かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。

白藍まこと

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-友達-

41 私の誘いは重い

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 陽葵ひなたの誕生日を終えて、少しずつ時間が過ぎ去っていく。
 私は、今までの自分の行動を振り返っていた。

 友達との関係性は取り戻せたし、誕生日はお祝い出来たし、今後の進路についても相談はした。

 そして陽葵からの答えを待ち続ける日々が続いて、このままでいいのかという自問自答が始まっていた。
 最初は後悔だらけの選択を改める事が出来て安堵していたけれど、時間が経つにつれ他にやれる事が何かあるように思えていた。

 だけど今の私に、陽葵にするべき行動も理由も見当たらない。
 それはどうしてか……と考えてみると、自ずと私がやるべき答えが見えてきた。



        ◇◇◇



「……え、あたしがこの街を離れたい理由?」

 放課後の帰り道、私は問いを投げかけた。

「そう、聞いてなかったって」

 私が陽葵にとるべき行動を見出せないのは、彼女の未来についての考えを知らなかったからだ。
 かつての私は陽葵と絶交してしまった事で、この先の考えを共有する時間がなかった。

「うーん……とりあえず親元を離れて一人暮らししたい的な願望はあってさ」

 けれど同窓会で北川きたがわさんから聞いた話では、後の陽葵は大学を休学し実家に戻ったと噂されていた。
 結局、地元に戻ってくるのなら最初からいてもいいよね、とは思ってしまう。
 
「親元を離れてもまた戻ってきたくなるんだから、ここにいた方がいいんじゃない?」

「何で決めつけんの……っていうか結局、こっちに進学しろって話?」

 ……難しい。

 こちらが事実を言ったとしても、未来の話なのだから陽葵が理解してくれるはずもない。
 それでも陽葵が実家に戻った事には、何か意味があったはずなのに。
 何が起きたかを知らない私に出来る事は、なるべく陽葵をリスクから遠ざける事だった。

 だけど、そんな主張をした所で一方通行の押し付けにしかならない。
 だからこそ、陽葵にも納得してもらえるような理由が必要だった。
 その理由は私が作るしかないのかもしれない。

「というか、友達を残して遠くに行く事に何か思う事はないの?」

「……いや、それとこれとは話が違うと思うんだけど」

「私にとってはそういう事なんだよ」

「……じゃあ、あたしが雪を選んだら、今度は紗奈さなに罪悪感を感じる事になるんだけど」

 やはり、陽葵は二言目には“北川きたがわさん”の名前を出す。
 それはつまり、どうしても向こうに行かなければならない理由がないという事の裏返しでもある。

「なら、陽葵はどっちの方が罪悪感を感じるの?」

「え、どっちって……何が」

「私と北川さんのどちらを残していく方が気になるのかって事」

「……なに、その質問」

 別に私だって意地悪をしたいわけじゃない。
 ただ、今後の陽葵を身を案じるのなら絶対にこちらの方に残るべきだと思う。
 良からぬ未来が待っていると分かっている選択肢を、わざわざ引かせるわけにはいかなかった。

「私に散々、友達についての確証を求めて来たんだから。今度は陽葵が友達としての気持ちを見せて欲しいよね」

「それは違くない? 元々は雪が素っ気ない反応をしてきたのが始まりなんだから、アレでプラマイゼロじゃん」

「だーかーらー……」

 私は一歩を踏み出して、陽葵に歩み寄る。
 触れ合ってしまいそうになるほどの距離に、陽葵は目を見開いているけど。
 私は構わずその瞳を見据える。

「今の私はこうして意思表明してるよね? 一緒にいようってさ。それにはどう答えるの?」

「え、あ、いや……」

「ちゃんと私がプラスに働いてると思うんだけど。それでも陽葵が引いてマイナスからのまたプラマイゼロにしたいの?」

「そういうわけじゃないけどさぁ……」

 視線を先に反らしたのは陽葵の方だった。
 これはつまり私の意志の強さに、陽葵が根負けしたと捉えてもいいのだろうか?
 よく分からないけど、珍しく私の方が優勢に立てているという実感だけはあった。

「急にグイグイ来るじゃん」

「あんまり答えを先延ばしにされても嫌だからね、勿論ちゃんとした理由があるのなら納得するけど」

 ここまでする理由が私にはある。
 少しでも彼女にとっての最悪な未来を防げるのなら、出来る事はしておきたい。
 個人的な感情を抜きにしても、この行動が間違っていると私は思えなかった。

「まさか、そこまでガチの誘いだとは思わなかったなぁ……」

 陽葵は困ったように頬を掻いている。
 けれど、私にとっては本気になる要素しかないのだから、これは自然な行動だった。

「軽い誘いなんてしないよ」

 というより、“誘う”という行為自体が私にとっては既に重たい行為だ。
 誰かの行動を自分の意志で変えたいと思う事なんて、私にはない。
 他人に興味を持てない人間だからだ。
 でも陽葵にだけはその感情が沸き起こって来る。
 だから、この感情は陽葵に対してだけのもので、ゆえに達成されない事には行き場を失ってしまう。
 
「まぁ……確かに紗奈とはたまたま被っただけで、誘ってくれたのは雪の方だしね」

 そして、このある種の好意を表現する行為は私にとっては非常に恥ずかしさを伴う。
 好意という感情は、自分のどこか柔らかくて繊細な部分を剥き出しにしているようで、ひどく落ち着かない。
 これを否定されてしまうと、次はこの扉を分厚く重くして、二度と開かないように厳重に鍵を閉めたくなる。
 
 でも、そうして感情を押し殺した先にあるのは誰にも理解されない孤独な人間。
 それがかつての私で、唯一の後悔。
 自分を守ろうとした結果、結局壊れてしまうような歪な生き方だ。

 だから、他の誰にも理解は求めないけれど。
 陽葵にだけは、そんなつまらない私は捨てようと覚悟を決めたんだ。

「そうだよね、だからこっちに残ろう」

「……ゆきの熱烈なラブコールに、あたしも根負けかな」

 だが、しかし。
 私の好意に好意で返してくれるのは嬉しいけれど。
 その感情に勝手に名前をつけられるのは困るのだ。

「ラブコールとか変な事言わないで欲しいんだけど」

「……あたしも結構覚悟決めたつもりだったんだけど、気にするのはそこなんだ」

 だって恥ずかしいでしょ。
 自分の恥ずかしい部分を見せているのに、それに名前というデコレーションで返されてしまうと。
 気恥ずかしさで蒸発したくなる人もいるという事を、知って欲しい。


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