はもう始まってるんだよ」

「やっぱりあたしに勉強勧めてるだけだよね?」

 とりあえず、雪の必死さだけは痛いほど伝わって来た。
 その分だけ、あたしの悩みも深くなっていく。


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