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-友達-
43 私の迷い
しおりを挟む「……はぁ」
北川さんの姿が見えなくなると、どっと肩の力が抜けた。
正面で対峙している内は気丈に振る舞えたけど、いなくなれば緊張感がほどけて心がしぼんでいく。
あからさまな敵対心は、私の豆腐メンタルを弱化させるのには十分な破壊力だった。
溜め息と共に、全身が鉛のように重くなっていく。
心と体は繋がっているんだと実感する。
いや、とにかく今は教室に戻らないと……。
陽葵は先生に呼び出されたとは聞いていたけど、もう終わっている頃かもしれないし。
「うわっ、こんな所にいたっ」
「……陽葵」
心配した途端、これ。
私の事を探してくれていたのか、陽葵は肩で息をしていた。
「教室にいないから心配したじゃん、スマホも置きっぱなしだから連絡もとれないし」
「ご、ごめん……」
陽葵は両肩にスクールバックを下げていて、片方は私の物だった。
姿が見えないからと荷物を持ったまま、ここまで走ってくれたのかもしれない。
「探してくれたの?」
「学校中ね、いないからダメ元で外に出てみたらこんな所にいるし」
優しいな……。
別に怒るでもなく、ただ私を見つけれくれるなんて。
ささくれていた心が、陽葵によってなだらかになっていくの感じる。
「なにしてんの?」
……言えない。
北川さんとバトッていたなんて……いや、一方的に引導を渡されただけかな。
とにかく、彼女の事を悪く言う気はない。
さっきの出来事は自分の胸の中にしまっておこう。
「……気分転換?」
「なんで疑問形、しかもこんな所で、むしろ気分悪そうにしてんのに?」
一瞬で見抜かないで欲しい。
穴だらけなのは分かっているけど、私の機微まで察して詳細に詰めないで欲しい。
こういう時に上手く取り繕えない当たりが、私の対人スキルの弱さを感じる。
「あのさ陽葵」
「何よ」
私は陽葵の質問に答えてないから申し訳ないけど。
ちゃんと聞いておきたい事がある。
「やっぱり好きな人と一緒にいた方がいいのかな?」
「……え、は、え!?」
北川さんとの一件を考え直してみると、私は確かに独りよがりなのかもしれない。
私が勝手に冷たい態度を取り始めた癖に、こっちの都合で仲直りしようとして、そして未来まで変えようとしている。
勝手にこの選択を是としているけど、そんな保証はどこにもない。
結末は変わらないのかもしれないし、その過程にあったはずの思い出を塗り替えたら、私が誘おうとしている道の方が不幸な可能性だってある。
それなら、最初から好きで尽くしてくれる北川さんと一緒にいた方が幸せなのかもしれない。
冷静になると、そんな迷いが生まれていた。
この迷いすら、陽葵にも北川さんにも失礼なのは分かっているけど。
「校舎裏で……気まずそうにしてる雪……それって、え、え、え?」
そうこう考えている間に陽葵が同じ声を連呼している。
どうしちゃったんだろ。
「告られた!?」
なんか変な勘違いされていた。
「いやいや、ちがうちがう」
私は急いで手を振って否定する。
「じゃあ、なに、なんでそんな話になるのよ。なんか隠してない?」
隠しては……いる。
でも全部は言えない。
話し始めたはいいものの、上手くまとまるか不安になってきた。
「その……告白のシーンを見てしまったと言うか……」
「誰と誰のよ」
「……それは、よく分からないかな」
北川さんの陽葵に対する告白のようなものだったけど。
皆までは言えない。
「ああ……雪はクラス違う人は顔も名前も覚えてないもんね、仕方ないか」
「……そうだね」
コミュ障な自分に救われた。
複雑だけど。
「で、その告白を見て……なんだって?」
話が振り出しに戻った。
ええと……なんだっけ。
「好きでいてくれる人が一緒にいてくれた方が幸せ……だよね? って」
「そりゃ……好きか嫌いなら、誰だって好きな人の方がいいでしょ」
「……そうだよねぇ」
私の後悔から始まっているこの選択は、その在り方から間違っているのかもしれない。
その歪が、北川さんを怒らせたのだろうから。
「ごめん……変な事言って」
「いや、変って言うか……な、なんの話なの、これ」
陽葵は反応に困ったようにパチパチと瞳を瞬かせている。
滅多な事は言うものではないけど、聞かないと気持ちを汲み取れないのが私だからなぁ……。
どうあってもコミュニケーション能力の乏しさが足を引っ張る。
「いや……やっぱり陽葵に私はふさわしくないのかなって」
本気で好きでいてくれる北川さんの方が、陽葵と一緒にいるべきなのかもしれない。
「は、なにそれっ、どういう意味?」
「いや、だから陽葵にもっといい人が……」
「え、なに、また絶交的な話?」
「ちがうちがう、そうじゃなくて……」
「じゃあなに、雪はどうしたいのよ」
「……私?」
北川さんか私か。
その天秤がどちらに傾いているのかと言えば……。
「そりゃそうでしょ、あたしは別に何も言ってないんだからっ」
……そうだよね。
私が始めた物語を、私が迷っているだけの話。
「私は……それでも陽葵と一緒にいたいと、思うかなぁ」
左右にグラついたとしても最後はやっぱり自分に傾く。
まだ分からない未来を恐れていては、何も出来ない。
「じゃあ、それでいいでしょ。あたしだって自分で決めたんだから今さらごちゃごちゃ言い出さないでよ」
……それは、きっとそうで。
私が北川さんに突きつけた言葉でもあるんだけど。
そう言ってくれるのなら、もっと自分に自信を持ってもいいのかな。
「もう、よく分かんないけど。はい、帰るよっ」
「う、うん……」
スクールバックを手渡されて、受け取る。
背中を見せた陽葵はそのまま歩き出すのかと思ったけど、すぐに足を止めた。
「ちなみに、これはあたしの話だけど」
「え、うん」
陽葵はこちらに語り掛けてはいるけど、髪が流れてその横顔の表情はよく分からない。
「誰かに好かれようと好かれまいと、あたしは自分がいいと思った人以外とは一緒にいようとは思わないから」
それを誰にも好かれる陽葵が言うのだから。
彼女なりに人間関係は厳選していて、その中に私はちゃんといる。
だから、私の悩みは無用だと伝えてくれているのかな。
「……それなら、良かったよ」
「でしょ」
短く相槌を打つと、陽葵は歩き出す。
けれどその歩みはゆっくりで、私が追い付ける速度にしてくれている。
先に行くようで私を待ってくれているその素振りは、何だか彼女らしいなと思いながら、その背中を追いかけた。
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